ミュージカル『ピーターパン』フック役大貫勇輔にインタビュー「正直、悪を演じる気持ちよさはあります」

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著名な振付家・演出家に愛される天才的なダンサーであると同時に、ミュージカルや映像作品にも積極的に出演するなど、ジャンルを超えた活躍ぶりを見せている大貫勇輔。そんな彼のキャリアの中でも、間違いなくターニングポイントの一つになるのは確実なのが、ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』のフック役だ。当時25歳というフック役としては異例の若さながら、華麗なダンスやアクロバットを決める“史上最高に動くフック”を好演し、今年も引き続き登場することになった。昨年の『ピーターパン』の苦労話や今年の意気込み、そして今後の興味深い動きについて、話を聞いた。

『ピーターパン』大貫勇輔

──昨年フック船長を演じてみていかがでしたか?

「いつかやりたい」と思っていた役でしたけど、歌のある舞台が久々だったのと、ブロードウェイを含めても史上最年少のフック役というプレッシャーはありました。でも玉野(和紀/演出)さんと、ひたすら動き回るフックを新しく、一緒に作るところから関われたのが面白かったです。

──その言葉通り非常にアクティブなフックでしたが、特に苦労された点は?

衣裳がめちゃくちゃ重いんですよ。(左手の)フックもカツラも…いや全部ですね(笑)。それでジャンプやターンが、なかなか思うようにできなかったです。あと(二役で演じる)ダーリング氏が、威厳のある父親らしく見えるようにすることが、すごく難しくて。やっぱり僕はダンサーなので、どうしても早く動いてしまうんですよ。そうすると年齢の雰囲気が出ないので、なるべく父親らしく見えるように意識して動きました。そのスピードを身体に入れるまで、すごくやり辛かった感じがあります。

──観客の子どもたちの反応も、毎回大きかったのではないかと思いますが。

泣かれたり、「来ないでー!」と言われたりしました(笑)。でも僕は昔から、バイキンマンを応援するような結構ひねくれた子どもだったので、正直悪を演じる気持ちよさはありましたね。だから子どもたちがフックを罵倒するほど、こっちは燃えるという。でも公演を重ねるに連れて、(公演グッズの)フックを付けてる子どもを見かけたりしたのは嬉しかったです。

──ピーター役の唯月ふうかさんを始めとする、カンパニーの雰囲気はいかがでしたか?

僕にとっては一番キツい舞台だったので、本当に息も上がって、疲れたーと言ってたんですけど、ふうかさんは弱音を全然吐かなかったんですよね。むしろ「がんばってください」と励まされていました(笑)。努力家で、思いやりもあって、カンパニーのみんなが「ふうかのために何かしてあげたい」と思うような子で、本当に尊敬しています。(ダーリング氏の子どもの)マイケルとジョンもかわいかったですね。最初は子どもを持つ父親の役を上手くできるのかという不安があったんですけど、カンパニーとして一緒に長い時間を過ごすと、無理をせずとも愛や絆は生まれるんですよ。だから実際は、全然大丈夫でした。

──演出の玉野さんについては。

玉野さんはずっと「この日本にエンターテインメントを」という精神を軸にされていますが、これは一番難しいことだと僕は思うんです。エンターテインメントって、笑わせたり泣かせたりと、いかに人に反応をしてもらえるかの世界じゃないですか? すごく怖いことのような気がするのに、そこにチャレンジし続けている玉野さんは、本当にすごいなと思っています。この『ピーターパン』でもそれを追求して、その結果玉野さんのエンターテインメント精神と、原作の持つ本当に深いメッセージが合わさったミュージカルになっていると思います。

──そのメッセージは、大貫さんはどのようなことを一番感じられますか?

家族愛を思い起こさせるというか、自分は大切な人を大切にできているかなあ? と、胸に手を当てるような感覚を持ちます。母親の顔が見たくなりますね(笑)。あと大げさかもしれないけど、大人になる虚しさと喜び、子どもが持つ喜びと辛さですね。やっぱり大人になるとあきらめなきゃいけないこと、我慢しなきゃいけないことがある。ネバーランドに行けばそれをすべて放棄できるけど、でもそれが本当にいいのか? というと、最後のピーターの姿には孤独を感じたりするわけで。そういう多面的なことを、扉からの隙間風のようにスーッと伝えてくれるけど、でも観た後はハッピーになれるのが、すごい作品だなあと思います。

『ピーターパン』大貫勇輔

──再演に向けた課題はありますか?

今年『セカンド・ラブ』というTVドラマに出て、自分が身体から役を作るタイプだなあということを、すごく自覚したんです。興味があったら前傾姿勢になって、興味がないと身体の軸がねじれるとか。でもそれって映像で顔だけを抜かれた時に、身体だけで作ってるのが見えてしまうんですよ。今までの自分の役の作り方は甘かった、もっとセリフや役を落とし込まないといけないなあと。でもそのおかげで、より芝居が面白くなって来ましたね。だから今度フックをやる時は早速、もっと内面からセリフが出るように、しっかり落としこんでやりたいなあと思っています。

──この前にある『アドルフに告ぐ』ではストレートプレイに初出演しますし、今年はかなりチャレンジな年になりそうですね。

目の前にある作品が全部未来につながると信じて、一個一個をすごく大切にやっていきたいです。特に今は、芝居における即興力というか、瞬発力を高めたいなあと思ってるんです。昨年の『ピーターパン』では、客席から子どもに話しかけられてセリフが飛んだということがあったので(苦笑)。いろいろな経験を積み上げることで、いろんな力を手に入れていきたいと思います。

◆大貫勇輔(おおぬき・ゆうすけ)プロフィール
1988年8月31日、神奈川県出身。7歳からダンスを始め、17歳からプロのダンサーとして活動を開始。クラシカルなものからストリート系まで様々なダンスをこなす身体性の高さと、表現力の豊かさで注目を浴びる。2011年にミュージカル『ロミオ&ジュリエット』出演をきっかけに、ダンス以外のジャンルでも活躍するように。マシュー・ボーンやラスタ・トーマスなどの世界的な振付家&ダンサーからの抜てきが続く他、連続ドラマ『セカンド・ラブ』(EX)にレギュラー出演するなど、活動の幅を着実に広げている。『アドルフに告ぐ』『ピーターパン』の後には、9月に水夏希のコンサートに出演する予定。

◆『ピーターパン』あらすじ
ロンドン郊外に住むダーリング家の3姉弟の元に、ピーターパンと名乗る少年が空を飛んで現れる。長女のウェンディを気に入ったピーターは、いつまでも子どものままでいられる国「ネバーランド」に、3人を連れて行くことに。ネバーランドにいる迷子の子どもたちやインディアンたちと楽しい日々を送る彼らだが、島にはピーターに恨みを持つフック船長と海賊たちも存在していた。そしてフックはピーターを追い詰めるため、ある手段に出ることに…。

撮影:田中亜紀(2014年舞台写真より)

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この記事を書いた人

大阪を拠点に、面白い芝居を求めて全国を飛び回る行動派ライター。webマガジン「Lmaga.jp」の連載コラムや朝日新聞関西版の劇評も担当。

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