溝口琢矢、原田優一らが「ノーカット版」として高めた純度『クロードと一緒に』レポート

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溝口琢矢、原田優一らが「ノーカット版」として高めた純度『クロードと一緒に』レポート

2021年7月3日(土)に東京・東京芸術劇場 シアターウエストにて『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』が開幕した。本作は、1985年にフランス系カナダ人のルネ=ダニエル・デュボワ(René=DanielDubois)によって書かれた作品。日本では、これが5度目の上演となり、今回は溝口琢矢、原田優一、米原幸佑、鈴木ハルニの4名が出演している。

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1967年7月5日、月曜午前10:00を過ぎたカナダ・モントリオール、判事の執務室から始まる物語。部屋では、「彼」(溝口)に刑事(原田)が苛立ちながら質問を繰り返していた。ある大学生を殺したと自首してきた「彼」。しかし、土曜の深夜から36時間を超える取り調べを行っても、十分な調書は作れていない。外には大勢のマスコミがいる。判事が出勤してくるまで、あと1時間しかない。

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「彼」の要望で退席させた速記者のギィ(米原)が新しい資料を持ってきたあと、刑事の詰問は激しさを増していく。時折、警護官(鈴木)が部屋を訪れることで部屋の空気は変わるが、刑事の言葉には男娼を生業としている「彼」への軽蔑がにじむ。そんな意識ものらりくらりと交わしながら、「彼」は殺害後の足取りや、二人の関係の始まり、当日に被害者の部屋を訪れるまでの行動については饒舌に語る。

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ただ、殺害の“動機”については曖昧な答えを繰り返すばかり。真実だけが、見つからない。何も問題はなかったという二人の関係。「彼」はなぜ、殺害でそのすべてを終わらせたのか・・・。

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今回の上演は、「ノーカット版」と謳われている。『Being at home with Claude』は、1986年に初演されて以来、英語にも翻訳されカナダやイギリスでも上演され続けているほか、映画化もされている作品だ。しかし、その多くでは台詞や一部の場面をカット。日本での上演も、これに習い、日本人には馴染がないこと、上演時間などの関係などからカットした台詞があったという。

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これを、2019年(4回目の上演)版の総合演出を務めた田尾下哲が、改めて上演台本も手掛け、フランス語で書かれていることを忠実に日本語に置き換えた。フランス語は、日本語に翻訳するとだいたい1.5倍くらいの文量になると言われているそうだ。「ノーカット版」では、これまで以上に言葉を尽くして、フランス語が示す叙情的な台詞の数々が洪水のように渦巻いていた。

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この作業が、本作の密度を圧倒的に高めたように思う。今まで以上に、一部屋に流れる1時間の出来事が明度を増して舞台上に浮かび上がってきた。照明の変化も、その一助となり物語に寄り添う。

今回、第本設定の人物年齢に近いキャストが起用されている。作品の書かれた時代背景と現代に違いはあるが、そういった細やかなところにまでこだわったことで、より登場人物の内面を抉り出しているようだった。

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原田演じる刑事は、3ピースのスーツにしっかりと身を固め、長時間の取り調べの中でも“自意識”を崩さない。言葉も苛烈さを極めていく(「ノーカット版」になり、より語る言葉が増えているのではないか)。「彼」の感情を満たした器を揺り動かし、溢れ出る瞬間をじっと待つ。台詞の多さに圧倒されるが、刑事が“真実”に触れる心を、繊細に芝居に織り込む原田にも目を奪われた。

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速記者ギィ役の米原と、警護官役の鈴木は、登場シーンは多くないが部屋の外からの“圧”となっていた。二人の存在は、物語に緩急をもたらす。米原は、演じる人によって速記者の立ち位置が違って見えることを示した。また、鈴木は唯一、初演から本作に出演し続けている。こちらも、組み合わせによって関わり方に違いが見えるのがおもしろい。

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そして、溝口が見せた「彼」は、これまで同役を演じてきた相馬圭祐・稲葉友(2014年)、松田凌(2015年・2016年・2019年)、小早川俊輔(2019年)が演じたどの「彼」とも違う、脆く、儚く、柔く、混迷しているのに、透き通るような「彼」だった。「なぜ」を積み重ねた先、後半には約20分におよぶ独白がある。伝わらない苛立ちから“真実”がこぼれる瞬間は、溝口自身が嘘偽りのない感情を自らの中に重ねてきたことを雄弁に物語っていた。

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作品に設定された1967年7月4日と5日という日付は、カナダ建国100周年記念と万国博覧会中というモントリオール人にとって象徴的な意味もある日。今回の上演日程は、この日付を意識して設けられている。このあたりも、知識として持っておくと、より物語の中に流れる時間に寄り添って観ることができるだろう。

5度目の上演だから、たどり着けた境地。改めて、『クロードと一緒に』というタイトルの意味を噛み締めた。

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『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』は、2021年7月3日(土)から7月11日(日)まで、東京・東京芸術劇場 シアターウエストにて上演。なお、本作はセクシュアルな表現を含むため、15歳未満は入場不可。
なお、本公演は「当日引換券」が販売されるほか、千秋楽となる7月11日(日)13:30公演でライブ配信が実施される(※アーカイブ配信なし)。さらに、「レンタル動画(録画配信)」も用意されるとのこと。

【ライブ配信】7月11日(日)13:30~ https://confetti-web.com/detail.php?tid=61925&
※アーカイブなし
【レンタル動画(録画配信)】7月13日(火)18:00~26日(月)23:59 https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=61927&

(取材・文/エンタステージ編集部 1号、写真/(C)Zu々 Photo by NORI)

目次

『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』公演情報

上演スケジュール

2021年7月3日(土)~7月11日(日) 東京・東京芸術劇場 シアターウエスト

スタッフ・キャスト

【原作】ルネ=ダニエル・デュボワ
【翻訳】イザベル・ビロドー/三宅優
【上演台本・演出】田尾下哲

【出演】溝口琢矢、原田優一、米原幸佑、鈴木ハルニ

【公式サイト】https://www.zuu24.com/withclaude2021/



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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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