2018年8月に、東京・シアターサンモールにて『大きな虹のあとで~不動四兄弟~』が上演される。本作は、戦時下、特攻部隊に志願することになる四兄弟の青春を描いた作品。昨年も上演されていたが、一部新キャストを加え、再び上演が決定した。
今年、四兄弟を演じるのは、入江甚儀、市川知宏、上杉柊平、瀬戸利樹の4名。同事務所で切磋琢磨してきた4人だが、これが初共演となる。上演に向けた率直な気持ちや、本作を自分たちがやる“意味”についての考えを聞いた。
――今回、『大きな虹のあとで~不動四兄弟~』が再び上演されますね。市川さんと入江さんは、昨年の公演にも出演されていらっしゃいましたが、まず、昨年を振り返った率直な感想を聞かせていただけますか?
市川:正直に言うと、キツかったですね・・・。肉体的な面ももちろん、命を扱う重いテーマだったので、精神的にもキツいなあと思ったことを覚えています。同じ事務所のメンバーでやる公演だったし、年齢も一番上だったので、僕自身としてもプレッシャーを感じてしまって。いろいろ背負ってる感があったので、終わった後の解放感はすごくありました。だから、またやると聞いた時は、ちょっと複雑な気持ちに(笑)。
入江:良い意味で、楽ができない作品だったんですよね。本当は、すべての作品がそうあるべきなんでしょうけど。なんか、追いつかない部分があったんです。楽しかったんですけどね。だから、DVDで見返してみた時は「まだできる!」と思いました。
市川:それ分かる。改めて観ると、もっとできると思うし、自分がしたかったアプローチとずれてしまっている部分も見えてきて。以前、武井壮さんが「うまくホームラン打てるイメージが頭の中にあるのに、全然打てない」みたいなことをおっしゃっているのを聞いたんですが、まさにその状況だと思いました。
だから、自分が何をやったのかを観た上で、表現したいところに近づくにはどうすればいいのかを復習して、今回は自分がやりたいことをちゃんと表現できるようにしたいなって思っています。
――上杉さんと瀬戸さんは、前回は観客としてこの作品をご覧になったと伺いました。
瀬戸:観させていただきました!熱量が高くて、皆さんの想いがストレートに伝わってくる、すごく素敵な舞台でした。
上杉:僕も、演じている皆のことをよく知っているからこそ伝わる本気が垣間見えて、震えました。同じ空間にいて、その時の空気を感じられるからこそ伝わる本気というか。僕、誰かが本気になってる姿って好きなんですよね。芝居はドキュメンタリーじゃないんだけど(笑)。でも、そういうものを観ているのに近い感覚にありました。誰かが本気になる瞬間に立ち会えることって、この歳なると正直なかなかないじゃないですか。それがすごく素敵でした。
――今回、お二人は観ていた作品を演じる側になるわけですが。
上杉:僕は初舞台なので、自分が観た作品ゆえに比べてしまいそうで(笑)。とまあ、思うところはありましたけど、人が変わった時点で、同じものにはならないと思うんです。
去年やった市川くんも甚儀くんも、そういうお芝居ができる人だって分かってるから、逆に引っ掻き回してやろうかなと。楽しみがフツフツとわいてくる一方で、不安だし「マジか・・・」って思うところも消えないので、二つの感情を行ったり来たり繰り返しています(笑)。
瀬戸:僕らが加わることが、二人にもお客さんにも、いい意味で楽しみと感じてもらえればいいですね。
――『にじあと』は戦争の時代を描いていますが、お話自体は青春や恋など、若者の等身大の姿が素直に書かれていますよね。それぞれ、演じられる役とご自身を照らし合わせてみて、共感できる部分はありますか?
市川:僕は、昨年と同じく長男の月兄を演じます。月兄は「どんな状況でも笑っていよう」というポリシーを持っているんですが、その考えに男として憧れますし、自分もそう在りたいと思っています。実際、それを実行できるかというのは難しいところですが、常にその気持ちを持って弟たちに接している月兄はかっこいいなと思うので、演じられるのは光栄ですね。
上杉:僕は次男の空を演じるんですが、まだ掴みきれていないっていうか・・・。台本は読ませていただいていますが、考えはじめると、去年やってた竜星のことが浮かんでしまうので、そこを詰めるのは稽古が始まってからかな。でも、弱音も吐かないし、夢に生きるかっこいい男だなって思います。兄弟にその背中を見せられたらいいなと。
入江:僕は、昨年と同じ三男の大地役です。恋愛面では、残念なキャラクターなんです(笑)。でも、去年演じていて思ったのは、最後まで一途に気持ちを貫く男気がすごいなと。出会いの多い現代との違いもあるとは思いますが、思い続けるって体力が必要だし、不器用ながらのかっこよさを感じました。残念なキャラクターなんだけど、どこか共感できる。一番、お客さんが共感しやすい役でもあるんじゃないかなと、演じながら思ってました。今年は、またちょっと違うアプローチにしたいなとは思ってますけどね。
瀬戸:僕は、末っ子の草太役なんですけど、近いところ・・・あると言えば、あると思います。実際の僕は、お兄ちゃんなんですよ。でも「お兄ちゃんがいたらこういう接し方をしたい」と思う理想形が、この台本の中にあったので、しっかりとそれを形にできたらいいなと思いますね。
――同じ事務所の皆さんですが、普段の皆さんの関係性はどんな感じなんでしょうか?
瀬戸:市川さんが、一番兄貴分ですよね。
上杉:市川くんと甚儀がとっても仲が良くて、利樹は結構誰にでもくっついていくので可愛がられるタイプだよね。
入江:で、柊平は一匹狼(笑)。
上杉:そうですね、わりとそうですね(笑)。
――これまでは事務所のレッスンなどでご一緒されてきたと伺いましたが、4人で共演するのはこれが初めてですよね。
入江:そうなんですよ。・・・柊平の喉が持つのか、心配かつ楽しみです。
上杉:僕、喉がめちゃくちゃ弱いんですよ・・・。鍛えてるんですけど、病院で見てもらったら、もともとの形が変わっているからあんまり負担をかけちゃいけない、みたいなことを言わたことがあって。でも、気合い入れていきますよ!
入江:途中から、ソプラノボイスになるかもしれない(笑)。
上杉:あははは(笑)。レッスンで、お互いのことを見てきているので、信頼関係はばっちりなので、何があっても大丈夫だと思っています。僕が言うのもなんですが、「この3人となら大丈夫」って思うことがたくさんあるので。だから、不安はあんまりないです。
瀬戸:僕、皆さんと早く稽古したいです!先輩方の本気を感じて、早い段階でワクワクや焦りを感じたいです。危機感を早く持って、自分を追い込みたいです。
市川:ずっと一緒にレッスンをしてきましたが、やっぱり一緒に舞台に出るというのは、また特別ですね。お客様から貴重なお金をいただいて、一つの作品を完成させるということですから。お客様に楽しんでいただけるように、必死に稽古して、一緒に創るということを噛み締めていけたらなって思います。
――お互いをよく知っているからこそ、変化や成長を感じることが多くなりそうですね。
入江:一緒にいる時間が長くなってくると、勝手が分かるようになるんですよね。特に、僕と市川くんは、共演回数が多いので。柊平と利樹は初めて、柊平に関しては初舞台だから、何が起こるか分からない(笑)。
市川:そうだね。
入江:利樹については、可能性がある男だと思ってるですよ。
瀬戸:ちょっと、やめてください!不安になってくるんで(笑)。
市川:単純なことだよ、やるか、やらないかの問題だから。
瀬戸:・・・やります!!がんばります!
入江:柊平は、どんなアプローチをしてくるのかすごく楽しみですね。きっと、悩むと思うし。
上杉:そうだね、こればっかりはやってみないとなあ。
――ちなみに、映像とは違う、舞台の醍醐味ってどういうところに感じていらっしゃいますか?
市川:ドラマと舞台の違いについて「生の反応」って、よく言われるじゃないですか。でもこれまで、僕自身はあまりそれを感じたことがなかったんです。でも、去年この作品をやって、初めて「生の反応が返ってくるって、こういうことなんだ!」という実感が持てたんです。それまでは、舞台を楽しめるところまで意識を持っていけてなかったんだなと。今回またこの作品をやって、「やっぱり舞台っていいな」って思いたいです。
入江:ここ2年間ぐらいで、映像と舞台は、同じ芝居だけど違うものだと思った方がいいなと考えるようになりました。映像で評価されたアプローチは、舞台では一回取っ払って考えた方がいいなと思うし、肉体的な負荷も違うし。違いを感じられた分、楽しくなりましたね。
瀬戸:僕は以前、舞台では自分がどうなっちゃうのか分からなくなりました。
入江:どういうこと?芝居としてじゃなく、泣いちゃうとか?
瀬戸:泣くだけじゃないんですけど、シーンによってはそれぐらい気持ちが入ってしまって。今回も、正直どうなるか分からなくて、それが楽しみでもあり、怖くもあり(笑)。
――上杉さんは、初舞台に向けてのお気持ちは?
上杉:僕、舞台は観るのが好きで、よく劇場に行っていたんです。映像も、もともと映画を観るのが好きで。でも、それが関連づくか分からないですね。8月、この舞台が終わったら、「舞台、観るのは好きだけどやるのは・・・」ってなってるかもしれないし(笑)。正直、分からないです。分からないんですけど、それが楽しみですね。
――“戦争”について、皆さんの世代はどのように捉えていらっしゃるんでしょうか?
上杉:正直、遠くないことだと思っています。物語の中に出てくる「第二次世界大戦」が遠くなっているというだけで、今も、紛争や核兵器の話題がニュースになっていますよね。そういった状況と意識がリンクしていないから、“遠いこと”に感じるんじゃないかと。だからこそ、僕らが『にじあと』みたいな作品をやることに意味があるんだと思っています。
入江:経験していないというのは、しょうがないことでもあるんですよね。でも、この作品の中には、自分たちのことが英雄のように語られるようになったら、「それは忘れられてしまっているってことなんだ」といった台詞があるんです。それが、すべてかなって。経験していなくとも忘れない、そのきっかけになる必要があると思っています。
瀬戸:今年、戦争にまつわる博物館に行ったんですよ。そこに展示されているものを観て、なんで国のために自分の命を捧げられたんだろう・・・とすごく考えさせられました。自分がいて、家族がいて、その命を守るためには戦争に行かなければならなかった。自分が感じたこういうことを、少しでも多くの人に知ってもらうことが大事だなと思っています。
市川:僕も、勉強の一環としては知っていましたけど、こういう作品に出ていなかったら、そこまで深く考えてたとは、自信を持って言えなかったと思います。だから、自分と同じような人たちの考える機会になったら、すごく光栄だなと。この作品を観てくださった皆様が、自分自身で「知りたい」と思って、調べて考えてくれたら、やった意味があるんだと思います。
――最後に、公演に向けてお客様へメッセージをお願いします。
市川:“戦争”が時代背景にあるという話をしてきたんですけれども、そんなに重く考えずに、まずは「こういうことがあったんだ」と知っていただく機会として、友達や恋人、いろんな人と観に来ていただけたら嬉しいです。
瀬戸:人それぞれ、感じることは違うと思いますが、何か一つでも皆さんの心に残るよう、僕たちがんばります!
入江:これはデートムービーならぬ、デートステージです。演出家の言葉をお借りしました(笑)。ぜひ、夏の思い出作りの一つとして、この『大きな虹のあとで』を観に来てください。
上杉:僕らのこと、知らなくてもいいです。誰かが本気になっている姿、必死になっている姿、そういう人間の姿を見るのって、おもしろいですよ(笑)。そんな瞬間、なかなかないと思います。お芝居に興味があってもなくても、人生経験として、ぜひ足を運んでいただけたら嬉しいです。
◆公演情報
『大きな虹のあとで~不動四兄弟~』
8月3日(金)~8月7日(火) 東京・シアターサンモール
【脚本】ニイボシアタル(TEAM DD)
【演出】秦秀明(TEAM DD)
【出演】市川知宏、上杉柊平、入江甚儀、瀬戸利樹、矢作穂香、桜田ひより、喜多乃愛、山賀琴子 津枝新平 / 愛原実花 合田雅吏
【公式HP】http://www.ken-on.co.jp/stage/nijiato/
(撮影/エンタステージ編集部)