『修道女たち』インタビュー!ケラリーノ・サンドロヴィッチが描く禁欲的な女たちのコメディ

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これまで数々の舞台で「女性」や「コメディ」を描いてきた演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)。今回、題材に選んだのはタイトルそのままに『修道女たち』だ。聖職者という、禁欲的に生きる女性たち。一味違った「女性のコメディ」になりそうだ。

その舞台のために、鈴木杏らはじめ個性の強い出演者たちが揃った。彼女たちとともにどのような作品を創っていくのか。KERAに舞台の構想を聞いた。

『修道女たち』KERAインタビュー_1

目次

観る人の人生経験によって、印象の違う舞台に

――『修道女たち』、いったいどんな作品になるのでしょう。現代の物語ですか?

いえ、時代設定は今から100年ほど前の、田舎に電気が通るかどうかという時代です。架空の国の山のふもとにある山荘が舞台となります。その山荘は、夏は近くの過疎の村人が管理していて、冬になると豪雪によって隔離されてしまいます。山荘には祠があり、かつて街から誰かを弔いに来た修道院長が雪で行き倒れて亡くなり、聖人として祀られています。以降、毎年、街の修道院から修道士たちが巡礼に来て、一定期間だけその山荘で生活する・・・という設定の予定です。なんて、まったく変わるかもしれませんけれど(笑)。

――コメディだそうですね。

はい。コメディですが、世界観はナンセンスなものではなくリアリズムです。リアルな中で不思議なことが起こる「マジックリアリズム」。もともと小説から生まれた手法ですが、“非日常”を“日常的”なものとして描く表現技法です。寓話的な作品になるような気がしますね。

コメディとひとくちに言っても、色々ありますからね。僕は過去には、非常に陰惨な出来事がおこる喜劇を描いて、「重喜劇」「シリアスコメディ」と自分で自分の作品にレッテルを貼っていました。でも今回は、目を背けたくなるような陰惨なものをあえて突きつけるようなタイプの作品にするつもりはありません。「修道女」そのものが魅力的なテーマなのに、大仰な仕掛けを作るとせっかくの魅力が活かせずもったいないと思うんですよ。それに、僕自身が年齢を重ねてきて、分かり易く衝撃度の強い作品より、味わい深いものを創りたいという気持ちが強くなってきました。観る人の人生経験によって受けとるものが違う作品になると思います。

『修道女たち』KERAインタビュー_3

女性を描くのは、女性のことをわかっていないからかも

――修道士ではなく、修道女なのはなぜなんですか?

女性の方が絶対におもしろいなと確信がありました。一般的に日本では、男性の方が笑いを生むことができると考えられています。確かに、男性は深刻になることで、ある意味とても間抜けにも見え、そこを強調することで笑わせられるけど、女性だと悲愴感や緊張感が漂ってしまってコメディになりづらい。女性の笑いは難しいのは事実です。それでも僕は、女性が持つ複雑なおもしろさに魅かれるんですよ。

――KERAさんはこれまでも、女性のコメディを多く描かれてきましたね。

『フローズン・ビーチ』は女優しか出演しないシチュエーション・コメディでした。同じく女優のみ21名で作った『すべての犬は天国へ行く』はシリアスコメディ。『黒い十人の女~version100 ℃~』はサスペンスコメディでしたね。

僕は強い男性が描けないんです。強い人を描こうと思うと、その人そのものが強いのではなく、それぞれの人間が持つ強い部分がある時に見える、というように書きます。そうやって誰かの強さと誰かの強さが拮抗するシーンを作ろうとすると、女性の方が俄然書きやすいんですよね。俳優でも男性より女性の方が強くかっこよく見えたりする。一般的にも、男性はロマンティストで女性はリアリストだと言われたりしますよね。

その傾向は僕も感じていて、自分を振り返っても、男はいつまでもウジウジしてるけど、女性はこうと決めたらまったく過去を引きずらないんなと、感じたこともある。だから男の人を描くと、情けなかったり、キュートだったりして、強くはならない。

たぶん、僕は女性のことを分かっていないんでしょうね。僕にとって、男性は理屈の中で動いているけれど、女性は理屈ではないところで行動しているように見える。女性の登場人物には、説明できないけれど強い説得力がある行動を取らせることができるんです。

――—女性たちの物語ではありますが、今回、男性が二人登場します。全員女性にするのではなく、男性も登場させるのはなぜですか?

直感です。女性のみのキャスティングという選択肢もあったんですが、男性も出た方がおもしろそうだな、と。どんな役にするかはまだ悩んでいますが、聖職者では無いかな。保安官とか、村の人とかにしようかな。女性も、もしかしたら全員が修道女では無いかもしれないです。鈴木杏さんが言っていましたが、今回の俳優はみんな我が道を行く人たちばかり。マイペースで、集団行動を好まない。個性が強いので、楽しみです。

――演技力に定評のある出演者が集まりました。期待が高まります!

今回の舞台では、どの役もあまり突飛な人物にはしないつもりです。しかしそれぞれ個性があるので、各自がブレーキをかけたり、ブレーキの足を緩めたりして、トゥーマッチな部分が見え隠れする。そしてある時、一瞬だけ急激にアクセルを踏んだりできればおもしろいなと思っています。そういう人間の機微を表現するには、上手い俳優じゃないと演じられないですよね。それを楽しむには観客の皆さんも、舞台から発せられるものに100%受け身でいるのではなく、積極的に感じたり考えたりしてもらえたら嬉しい。抑制された表現を楽しんでもらえたらいいですね。

『修道女たち』KERAインタビュー_2

「修道女」にもいろんな人がいて、僕たちと変わらない

――そもそも「修道女」という存在のどんなところに魅力を感じて題材に?

やっぱり禁欲的だというのがとても魅力的ですね。単純に題材としてもおもしろい。

――「修道女」といっても時代や国や宗派によって異なりそうです。今回登場するのは、どんな修道女ですか?

現実の宗教ではなく、キリスト教をモチーフにした架空の宗教の修道女です。宗教がテーマとなると、人によって日常との距離感が大きく違うでしょうからね、特に日本人は。

資料をあたると、昔は修道女も修道士も、自ら望んでその道に入る人ばかりではなかったみたいです。親に売られたり、結婚資金がなくて嫁に出せないから修道女にさせられたり、本人の意思に反していることも多かった。また、性的に俗世で生きていくと犯罪者になってしまうから自分で入ったりと、やむなく選択する場合もある。同性愛の方も多かったようで、アンナ・カリーナ主演の『修道女』という映画ではレズビアンの修道院長が登場します。一方で、たくさん寄付をした家の娘が優遇され、修道院長になれるということもあったようです。

――修道女すべてが、神様や宗教を信じているとは限らないですね。

信仰心と、神様を信じるかどうかは、決してイコールではないんですよね。宗教を信仰するにもいろんな理由があって、心から神様を信じる人もいれば、入信することによって自分をコントロールしたり、承認欲求を満たしたりする人もいる。それがうまくハマらないと、宗教から離れていく。ある日突然「信じるのはやめた」と変わる人もいれば、じわじわと心が遠ざかる人もいるでしょう。

きっと彼女たちは、信仰のない人たちと、人間として、さほど大きな違いはない。信仰心の強い人でも「もし神様がいるならなんで世の中はこうなるんだよ」って思うことはあるんじゃない?信仰心の無い人でも思わず天に祈ることはあるでしょう。神様を信じるかどうかに関わらず誰にでもあると思います。修道女の生活も僕たちと同じく、お金も絡むし、ヒエラルキーもあるはず。彼女達の中にも葛藤があるんです。

また、修道女達は信仰があるから傷つかないという言説もありますが、彼女たちだって傷はつくでしょう。信仰心によって傷を埋めているだけで、むしろ何かを強く信じているからこそ、より傷つくこともあるかもしれません。舞台にするにあたっては、そのようないろいろな立場の修道女たちを描く予定です。

――KERAさんご自身は、信仰や宗教は身近なものですか?

いえ、宗教は僕にとってとても距離があるものなんです。だからこそ、きっと書けることがある。例えば7月に上演した『睾丸』という作品には学生運動が出てきますが、僕は学生運動のリアル世代ではないからこそ、客観的で批評的な眼差しも持ちつつ感情移入もできた。『修道女たち』における宗教も同じです。自分と距離が遠いからこそ、客観的な視点で修道女を捉えることで、ミニマムな家庭劇に通じるような繊細な感情のやりとりも描けるのではと思っています。

今回僕が「修道女」をテーマにするということで、宗教や信仰をひどくシニカルに描くのでは、と予想する向きも多いようですがそんなつもりはありません。なるべく多角的な視点で描きたいんですよ。そして、何を書いても、結局は今の社会の縮図になってしまうんですよ。

――「演劇は社会の縮図」とはよく言われますね。また「演劇は時代を映す鏡である」との言葉もあります。『ハムレット』の台詞にもでてきます。

脚本を書くたびに思うんですよ、作品と社会は繋がってるな、と。例えば『陥没』(2017年)は1964年が舞台だったけれど明確に現代と繋がっている物語だったと思うし、『睾丸』も1968年~1993年を描くことによって25年という年月が透けて見える。今を生きて、今の社会の一市民として生活しながら演劇を創っている以上、作品は今に繋がらざるを得ないんですよ。だから過剰に現代を意識して書くことはしません。舞台を創れば、自然に社会と繋がってくるんです。

『修道女たち』KERAインタビュー_4

◆公演情報
KERA・MAP #008『修道女たち』
【東京公演】10月20日(土)~11月15日(木) 下北沢 本多劇場
【兵庫公演】11月23日(金・祝)・11月24日(土) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【北九州公演】12月1日(土)・12月2日(日) 北九州芸術劇場 中劇場

【作・演出】ケラリーノ・サンドロヴィッチ
【出演】
鈴木杏 緒川たまき 鈴木浩介 伊勢志摩 伊藤梨沙子 松永玲子/
みのすけ 犬山イヌコ 高橋ひとみ

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この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

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