毛利亘宏が主宰する劇団少年社中が、ついに20周年を迎えた。それを記念する公演の第1弾として毛利が描くのは、登場人物が全員“悪者”という『ピカレスク◆セブン』。少年社中として初となる愛知公演を含め、全国3都市で上演する本作には、劇団員12名に加え、毛利や少年社中と縁の深い役者が顔を揃えた。
『宇宙戦隊キュウレンジャー』の脚本でメインライターも務めた毛利が生み出す、次なる物語とは?そして、中心人物となる“マクベス”役を任された鈴木は、本作にどんな思いを抱いているのか。率直な現在の心境を、これまでを振り返りつつ語ってもらった。
――今回も、とてもワクワクする公演の発表でした。毛利さんがこの作品を思いついた原点は、どんなところにあったんでしょうか?
毛利:悪役をガッツリ書きたいな、と思ったのが最初でした。セクシーで、ロマンがあって・・・なんかかっこいいヤツらが散っていくようなお話を作りたいなと思ったんですね。そして、もう一つは、1年間携わらせていただいた『宇宙戦隊キュウレンジャー』で勧善懲悪を書いてきたことが大きかったです。『キュウレンジャー』では、迷いはあったとしても正義と悪、くっきりと線引きのある世界観を描いてきたんですね。だからこそ、悪役の気持ちに振り切れたお話も作ってみたいと考えました。
――やはり『キュウレンジャー』の存在が大きかったんですね。『侍戦隊シンケンジャー』でスーパーヒーローを演じた鈴木さんは、「悪者がメインになる」というテーマを聞いた時は、どのように感じられましたか?
鈴木:純粋に、かっこいい作品になるだろうなと思いました。悪役って、ヒーローに憧れることと同じぐらい、ロマンがあるというか・・・。ピカレスクロマンっていうジャンルがあることにも納得してしまいます。
――鈴木さんは、すでに何度も毛利さんの作品や少年社中の作品にご出演されていますが、お二人の出会いはミュージカル『薄桜鬼』でしょうか。
毛利:そうですね。がっつり、脚本家・演出家として関わったのはミュージカル『薄桜鬼』が最初でしたね。
鈴木:結果から言うわけではないんですが、毛利さんは、僕にとっての恩師だなと感じていて。「恩師」っていう言葉を意識したことは僕の中でこれまであんまりなかったんですけど、脚本家、演出家の毛利さんという存在を考えると、その言葉が一番しっくりくるなと・・・。ミュージカル『薄桜鬼』で出会った頃の僕は、まだ舞台に出始めたばかりで。何かをこうだ、ああだと具体的に教えていただいたという感覚ではないんですけど、カンパニーとして作品を作っていく中で、映像とまた違う、演劇ならではのおもしろさを、一緒にいる長い時間の中で教えてくださったなと思っています。
毛利:勝吾はね、いつ一緒にやってもスリリングで楽しいんだよね。何が飛び出してくるか分からなくて。コントロールを気にしなくていいから、とりあえず芝居の球を投げてくれっていつも思ってる。稽古場でも、ずっと考えるのをやめないんですよ。悩み続けて、答えを探していく姿勢が見ていて頼もしいし、おもしろい。今回もどんな球を投げてきてくれるのか楽しみです。別に、暴投でもいいから(笑)。
――鈴木さんから観て、外部公演での毛利さんと、少年社中さんの公演での毛利さんに違いを感じることはありますか?
鈴木:ありますよ。どこの公演という以前に、劇団員の皆さんがいらっしゃることが影響しているんだと思っていますが、社中さんの公演だと、毛利さんの「こういうものを作りたい」っていうロマンやビジョンが、早くからみえる気がします。
主にミュージカル『薄桜鬼』の話になりますが、薄ミュでは、皆で方向性を探りながら「毛利さんはこういうことをやりたいんだろうな」って、付き合いが長いキャストが出して作っていく感じが多いんですけど、社中さんでは割りと毛利さんが「こうしたい、ああしたい」というのが先に見えやすいというか・・・。口数も具体的に多い気がしますし、毛利さんが何年もやってきたことをより肌で感じられるのが、やっぱり少年社中さんという劇団でやっている時なのかなと思います。
――今回の公演は、少年社中さんの20周年を記念する第1弾公演と冠しています。以前、毛利さんが本作の情報公開時に、Twitterで「根拠のない自信が根拠のある自信になった」とつぶやいていたのが印象的でした。毛利さんの中で、何かを掴んだきっかけやターニングポイントは何だったのでしょう?
毛利:具体的に言えば、7年前に安田章大くん主演の『カゴツルベ』を青山劇場でやった時ですね。その公演で、Twitterに書いた「根拠のない自信」が打ち砕かれたんです。小劇場でコツコツ積み上げてきて、おもしろいものを作れる!と思っていたんですが、商業演劇という場では、実力以前に、ルールすら、何も分からない。まだそういうレベルだったんだ・・・って、ガーンって打ちのめされました。
でも、そこで辞めようとは思わなかったんです。もう一回、今まで持っている基礎をベースに、全力で、命がけでやろうと逆に奮い立って。その次の年ぐらいに、東映さんから声をかけていただいたり、ミュージカル『薄桜鬼』に出会い、少年社中としても代表作のような作品を作り・・・そういうことがトントンと決まった時期がありまして。自分の中では、『カゴツルベ』が大きなターニングポイントになっていますね。
実は、ちゃんと脚本家、演出家になりたいと心に決めた場所は、当時食べていけなくて働いていた居酒屋だったんだけどね(笑)。「青山劇場での公演を手掛けた演出家が、1年後食えなくてバイトする世界なんだ・・・!」って一人思いながら、料理出してる場合じゃないぞって、自分の中で一段ギアがガッと上がって、がんばろうと心に誓いました。
――そんな20年を振り返って、劇団としても変化を感じられてきましたか?
毛利:そうですね、皆コツコツ階段を登ってきた感じがしています。その時々でやり方を変えながら、試行錯誤をずっとやめずにここまできたというか。
例えば、今回の公演では、初めての試みとして、プレ稽古と称して、事前にブレストみたいなことをしたんですよ。稽古を始める前から段階を経て、時間をかけていろんな情報を共有して、クリエイトしていこうと。
それぞれのなりたい役者像や少年社中に対する思いがまとまっている集団でありたいし、コンスタントに年2本は劇団公演をやりたいし。「少年社中はこうあるべき」ではなく、自然体だけど変わり続けていきたいなと。(鈴木さんを見ながら)こうして一緒にできる仲間も増えましたし、楽しいことがどんどん増えてきたなと感じています。
――ちなみに、稽古前からブレストに役者さんが参加されることは、よくあるんでしょうか。
鈴木:いや・・・ないですね(笑)。初めての経験で、すごく有意義で、楽しくて。作品として出来上がる前から、コンセプトに対して皆さんが出してくるアイデアを聞くのは、すごく刺激になりましたね。「そういう角度もあるのか」と気づいたり、それを聞いている毛利さんのリアクション一つもおもしろかったり。全部が興味深くて。毛利さんがどういう言葉に敏感に反応して、拾い上げようとしているのか、誰かが出した言葉はすでに毛利さんの中にあるのか。そういうことを感じられたのも、おもしろかったです。ただ、すごく恥ずかしかったですけどね(笑)。
――恥ずかしかったというのは?
鈴木:妄想したり、考えたりすることは好きなんですけど、実際、それを形として伝えるのは・・・僕ら役者は、演技プランとして提供するのが仕事なんですけど、それを資料や口頭で説明するという段階は、すごく恥ずかしい・・・。久々に黒板に文字を書きに行く感覚を思い出しましたね。小学校の頃、苦手だったあの感覚(笑)。
毛利:そもそもが無茶ぶりだったんですけどね(笑)。僕は今、こういうことを考えて、こういうことをやりたいと思っている。で、こういうキャストでこういう人間関係で・・・という情報だけで、想像するオープニングとラストシーンを好きに考えてきて、という投げ方だったので。
鈴木:そうでしたね。だから、僕の方ががっつりプロットっぽいものを作って持っていきましたよ。どういう風に伝えればいいか分からなくて。
毛利:紙でもらったね。
鈴木:そういえば、この夏出演した『モマの火星探検記』の中で演じたテレスコープスでも、毛利さんに考えたものを紙に書いて渡してました。今回も、オープニングと結末の台詞入れたり、ト書きも書いたりして、渡す時はウキウキしてたんですけど(笑)。
――毛利さんの反応はいかがでしたか?
鈴木:それが、毛利さんって基本的には反応薄いんですよ(笑)。だから、分からないんです。提案したものが、毛利さんの中でどうなるんだろうなって思いながら、いつも楽しみにしていますけど。でも、いい時は分かるので、稽古の中で当てていこうと思います。また、色々と出しながらがんばりたいと思います。
――今回、この事前のプレ稽古をやってみるということには、どういう意図があったんでしょう?
毛利:規模が大きくなっていくにつれて、お客さんに対する責任を、もっとちゃんと自覚しないといけないという思いが強くなっていきまして。
規模が大きくなっていくと、どうしてもチケット代が値上がるじゃないですか。演劇のチケットって安くないから、同じぐらいの値段で美味しいごはんを食べられると思うんですよ。演劇のチケットと同じぐらいの値段のごはんって・・・なかなかスペシャルじゃないかと。
鈴木:コース料理食べられますね。
毛利:そう。多くの人にとって、それを食べる時間って誕生日とか特別な日なんじゃないかと思うんですよね。我々、演劇をやる側の人間にとっては、演劇は毎日のことなんですけど、観てくださるお客さんは、それを観る時間に加えて、劇場まで足を運ぶ時間、遠方から来てくださる方なんて丸一日を使ってくださる。スペシャルに値する幸福や有意義さを感じていただくために、努力しなければいけないと常に思っています。
鈴木:それ分かるな・・・、共感しかないです。忙しい中時間を作って来てくださったり、何回も足を運んでくださったり、お子さんがいる方は旦那さんに預けて来てくださったり、夫婦の楽しみとして来てくださったり。そうやって皆さんが時間とお金をかけてくださる分、スペシャルな瞬間にしなければという責任を、常々考えていますね。
毛利:その一日が、人生を変えるきっかけになる日かもしれない。肩肘張るばかりじゃないですけど、そういうものを目指していかないといけないし、そうありたいよね。
――観客として、とても嬉しいお話です。そんな熱意に満ちた本作ですが、あらすじにトクガワイエミツとマクベスの名前が並んでいるのを見た時は、とても驚きました(笑)。
毛利:異種格闘技戦みたいですよね(笑)。魔女が鍋で煮込んだみたいに、こんなのできました!という物語になればいいなと思っています。
――トクガワイエミツ役が宮崎秋人さん、マクベス役が鈴木さんということですが、もともと配役は決めていらっしゃったんですか?
毛利:いえ、いつもそうなんですけど、一緒にやりたい役者さんを集めて、この人にはこの役、こんな風に並べたらおもしろいだろうなっていうのを、何度も組み替えながらやっていくんですよ。
マクベスに関しては、もともとすごく描いてみたいという思いがあって、どういう形でやろうかずっと探りながらあっためていたんです。今回、勝吾が出演してくれることが決まった時に、「いけるな!」って思って。(宮崎)秋人も出てくれることが決まったので、作品としては噛み合っているんだけど、噛み合ってないことをちゃんとできる、とてもおもしろい構図が作れるんじゃないかと思って決めました。
――鈴木さんは、マクベスが似合うと毛利さんに言われましたが、ご自身ではどうですか?
鈴木:出演させていただけることが決まってから、別のお仕事で会ったり、プライベートで会ったりしていたので「悪者」を演じるということは聞いていて、おもしろそうだと思っていたんですけど、まさかマクベスとは思ってもみなかったですよ。お話の内容から、和装を着る心構えをしていたんですけど(笑)。
マクベスが主人公の一人でありながら、マクベスって話をやらない。シェイクスピアの戯曲そのままでもないけれど、マクベスっぽい。それをどう回収するのか、それは疑問もありますし、楽しみでもありますね。
――いつか、シェイクスピア作品、しかもマクベスで、鈴木さんを観たいと漠然と思っていたんです。
毛利:そう!僕も、マクベスを演じている勝吾を観たかったんです。やっぱり、思いますよね?
鈴木:でも実は、ちゃんとマクベスの戯曲を読んだのは、今回のお話をいただいてからなんですよ。シェイクスピアの作品って、突拍子もないと感じることが多かったんですけど、「マクベス」に関してはあんまり違和感を持たなくて・・・。
毛利:スルッと入ってきたでしょ?
鈴木:あんまりにも違和感がなかったから、物語として「このまま終わるの?このまま終わっていいの?」って思いました(笑)。皆さんは、違和感を持つんですかね?
毛利:マクベスって、悩んだ末に突飛な行動する男だから。だから、勝吾に似合うなって(笑)。
鈴木:・・・なんとなく、言われていることが分かりました(笑)。
――そして、今回は少年社中さんとして初めての愛知公演も行うんですよね。
毛利:そうなんです。これに関しては、自分の出身地ということもあり感慨深いものがあります。今回モチーフの一つにさせてもらった徳川家康も、愛知県出身です。しかも、公演するのは岡崎は、康生町。康生町って、実際に家康が生まれた地なんですよね。そんなお膝元にある劇場で、この作品を上演できるということには、すごく運命を感じます。
トクガワイエヤスを敵にするということは、愛知公演が決まる前からすでに決めていたんです。なぜなら、僕が歴史上で一番好きな武将だから。この作品に、僕の家康愛を全力でぶつけて、イエヤスを倒したいという・・・なんか屈折していますけど(笑)。愛知で公演できることは、本当に嬉しいです。
――どんな物語、どんなマクベスが観られるのか、楽しみにしています。最後に、公演に向けてお客様へメッセージをお願いします。
毛利:20周年までやってきましたが、今までと変わらず、真面目に作品を作っていきたいと思います。そして、20周年まで応援してきてくれた皆様に感謝を伝える1年にしたいです。
おもしろい作品になるという自信があります。『キュウレンジャー』を観ておもしろいと思ってくださった方も、きっと好きになっていただける作品だと思います。ぜひ生で、僕の脚本を、僕の作品を体験していただけたら嬉しいです。
鈴木:意気込みしかないです(笑)!20周年公演という、勝手に恩師だと思っている毛利さんの家族的行事に迎え入れていただけることが光栄ですし、感謝の思いを返せるように、一役者として全力でやりたいと思います。
そして、先ほどの話にもありましたが、皆さんにとって劇場に足を運ぶことがスペシャルであるように、僕にとっても舞台って特別なものです。だからこそ、その思いを届けられると思うので、一人でも多くの人に、劇場でこの作品を体感してもらいたいなと思います。演劇が失われない芸術としてあり続ける意味を、ガッツリ見せられるように、がんばりたいと思います。劇場でお会いしましょう!
◆公演情報
少年社中20周年記念第一弾
少年社中×東映 舞台プロジェクト『ピカレスク◆セブン』
【東京公演】2018年1月6日(土)~1月15日(月) サンシャイン劇場
【大阪公演】2018年1月20日(土)・1月21日(日) サンケイホールブリーゼ
【愛知公演】2018年1月27日(土) 岡崎市民会館 あおいホール
【脚本・演出】毛利亘宏
【出演】
井俣太良 大竹えり 岩田有民 堀池直毅 加藤良子 廿浦裕介
長谷川太郎 杉山未央 山川ありそ 内山智絵 竹内尚文 川本裕之
鈴木勝吾 宮崎秋人 / 椎名鯛造 佃井皆美 相馬圭祐 丸山敦史
唐橋充 松本寛也 細貝圭 / 大高洋夫
【公演特設HP】http://www.shachu.com/p7/
【少年社中公式HP】http://www.shachu.com/
【少年社中公式Twitter】@shonen_shachu