劇団イキウメの主宰、前川知大の代表作の一つである『関数ドミノ』。2005年に同劇団で初演された後、2009年、2014年と再演を重ね、唯一無二の世界観と上演の度に進化していく演出で高い評価を得てきた本作が、この秋、初の外部プロデュース公演として蘇る。前川の信頼も厚い寺十吾(じつなしさとる)が演出を務め、イキウメ作品、前川作品のファンを公言する瀬戸康史が出演する。稽古開始に先駆け、作品にどう向き合っていくか、二人に話を聞いた。
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まず立ち返る、イキウメの魅力
――まず最初に、ご出演と演出が決まった時の心境をお聞かせください。
瀬戸:前川さんとは去年、『遠野物語 奇ッ怪其ノ参』でもご一緒したんですが、今年もこういう形で関われることを嬉しく思いましたね。演出の寺十さんはもちろん、知っている方も初めての方も、今回の作品で皆さんがどう化けるのか、ご一緒するのが今から楽しみです。
僕は元々イキウメのファンなんですが、イキウメの作品を観ると、今の自分でいいのか、今の世の中でいいのか、そういうことを静かに問われているような感覚になるのが好きなんです。(作品の)ジャンルとしてはSFと呼ばれる物語の中に、散りばめられている現実やリアルがあって、それを観終わった後に冷静になれるというか・・・。僕にとって、その時間がとても大事なんですよね。
寺十:そんな世界はないはずなのに、だんだんあるように思えてくるのがイキウメの魅力であり、不思議なところだよね。役者さんたちがさもそういう世界があるように(舞台上)で生きるから、だんだん本当にその世界があるように見えてくる。そういった説得力や連帯感で物語を紡ぐと共に、芝居の可能性を追求していくのがすごいなあと思います。
世界観が確立されているからこそ、演出するにあたっては難しい。僕自身、場面がコロコロと変わる芝居をあまり作っていないので、普段とは勝手が違うだろうなあと。でも、そういった前川作品が持つ説得力みたいなものを出せればいいなと思っています。
――寺十さんは、瀬戸さんに対して演出面でこういう風にしたいというイメージはお持ちでしょうか?出演された作品を観ての印象もお聞かせください。
寺十:前川くん繋がりでいうと、さっきも話に出ていた『遠野物語 奇ッ怪其ノ参』で瀬戸くんを拝見しましたね。パッと何かが憑依したようなお芝居が、とても魅力的でした。演出プランは、まだはっきりとは持っていませんが「この人は一体どういう性格で、どういう日常を送っているのか」というような、現象より人物にズームしたいですね。『関数ドミノ』の物語の中では、“奇跡”と呼ばれるような現象が起こるんですね。その奇跡を取り上げるというよりは、奇跡を取り巻く人たちの人物像をクローズアップしたいです。人間ドラマにより迫る、というか。
――今“奇跡”というお話が出ましたが、この戯曲の魅力はどういったところにあると思いますか?
瀬戸:『関数ドミノ』は2009年と2014年、東日本大震災を挟んで上演しているんですよね。今回は2009年の方に、前川さんが少し手を加えてくださったものをやるんですけど、まだ漠然としていますが、「生と死」が重要になっていくだろうなと思います。
寺十:震災以前と以降で、変わった部分ももちろんあると思うんですが、変わらないこともあるんですよね。物事は常に予期できることばかりではない。前川くん自身が、そういう感覚を持っている人なんじゃないかなって思います。
瀬戸:役を演じるにあたっては、イキウメ版の『関数ドミノ』を意識しすぎないようにしたいとは思いますね。
――前川さんが公演に寄せてくださったコメントに、2009年と2014年の戯曲のうち、「希望がある方を選んだ」とありましたね。
瀬戸:希望という面から見ると、僕の演じる役において一つテーマになるのが、“気づき”だと思っているんです。自分自身が“気づく”ことで、それ以降の生活や人に対する態度って変化したりするじゃないですか。気づくことが希望につながるのかなという気持ちです。
寺十:希望って、絶望を味わった先にあるものだったりするんですよね。また、その度合いによっても感じ方の違うものでもあるんじゃないかなって思っていて。軽いところから立ち上がって見える希望はやっぱり薄いものだったり、すぐに忘れるものだったり・・・。「こんな状況の人でも何かしらの希望を持てるんだ」という、深い部分を生み出す作業が必要だと思っています。果たして希望があるのかないのかは、実際稽古して、上演した時に見えてくるものじゃないかな。
演劇でしか味わえない“奇跡”を
――こうしてお話しされてみて、お互いの印象はどのように感じられていますか?
瀬戸:僕は・・・勝手に“合う”なあと思っています。同時に、役柄も含めて稽古中は追い込まれるんだろうなあとも思っています(笑)。それを含めて、ご一緒するのが楽しみです。
寺十:さっき舞台で観た瀬戸くんの話をしたけど、実は僕、TVドラマの『タンブリング』を観ていたんですよ。
瀬戸:えっ、そうなんですか!
寺十:その時に演じていた姿がとても初々しくてね。不良の男の子に小馬鹿にされながらも「それでも僕はこれが好き!」という素直な思いで、新体操に向かっていくんだけど・・・。小馬鹿にしていた不良たちも、いつの間にか新体操に入っちゃうんですよ。瀬戸くんを観ているだけで「こりゃあもう(不良も)入部しちゃうよなあ」と思わずにはいられない、というか(笑)。
瀬戸:いや~、すごく嬉しいです。褒められると嬉しいですね・・・(笑)。でも、やっぱり人間だから「期待に応えなきゃ」と背伸びしてしまうことがどうしてもあるので。そういうのって、本当は一緒に舞台を作る上ではいらないものなんですよね。そういうスタンスでご一緒したいです。まずは、本読みからですね。
――寺十さん流の本読みメソッドはありますか?
寺十:う~ん、難しいですが「書いてある通りに読んでください」というところから始める感じですかね。例えば、一人称でいうと「君」と「お前」で、持つイメージや人間関係が違ってくるじゃないですか。書いてあるものをちゃんと読むだけで、言葉が自然に役者をあるべき場所に運んでくれるんですよ。最初は、そういうシンプルなところから始めたいと思います。役者はどこまで考えないで来られるか、こちらはどこまで要求しないでいられるかを追求していきますね。
瀬戸:共演者の方々の出方も未知数なので楽しみですし、そこからがスタートですよね。当たり前だけど、芝居は一人で作るんじゃないし、作れない。僕も最初は入り込みすぎず、まず本読みでどう感じられるか、フラットな状態で臨みたいと思います。・・・ただ、本読みの前に必ず顔合わせがあるじゃないですか。僕、苦手なんです顔合わせ・・・!
寺十:あはははは!分からなくもないね(笑)。
瀬戸:空気が少し重いんですよね・・・。多分、苦手な方、たくさんいますよ!
――運命に翻弄される『関数ドミノ』の物語にちなんで、お二人が日常で運命を感じる瞬間があれば教えてください。
瀬戸:僕は・・・プライベートで良くないことが起きると、仕事で良いことが起こります。例えば、人間関係が上手くいかなかったり、体調を崩したりすると、思いがけない仕事が入る、とか…。そういうことはありましたね。・・・めちゃくちゃ複雑ですけどね(笑)!
寺十:それはちょっと複雑だね(笑)。僕は3年前に娘が生まれたんですけど、それから仕事が増えました。
瀬戸:へぇ~!
寺十:よくある話らしくて、他の人からもそういうことがあると聞いたことがあります。エンジェル効果っていうらしいですよ。
――そう思うと、全部がつながっている気がしますね。では、最後に公演への意気込みをお願いいたします!
瀬戸:今回は全国で公演もあるので、普段なかなか演劇を観る機会のない人たちにとって、演劇に触れるきっかけになれたらと。僕は九州が地元なので、九州で公演ができるのはやっぱり嬉しいですね。成長した姿をお見せしたいと思います。
寺十:この作品も奇跡を描いた話ですが、それこそ演劇でしか味わえない“奇跡”って、あると思うんです。それをぜひ、生で観に来てもらえればと思いますね。
◆公演情報
『関数ドミノ』
【作】前川知大
【演出】寺十吾
【出演】
瀬戸康史、柄本時生、小島藤子、鈴木裕樹、山田悠介、池岡亮介、八幡みゆき、千葉雅子、勝村政信
【東京公演】10月4日(水)~10月15日(日) 本多劇場
【福岡・北九州公演】10月21日(土)・10月22日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
【大分公演】10月24日(火) ホルトホール大分 大ホール
【福岡・久留米公演】10月26日(木) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【北海道・大空町公演】11月5日(日) 大空町教育文化会館
【北海道・北見公演】11月6日(月) 北見芸術文化ホール 中ホール
【兵庫公演】11月10日(金)~11月12日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【公式HP】https://kansu-domino.westage.jp/
【チケット一般発売】8月5日(土)10:00~ 各プレイガイドほか
(撮影/エンタステージ編集部)