不思議な病に冒された、中世の町を舞台に、醜い容姿に美しい心を持つカビ人間と、思っていることと反対の言葉しか話せない娘のおさえの出会いから巻き起こる、寓話的物語『ダブリンの鐘つきカビ人間』。2002年に初演、2005年に再演されて以来、10年ぶりに上演される。主人公のカビ人間役の佐藤隆太に、作品の魅力と、公演に向けての心境を聞いた。
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――2005年の再演から10年経っての再々演ですね。出演が決まった時の心境はいかがでしたか。
多くの人に知られていてファンの多い作品ですし、上演を重ねているということはそれだけ愛されてる作品でもあるので、嬉しくもあり、同時にプレッシャーも感じましたね。
――もともと作品はご存知でした?
はい、知っていました。スケジュールが合わず、劇場に行けなかったので見たのは映像なのですが。
――見た時のご感想はいかがでしたか?
面白かったです。まさにエンターテインメントの面白さがぎゅっと詰め込まれ、バランスよく散りばめられているような作品で。純粋に笑いながら見られますし、でもそのなかでも、「いやー笑った、面白かった」で終わるわけではなくて。作品を見終わってからもずっと残るものがあるし、感動するシーンもあれば、切ないシーンもあったりして。よくもここまで色んな感情がスムーズな気持ちのいい流れで一つの作品に集約されているな、と思いました。
新しいメンバーで、新しい「カビ人間」を作る
――そして今回、主人公のカビ人間を演じるわけですが。
とても素晴らしい作品に参加できるんだということで、喜ばしいことなんですけど、大倉孝二さん、片桐仁さんが演じてきたカビ人間のインパクトがありますし、ある意味完成された作品ですから、そこに再々演という状況で自分が入ることは、怖さもあります。
でも10年経った今回、これまで出演してきた後藤さん以外の出演者は僕も含め入れ替わっていますし、(演出の)G2さんが、今回は、「新作を作るくらいのつもりでやる」と仰っていました。今までの二つの公演とはまったく雰囲気が変わるかもしれない、そういうもの作りをしたいと。だから、これまでのことは意識し過ぎず、新しいメンバーで新しい『ダブリンの鐘つきカビ人間』を作っていけたらいいなという気持ちでいます。
――それでは、今回佐藤さんは「カビ人間」をこう演じる、自分なりのカラーを出したい、みたいなことは、あまり意識していないということでしょうか。
そうですね、自分のカラーをだそうということではなく、素直に「カビ人間」に向き合いたいと思っています。
――演出のG2さん、脚本の後藤さんからは、今回に当たっての要望、アドバイスは事前にありましたか。
事前にそういう話はしていないですね。実際今稽古に入って、G2さんからは、一つ一つ具体的に、セリフにこういう気持ちを乗せてほしい、などの演出を受けているところです。
――佐藤さんが思っている、カビ人間のイメージを教えてください。
病気によって内面と外見が入れ替わってしまったカビ人間。非常にピュアな心を持ったカビ人間が、“人の痛み” というものを知っていく物語だなと感じています。病気にかかってしまう前は、容姿に恵まれていたけどすごく性格が悪く、町の人たちに色んな迷惑をかけていて、ひどいこともたくさんやっている男だった。町の人たちから嫌われているのには理由があるんです。病気にかかるまで、気づかなかった人の痛みというものを、カビ人間になったからこそ気づいていく。そこが切ないんですよね。ピュアな心を持ったカビ人間を、自分のなかに受け入れる、落とし込もうとしているところです。
大切なのは、キャラクターをしっかりと演じ切る事
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――共演者の皆さんと稽古をするなかで、新たに感じることはありましたか。
G2さんの演出がすごく印象的ですね。すごく細やかに演出してくださいます。G2さんは、僕が持っていった感情にプラスして、「できればこういう気持ちもにおわせたい」とか、「こういう感じも伝えられたら」とおっしゃるんですけど、そういうことが、全部納得いきますし、自分にとって発見も多いです。すごく楽しんでやっていますね。
稽古はまだ序盤なんですけど、今の時点でも、「今までのカビ人間とは違うテイストになりそうだな」というのは感じています。上手い具合にメリハリが効いていて、感情がより浮き彫りになっていくような、そんな作品になるんじゃないかなと思っています。
――共演者の皆さんの印象はいかがですか?
いちばん絡みが多いのは、おさえちゃん役の上西(星来)さんなんですけど、彼女は所属グループでのライブパフォーマンスは経験ありますけど、こういった舞台に立つのは初めてだそうです。でも、自分が始めた時を考えたら・・・
彼女は今回、19歳でパルコ劇場デビューなんですが、僕と同じなんですよね。G2さんの演出は、当時の僕だったらすごく難しいことだと思うんですけど、上西さんはちゃんと自分の中に落とし込んでいって、やるたびに変わっていくんです。彼女からもすごく刺激をもらってますね。
――その他の皆さんも、なかなか個性豊かな俳優さんばかりですね。
そうですね。稽古場が楽しいです。村井(國夫)さんと一緒にお芝居させてもらうと、また違った面白みがあります。なにより、村井さんがいると、稽古場の空気がビシッと締まりますしね。でもそれだけじゃなくて、すごくユーモアのある方なので、温かい空気にもしてくれます。
後藤(ひろひと)さん、マギーさんも、もう存在が面白いし(笑)、(篠井)英介さんも、大好きな先輩なんですけど、クセがあるキャラクターに対してすごく真摯に向き合われているので、その様がほんとうに面白くて、すごくかっこいいです。へんに狙おうとしているわけではなくて、ちゃんと芝居としてキャラクターを落とし込んで演じているので、それが見ていてワクワクするというか、かっこいいです。
――それでは、稽古をしていくなかで、ご自身の課題などはありますか。
G2さんがつけられる演出に対して、すぐにはものに出来ない部分があったりするんです。すごく細やかな感情についてだったり。こんな気持ちなんだけど、一方でこんな気持ちも見え隠れしているのを見せたいとか。でも、それを狙いすぎると、「僕は今こういうふうに思ってますよ」という説明の芝居になってしまったり、その繊細な、ちょっとした見せ方っていうのが、うまく自分の体に染み付いてくるといいなって思います。まだ気持ちと体の動きが一致してないところがあるので。そこを早く自然に落とし込んでいきたいというところですね。
――G2さんは、佐藤さんだけじゃなく、他の皆さんにもそういう細やかな演出をつけていらっしゃるんですか?
はい、そうなんです。 それで、ちょっと気になって後藤さんに稽古終りで一緒に食事に行った時「G2さんの今回の演出は、前回、前々回とは違ったりしてるんですか」って聞いたら、「全然違うね」とおっしゃってました。前作の事を意識し過ぎてもいけないので、それ以上深くは聞かなかったんですが、やっぱり新しい、2015年でやることの意味というか、新作としてというか、そういう臨み方をしているんだろうなというふうに思いました。
――新たにどんな物語が広がっていくのか、公演がますます楽しみです! ところで、佐藤さんは、ドラマや映画だけでなく、デビューが舞台だということもありますし、これまで多くの舞台にも立たれています。ご自身のなかでは、それぞれの現場においての心構えというのは違うものなんでしょうか。
僕自身は、舞台だから、映像だからと何かやり方を変えるということはしてないですね。大切なのは、ひとつのキャラクターをしっかりと演じ切る事だと思うので、むしろブレない様にしていたいという想いが強いかもしれません。ただ、舞台は、生モノで直接お客さんの前で見せるものだから、毎回毎日が一発勝負でごまかしもきかない。特に初日なんかは、自分たちが準備して来たものがどう伝わるかというところで緊張はします。
――なるほど。では最後に、改めてメッセージをお願いします。
エンターテインメント作品として色々なものがつまっている、すごく面白い作品になっていますので、とにかく劇場に来て、観てください。劇場でお待ちしています!
◇佐藤隆太(さとう・りゅうた)プロフィール◇
1980年2月27日生まれ、東京都出身。1999年、舞台『BOYS TIME』でデビュー。以降、ドラマ、映画、舞台と幅広く活躍。最近の主な出演作に、ドラマ『HEAT』『恋愛時代』『花燃ゆ』、映画『TOKYO TRIBE』など。
◇『ダブリンの鐘つきカビ人間』公演情報◇
<あらすじ>
不思議な病に冒された中世の町。町民はそれぞれ異なる奇病に冒されていた。
かつては恵まれた容姿で醜い心を持っていた男で、病によって心と体が入れ替わり、泉のように美しい心と醜い容姿になったカビ人間(佐藤)は、思ったことと反対の言葉しか話せない病となったおさえ(上西)と出会い、彼女に惹かれていくが――。爆笑と感動の寓話的“大人のファンタジー”。
<公演スケジュール>
2015年10月3日(土)~25日(日) 東京・パルコ劇場
2015年11月4日(水) 福岡・福岡市民会館
2015年11月6日(金) 広島・JMSアステールプラザ 大ホール
2015年11月13日(金)~15(日) 大阪・森ノ宮ピロティホール
2015年11月17日(火) 宮城・電力ホール
2015年11月20日(金) 北海道・札幌市教育文化会館
<スタッフ・キャスト>
作:後藤ひろひと
演出:G2
出演:佐藤隆太、上西星来(東京パフォーマンスドール)、白洲迅、大塚千弘、小西遼生、
中村昌也、木戸邑弥、明樂哲典、マギー、後藤ひろひと、吉野圭吾、篠井英介、村井国夫
<『ダブリンの鐘つきカビ人間』特設ページ>
https://www.parco-play.com/web/play/dublin2015/