“いつもとはちょっと違った視点”で舞台を紐解く、エンタステージの新企画「舞台の仕掛人」第3回。後編では、ゲストスピーカーである劇作家・翻訳家の高橋知伽江さんと音楽を手掛けられた深沢桂子さんがタッグを組んだ最新作、『DAY ZERO』について、様々な角度からお話を伺いました。
――後半では、お二人がタッグを組まれた最新作、『DAY ZERO』ができるまでを例に、お話を伺っていきたいと思います。まず、この作品をミュージカル化しようと思われたきっかけは?
深沢:オリジナルミュージカル作るために、常に題材を探しています。私の場合、本よりも映画から、インスピレーションを得ることが多いんです。そんなわけで、昔からレンタルショップにはしょっちゅう行っていました。その時に、ふと見つけたのがこの『DAY ZERO』。中身のことは何も知らず、題名に惹かれて手に取ったんですけど、観終わる頃、エンドロールが流れる頃には、「これは絶対ミュージカルにしたいな」と思ったのが始まりです。
――深沢さん発信だったんですね。高橋さんはこの作品のことをご存知でしたか?
高橋:いえ、桂子さんに教えてもらうまで知りませんでした。観て、まず思ったことは“非常にセンセーショナルな題材だ”ということでしたね。でも、いつも二人で「挑戦的なことをやろう」って言っていたものですから、これはいい題材だと思いました。
――海外の作品を、日本でオリジナルミュージカルに仕上げるためには、いくつかハードルがありそうですが・・・。
深沢:そうですね、この作品を一緒にやろうと言ってくださる方をみつけて、それから版権の交渉をしていただいて・・・。制作過程も、皆忙しい時期が違ったりして、待ちの時間も長かったりと、大変でしたね(笑)。
高橋:台本がある程度の形になったところで、今回は、曲を先に作っていただきました。そのあたりから、私がちょっと予想外のことで立て込んでしまって。最後、ブラッシュアップする作業が結構ギリギリになってしまったなあと。
――演出には吉原光夫さんを迎えられていますね。
高橋:ミュージカル『手紙』のご縁で、お願いすることができました。吉原さんご自身も、「Artist Company 響人」という劇団をやっていらっしゃいますし。劇団外の公演での演出は、初めてだったそうですが、快諾してくださいました。
深沢:ミュージカル『手紙』がなければ、絶対できなかったタッグが組めましたね。こういうご縁は一朝一夕でできるものでもないですが、次に繫がる大事なものだと思います。
高橋:しかも今回、吉原さんとは作品作りの最初から、一緒に話し合って作ることができたので、オリジナルをいちから作り上げるという点においては、とてもいい取り組み方ができたと思います。
――先ほど、今回は曲から先に出来上がったと教えていただきましたが、深沢さんはどんなイメージでこのミュージカルの楽曲を書き上げられたのでしょうか?
深沢:この作品をやる上で、まず浮かんだのは、“ギター一本でやろう”ということだったんです。
――ギター1本で紡ぐミュージカルって、珍しい気が・・・。
深沢:そう。ピアノ1台というケースがほとんど。この作品も、普通に考えたらピアノを選ぶと思うんです。でも、今回の劇場のキャパは約200人。もし、もっと大きな劇場だったら、この考えには至らなかったと思うんですが、キャパが小規模であること、初演であることを考慮した時に、ギター1本という挑戦をしてみたいなと思いました。
そして、繊細な心の機微を表現する上で、身近な楽器であるギターは適しているんじゃないかなと。もちろん、バンド形式の方が派手さはあるんだけど、ギター一本でもロックな表現ができるだろうという、ロック好きな私の、ある意味挑戦です。
ミュージカルの稽古では、ピアニストが歌稽古から本番までずっとついてくださるんですけど、今回は、ギタリストがずっと一緒にやってくださっています。普通、ギタリストって、(本番の)数日前のバンドやオケの合わせから加わってくれることがほとんどなんです。だから、こんなにずっと現場にいてくださるというケースは本当に稀なことで。創作の過程を、惜しまずに一緒にやってくださる中村康彦さんと出会えたことも、この作品ができる大きな要因でした。
――出演者の方も、様々な分野で活躍されてきた方が集まりましたね。
深沢:ミュージカルでずっとやってきた人、アイドルとしてやってきた人、皆それぞれ個性的でとてもいいです。主演の福田(悠太)くんとか梅田(彩佳)さんも、歌い方としてはいわゆるミュージカルの発声法とは違うけれど、その役の歌声として、私はすごくいいと思ました。一方で、内藤大希くんとか、谷口あかりさんは、正統派なミュージカルの歌声。こちらも、役にすごく合ってる。それぞれの役として歌えることが、一番だと思います。
――ミュージカルを作るクリエイターの立場から、役者さんに求める一番大事なことってなんでしょう?
高橋:ミュージカルだからこそ、言葉をきちんと伝えられる人にやっていただけることが大事だなと思います。例えば、「青空」を伝える時に、「あおぞら」って音に乗ってても、その情景をしっかり「青い空」として伝えられない人が多いんですよ。正確に歌うことがすべてではない。聞いた人の心にその情景や感情が伝わるように、言葉を伝えて欲しいです。それがちゃんとできる方と一緒にお仕事できると、嬉しいですね。
今、絵文字のように言葉よりもいろんなことを伝えられるツールが増えているせいか、すごく言葉が痩せていっていると感じています。でもやっぱり、演劇の基本は“言葉”なんですよね。それは、ミュージカルでも同じことですから。日頃から、言葉を大事にしてない人にはできないことだと思います。
深沢:私は、さっきの話に関連することなんですけど、個性のある人がもっと増えるといいなと思っています。今、それなりに上手いけれど、違いが分からないような人が増えている気がする。
ミュージカル『手紙』の時に、800人のオーディションをしたんですが、皆、同じ歌い方で、個性が感じられない人が多かったんです。きっと、今求められていることの方向に皆が向いている結果だと思うんだけど、私はそればかりになってしまうと、つまらないものにしかならないと思っています。
いいなって思う人は、その人にしかない歌声を持っているんです。そこに、ぐっと惹きつけられるし、一緒にやりたくなる。皆同じと言っても、昔よりは絶対的にレベルが高くなっているんですが、そこから一歩、飛び抜ける個性を大事にしてもらいたいなって思います。
――『DAY ZERO』は、プレビュー公演を経て、東京、愛知、大阪を巡りますが、オリジナルミュージカルの完成に向かってお二人が追求したいと思っていることを教えてください。
高橋:創作している時はもちろん、稽古でも完成することはないんですよね。ある意味、初演も完成しきったとは言えないことも多いです。だから、どこまでも満足しないことが、いい作品を作ることにつながるんじゃないかなと思っています。でも、まずはこの作品を実現できるということ自体が挑戦なので(笑)。ギター一本だけのミュージカルが、実際お客さんにどう受け取ってもらえるのか、一人一人の芝居や歌声を聞いていくことによって、またイメージも膨らんでいるので、先につなげたいなと思います。
深沢:まず、作品を上演できるというトライアウトを成功させて、また違う形での上演につなげたいですね。小さいキャパでやる時はギター一本だけど、劇場を大きくしてまた違う楽器編成でやったらどうなるのか、想像が膨らみます。いろんな方向から、作品の可能性が見えてきたらおもしろいですし。そしていつか、日本のオリジナルミュージカルとして海外に持っていけたらいいなと思います。
◆公演情報
オリジナルミュージカル『DAY ZERO』
Based on the screenplay DAY ZERO by Robert Malkani
【上演台本】高橋知伽江
【作曲・音楽監督】深沢桂子
【演出】吉原光夫
【出演】
福田悠太(ふぉ~ゆ~)、上口耕平、内藤大希、梅田彩佳、谷口あかり、西川大貴
ギター:中村康彦
【プレビュー公演】5月25日(金)~5月27日(日) 水戸芸術館 ACM劇場
【東京公演】5月31日(木)~6月24日(日) DDD AOYAMA CROSS THEATER(DDD青山クロスシアター)
【愛知公演】6月26日(火) 刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
【大阪公演】6月28日(木)・6月29日(金) サンケイホールブリーゼ
【公演HP】https://stagegate.jp/stagegate/performance/2018/day_zero/
事前の質問募集では、たくさんのご参加をありがとうございました!
皆様の聞きたいこと、お伝えできたでしょうか?
よろしければ、記事へのご感想・ご意見などお寄せください。
フォームがうまく表示されない方は、こちらよりアンケートフォームに飛べます。
アンケートフォーム