トニー賞ノミネート作品を先取りチェック!その5 大女優の存在感に圧倒!『The Visit』

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『ザ・ヴィジット』

チタ・リヴェラ、82歳———ブロードウェイの生きる伝説と言える大女優だ。『ウエスト・サイド・ストーリー』のアニータ役、『CHICAGO』のヴァルマ役をそれぞれ初演で演じていた。つまりオリジナル・キャスト。常にブロードウェイの第一線で活躍し、数々の名作ミュージカルを支えてきた生きる伝説だ。
80歳を過ぎても現役というのが、もはや超人!
陰惨とした灰色の世界に、チタが真っ白なドレスで登場するやいなや、会場は拍手喝采!彼女は、まさしくスターなのだ。劇場の空気が一気に変わり、華やぐ。
そして開口一番のセリフが・・・・・・。
「何よ、ここ。私の記憶より、ずっとひどいわ」
いきなり毒舌で会場を沸かせる。

『ザ・ヴィジット』

この物語は、チタ演じる貴婦人クレアが故郷を訪問するところから始まる。故郷である小さな田舎町は、貧しく、学校や施設、鉄道などを修繕するお金もない。そんな町に何度も結婚をして、お金持ちになった彼女が帰郷したのだ。住人たちは、彼女から援助してもらいたい一心で、彼女を歓迎する。
待ちに待ったクレアの到着。しかしクレアは一言、先ほどのセリフを吐く。
そのセリフだけで、彼女が故郷に苦い思い出があることが伝わる。遠い昔、ひどいところだと思って、町を出たが、覚えていた以上にひどい場所だったのだ。
クレアは、喜んで大金を援助することを承諾する。ただし、それには条件があった。
かつての自分を捨てた恋人、アントンの死。
お金で買えないものはないと豪語する彼女は、アントンの命と引き換えに、大金を差し出したのだ。初めは戸惑う住人だったが、お金を渡され、高価なものを手にすると、アントンを処刑すべき理由を正当化し始める。
クレアにはアントンの子どもがいたが、彼に捨てられ死んでしまったのだ。
住人は、お金のためではなく、正義のためだと正当化して、アントンの処刑を決めるのだが…。

『ザ・ヴィジット』

お金か愛か。
愛はお金で買えるのか。
欲、ねたみ、ひがみが、人々の心を変えていく醜さを描いていく。
そして、なぜ、クレアは、自分のものにするためにアントンの命をほしがる。永遠に自分だけのものにするために…。それは愛なのか、強欲なのか。

故郷の町を亡霊のように浮遊する若き日のクレアとアントン。
汚れなく、純粋に愛し合っていた二人の思い出を象徴した演出から、クレアとアントンの心の揺れが伝わってきた。
大人になると、どうして愛はこんなに屈折してしまうのか。何がそうさせるのか。物悲しく、哀愁のある音楽が、思い出と今とをつなぐ。

そして、もう1つ印象的な象徴が、“黄色”。それはお金の象徴だ。
心がお金に支配された人は、黄色のものを身につけていくのだ。
モノトーンの世界に鮮明な黄色が、強烈な印象を与える。
終演後、シャツやバッグなど黄色のものを身につけていると、「黄色のシャツ着てるね(笑)」「黄色だ。欲に支配されてる?」など声をかけあってる人がいた。知らない者同士が、そんなふうに声をかけあえるのも、やはり舞台の面白さだなと実感。

意味深な演出だったので、まだまだ深い意味が隠されていそうな舞台だった。
明るくハッピーになれる舞台ではないが、いろいろ考えさせられる作品。ブラックユーモアが散りばめられた洗練された大人の世界を堪能できる。


トニー賞ノミネーション
□主演女優賞 チタ・リヴェラ
□ミュージカル脚本賞 テレンス・マクナリー
その他、あわせて5部門でノミネート

◆生中継! 第69回トニー賞授賞式
 6月8日(月)8:00より、WOWOWプライムで生中継!

『ザ・ヴィジット』

サインは、アントンの親友役を演じたジェイソン・ダニエリー。役では年配の教師だったので、実際、まだ若い俳優さんでびっくり!

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この記事を書いた人

ライター・翻訳家。小劇場で演出・戯曲作家の活動をきっかけに戯曲翻訳から翻訳の世界へ。ドラマ『ブレイキング・バッド』などの字幕翻訳、舞台『8人の女たち』(いずれも演出・上演台本:G2)などの戯曲翻訳に携わる。

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