対立するグループによって引き裂かれたアメリカ・ニューヨークのウエスト・サイドを舞台に “禁断の愛”の物語が描かれた伝説のミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』。スティーブン・スピルバーグ監督がリメイクし話題となった2021年版のBlu-ray&DVDが5月18日(水)に発売されます。
アカデミー賞やゴールデングローブ賞を受賞するほどのハイクオリティな仕上がりとなっている本作。現代ならではの映像美、キレの良い迫力満点のダンス、引き込まれるような魅惑の歌声は、映画ファン、ミュージカルファンとしてはずっと手元に残しておきたい!そこで編集部では、Blu-ray&DVDの発売を前に改めて映画を見直してみました。
(文/エンタステージ編集部 3号)
『ウエスト・サイド・ストーリー』の歩み
『ウエスト・サイド・ストーリー』は、シェイクスピアの悲劇『ロミオとジュリエット』に着想を得て、1950年代後半のニューヨーク、マンハッタンのウエスト・サイドを舞台に、ポーランド系移民のトニーとプエルトリコ系移民のマリアが禁断の恋に落ちる姿を描いた作品です。1957年にレナード・バーンスタインが作曲、スティーブン・ソンドハイムが作詞を手掛けたブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド物語』が初演され、社会的なテーマを持ったミュージカルとして、アメリカ演劇界に大きな反響を巻き起こしました。
そして、ミュージカル映画全盛期である1961年に映画版が公開され、映画は第34回アカデミー賞で11部門ノミネート、作品賞を含む10部門を制すほどの快挙を成し遂げました。日本でも宝塚歌劇団、劇団四季、ジャニーズなどが舞台上演しており、近年ではIHIステージアラウンド東京でキャストを変えながら長期公演が行われ、注目を集めていましたね。
そして、2021年には映画界の巨匠スティーブン・スピルバーグによって新たなキャストで映画化!スピルバーグ監督は「ずっとミュージカルを作りたいと思っていた。挑むべき作品を探しつづけてきました」と語っており、その思いの強さを伺い知ることができます。
スピルバーグ監督が幼少期からの夢を叶えた念願の企画ということもあり、自ら「キャリアの集大成」と言う映画の仕上がりは圧巻の一言。それを裏付けるかのように、本作は「第79 回ゴールデングローブ賞」で作品賞や主演女優賞、助演女優賞、「第94回アカデミー賞授賞式」でも助演女優賞を受賞するほどの高評価を得ました。
ミュージカルファンの方には、IHIステージアラウンド東京で上演された日本人キャスト版の舞台が記憶に新しいと思います。そんな『ウエスト・サイド・ストーリー』を、スピルバーグ監督がどのように“味付け”したのか?映画版の見どころを、ミュージカル大好き編集部員が語っていきたいと思います。
フレッシュなキャストの面々が素晴らしい!
まず、なんといっても本作に出演するフレッシュなキャストの面々が素晴らしかった・・・!トニー役を務めるのは、2017年に公開された映画『ベイビー・ドライバー』(2017)で主演に抜擢され一躍注目を浴びたアンセル・エルゴートなんですが、彼は「どうしてもトニー役を演じたい」と何度もテープを送るという熱意を見せ、トニー役を一年がかりで探し求めていたスピルバーグ監督の目に留まることになったそうです。
子供と大人の境、絶妙な立ち位置にいるトニーを見事に体現しながら、情熱をはらみながら冷静でいようとする恋する青年を耳心地のいい歌声で見事に演じきるアンセル。愛する人の為に頑張ろうとするも上手くいかない、青年の可愛らしさと不安定な頼もしさを垣間見ることが出来て、マリアとの“禁断の愛”を応援したくなってしまいます。
そして、「第79 回ゴールデングローブ賞」で主演女優賞を受賞したレイチェル・ゼグラー演じるマリアは芯が強い!レイチェルは、幼い頃から学校の劇団に所属し、2015年から活動しているYouTubeではレディー・ガガ主演作『アリー/ スター誕生』(2018年)の主題歌「Shallow」のカバーを披露し、その歌声で世界中から注目を集めました。
1年がかりで行われたオーディションでは、3万人の内からマリア役に抜擢。その注目度は映画公開前からディズニーの実写版『白雪姫』の主演を務めることが決まっていたほどです。特にトニーとマリアが非常階段で歌う「Tonight」は圧巻!
「Tonight」はミュージカルファンにはお馴染みのナンバー。触れたい気持ちを必死に押し込めて一線を引こうとするマリアと、鍵が壊れて開かない非常階段の柵をすぐにでも壊しそうなほどの強い衝動を抱えつつマリアを怖がらせないよう慎重に動くトニーが思いをぶつけ合うシーンで歌われる楽曲です。
繊細な心情の揺れが歌声で紡がれ、目も耳も支配されていると感じるほど2人の世界に引き込まれる・・・。悲しき結末を迎えることを忘れさせるほど、一瞬のきらめきを映像に刻んでいます。
そして特に感動したのが、マリアの兄・ベルナルドの恋人であるアニータを演じるアリアナ・デボーズ。アリアナは、2011年にミュージカル『チアーズ!』でブロードウェイデビューを果たして以降、さまざまなミュージカル作品に出演し、近年ではNetflixで配信されたミュージカル映画『ザ・プロム』で同性愛者の主人公・エマの恋人役で素晴らしい演技を魅せ話題になっていました。
本作では「第79 回ゴールデングローブ賞」と「第94回アカデミー賞授賞式」で助演女優賞を受賞しており、劇中でパワフルで圧倒的なダンスと感情をそのまま乗せたような心に染みる歌声で、愛に満ちた頼りがいのある“強い女性”アニータを体現。
ダンスパーティーでBGMを変えるためにバンドに声を掛ける場面や、マリアに小言をいうベルナルドとの程よい掛け合い、「マンボ」で女性陣を率いるエネルギッシュさ、恋人を殺したトニーをどうしても愛してしまうというマリアの非情な告白を受け止める心の広さ。移民として決して居心地が良いとは言えないアメリカで自立しようと踏ん張って生きている、女性が憧れるアニータの“かっこよさ”を見事に描き出しており、アリアナが演じるアニータに毎秒恋してしまいました・・・。
そしてアニータといえば、今作で話題になったのが1961年版『ウエスト・サイド物語』で同役を演じたリタ・モレノが出演していること。これまで更生して生きようとするトニーを支えてきたのはドラッグストア店の店主・ドクでしたが、スピルバーグ版ではそんなドクの妻・ヴァレンティーナがトニーの傍に寄り添っており、リタがこの役を演じています。
ヴァレンティーナはプエルトリコ出身で、白人であるドクと結婚していることから、トニーとマリアと同じ関係性に位置しているんですよね。トニーが移民であるマリアに抵抗感がなかったのも、ヴァレンティーナの存在が大いに影響していると思うと、この役を生み出したことはこのリメイク版の素晴らしいところの一つだと思います。
スピルバーグのリメイク版、何が違う?
リメイク版で大きく変わっている部分は主に、ヴァレンティーナの存在、そしてマリアの仕事が大きなデパートの清掃員になっていること、決闘の前にトニーとマリアが電車に乗って遠出していること。これにより、2人が結婚を夢見て永遠の愛を誓いあう『One Hand, One Heart』の場面も、これまでの作品と違う描かれ方をしています。
これまではマリアが働く洋服店が舞台で、終業後にトニーが忍び込んで、店にあるドレスとタキシードを自分たちが着ているように見立てて愛を誓っていましたが、今作ではトニーの思い入れのある“教会”のような美術館にデートに出かけ、幻想的なステンドグラスの前で契りを交わしています。
まず二人が待ち合わせて電車に乗り遠出しているだけでも興奮する・・・!この場面が挿入されることで互いの知らない過去を教え合う時間が増え、しっかりと愛を深めていることを感じることが出来ます。そして本当にこの街から二人で抜け出せたのかもしれないという希望を抱けるんです。
これまで『One Hand, One Heart』には儚さを強く感じていましたが、希望のきらめきも同じくらい含まれ、遠くない夢のように思えたんです。さらに、ヴァレンティーナがいることで、トニーはプエルトリコの言葉を学び、マリアになじみ深い言語でロマンティックな思いを伝えることが出来たのも胸に刺さりました。
また、ヴァレンティーナ演じるリタの歌声を堪能できる場面もしっかり用意されており、60年以上経っても変わらぬ美しい歌声に感動。新旧アニータが揃う場面も、緊迫したシーンながら興奮してしまいます。
さらに、マリアの婚約者になる予定だったチノの活躍も見どころ。今まで以上にベルナルドやマリアへの思いが分かるような場面が差し込まれており、最後に繋がる“悲しみの連鎖”がより浮き彫りになる仕上がりになっていました。オリジナルとリメイク版の両方を楽しむことで、より『ウエスト・サイド・ストーリー』の深みを味わえた気がします。
宮野真守、小野賢章が参加している吹替版にも注目!日本人キャスト版のミュージカルとの共通点も
発売されるBlu-ray&DVDでは、吹替版を楽しむことが出来ることも、ミュージカルファン的には注目ポイント。吹替版では、トニー役を宮野真守さん、マリア役を藤原夏海さん、アニータ役を田村睦心さん、ベルナルド役を諏訪部順一さん、ヴァレンティーナ役を塩田朋子さん、クラプキ巡査役を後藤光祐さん、シュランク警部補役を津田英佑さん、リフ役を小野賢章さん、チノ役を鍛治本大樹さん、エニーボディズ役を山本和臣さんが務めています。
トニー役の宮野さんは、2019年から2020年に上演された日本人キャスト版のブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season1で同役を務め、リフ役の小野さんもその後上演されたSeason2でリフを演じていました。Season違いで共演の叶わなかった二人の“幻の組み合わせ”がここで実現されるとは!
そんなスピルバーグ監督がリメイクしたミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』のBlu-ray&DVDは、5月18日(水)より発売開始です。4Kで楽しめるバージョンもあり、色褪せぬ不朽の名作をより鮮やかに堪能することが出来ます。スピルバーグ監督が施した刺激的なスパイスにより愛の深みが増したトニーとマリアの物語を、何度でも見返してください!
商品情報
映画『ウエスト・サイド・ストーリー』発売情報
『ウエスト・サイド・ストーリー』ブルーレイ+DVDセット
『ウエスト・サイド・ストーリー』4K UHD
2022年5月18日(水)発売開始
キャスト
アンセル・エルゴート
レイチェル・ゼグラー
アリアナ・デボーズ
デヴィッド・アルヴァレス
リタ・モレノ
ブライアン・ダーシー・ジェームズ
コリー・ストール
マイク・フェイスト
ジョシュ・アンドレス・リベラ
アイリス・メナス
ほか
スタッフ
【監督】スティーブン・スピルバーグ
【製作】スティーブン・スピルバーグ、クリスティ・マコスコ・クリーガー、ケヴィン・マッカラム
【製作総指揮】リタ・モレノ、ダニエル・ルピ、アダム・ソムナー、トニー・クシュナー
【舞台劇原案・原作】アーサー・ローレンツ
【脚本】トニー・クシュナー
【振付原案】ジェローム・ロビンス
【振付】ジャスティン・ペック
【作詞】スティーブン・ソンドハイム
【作曲】レナード・バーンスタイン
吹替キャスト
トニー:宮野真守
マリア:藤原夏海
アニータ:田村睦心
ベルナルド:諏訪部順一
ヴァレンティーナ:塩田朋子
クラプキ巡査:後藤光祐
シュランク警部補:津田英佑
リフ:小野賢章
チノ:鍛治本大樹
エニーボディズ:山本和臣
【公式サイト】https://www.20thcenturystudios.jp/movies/westsidestory