2018年10月20日(土)に東京・下北沢 本多劇場で、KERA・MAP#008『修道女たち』が開幕した。本作は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)が作・演出を手掛ける最新作。2018年、KERAが主宰する劇団ナイロン100℃が結成25周年を迎え、4月に『百年の秘密』、7月に『睾丸』と、立て続けに2本の、まったく異なる作風の作品を上演。今回KERAは、初めて“修道女”という、特殊なコミュニティに身を置き信仰に生きる人々を描いた。
神を信じ、規律の中で祈りながら生活を送る人々。そして、それを取り巻く人々の間で起こる群像劇として、KERAが“マジック・リアリズム”と表現する世界観のファンタジックかつ生々しい悲喜劇となった。出演は、鈴木杏、緒川たまき、鈴木浩介、伊勢志摩、伊藤梨沙子、松永玲子、みのすけ、犬山イヌコ、高橋ひとみ。
舞台は、場所や時代は定かではないが、少し前のヨーロッパを思わせる。修道院長のシスター・マーロウ(伊勢)は温厚で少し気の弱さもあり、シスター・ノイ(犬山)はむしろ修道院長然として厳格な風情。シスター・ニンニ(緒川)は、母性的な優しさに芯の強さを持ち、シスター・アニドーラ(松永)は修道女らしく自制的。そして、誓願をたてたばかりの、シスター・ダル(高橋)と、シスター・ソラーニ(伊藤)の母娘。二人はまだ俗世間から抜け切れていない様子だ。
今年も巡礼に旅立とうとしているその時、亡くなった修道女の兄・テンダロ(みのすけ)もやって来る。神を心から信じ、神に救われ今があると、感謝しながら日々を生きている修道女たちだが、彼女たちには何か背負った過去もあるようだ・・・。
奇跡を起こした殉教者の聖地である雪深い山の麓の山荘に、巡礼に向かう6人の修道女たち。山荘に辿り着いた修道女たちを迎え入れたのは、村の女・オーネジー(鈴木杏)と、村の帰還兵テオ(鈴木浩介)。オーネジーは、童心のままのような女性で、修道女たちが来るのを毎年心待ちにしている。シスター・ニンニとは特に仲が良く、いち早く会いたいと山荘に来ていた。
テオはオーネジーの幼馴染で、オーネジーを気にかけている。鈴木杏演ずる不思議な個性を持つオーネジーは、従来の鈴木のイメージとも異なるキャラクターでもあり、魅力的でとにかく目が離せない。鈴木杏はじめ、すべてのキャストが唯一無二の個性を持ち、確かな演技力を発揮している贅沢な空間だ。悲劇と喜劇を行き来する、舞台上で起こる様々な出来事にハラハラとしながらも、一つ一つの台詞が緻密に編み上げられ、キャスト陣の濃厚なセッションに、一言も聞き逃せない。
劇空間に、何か不可侵の、静謐な空気が流れているように感じられるのは、修道女の世界だからだけではなく、そこに生きる俳優たちが紡ぐ高純度の瞬間の積み重ねが、そうさせるのではとも感じられた。
神を信ずることとは。救いとは。深い思索の旅に誘われる作品なのではないだろうか。KERAの作品史に、”KERA新章”とも言える、新たな1ページが加わったことは間違いない。
開幕にあたり、出演者より鈴木杏と、作・演出のKERAからコメントが届いた。
◆鈴木杏
本当に、KERAさんの才能が爆裂しているような、摩訶不思議で、今ここにしかない世界が広がっていると思うので、ぜひこの唯一無二の時空を楽しみにいらしていただけたら、と思います。ご来場お待ちしております。
◆ケラリーノ・サンドロヴィッチ(作・演出)
毎度ながら無我夢中で書き上げまして、稽古場では、劇団公演ではないにもかかわらず、キャストもスタッフも一丸となって意見を交わしながら創っていった舞台です。今年3本目の公演ですが、前のどちらとも違います。
今回は“善意の人たち”だけで物語を創ろうと思いました。以前、『消失』という作品でもやったことがあるのですが、できるだけ悪意を介在させずに、それが例え間違った善意であったとしても、「善意の物語」をつくろうと思いました。
コメディかどうかは、どちらかというとトラジェディだと思うのですが、チェーホフがあの『かもめ』を喜劇と言っていることを考えると、こういう人たちを俯瞰した視点から描いているという意味では、喜劇と言えるかもしれません。独特の世界観で、他の芝居ではなかなか味わえない気分を味わえるのではと思います。上演時間は長めかもしれませんが、体感はそんなに長くないんじゃないかなと思いますので、当日券でも気が向いたらぜひ観て欲しいです。そしておもしろかったら、東京も長いし地方もあるので、ぜひ、もう一度観に来たり、知り合いを誘っていらしてください。
KERA•MAP #008『修道女たち』は、11月15日(木)まで東京・本多劇場にて上演。当日券は毎公演開演の1時間前から劇場前受付にて販売される。その後、兵庫、北九州を巡演。日程の詳細は、以下のとおり。
【東京公演】10月20日(土)~11月15日(木) 本多劇場
【兵庫公演】11月23日(金・祝)・11月24日(土) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【北九州公演】12月1日(土)・12月2日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
(取材・文/オフィシャル提供、編集部/エンタステージ編集部)
(撮影/引地信彦)