アメリカ、そして世界最高峰の演劇の祭典「トニー賞」。日本時間の2018年6月11日(月)にニューヨークのラジオ・シテ ィ・ホールで開催された「第72回トニー賞受賞式」に行ってきました。3日前に、レッドカーペットとメディアルームのパスをゲット。当日の熱を、お伝えします。
いざ、毎年ブロードウェイのスターたちが大勢来るというレッドカーペットへ。会場の周りは封鎖されていて、レッドカーペットのプレス用入り口には金属探知機が設置されている厳重さです。中に入ると・・・本物のバラが敷き詰められた壁をバック、小雨というあいにくな天気を吹っ飛ばすような、華やかで明るいレッドカーペットの光景が広がっていました。壁から抜いたバラを手に、ポーズを決めるセレブの姿も。
オープンしてから20分ほど。レッドカーペットには、ミュージカル・演劇界の著名人たちの姿がちらほら現れだしました。今年はVOGUEとの大々的なコラボがあり、VOGUEの生中継エリアがレッドカーペットの最後に設けられていました。非売品の特別エディションも発行されています。
まず、大人気の脚本家兼女優、ティナ・フェイの姿を見つけました。残念ながら受賞には及びませんでしたが、人気の新作ミュージカル『ミーン・ガールズ』の脚本家として今回ノミネートされていて、原作となった映画の脚本も彼女が手掛けています(シャロン・ノーバリー先生役で出演もしていました)。
また、今期ワンマンショー『ブルース・オン・ブロードウェイ』で最高850ドルという驚きのチケットを即完させ、2回も公演期間を延長しているロック歌手ブルース・スプリングスティーンは、レッドカーペットの裏をすーっと通っていってしまいました・・・。
ちなみにブルースは今回、前述の『ブルース・オン・ブロードウェイ』でトニー賞特別賞を受賞しており、授賞式では「マイ・ホームタウン」を披露していました。ブロードウェイにブルースほどの歌手がコミットしてくれることは希なので、会場全体が嬉しそうに見ていたのが印象的です。
さて、レッドカーペットが終わるといよいよ授賞式が始まりました。
今回のホストはミュージカル『ウェイトレス』(2015年)でブロードウェイデビューをした歌手サラ・バレリスと昨年話題になったミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』の主演を務めた歌手ジョシュ・グローバン。
ホストによるオープニングナンバーは、歌手でもある二人だけあって素敵な歌声。さらに、トニー賞もグラミー賞も受賞したことがないという自虐ネタで会場は大盛り上がり!『ミーン・ガールズ』が無冠となることを予知していたかのように、歌詞の中には「受賞できなかった人たちに向けた歌」とありました・・・結果は置いておき、トニー賞ノミニーや演劇業界全体を祝福する姿は、会場に集まった人たちにとても刺さったようです。
その他のハイライトは、まずミュージカル『メテオ・シャワー』で主演女優賞にノミネートされたコメディアン、エイミー・シューマーによる女性のエンパワメントスピーチ。10部門ノミネートされたミュージカル『マイ・フェア・レディ』のビギンズ教授がマンスプレイニングをしているストーリーが、今の時代でも共感されている事実を批判して、会場は拍手喝采!
また、フロリダ州高校銃乱射事件の当事者の演劇部の学生がパフォーマンスしたミュージカル『RENT』の「Seasons of Love」では、涙を浮かべている人たちの姿も多々見られました。
そして、何と言っても一番衝撃的だったのは、ロバート・デニーロ。スピーチで「ファック・トランプ!」と2回も言い放ち、会場ではスタンディングオベーションに。生放送の場ということもあって、メディアルームにいる各媒体も大盛り上がりでした。
このメディアルーム、厳選された媒体のみが入ることができ、ステージを降りた各受賞者がそのまま訪れ、Q&Aを受けてくれるんです。受賞直後の生の声は、用意されていない本音が聞ける非常に貴重な機会でした。
その中でも、筆者を含む多くのメディアの心を揺さぶったいくつかの回答をご紹介します。まずは、リバイバル演劇作品賞も受賞した『エンジェルズ・イン・アメリカ』で主演男優賞を受賞したアンドリュー・ガーフィルド。
「この作品は、LGBTはもちろん皆に通じる作品です。なぜなら、今私たちは分断され、迷子になっているから。ただ、私たちは元のあるべき姿に向かっています」
次に、ミュージカル「回転木馬」で助演女優賞を受賞したラテン系のリンジー・メンデズ。
「この仕事を始めた頃、苗字をメンデズからマシューに変えたほうがいいと言われたことがあります。でも、このように評価されて、ブロードウェイの多様性への寛容さに感謝したいです!」
最後に、演劇作品賞や演劇演出賞を受賞した「ハリーポッターと呪われた子」の演出家ジョン・ティファニー。
「(ハーマイオニー役に黒人のノーマ・ドゥメズウェニを抜擢したことに関して)誰でもどんなストーリーのヒーローになれるということを伝えることが大切だと思うんだ。そして、ノーマは役にぴったりで、J.K.ローリングも大賛成だったよ」
ちなみにジョン・ティファニーは舞台上で、会場全体を巻き込みボーイフレンドにハッピーバースデーを歌う前代未聞の受賞スピーチをしました!
今回のビッグウィナーは、イスラエル人とエジプト人が音楽などを通じて心を通わすハートウォーミングストーリーのミュージカル『バンズ・ビジット』。エキゾチックで静かな音楽やアーティスティックな演出が評価され圧巻の10部門受賞を果たしました。派手なイメージがあるブロードウェイですが、変化が感じられますね。
また、リバイバルミュージカル賞を黒人の女の子が主演の『アイランド(原題:Once on this Island)』が受賞した時には、会場だけでなくメディアルームでも歓声が上がりました。
以上、全体的に「多様性」が特にキーポイントとなる第72回トニー賞でした。
(写真/Ikumi)