今週末2015年10月3日(土)より、舞台『ダブリンの鐘つきカビ人間』が開幕。町人それぞれが別の不思議な病に冒された、ある中世を思わせる町が舞台。醜い容姿に美しい心を持つカビ人間と、思っていることと反対のことしか話せない娘おさえの切ない交流や、一転笑いに溢れた冒険などあらゆる要素が詰め込まれた作品で、今回が10年ぶりの上演となる。本作でおさえの許婚である戦士を演じる小西遼生に、作品の魅力や稽古場での共演者の様子などを聞いた。
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――はじめに、台本を読んだときの感想はいかがでしたか?
1シーン1シーン、読むたび思わず笑ってしまいました。掛け合いの面白さがまずありますよね。キャラクターそれぞれのやりとり、言葉のチョイスとか、返し方だったりとか、まずこのやり取りに笑ってしまいましたね。
――そのなかで小西さんは、戦士を演じるわけですが、稽古場ではどのように戦士役に臨まれていますか?
おさえちゃん以外、登場人物は名前じゃなくて、「戦士」とか「天使」とか「止まり木」とかなんですが、僕、いちばん最初に台本を見た時、ファミコンとかのゲーム世代なので、「ドラゴンクエスト」みたいな、ゲームのなかの職業名に見えたんですよ。もちろん個人名はあるんでしょうけど、それには触れていなくて、キャラクターの個性がそのまま名前になっているんです。僕が演じる戦士は、武が強くて、闘うことを生業としているので、役名をまずは職業として考えてみようかなと。まずは、“戦士然”としていようかなと思っています。
――台本を読んだときに、キャラクター同士のかけあいに面白さを感じたということでしたが、戦士は会話のなかで、知らない人の名前がどんどん口から出て来てしまう病なんですよね。そのかけあいも面白いですよね。
見ている人は面白いですけど、本人は狙っているわけではなく病気なので、いたって真面目なんです。戦士という、普通の世界よりもある種キャラクター性が特化している人が、ごく普通の日常的な言葉を口走ったりやってしまったりすることが面白いなって台本を読んだ時に感じました。
それでさっきの“戦士然”とする、ってことにつながるんですけど、それをまず僕のなかでは演じる上での大きな目的にしています。
多角的にみせる、G2演出の魅力
――稽古中、演出のG2さんからの言葉など、印象に残っていることとかありますか?
G2さんとは、何作もご一緒していますし、土台をきちんと作ってくださる方なので安心ですね。特に、今回のようなキャラクター性が強いものは、まず“ワールド”がそこに広がっていないと役としていられないけれど、G2さんの演出はきっちり世界を作って下さると思います。
あとは、誰かが芝居をしている時の、相手役のリアクションの想像力。
それぞれの役は衣裳などでキャラクターの特性は見えていますけど、それに加えて芝居の受け手側のリアクションが、シーンを伝える情報として大きいと思うので、そういうのを丁寧に作っている感じですね。
――先日カビ人間役の佐藤隆太さんのインタビューで、G2さんは心情の動きまでとても繊細に演出をされるとうかがったのですが、小西さんに対してもそのような演出をされているんでしょうか。
カビ人間とおさえちゃんは、ストーリーの中心で、心情的な部分を特に担っているので、G2さんは細かく稽古されていると思いますね。この作品は、それぞれのキャラクターが強いぶん、ひとつ間違うと、個々がふざけ過ぎてしまいがちな恐れもある作風だと思うんです。だけど実は役の心理がリアルにあればあるほど、コミカルな部分が面白くなるので、役から逸脱していないかのさじ加減は、G2さんはちゃんと見て下さっています。
なので脱線したりすると「今のは面白いけど、役じゃないよね?」って、すぐに指摘が飛んできます。それは稽古場で皆に良く言っていることかも。皆もあえてその部分に挑戦していて、違うなって時は外したりしている。演じる方は振り幅を大きくやっていて、G2さんが大事な部分を見逃さないようにしているって感じです。
――G2さんの演出の魅力は?
とてもステージを多角的に見ているというか、直線だけじゃなく、歪みもちゃんと作ってる感じがするので、やる側も自由に動くことができるし、そこにいることが面白いんですよね。
ここからも、ここからも、って、どの角度からも見えるというか。
G2さんは数学的な部分も持っていると感じます。対角線だったり、斜めのいちばんいい角度とか。用意されたものをより面白く見せるための、土台をすごく緻密に作られるのが素敵です。
『ダブリンの鐘つきカビ人間』は劇場に足を運んで見る価値のある舞台
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――個性的なメンバーが揃っていることも注目ですよね。
みんなメインディッシュみたいな感じがします。出て来たらメイン!みたいな(笑)。
この作品のキャラクターは全員個性が強いので、またそれにすごく合う人が集まったというか。「そうだよね、あの人がその役やったら…そうだよね(笑)」って。ある種余計なことしなくても、その人であれば面白いっていう部分がある。だって!(中村)昌也くんが止まり木っていうだけで面白いもん(笑)。すごく大きな体躯のなかに、心があって、そこに鳥が止まったりとか、でもある種頼りがいがあったりとか。役の名前から連想するものに、その役者がすごく当てはまっていると思うんです。昌也くんが実際に稽古場で、本読みしたり、動いているだけで、止まり木だよね!ってやっぱり思う(笑)。
そういう意味で、役名と、そこに当てられているキャストがそれぞれの魅力が重なっているし、またそこから広がりがあるし。で、そんななかで自分は・・・まあ自分のことは見えないので(笑)。ああ、戦士か・・・って…周りからはどう見えてるんだろう? でもすごくやりがいがあって、楽しいですね。
――王様役の後藤ひろひとさんは、脚本も手掛けていて、唯一の作品経験者ですが、なにかお話を聞いたりとかあるんですか?
稽古場にいるときは作者としてではなく、キャストとしてすごく対等にいる感じです。僕からしたら、もう王様にしか見えないですからね(笑)。稽古場で、冠つけてるだけなのに、王様です。日本で西洋の王様ができるのは仲代達矢さんと後藤さんだけじゃないですか?(笑)。
この作品では、自分の本来の役以外に、アンサンブルとして別の役もやるんですね。僕も途中で市民を演じたり。後藤さんもいくつか役を演じられるのですが、ローマのコロシアムにいそうな感じのヘルメットを被ったり、それもまた似合う(笑)。ジャストフィットです!(笑)。でも、たまにG2さんは後藤さんに聞いてるかも。冗談めかして、「ここをこう変えたいんだけど、作者はどう思うかなぁ~?」って後藤さんに遠回しに聞いたりとか(笑)。それで後藤さんが「いいんじゃないですかねぇ」って。
――そのほかに、注目しているキャラクターはいますか?
今回は、本当に全員から目が離せないですよ!面白いです。稽古場でも、後藤さんと、(侍従長役の)マギーさんの掛け合いは目を離したらもったいないと思ってますね。ちょっと遊んでいい場面で、二人は「本番までに固めてきます」って言って、毎回いろんなことをやってる(笑)。持ち芸の披露パーティー?っていうくらい、お互いのネタ合戦をやってる。これは、稽古場だけどお金を払って見たらいいんじゃないかというくらいのクオリティ。本番ではあそこまでやらないよね・・・いや、やるのかな?!(笑)。っていうくらいのものを、稽古場で贅沢にも見せて頂いています(笑)。
キャラクターとしては、侍従長はすごく好きなんです。台本を読んだ時から、特に惹かれる役でしたね。侍従長の、最初の清廉潔白な部分と、そこからの狂気みたいなものが好きなので。それをマギーさんがやるのがすごく面白いと思います。
あとはさっき言った、いわゆるアンサンブルで、村井(國夫)さんと篠井(英介)さんが、市民の役をやってるのもすごい贅沢ですよ! 本役での見せ場以外にも、群衆にもいるし、とにかく全てが見せ場になってる。その贅沢さはありますよね。それがまたいいんですよ(笑)。
――そんな個性的な登場人物のなか、カビ人間とおさえちゃんの二人のやりとりにも注目ですよね。
そうですね。二人のシーンはお話の芯ですからね。どれだけ周囲がふざけて、脱線しても、二人がすごくピュアに、そのシーンを作れば作るほど、笑いあり、涙ありの舞台になっていくな、って今稽古を見ていて思います。
おさえちゃんがすごく純粋なんですよ・・・だから、僕とね、佐藤(隆太)さんが(上西)星来ちゃんにアプローチする場面でいつも罪悪感を覚えるんです(笑)。なんか、すごく若くて、まっさらなので。いけない気持ちになります(笑)。僕自身は、真面目なシーンというより、「おさえちゃーん!」って追いかける感じなんですけど、本当にすみません!と思いつつ(笑)。
でも、だからこそ説得力はありますね。カビ人間とのシーンだったり、心が全面に見えるから。おさえちゃんは反対のことを言うけど、何も言わなくても星来ちゃん自身に、言葉の表面とはちがう何かがあるので、すごくそれが良い方向に、作られてる気がします。
――本番の舞台を観るのが本当に待ち遠しいです!
キャラクター性が強くて、毒もたくさんある。独特な世界観だけど、とてもピュアなものとして伝わると思います。
僕自身は、衣裳もだし、本番のセットや照明も楽しみ。毎回、どの作品でもそうなんですけど、今回はよりその全てのパーツが、全部独特の世界を作るために、役立つものであるし、振り切ったダークファンタジーの世界なので楽しみなんですよね。日常ではないものを色んなとこで感じるんだけど、そのなかで、細かい心理描写があるし、意外性のある作品になると思うんです。
観客の皆さんにとっても、とても貴重な、価値のあるものに出来上がると思います。
――最後に、メッセージをお願いします。
最近、チケット代を払って、舞台を観に行く価値を感じる瞬間って何かなって思ったことがあったんですよ。作品のテーマとか、俳優の芝居、舞台のセットだとか色んな要素があるんだけど、最終的には、観終わったときに、貴重な時間を利用してここに来た価値があったなって思えるかなんだよな、と。「あ、いい時間を過ごせたな」って思ったときに、すごく充実感を感じると僕は思うんです。そう感じてもらうためには、作り手側は、当たり前のことですけど、かなり努力しなくちゃいけない。
今回の作品はそういう意味で、劇場に足を運んで見る価値があったなと思ってもらえる要素がちゃんとある作品だなって、稽古をしていても感じています。本番までラストスパートですが、一つ一つ真摯にちゃんとつくりたいと思います。楽しみにしていてください。
◇小西遼生(こにし・りょうせい)プロフィール◇
1982年2月20日生まれ、東京都出身。2003年に舞台デビュー。2005年、ドラマ『牙狼<GARO>』の主人公・冴島鋼牙を好演、注目を集める。2007年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』に出演。以降、舞台にも活躍の場を広げる。最近の主な出演作に、『NEXT TO NOMAL』、『ガラスの仮面』、『十二夜』、ミュージカル『シャーロックホームズ2~ブラッディゲーム~』、『End of the RAINBOW』。
◇『ダブリンの鐘つきカビ人間』公演情報◇
<あらすじ>
不思議な病に冒された中世の町。町民はそれぞれ異なる奇病に冒されていた。
かつては恵まれた容姿で醜い心を持っていた男で、病によって心と体が入れ替わり、泉のように美しい心と醜い容姿になったカビ人間(佐藤)は、思ったことと反対の言葉しか話せない病となったおさえ(上西)と出会い、彼女に惹かれていくが――。爆笑と感動の寓話的“大人のファンタジー”。
<公演スケジュール>
2015年10月3日(土)~25日(日) 東京・パルコ劇場
2015年11月4日(水) 福岡・福岡市民会館
2015年11月6日(金) 広島・JMSアステールプラザ 大ホール
2015年11月13日(金)~15(日) 大阪・森ノ宮ピロティホール
2015年11月17日(火) 宮城・電力ホール
2015年11月20日(金) 北海道・札幌市教育文化会館
<スタッフ・キャスト>
作:後藤ひろひと
演出:G2
出演:佐藤隆太、上西星来(東京パフォーマンスドール)、白洲迅、大塚千弘、小西遼生、
中村昌也、木戸邑弥、明樂哲典、マギー、後藤ひろひと、吉野圭吾、篠井英介、村井国夫
<『ダブリンの鐘つきカビ人間』特設ページ>
https://www.parco-play.com/web/play/dublin2015/