KERA・MAP #008『修道女たち』が2018年10月20日(土)より下北沢・本多劇場にて上演される。劇団「ナイロン100℃」の主宰で劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が同劇団以外の演劇活動の場として2001年にスタートしたKERA・MAPは、本公演で8作目となる。
2016年、シアタートラムにて上演となった7作目の『キネマと恋人』は妻夫木聡、緒川たまき、ほかが出演し、映画への愛あふれる、KERAらしいロマンティックでファンタジックなコメディが展開されたが、本作で描くのはタイトルの通り聖職者たちの姿。
出演に、鈴木杏、緒川たまき、鈴木浩介、高橋ひとみ、伊藤梨沙子、大人計画から伊勢志摩、ナイロン100℃より松永玲子、みのすけ、犬山イヌコを迎え、今回はどのような世界を描くのだろうか。近年、公演ごとにさまざまな演劇賞を受賞し、注目度の高いKERA・MAPの稽古場を取材した。
稽古前、スタジオは静かな緊張感に包まれていた。KERAが到着するとすかさず、新たに進んだ分の台本が配られる。「では本読みをはじめましょう」とKERAが一同に声をかけると、出演者たちは舞台中央のテーブルなどに腰かけ、瞬く間に本読みが開始された。
物語の舞台となるのは、巡礼の儀のために訪れた修道女たちが泊まる冬の山荘。そこに、6人の修道女たちが滞在している。ナイロン100℃ 42nd SESSION『社長吸血記』以来4年振りの出演となる鈴木杏は、今回修道女たちが訪れる村の村人・オーネジー役を演じる。また、鈴木浩介やみのすけも村人役だ。
緒川をはじめ、伊勢、松永、犬山、伊藤、高橋は修道女役。稽古場では仮のベールを被って取り組んでいた。本作のチラシでは、出演者全員が修道服を着ていたが、鈴木杏や、鈴木浩介、みのすけと村人役もいることから、全員が聖職者というわけではないようだ。
本読みは渡されたばかりとは思えぬほど達者な台詞回しで、稽古場には時折笑いが響く。本読みが終わると、KERAは「転調に継ぐ転調で、空気がどんどん変わっていくでしょう」と語りかけ、細かな演出を各出演者に伝えていった。
詳しくは言えないが、今回の稽古取材で見ることができた出演者の人物像を簡単に説明したい。鈴木杏演じる村人のオーネジーは、鈴木杏にぴったりの明るいキャラクターで、朗らか、時に無軌道に場をまわす。
緒川は、鈴木杏演じるオーネジーの友人でもあるのか、温かい包容力で鈴木杏と息のあった掛け合いを披露。鈴木浩介はすっとんきょうなキャラクター性を持ち合わせ、稽古ではたくさんの笑いを呼んでいた。
伊勢、松永、犬山は、修道女としてそれぞれ堂に入った演技で、安定の存在感を放つ。この3人のコンビネーションが舞台にテンポと奥行きを作り出しているように感じられた。伊藤は華奢な若々しい風を持ち込むと、熟練の輝きを放つ高橋はさすがの佇まいで舞台に笑いと印象を残す。
修道女たちの貞潔なキャラクターと鈴木杏や鈴木浩介、みのすけが演じる村人のコントラストはこれからの波乱を予想できた。
また、KERAが本作のコメントに「宗教的モチーフが、シュールレアリズムやマジックリアリズム、或いは不条理劇と非常に相性がよい」と寄せていた通り、マジカルな出来事が時折不意に起きて、場は意外な方向に展開する。
KERAは稽古の間、舞台上に現れてそれぞれにタイミングや台詞のトーンなど厳密な指示を出し、時に「俺たちディスコ世代だからさ」とKERAらしい背景を引用した演出も見られた。また、小道具の置き場所などでは出演者と意見交換しながら決めていて、風通しの良い座組みの様子が垣間見えた。
KERA・MAPの新作『修道女たち』は、KERAにとっても出演者にとっても相当な意欲作となるだろう。稽古場の緊張感と、それぞれのクリエイティブなやり取りによって戯曲のおもしろさがより研ぎ澄まされていくのを見ていて、そう確信した。来たる本番が楽しみでならない。
KERA・MAP #008『修道女たち』は、10月20日(土)から11月15日(木)まで東京・下北沢 本多劇場にて上演される。その後、兵庫、北九州を巡演。日程の詳細は以下のとおり。
【東京公演】10月20日(土)~11月15日(木) 下北沢 本多劇場
【兵庫公演】11月23日(金・祝)・11月24日(土) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
【北九州公演】12月1日(土)・12月2日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
(取材・文・撮影/大宮ガスト)