“いつもとはちょっと違った視点”で舞台を紐解く、エンタステージの新企画「舞台の仕掛人」第2回の後編をお届けいたします。今回は、ゲストスピーカー、殺陣師・六本木康弘さんが初期から携わられている舞台『メサイア』シリーズにグッとフォーカス。最新作『メサイア -月詠乃刻-』を含め、六本木さんが見てきた「舞台『メサイア』シリーズの殺陣」について、様々な角度からお話を伺いました。
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――インタビューの後半では、『メサイア』シリーズならではのアクションについて、伺っていきたいと思います。稽古より前のビジュアル撮影が、演じる人物に役者さんが触れる最初の機会であることが多いですよね。『メサイア』では、ビジュアル撮影の段階から六本木さんがコーディネートされていると伺いましたが・・・。
そうなんです。舞台の動きをつける時は、台本をはじめとするいろんな情報がありますよね。でも、ビジュアル撮影の時はまだ大枠しかないことが多いんです。役者さんの中で、初対面の方もいます。衣裳や髪型も初めて見ますし、その役の深い部分もまだ分からない。だから、撮影の時は、鋭く直感を働かせないといけないんです。オーラを汲み取るイメージです。その人から漏れているオーラを、色や形を見ながら、形を作っていく。そうすると、同じようなポーズでも、個々に若干の違いが出てくるんです。
柚木小太郎役のおっきー(山沖勇輝)の場合を例に出すと、まだ柚木のキャラクターは分からない段階だったんですが、男らしさの中にある優しさ、みたいなものを出せるように考えました。初めての役者さんを見て、「気になる」を形にするには、その人から漏れ出る良さを、まず僕が押し出してあげられるように直感的に「人を見る」ようにしています。
――『メサイア』シリーズでは、オープニングのキャストパレードも特徴的です。この時、初登場のキャラクターは特に、“まだお客様の中にイメージがないものを見せる”という状態ですよね。
あの部分は、皆が戦っている姿に個性を持たせながら、その続きを観るのが楽しみになるよう、スピード感を持って一人ずつピックアップする、乱戦の時はフォーメーションをかっこよく見せる、ということを考えています。あとは、音楽と効果音に乗ること。オープニングのたらら~♪という音楽が流れると、きっとお客様の心と身体も揺れると思うんです。銃声がパーンと鳴る、音楽が切れる、役者が舞台に駆け込んでくる・・・ハイ、今!という瞬間を逃さない。僕、音楽のセンスはまったくないので、素人感覚なんですけど(笑)。お客様と一緒の感覚で、気持ちのいい形を作るようにしています。
――目が足りない、何回も観たくなるというお声がたくさん上がっていました。
そう言っていただけると嬉しい・・・!あえてそうしているので。
――役の個性という部分に主眼を置いたお話も聞ければと思うのですが、インタビューの前半で、六本木さんと役者さんの間で作ったものを、演出側に提示していくとお話されていました。持つ武器などを考える時もそれは同じですか?
現在演出を手掛けられている西森英行さんは、「ろっぽんさんが動かしていいよ」という感じなので、その辺りもある程度自由にやらせてもらっています。軽く打ち合わせはするのですが、現場で考えることが多いです。
今回の『-月詠乃刻-』では、クナイを使う人物が登場しているのですが、ただのクナイではなく紐がついて振り回せるようになっているんですね。それも、僕の直感でつけました(笑)。ただクナイを持つよりも、パワーアップさせたいなと思って。
それから、『-暁乃刻-』で初登場をしたサリュートは、ナイフを武器としているのですが、本気を出すと2本持ちになるんですよ。あれも、直感で決めました。『メサイア』では銃を使うキャラクターが多いですが、ナイフ二刀流はまだ登場していなかったので、やってみよう!となり、採用されました。
――二刀流というと、山本一慶さんが演じる雛森千寿の2丁拳銃も印象的です。
あれも直感でした。雛森千寿は『-悠久乃刻-』で小暮洵(橋本真一)のメサイアとなるべく現れましたが、相手となる小暮は『-暁乃刻-』『-悠久乃刻-』、2作通して見ても、まだエリートっぽさ以外のキャラクターがあまり表面化してきていなかったかと思います。小暮と同じタイミイングでサクラ候補生として出てきた御池万夜(長江崚行)と柚木小太郎(山沖)は、キャラクターも関係性も強く見えていたんですけど(笑)。
この2組を、御池と柚木は「子どもと保護者」、小暮と雛森は「不確定要素とちょっと抜けた大人感」と捉えてみたところ、近距離戦タイプと長距離戦タイプというイメージが湧いたんです。また、それぞれのペアでアクションの質を変えようと、近距離戦は身軽で足技の得意な御池、柔道という確固たるバックボーンのある柚木。長距離戦はライフル系の銃を扱う小暮と、パンパンと撃ちまくる雛森。雛森が撃ちまくるためには・・・と考えた結果、拳銃の2丁持ちになりました。
しかも、あとから一慶くんに聞いたのですが、雛森ってもともと二丁の銃を持っているわけではないらしいんです。撃ち続けるために、必ず誰かから奪って二丁持ちになっている。今回もそうなっているので、ぜひ注目してみてください。それを聞いて、自分で考えておきながら、おおっ!となってしまって(笑)。自分の直感は信じたいなと思いますし、最終的にいろんな人が考えた結果が一致するのもすごいなと感じています。
――先ほど、役者さんの「あなたの身体能力を活かした動き」を引き出したいというお話をされていましたが、この人だからこういうアクションが生まれた、といったエピソードがれば教えてください。
さっき、ナイフの二刀流持ちで紹介したサリュートの動きには、バスケのピポットターンの動きを取り入れています。これは、ジェーくん(山田)が、バスケを得意としているところから思いつきました。僕もバスケをやっていたので、あの動きのことはよく分かるし、ピポットみたいな回転系の動きでナイフアクションをやったら超かっこいい!と思って。結果、彼しかできない動きやリズムが生まれましたね。それから、彼はジャンプ力もすごいから、それも取り入れたいなと思って作りました。
それから、龍ちゃん(三栖公俊役の中村龍介)は、ダンスが得意なので活かしたかった。それを踏まえた上でできたのが「龍ちゃん無双」のシーンです(笑)。『-白銀ノ章-』で、僕と龍ちゃんが闘うシーンがあったのですが、あそこはガチでした。もはや、お芝居でやっているのではないような感覚。玉ちゃん(周康哉役の玉城裕規)を助けるため、龍ちゃんが下手から走ってきて僕の背中を蹴り飛ばすシーンなんかは、本気で蹴ってもらっていました。僕も龍ちゃんも身体が丈夫なので、双方了承の上で本当に当てていて。当てた風のアクションにもできますが、毎公演本気でやることで、お互いに感情がグッと上がりますから。
――ちなみに、『-悠久乃刻-』では、「サンボとマーシャルアーツ」という具体的な動きを示す台詞が出てきましたが、あれは役者さんの身体能力ありきで後から加えられたものなのでしょうか?
宮城紘大くんが演じるスークのことですね。それが、アレについては元から台本に書かれていて。毛利さんの脳裏で出来上がっていたものです(笑)。宮城くんはほとんどアクション経験なしの状態で『メサイア』に入ってきたので、最初に会った時に「サンボもマーシャルアーツもできるかな?」とちょっと心配になったんですけど。でも、やったろか!ってなりました。「あんなことできたの?!」とファンの方に言わせるような、いい意味での裏切りを作れたら、最高に気持ちいいじゃないですか(笑)。
――すごい動きをされていたので、てっきり最初から出来る方だったのかと・・・。
皆さんが「この人できる」って思ってくれたら、それは役者の自信に繋がっているはずです。そうなっていたら、僕は嬉しい。作り手側のやり方によって役者を変えられるって、すごい重要なものを担っているんだなと思いますし、『メサイア』だけでなく役者としてお互いに切磋琢磨しようという気持ちになります。宮城くんとまた一緒にやれる機会があったら、パワーアップした彼にもっとエグいアクションつけたいな(笑)。
――『メサイア』経験者は、ほかの作品で観た時もアクションスキルの高さを感じます。
演劇をやっている方の多くは、刀の殺陣はやったことあるんですよ。でも、体術を混ぜたアクションはなかなかないと思います。しかも、こんなに分量があるのは・・・。だから『メサイア』を経験した方々は、アクションのスキルがぐっと上がっていると、僕自身も感じています。やっている時はキツいかもしれないけど、ほかの現場でもこの経験は絶対活きてくると思います。
――六本木さんから見て、この人『メサイア』で伸びたなと思う役者さんはいますか?
(赤澤)燈かな~。燈が演じた白崎護は、最初に登場した時はまだサクラ候補生ではなく、公安四係として出てきて。あの頃の燈は・・・子鹿でしたから。
――子鹿、とは・・・?!
当時の燈は、まだ刀の殺陣も数回やったぐらいで、アクション経験もほとんどなかったんです。でも、周りには僕も定石充役でいましたし、にっちゃん(岸谷利也役の新田健太)とか、龍ちゃん(三栖公俊役の中村龍介)、玉ちゃん(周康哉役の玉城裕規)がいて・・・まだ身体も細かったですし、猛者に囲まれた燈はまさに子鹿のようでした(笑)。
でも、半端ないガッツを持っていた。ずっと見ていく中で、細い身体がどんどん変化していったんです。演出の西森さんに「鋼の意思を持て」と言われ、それに「はい、分かりました」と応えて、その言葉を体現するような説得力のある鋼の肉体を作り上げました。『-暁乃刻-』で、ボロボロになりながらも、主演として一人でやりきる燈の姿は、皆さんご存知のとおりだと思います。皆どんどん成長していますが、燈のがんばりは目覚ましかったですね。
――中には、もともとアクションに長けている方もいらっしゃいますよね。
そうですね。(井澤)勇貴なんかは、センスがあるなと感心しちゃいます。僕の方が勉強になるぐらい。何を教えても、すぐに自分のものにしちゃうんですよ。しかもオシャレなニュアンスをつけて。いわば、パリコレ風。「パリコレ風アクション」です。伝わるかな(笑)?僕だけでは、そこまでイケイケな動きはつけられないんですが、彼はそれをさりげなくやっちゃうんです。かっこいいですよね。あれもきっと、勇貴にしかできないアクションです。
――先ほど出た中村さんの「龍ちゃん無双」といい、井澤さんの「パリコレ風アクション」といい、六本木さんの表現にもエンターテイメント性がありますね(笑)。
動きをつけている時って、対象の役者さん以外が待ち時間になっちゃうんですよ。実際にやっている間も、待っている間も、皆その時間を楽しんでくれたらいいなっていう思いがあって。
用語があると、便利なんですよね。「○○無双」はよく使うかな。その場面を担う役者さんが大暴れする見せ場のことです。それから、メサイアコートを着て、対の相方と背中合わせ、そこからクルッと回ってパーンと撃つ・・・皆さんもよく知ってくださっていると思う場面。あそこでは、慣れている役者とは「ここ、Shall we パンパン!で」「分かりました、Shall weパンパンですね!」みたいな会話で成立しています。メサイア用語です(笑)。
直感で言ってるので、覚えていないものもいっぱいあるんですけど・・・僕の演じた定石には「ポコポコ雷神拳」と名前をつけた動きがありました。どの動きのことか、DVDをお持ちの方は、ぜひ探してみてください(笑)。
――どれも一度聞いたら忘れられない響きなんですが、今回の『-月詠乃刻-』で生まれた用語はありますか?
何かあったかな~・・・。(インタビュー当日)さっき、生まれたばかりですが「ジャンピング・チョッピング・ライト」というのが出来ました。今回初めて出てきた動きかな?加々美いつき役の(杉江)大志使っています。あまり重要なシーンではないんですが・・・。
――ものすごく語感がいいのですが、どういう動きなのでしょう?
階段を駆け上がって、チョップ!右手で!という動きです。そんなに重要ではないシーンと言いましたが、大志は覚えなくちゃいけないアクションが多いから、絶対忘れないようにと工夫しました。役者さんによって、覚えるのに苦戦する動きもあるんですよ。そういう時は、言葉で感情に訴えかけます。人間、リズムを作ると、覚えやすいですから。
――一発で覚えました(笑)。また『メサイア』では、若い役者さんたちに加え、ベテラン勢も大変魅力的です。
若い役者さんが目指すところは、あの立ち回り姿だと思います。やっぱり、若手とベテランさんではアクションの質が全然違うんですよ。大人のオーラで戦う。僕もご一緒すると、めちゃめちゃ勉強になります。
印象的だったのが、(村田)充さんが『鋼ノ章』で初めて「メサイア」シリーズに出られた時、どういう動きにしようか相談したら、僕が考えていたのとは真逆のことがしたいっておっしゃったんです。瞬発力のある若手と同じことをやっても違うから、あえて脱力したような状態で、衣裳を存分に使う立ち回りにしたい、と。仕上がりを観ていただいた方は共感していただけると思うんですが、あのタイミング、すごい怖いんですよ・・・。さすがでした。
それから、一嶋晴海役の内田裕也さんが見せてくださった『-悠久乃刻-』でのアクション。かっこよかったですよね~。一嶋さんがあんなにアクションをしたのは、シリーズ初でしたが、静と動が生み出す「そんなことできたんですか?!」という驚き。『-月詠乃刻-』では、志倉一仁役の大澄賢也さんが・・・超かっこいいものになっています。ぜひ、ご注目ください!
――ここまでやってこられて、一番過酷だった公演はどの作品でしょうか。
役者さんたちがやっていて一番キツかったのは、『-鋼ノ章-』じゃないでしょうか。オープニングからかなり飛ばしているので、皆、満身創痍でボロボロでした。野戦病院みたいだった。でも、やりきった皆は本当にかっこよかったです。
前作の『-悠久乃刻-』もかなりエグかったです。舞台の本番前には毎日、殺陣の確認をやるんですが、かかる時間は30分ぐらいなんです。でも、『悠久乃刻』は闘っているシーンが多すぎて、50分もかかりました。本当は1時間以上あったんだけど、削りに削って50分。いろんな舞台をやらせていただきましたが、殺陣の確認に50分もかかったのは初めてでした。
大変だけど、楽しくやらないと体力的にも精神的にもキツいので、なるべく皆を活気づけるような時間にしようとしましたけど。大変でしたね・・・。
――アクションにおいて、『メサイア』シリーズはいろいろと規格外ですね。
エンタメなんですけど、完全にガチです。歌やダンスもないですし、ストーリーも、フィクションですがどこかリアリティもあり、かといってハッピーエンドでもない。だけど、生の舞台で、役者が身体を張って、男の“生き様”を体現する。殺陣でもその“生き様”を表現できればと思っています。
――今後の『メサイア』シリーズの動きも、楽しみです。
今後の展開は、僕も分からないんですが、『メサイア』とはいつも手探りで歩んできたので、“今を大切に”作品作りをしているつもりです。『-月詠乃刻-』では、アクションの割合はこれまでに比べると多くはないんですが、個人的にはとてもいいものができたと思っています。場面ごとに、役者とキャラクターの生き様を丁寧に繊細に描く、これを僕のミッションと捉え作りましたので、ぜひその“生き様”を観ていただけたらと思います。
◆公演情報
舞台『メサイア -月詠乃刻-』
【東京公演】4月14日(土)~4月22日(日) シアターGロッソ
【大阪公演】4月27日(金)~4月29日(日) メルパルクホール
【原作・ストーリー構成】高殿円「MESSIAH -警備局特別公安五係」(講談社文庫)
【脚本】毛利亘宏(少年社中)
【演出】西森英行(Innocent Sphere)
【音楽】大内慶
【殺陣指導】六本木康弘
【キャスト】杉江大志、長江崚行、山沖勇輝、橋本真一、山本一慶、小谷嘉一、伊藤孝太郎、石渡真修、豊嶋杏輔、西野龍太、三原大樹、村上幸平、内田裕也、大澄賢也
◆舞台『メサイア -月詠乃刻-』ライブ・ビューイング
【日時】4月22日(日)17:00開演
【会場】全国各地の映画館にて上映(予定)
【価格】3,600円(全席指定・税込)
【公式サイト】 http://liveviewing.jp/messiah/
【公式HP】http://messiah-project.com
【公式Twitter】@messiah_project
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