舞台にまつわる様々な分野で活躍されている方にスポットを当て、お話を聞いていくエンタステージの新企画「舞台の仕掛人」。第3回目には、ゲストスピーカーとして、劇作家、翻訳家として活躍される高橋知伽江さんと、音楽の深沢桂子さんにお話を伺いました。
ミュージカル『手紙』など、日本発のオリジナルミュージカルを追求してきた高橋さんと深沢さん。直近では、2018年5月25日(土)に水戸でのプレビュー公演で開幕した『DAY ZERO』でもタッグを組まれています。前半では、お二人の出会いからミュージカルの作り方まで、様々な角度から質問に答えていただきました。
――今回は、様々なミュージカルに関わられてきた高橋知伽江さんと深沢桂子さんに、“日本のオリジナルミュージカル”について伺っていきたいと思います。そもそも、お二人がミュージカルのお仕事と出会ったのはどんなきっかけだったのでしょうか?
高橋:母が演劇が好きだったので、子どもの頃からよく劇場へ連れて行かれていました。仕事は、大学を卒業して一度、一般企業に勤めたんですが、行き詰まってしまって・・・。やっぱり芝居に関わることがやりたくて、入ったのが劇団四季だったんです。でも「絶対劇団四季に入りたい」という気持ちだったわけではなくて、たまたまチャンスの扉が開きそうだったのが、劇団四季だったんです。タイミングですね。そこで、ミュージカルのおもしろさと出会いました。特に海外の秀作に、稽古場でたくさん触れることができて、それが今でも私の中の引き出しになっています。
深沢:私は元々、まったく舞台に興味がなかったの。むしろ、ミュージカルは嫌いだった(笑)。もともとは、普通に歌謡曲を作っていました。この世界に足を踏み入れたのは、宮本亜門と出会ったことがきっかけ。彼との出会いがなかったら、間違いなく今の私はいません。「一緒に作品を作ってみない?」と誘われて作った作品が、ShowStopperシリーズの第1弾『I GOT MERMAN』でした。当時の私は、ロックにしか興味がなかったのでミュージカル音楽がすごく新鮮に感じられたんです。『I GOT MERMAN』が結構話題になりまして、そこから亜門と一緒にShowStopperシリーズを5作品作りまして、気がついたらこの世界にいました(笑)。
――お二人のご経歴から、最初からこの業界を目指してやって来られたのかと思っていたので、意外なお答えでした・・・!お二人が交流を持ち、オリジナルミュージカルに力を入れ始めたのはどのようなきっかけからですか?
高橋:すごくドラマティックなエピソードがあるわけではないんですけど(笑)。桂子さんと知り合ったのは、愛媛県にある「坊ちゃん劇場」でした。「坊っちゃん劇場」では、オリジナルミュージカルを1年間ロングランで上演しているんです。そこの作品を一緒に作ったことが出会いでした。
一緒に1本作品を作ってみたあとに、桂子さんが「これから一緒にオリジナルミュージカルを作ってみない?」って声をかけてくださったんです。私も、ぼんやりと「そういうことをやりたいな」という思いがあったので、そのお話にホイホイのりました(笑)。
深沢:私、そこまでちゃんと覚えてないかも(笑)。私、『RENT』の音楽監督をやった後に燃え尽きて、「舞台を辞めようかな」と思ったんですよ。でも、なんか辞めきれなかった。その時に、ふと『I GOT MERMAN』は、オリジナルとして作ったということを思い出したんです。音楽に携わる上で、オリジナルを作らず辞めるのはどうかなと思い直し作ったのが、浦嶋りんこちゃんと二人でやった『VIVA!Forties』です。おもしろいものができたという手応えがありました。
「ブロードウェイミュージカルの音楽監督だけじゃなく、自分の曲を作りたい」そんな思いを持ちながら、「坊ちゃん劇場」とか「わらび座」を通して音楽監督からだんだんとシフトチェンジしていきました。でも、私は脚本が書けないので、知伽江さんに声をかけたのが始まりですね。
――ここからは、「ミュージカルの出来るまで」についてお聞きしていきたいと思います。ミュージカルの場合、脚本と音楽、どちらから始まるのでしょうか?
高橋:ミュージカル『手紙』のように原作があるものと、ゼロから作るものでも違いはあるんですけど、基本的には私がストーリーのプロットを作って、桂子さんが「こういう歌が入ったらいいんじゃないか?」というたたき台を作る。あとは相談しながら、という感じですね。
――脚本の段階で、すでに歌詞は出来上がっているものなのでしょうか?
高橋:基本的に、ミュージカルの歌詞は台詞の一部なので、脚本を書く時に歌詞も台詞の流れで書いていきます。脚本の初期の段階では、まだ歌詞としての体裁が整ってない場合もありますが、作曲家の方にはまずはそこにあるものでイメージを膨らませていただきます。いずれにしても、一方通行ではなかなか作品として成立しないですね。
深沢:ミュージカルの楽曲を作る際に、その一方通行ではない話し合いが出来るかどうかが肝なんだと思います。例えば、作詞をした方から“一字一句変えないでください”と言われてしまったら、楽曲として納得したものにはならない。もちろん、全部を思い通りに書きたいというわけではないけれど、話し合う余地のないまま作るものと、双方納得した上で作るものには、作品としての出来にも違いが出ると思います。キャッチボールできることが、一番大事なんじゃないかな。
――高橋さんは、海外作品の翻訳も数多く手掛けられていらっしゃいますが、その場合は制約が多いんでしょうか?
高橋:翻訳物については、向こうのクリエイターを100%尊重することが、一番重要になってきますね。
――海外作品を、日本語に変換していく上で大切にされていることは?
高橋:ハウツーがあるわけじゃないんですが、訳詞では英語の意味がそっくりそのままいれられるとは限らないんですね。だから、私も同じ作詞を手掛ける身として、表面的に使われている言葉だけを考えるのではなく、“何を伝えたいのか”という部分に踏み込んで考えるようにしています。言葉数の問題で、表面的な言葉が入れきれない場合は特に、それに尽きます。人間、思っていることをそのまま口にしているわけではないですからね。
――深沢さんは、どのように楽曲制作を行われているんですか?例えば、サビから作ることが多いとか・・・一概には言えないと思うのですが。
深沢:そうですね~・・・これっていうメソッドはないですよ。音楽を作る人って、カンパニーに一人しかいないから、他の人の作り方とか、あんまり話したことがないので分からないんですけど(笑)。ピアノの前に座って、とにかく毎日何かメロディを作るという方もいるだろうし、フッと浮かんだフレーズから広げるという方もいるだろうし。ただ、音楽を作る上で、大学の作曲科をしっかり出ないといけないということもないです。もちろん、そういう経歴を持っていることも素晴らしいけれど、一番大事なのは、自分の作りたいものをきちんと形にしたいという思いですよね。
――オリジナルとして、それぞれ出来上がるまでにかかる時間も違うと思うのですが、これは出来上がるまでの道のりが長かったな、と思う作品はありますか?
高橋:そうですね・・・ミュージカル『手紙』は、かなり時間がかかったと思います。私と桂子さんで粗方作った上で、演出を手掛けてくださった藤田俊太郎にも加わっていただいて、また書き直して・・・みたいなことをやっていたので。二人で作っていた時間を含めると、何年かかったかな、という感じでしたね。
深沢:二人で作っていく中で、演出家は若手の藤田くんにぜひお願いしたいと思って、誘ったんです。話し合う中で、もういい加減にして!って喧嘩したりもして(笑)。お互い言いたいこと言い合って、作っていく。それができるからこその、オリジナルミュージカルなんですよね。脚本・作詞、音楽、演出と、一緒に戦える相手との出会いは大切ですね。
――自分たちで作る“オリジナル”だからこその醍醐味であり、大変さですね。
深沢:そこからが、また大変なんですよ・・・。上演していただける環境に持っていくまでが、とっても大変。
高橋:そうそう。
深沢:企画を立てて、企画書を作って、それをどこかに持っていって、やろうと言っていただかなければ、日の目を見ることがないわけです。ものすごいお金持ちだったら、自分たちだけで上演できるんですけど(笑)。オリジナルの、実績のないものをやろうと言ってくださる先を探すのが、日本では一番大変なことです。
――売り込みから、クリエイターの方ご自身でやっていらっしゃるんですか?!
深沢:そうです。
高橋:だから、作ってから上演までに何年もかかるんですよね~。オリジナルは、やっぱりリスクがありますでしょう?海外ですでに上演され評価が分かっているもののような、ブランド力もないわけだし。
深沢:どんなものになるのか分からないものにお金はかけられないって、思いますよね。
――会社と同じですね・・・!
深沢:そう。私たちも、プレゼンして、バンバン落とされて。でも、可能性にかけてくれる方は必ずいると思うので、作り続けるんですね。大変だけど、それもオリジナルを作る魅力の一つかな。
――最近では、ブロードウェイ作品だけでなく、韓国ミュージカルも盛んですよね。日本のオリジナルミュージカルの現状について、お二人はどのように捉えていらっしゃいますか?
深沢:私は、時代が変わったなと感じています。私たちがこの世界に入った頃は、すごく封建的な世界だったんですよ。男性社会で、私が始めた頃なんてスタッフに女性はほとんどいなかった。音楽は手掛けていても、音楽監督を任されるなんてありえないことだったんです。譜面を取り寄せるにしても、船便で届くまでに2、3ヶ月かかることもざら。何かを観たい、何かを知りたいと思っても、何にも手に入らないのが当たり前だった。でも、今は海外の公演の様子がYouTubeで見られるし、なんでもすぐに手に入る。今の若い人たちを見ていると、いい意味でブロードウェイに憧れを抱きすぎていることもないし、自分たちの感覚と同じ目線で、世界中のものに触れられる。いきなり結果を求めることは無理だと思うけど、日本のオリジナル作品を作るという視点では、大きな変化だと思います。
高橋:日本のミュージカルって、宝塚のように歴史があるところは別として、最近では2.5次元と呼ばれる作品もたくさん作られていますよね。観客の皆さんも、お若い頃からミュージカルに触れる機会が増えて、敷居が高いなどと感じることは減っているのかなと思うんです。また“原作がある”というものが増えているのも、日本のミュージカルを取り巻く環境を変えている気がします。
――今度、ミュージカル『手紙』は上海で上演されると伺いました。
高橋:今、中国では東野圭吾さんがブームらしいんですよ。
深沢:ぴったりの作品ですよね。今回は、私たちはライセンサーとして本と音楽を提供しているだけで、向こうのカンパニーが上演します。
――日本発の作品が、海外で上演される機会がどんどん増えたらいいなと思います。
深沢:そうなると、嬉しいですよね。日本発の作品として、いつか海を越えて持っていけたらという思いは、常に持っています。
高橋:深沢さんとは、ミュージカルの世界に長く生きてきた経験を生かして、「まさかこれがミュージカルに?!」と驚かれるような、ミュージカルの可能性を提示できるような作品を作りたいねと話しているんです。『手紙』をミュージカル化した時も、「あの作品がミュージカルになるのか、なるはずがない」って、死ぬほど言われました。でも、ボーイミーツガールのようなラブストーリーだけでなく、音楽を使うことによって物語として飛躍させることができる。そういう可能性を求めて、発信していきたいですね。
――高橋さんと深沢さんは、5月末から6月にかけて上演される『DAY ZERO』でもタッグを組まれています。これも、アメリカの社会派映画をミュージカル化したものですね。
高橋:『DAY ZERO』も、題材としてはちょっと政治的なので、普通に演劇にするとちょっと舌触りが悪いかもしれません。でも、音楽に乗せることで、作品の持つメッセージをより多くの人に届けることができるのではと思い、ミュージカル化してみました。桂子さんとお互いの引き出しを合わせて、さらにミュージカルの可能性を提示していけたらと思っています。
※後半では、『DAY ZERO』の制作現場にぐぐっと迫ります。お楽しみに!
◆公演情報
オリジナルミュージカル『DAY ZERO』
Based on the screenplay DAY ZERO by Robert Malkani
【上演台本】高橋知伽江
【作曲・音楽監督】深沢桂子
【演出】吉原光夫
【出演】
福田悠太(ふぉ~ゆ~)、上口耕平、内藤大希、梅田彩佳、谷口あかり、西川大貴
ギター:中村康彦
【プレビュー公演】5月25日(金)~5月27日(日) 水戸芸術館 ACM劇場
【東京公演】5月31日(木)~6月24日(日) DDD AOYAMA CROSS THEATER(DDD青山クロスシアター)
【愛知公演】6月26日(火) 刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
【大阪公演】6月28日(木)・6月29日(金) サンケイホールブリーゼ
【公演HP】https://stagegate.jp/stagegate/performance/2018/day_zero/
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