らまのだ『青いプロペラ』インタビュー!「日常を描いた作品、だからこそ怖い」

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世田谷パブリックシアターによる若い才能の発掘と育成のための事業“シアタートラム ネクスト・ジェネレーション”。今年度選出された、らまのだ『青いプロペラ』が2018年11月29日(木)から東京・シアタートラムにて上演される。

開幕に先駆けて、演出の森田あや、出演の富川一人(はえぎわ)、田中里衣、林田航平の4名にインタビュー。『青いプロペラ』の見どころやポイント、また“ネクスト・ジェネレーション”に選出された「らまのだ」の柱でもある森田演出と南出戯曲についてなどを聞いた。

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――この作品の見どころを教えていただけますか?

富川:まず、全編が石川弁なんですよ。

田中:石川県の山の中の、緑に囲まれたスーパーの話なので、大自然を想像してもらえたら嬉しいですよね。初演の時に実際に石川県に行ったんですが、想像以上に山の中で、どこまでが敷地かはっきりしないほど緑が広がっていて・・・自然が圧倒的でした。小さいスーパーで、周りが広すぎて自然しかないところを想像してみてください。

林田:僕も“間”と“自然”が魅力的な作品だなと思っています。穏やかな自然があって、緩やかに消えていく話。台詞は掛け合いが多いんですけれど、ふとした“間”になにかを感じていただけたら嬉しいです。脚本の南出さんは俳句が好きで、説明しすぎないので言葉に“間”があるんですよ。

森田:そうそう。南出さんは、俳句という17文字の制限の中で情景を切り取るという視点で戯曲を書いているなと感じます。そこからきっと、なにかを受け取ってもらえるんじゃないでしょうか。ストーリーはとても単純で、隣町に大型ショッピングセンターの出店が決まるところから始まって、地元の小さなスーパーがなくなるまでが描かれています。自分の外側にどうやっても敵わない圧倒的な力があるというのは、スーパーの周りの大自然と重なります。私たちも病気と闘って勝てないというような、自然の摂理に逆らえないことがありますよね。でもそんな抗えない自然の摂理の中でも、日々の営みは着々と進んでいる。

芝居の中では、スーパーがなくなっていくという残酷な時間は刻々と流れているのに、そこで働く人は今日も同じ1日を過ごしている。ただ人々が営んでいくシンプルな情景を滑稽で可愛らしく描くことで、お客さんに受け取っていただけるなにかが生まれるんじゃないかと思っています。きっと、前を向きたくなるエネルギーを少しでも伝えられるんじゃないでしょうか。

――なかでも、お気に入りのポイントは?

林田:猪股俊明さんが演じる、精肉部の坪井さん。存在に違和感があるんですよ。何を考えているのかわからなくて、ちょっと怖い。けれど「こういうおじさんっているよなぁ」と思います。

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森田:坪井さんは、作品とリンクするキーポイントの人物なんです。人々は町のスーパーという昔ながらのものに対して、共存したり、敬意を払ったり、古いものから離れて新しいものに飛びついたりする。坪井さんは登場人物の中で一番年配で、スーパーと重なる存在です。各登場人物の坪井さんへの接し方や距離感から、人々が生活の中で背負っているものが見えてきます。

――人への接し方ひとつにも、生活感のあるシーンがとても多いですね。さりげない仕草が魅力的です。鳩にパンをあげる時にダイナミックに投球をしたりとか。

森田:稽古で何日も一緒に過ごしていると、皆さんの何気ない仕草がどんどんかわいく思えてくるんです。そんな些細で愛しいものをできるだけかき集めて舞台に乗せたい。皆のこと、すごく大好きだから、稽古最終日が寂しくて泣きそう・・・(すでに寂しそうな森田さん)。

一同:(爆笑)!

森田:それぞれのちょっとした仕草が舞台上で活き活きして、一緒にいるような気になる。だから、なるべくカッコつけて演技にして欲しくないんです。

富川:難しいなあ(笑)。

――森田さんの演出の印象はどうですか?

林田:考えさせる稽古をするんです。「この俳優に何を言ったら考えるんだろう」と思っている気がする。決して「ダメ」とは言わずに「どう思ってるの?」とか「どうなんだろうね」と寄り添ってくれる。すると考える余地ができるから「ちくしょ~!」「分からん!難しい!」と思いながら日々やっています。毎日考えて想像しているので、すごく新鮮で繊細な気分ですよ。

富川:よく「台詞を追わないで」と言われます。俳優は言葉を追いかけがちですが、言葉の向こうにある本質を大事にしているのかな。日常生活でもしゃべることと思っていることが違うことがあるけれど、口に出す言葉よりもその向こう側にあるものを見ている。そもそも南出さんの戯曲がそういう部分をすごく大事にしていらっしゃるので、それを汲み取って形にしていくのは森田さんの演出の力だなあと思います。

それから、空気が柔らかいですね。これまでご一緒した演出家の中で誰よりも柔らかい。作品のテーマが明るいわけではないので、だからこそ柔らかく楽しく良い空気感で稽古ができています。

――田中さんは、『青いプロペラ』初演(2015年)にも出演されていましたね。

森田:初演の時は、人生で初めての演出だったんです。田中さんはそんな危ない船に乗ってくださって、ありがとうございます!

田中:いえいえ(笑)。本質的には何も変わっていないですよ。言っていることも演出の方法も同じです。演出をする時にどう伝えるかのパターンは増えたかも。前からすごく頼もしい人でしたが、今回はさらにパワーが倍増されているような気がします。

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森田:初演の時から本読みがすごく多かったので、俳優さんたちは「こんなに読むのかよ」と思ってるだろうな。でも、私が書いた台本ではないので、読まないと私にも分からないんですよ。それに私が演じるわけでもないから、実際に舞台に立つことになる俳優さんたちがこの作品をどう見ていくのか、ゼロから創っていきたかった。それに、日常を描いた作品だからこそ、丁寧にやらないと怖いんです。

――日常を描いた作品が、なぜ、怖いんでしょう?

森田:身近に起こりそうなことだから、最初に台本を読んだ時に“理解できる”気がするんです。そこで安易に飛びつくと薄っぺらい表現になってしまう。台詞を喋るだけじゃなく、登場人物のバックボーンをつくり、その上で俳優さんがそこにちゃんと存在して何かが起きていくということをしないと、3次元の立体的な人間にはならないと思います。土台から丁寧に積み上げていくことが大切だから、皆で「この登場人物はこういう人だからこうしたら良いかも」「作品の中でこの人物はこういう役割を果たしているよね」と試行錯誤を重ねます。自分の役だけでなく、みんなで全体を見て作品の方向性を決めていく時間を大事しています。

ただ、南出は「僕が演出をする時は稽古初日に半分以上イメージが出来上がってる」と言うので、私とは全然違うんだなぁ!と感じます。私は戯曲と俳優が好きで、その大切な要素をひとつひとつ拾い集めて積み上げて、みなさんにお会いできたらと思っています。

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インタビューだけでなく稽古中も休憩中もずっと笑顔の森田さん。俳優さんたちも冗談を言ったり作品について話し合ったりと、リラックスした空気が流れている。その柔らかい空気は、彼らの仕事場であり、日常だ。まるで田舎のスーパーで働く人たちの日常をちょっと通り過ぎたような稽古場だった。けれどその場所を後にすると、胸や肌にぬぐってもとれない息遣いがこびりついて、忘れられない。なぜ「らまのだ」が“ネクスト・ジェネレーション”に選ばれたのか、肌で理解できるような取材だった。

この“ネクスト・ジェネレーション”事業ではこれまでも快快、FUKAIPRODUSE 羽衣、演劇ユニットてがみ座、tamagoPLINなど、数々の“ネクスト・ジェネレーション”を輩出。その中でも「らまのだ」は近年の選出団体とは異なり、特殊な手法はないが、オーソドックスで、丹念に練り上げた作品で観客の心を揺さぶる。

『青いプロペラ』はらまのだ旗揚げ公演の初演作品として、日本劇作家協会新人戯曲賞の最終候補に選出された『ずぶ濡れの鳩』を改定して上演された。今回はその再演である。出演は、富川一人(はえぎわ)、田中里衣、林田航平、福永マリカ、今泉舞、斉藤麻衣子、井上幸太郎、猪股俊明の8名。三軒茶屋・シアタートラムにて、上演期間は11月29日(木)から12月2日(日)まで。

【ポストイベント開催決定!】
11月30日(金)14:00公演
スティールパンミニライブ
出演:実近友里恵 飯野顕 岩崎有美(STARS ON PAN)

12月1日(土)17:00公演
ポストトーク
登壇:瀬戸山美咲 森田あや 南出謙吾

12月2日(日)14:00
ポストトーク
登壇:マキノノゾミ 森田あや 南出謙吾

※ポストイベントは開催回のチケットをお持ちの方が参加可能

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この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

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