感情と知性のぶつかり、飛び散る火花 舞台『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』観劇ルポ

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カナダ、モントリオール。場所は判事の執務室。男を殺害したと自白する男娼と刑事が対峙する。
昨年に好評を博した作品の再演となる『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』。登場人物は男娼の「彼」と刑事、速記者、警護官の4人のみ。「彼」と、取り調べをする刑事との会話で芝居のほとんどが成り立つという、スリリングかつ濃密な会話劇だ。

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初演から警護官以外のキャストは一新され、今回は刑事と速記者を唐橋充と山口大地がスウィッチ・キャストで演じるという、キャスティング的にも面白い試みで上演された。この回は刑事が唐橋、速記者が山口で上演。

『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』

舞台上には重厚な判事のデスクと3人掛けのテーブル、上着を掛けるハンガーのみというシンプルさ。開演前にはピアノ曲が流れ、それにかぶさるようにしてパトカーのサイレンや叫び声、足音などが時折聞こえる。「彼」の犯した殺人をコラージュで体験しているようだ。ちなみに幕が上がると、音響効果はほとんど使用されない。

「彼」を演じるのは松田凌。本格的な翻訳劇はこれが初めてになる。自白はしたものの、自分の名前も殺害した男の名前も答えない「彼」。幕が上がった時点で、この取り調べは36時間を超えて進展していない状況だ。刑事はその状況に憤り、男娼の「彼」に判事の執務室という異様な場所に呼びつけられたことや、建物の外で「彼」が手配した新聞記者たちがたむろしていることにも不信感を隠しきれない。

『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』

序盤から感情的で雲の上を歩くような「彼」の供述と、進展しない状況から苛立っているものの社会的な立場から取り調べをする刑事との会話は、絶望的とも言えるすれ違いを見せる。唐橋が演じる刑事は見事な緩急で観客も息をのむような詰問を続け、捜査によって得られた状況証拠を読みあげることで、主導権を「彼」からもぎ取り「彼」を崩し始める。

『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』

松田凌は夢のような愛に心を囚われて心ここにない「彼」を体現し、のちに刑事によって現実に引き戻される様もスムーズに演じていく。時にのたうちまわり、時に恍惚として。

息がつまるような2時間に、ブレイクを与えてくれるのが速記者の山口と警護官の鈴木ハルニだ。刑事と速記者の事務的なやり取りと、警護官のとぼけた様子に息がつける。

『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』

この芝居は観客にいくつもの対立構造を見せただろう。感性と理性。愛に生きる若者の激しくも愛らしい様と、冷酷なまでに職務を全うする男の凛々しさ。社会的地位を持つ者と持たざる者。貧富。その対立は「彼」と彼が殺害したクロードとの間にも横たわる物だ。「彼」とクロードがそれを超越したときに、事件は起こった。ラストにその事件を語る、言葉にできない感情を爆発させる「彼」=松田の長ゼリフは圧巻だ。その前に刑事の口から語られる社会的に筋の通った推測が陳腐な物に見えてしまう。ある観客はそのような愛の形があることに衝撃を受け、ある観客は自分の経験に照らし合わせて自分にもそのような衝動に襲われることがあるのではないかと恐怖するだろう。いつまでも聞いていたいような語りだった。

『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』

そして、全員が退出した後に遺された刑事=唐橋が肩を落とし、ドアを出る前に気が付いたようにハンガーに掛けたままになっている「彼」の上着を取る。その背中に滲むものは、自分の想像を超えた告白に対する恥の気持ちか、新たな不幸の物語を背負ってしまった愕然とした思いか?
本格的な翻訳劇が初めてだという松田にとって、この芝居は大きなターニング・ポイントとなっただろう。今後の活躍に期待したい。また、唐橋の見せた円熟した演技も非常に魅力的だった。そして、この秀逸な戯曲が、松田のような若手の俳優を起用することによって、広く演劇ビギナーの観客に観られることも貴重だ。早くの再演を楽しみにしたい。

関連動画:松田凌、山口大地、唐橋充、鈴木ハルニからメッセージ!舞台『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』

Photo:画像はCyanバージョン(刑事:山口大地、速記者:唐橋充)

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