『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』山内圭哉インタビュー!「ホラーとコメディってすごく似ている」

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この世とあの世の境目に迷い込んだ者たちが、奇ッ怪な話を語り合う。語り、演じるうちに、語り手自身の物語が浮かび上がっていく・・・。異世界の話を得意とする前川知大作・演出の『奇ッ怪』シリーズ。第3弾は、柳田国男が岩手県遠野地方に伝わる逸話、伝承などを記した説話集「遠野物語」をモチーフにしている。前作、現代能楽集Ⅵ 『奇ッ怪 其ノ弐』に続いての出演となる山内圭哉に、『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』についての話を聞いた。

『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』山内圭哉インタビュー

――稽古はこれからですが、どんな話になりそうですか?

台本はまだなんですが、プロットは見せていただきました。『遠野物語』というと時代物の作品かと思われますが、実はこの作品の設定は架空の日本なんですよ。まるで近未来のようで、そこではいろんなことが統制されているんです。なかでも方言が規制されているという設定がすごくおもしろい!
全員標準語で話すんですが、それって地方出身者のアイデンティティに対して、国がNOと言ってるわけでしょ?僕は大阪出身やし、大阪の人は日本の中心は大阪やと思うてるとこあります(笑)。それなのに、方言を規制されたら自分にどういう気持ちが芽生えてくるんやろ・・・と思いますね。方言だけじゃなく、出版物の物語も規制されている。もし本当にそうなったら、人ってどうなんねんやろ・・・という世界を疑似体験するのは、すごく楽しそうですね。

――どこか不穏な異世界を描くのは、前川作品の特徴ですよね。

前川くんって、同じクラスだったら絶対仲良くなってないタイプ(笑)。頭は良いし、いろんなことを俯瞰して見ているから、僕がぼんやり思ってることを言葉にしてくれる。自分と全然違うから、前川くんが考えることはオモロイんです。でもたぶん、僕がオモロイと思ってることについては、全然オモロイと思ってないんやろうなあ・・・。

――前川さんとは前作の『奇ッ怪 其ノ弐』でもご一緒されていますが、稽古場ではどんな感じなんですか?

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前作はけっこう“難産”だったんですよ。「鎮魂」というテーマがあまりにも大きくて、前川くんがちょっと行き詰まっちゃった。だから稽古場でいろんなことを試したり、ディスカッションをしたりしたんです。濃い時間でした。ちょうど、東日本大震災の直後だったということもあって、「鎮魂」っていったいなんだろうと意見を交わすこともありましたし、前川くんは何度も台本を書き直していました。

――台本がなかなか出来上がらないのは、役者さんとしては不安じゃありませんか?

どちらかと言ったら不安ですけど、なんだろう・・・ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さんとやるより不安は無かったです(笑)。

――その時に共演した仲村トオルさんも、今回ご出演されますね。山内さんから見て、仲村さんはどんな俳優さんですか?

しなやかでブレの無い、真面目な方でした。かといって、ユーモアに対しても寛大で柔軟なので、小松和重さんや池田成志さんや僕らがふざけてしまうことも受け入れてくれるんです。僕らは舞台上でトオルさんを笑わすのが楽しくて。トオルさんはブレたらいかん役やったから、演技中に吹き出さんようにするのがけっこう大変やったと思いますよ(笑)。

――TVドラマ『HOPE~期待ゼロの新入社員~』で共演している瀬戸康史さんもいらっしゃいますね。

舞台では初共演ですね。瀬戸くんの世代の若い子は、すごくお芝居が上手。僕が20代の時なんて、あんなにちゃんとしゃべれなかったですよ。でも、瀬戸くんはものすごく緊張する性質らしいです。緊張しすぎて、具合悪くなるぐらい。

『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』山内圭哉インタビュー_4

――山内さんは緊張します?

あんまりしないです。なるべくなら、朝起きて寝室から舞台袖に行って、そのまま舞台に出たい。本当は、俳優ってそういうものなんじゃないかっていつも思ってるんですよ。本番前に神棚にパンパンって手を合わせて「よし!行くぞー!」なんて気合い入れてたら絶対あかんやろなと思ってた(笑)。日常生活ではそんなことしないからね。
まぁ、緊張したシーンから始まる作品なら、緊張したまま舞台に出てもいいかもしれないけど・・・。僕としては“がんばらない”というのが生きる上でのテーマでもあるので。あんまり「お芝居します!」って構えたくない。

――ちなみに、本番前は何をしていらっしゃいますか?

メールチェックとかかな。普段と変わらないように過ごしてます。その方が台詞も忘れないですね。

――確かに、山内さんはすごく怖い役の時も自然体なので、ギャグシーンがあると「あ、笑っていいんだ」って思えます。

そこで言うと、笑いと恐怖って実はすごく似ているんですよね。ホラーとコメディの構造って、実はすごく似てるの。
例えば、映画の『死霊のはらわた』とか『リング』で突然怖いお化けがバーン!と飛び出てくるのって、見方を変えれば、かなりおもしろい。反対に、ものすごく真面目な校長先生が朝礼で「おはようございます」と言った瞬間にカツラが取れたらみんな笑うけど、その状況って見方を変えたらホラーですよ。

――恐怖も笑いも「なんで急にそうなった!?」みたいなことでしょうか。

当たり前のものが一瞬で姿を変えること・・・四角いものが急に三角になることって、おもしろくもあり、怖くもある。日常がいきなり非日常になるという点で、ホラーとコメディはすごく似ているんですよね。それから、人間って極限的な状態になると笑うらしいですね。めっちゃ怖い時には、めっちゃ笑うらしい。防衛本能なのかな。やっぱり似てるんですよ、笑いと恐怖は。

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――「恐怖」にもいろいろありますよね。前回の『奇ッ怪 其ノ弐』の幽霊は怖くはなかったですか?

そうですね、あれはなんとも言えん味わいの作品でした。前川くんの作品はいつも、すごく言葉にしづらいことを書こうとしていると思うんです。例えば、身近な人が亡くなるとその人について一日一回必ず思い出したり・・・生きている時よりずっとその人について考えますよね。『奇ッ怪 其ノ弐』をやりながら、人が死ぬのは悲しいけれど、人が亡くなることによって埋まるものもあるんだなという気がしてきました。

――前川さんは異世界やSFがお好きだそうですが、山内さんはどうですか?

いや~、オバケはいないでしょう。もし幽霊がいたら、テレビ番組を持つくらい身近な存在になってるんじゃないかな。それによく霊が見える人が「ここはよく人が死んだ場所だ・・・」とか言いますけど、地球上のどこでも人は死んでるやん!命で言うたらタラコの一粒一粒とかどうなんねん・・・とか(笑)。極端ですけど、やっぱり納得いかない。ほんまに幽霊がおるんやったら、人を脅かさずに守ったれよ、と思うし。
でもたぶん、たくさんの人が幽霊は実在してほしいと思っているから信じるんでしょうね。それに、夏には怪談話をしたり、小さな頃からなんとなく「幽霊はおるんやろうな」というイメージを持っている。そんな風に小さな頃から刷り込まれているから、もし幽霊が見えたら、それは脳のせいやろうと思うんです。

――脳が「幽霊を見た」と思い込ませてる?

うん、脳が起こしてる“ズレ”みたいなものが、見たいものを見せたりしてるんじゃないかな。脳ってまだ解明されてないことが多いから、霊の存在より脳を疑いたくなっちゃう。だから幽霊よりは妖怪の方がまだ信じられますよ。

――え、妖怪も幽霊と似た存在じゃないですか?

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本物の妖怪はおらんと思うんです。そうやなくて、たぶん夜中に徘徊してる老人なんかを妖怪って言ったんやろうなと・・・。昔は道も暗かったし、「怪しい影が歩いてる。妖怪や!」みたいな感じで、町内のファンタジーが生まれたんじゃないかな。
何年か前の話だけど、夜中に飲んで歩いて帰ってたら、向こうから手を不自然にぶらぶら揺らしながら歩いてくる大きい影があったんですよ。「なんやなんや?」と不審に思ってたら・・・大谷亮介やったんです!その時、「大谷さん、世が世なら妖怪ですよ!」って言って(笑)。そういった話が膨らんで、妖怪として描かれたりしてるんじゃないかなあ。

――“砂かけババァ”は普通のおばあちゃんだったかも・・・?

そう。近所のおばちゃんを怒らせたら、砂を投げてきたのかもしれない。柳田国男さんはそんな話を集めて「遠野物語」を書いたんじゃないですか(笑)。そう考えると、ちょっとおもしろいよね。世の中にはいろんな人がいますし。演劇やってる人たちなんて、クセが強くてみんな妖怪みたい(笑)。

――山内さんが大好きなタイでも霊が信じられていますが、それも違和感がありますか?

タイには精霊信仰はあるね。でもタイと比べると、日本の霊ってすごくビジネスだなって感じるんですよ。日本の仏教では先祖供養や墓地の維持にすごくお金がかかる。でもタイは小乗仏教だから、輪廻転生の考え方なの。死んで亡骸になったら魂はまた別の所に行くから、肉体にそこまでお金をかけない。

――ちなみに、タイのどういうところが好きなんですか?

清いものと俗っぽいものが常に同居しているところですね。例えば、朝5時から6時の間に町に出ると、僧侶の托鉢の時間なんです。僧侶たちが鉢を持って一列に並び、町の人が食べ物やらをその鉢に入れていく。町の人たちはお坊さんに何かを施すという善行をすることによって、輪廻転生した次の人生でもっと良い暮らしができる・・・という考え方なんです。そんな托鉢の光景がありつつ、大通りの反対側ではバスが物乞いをポイントポイントに降ろしていくんです。

『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』山内圭哉インタビュー_6

――えっ?!

バンコク市内にいる物乞いって、物乞い専用の事務所があってそこから派遣されてるらしいんです。タレントと一緒ですよ。そんなふうに道の片側では善行をし、反対側では物乞いが行われている・・・おもしろい光景ですよ。

それから、タイって日本人からすると適当なところがある。サイアムスクエアという観光客がよく行く古いショッピングモールがあるんですが、階段の高さがめちゃくちゃなんです。途中で(段差が)急に高くなったりする。逆に、最後の一段はものすごく低いんです。観光客のほとんどが、地面を踏みしめそびれてビターン!ってなる(笑)。
そんな国やから、1日5回くらい本気で笑うてまうんです。なんか、ホッとするんですよね。

――ものすごくタイに行きたくなりました(笑)。

いいところですよ!クーデター騒ぎがあったりもしたけど、今はそんなに危なくないはずです。僕もまた行きたいなあ。

――タイの話になるとものすごく嬉しそうですね(笑)。でもそろそろ時間が・・・。

えっ、芝居の話あんまりしてへん!『遠野物語』、おもしろいですよ!まだ台本読んでないですし出来上がってもないですけど、プロットだけでご飯3杯いけますよ!本当に!!

――大丈夫です、プロットのお話を最初にいただきましたので(笑)。でも最後に・・・本当は、幽霊がいたらいいなと思いません?

う~ん・・・まあ、ブルース・リーと話せたら楽しいかもしれないけどね。でも、死んでからも会えるんやったら死ぬ意味ないし。命に制限があるから生きてる楽しみもあるんやと思う。もちろん近しい人と別れるのは嫌やけどね・・・みんな、親、大事にしなはれや。

『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』山内圭哉インタビュー_2

◆公演情報
『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』
【東京公演】10月31日(月)~11月20日(日) 世田谷パブリックシアター
【新潟公演】11月23日(水・祝) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
【兵庫公演】11月26日(土)・11月27日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
【岩手公演】11月30日(水) 岩手県民会館 大ホール
【宮城公演】12月3日(土)・12月4日(日) イズミティ21(仙台市泉文化創造センター)小ホール

◆プロフィール
山内圭哉(やまうちたかや)
1971年10月31日生まれ、大阪府出身。1992年、中島らも主宰の笑殺軍団リリパットアーミーに入団。2001年、Piperに加入。「The Jizz Monks」および「人々」などのバンドの一員としてライブ活動も行っている。最近の主な出演作は、TVドラマ『民王』『HOPE~期待ゼロの新入社員~』、舞台『鉈切り丸』『Paco~パコと魔法の絵本~fromガマ王子vsザリガニ魔人~』『中の人』『カッコーの巣の上で』『社長吸血記』『十一ぴきのネコ』など。

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この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

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