松尾スズキ原作の、愛とブラックユーモアあふれる絵本を舞台化した『気づかいルーシー』。東京芸術劇場初制作の子どものためのオリジナル作品として、2015年の夏に上演され、幅広い世代から反響を呼んだ。その初演から2年、7月21日(金)より、東京芸術劇場 シアターイーストにて再演の幕が上がる。脚本・演出は劇団「はえぎわ」の主宰を務める傍ら、幅広く活躍するノゾエ征爾。キャスト陣も、初演の彩り溢れるメンバーが再び揃った。再演の喜びから、初演時の裏エピソード、幼い頃から触れてきた演劇への思い。主人公ルーシーを演じる岸井ゆきのに話を聞いた。
愛する主人公に再び出会える喜び
――まず、再演が発表された時の気持ちをお聞かせください。
実は、初演をやっている時から再演の話は出ていたんです。キャスト同士でも盛り上がっていましたし、私自身も「これはもう一度やりたい!」って思いながらやっていました。実際に再演が決定したことはもちろん、初演のキャストが揃ってできるということも、すごく嬉しかったです。早く稽古がしたいです!
――主人公ルーシーを演じるにあたって、子どもの役という点で苦戦したことなどはありましたか?
子どもを演じるということに対しては、とくに戸惑いはありません。それに、ルーシー自体が子どもっぽいキャラクターではないので、あまり意識せずにできました。あと、松尾さんやみなさんが「原画に似てる」って言ってくれたのが心強かったです。役に寄せたり、考え過ぎたりせずに、この世界にスッと入っていくことができました。
――原作者のお墨付きですね!この物語は、愛のミルフィーユみたいな話ですよね。登場人物全員が誰かに対する強い愛を持っていて、それぞれが真剣に思いやって・・・。
ルーシーが実際のところ何歳かは分からないですけど、タイトルどおり、子どもながらにものすごくいろいろなことを考えてるんです。周りから気づかいをされていることに気づいて、自ら気づかいをするって、心が成長していないとできないことだなって思います。
――性格面でご自身と似ているところはありますか?
こんな気づかいは、私にはできません!(笑)。それに、本当に勇敢な子だなって思います。物語には描かれていませんが、馬とおじいさんとの暮らしってどうだったんだろう?とか、この心を一体どうやって培ったんだろう?とか、そんな風に楽しく想像して、理解しながらやっています。
――岸井さんのルーシーに対するまっすぐな気持ちが伝わってきます。舞台としての魅力や、演じている中で「とくにここが好き!」というポイントはありますか?
全体を通してとても好きですし、自分が携わった作品の中でも思い入れは強いですね。最初に原作を読んだ時も思いましたが、公演を重ねるたびに「この話は本当に愛でしかないな」って思って、胸がいっぱいになります。どこをとっても好きなのですが、登場人物みんなが舞台上に出て歌うところは、この作品の持つ愛の強さというか、ハッピーが溢れ出しているなって思います。
――初演の稽古中での印象的なエピソードは?
突然、舞台セットが変わった時はちょっとした事件でしたね。仮のセットを組んで稽古をしていたんですけど、結構な土壇場で変えることになって・・・。でも、新しいセットを見て、キャスト陣みんなが「こんな面白いことないよ!」「いいね!」って盛り上がったんです。
――世界観をとことん追求する演出と、キャストのみなさんの度量と熱量を感じるエピソードですね!
そうなんです!それってすごいことだなって。当時は、個人的にも覚えることや課題も多かったり、作品に向かうがゆえに厳しい場面もありました。でも、今となっては全部が楽しい、素敵な思い出になっています。
幼い頃の観劇体験と親子演劇の魅力
――親子演劇という視点からも少しお聞きしたいのですが、岸井さんは子どもの頃、演劇に触れた経験などはありましたか?
憶えているのは小学生くらいからですが、小さい頃から兄妹でいろいろと観せてもらってきました。
――その頃から演劇への愛は芽生えていたのですね。
「昔から好きだったよ」って母に言われます。歌って踊ってのミュージカルなんかは特に楽しんでました。キャストの方が客席に向かって話しかけてくれたり・・・。
――『気づかいルーシー』に流れる愛とユーモアは、小さな子どもにもスッと入っていきそうな気がしますね。
小さい子は、結構反応してくれます。シーンとしてる場面とかでも素直に疑問や思いを発したり、その純粋さと可愛らしさにこっちが笑っちゃいそうになるくらい。正直に作品と対峙している子どもたちがいることで、客席のムードがこちらにも伝わりやすくなります。嬉しい気持ちが溢れた幸せな空気というか。
――子どもと演劇を見ると、その感受性の強さと、それを表現することへの迷いのなさにこっちが刺激を受けることもあります。
舞台上にも、ものすごくストレートに伝わってきます。もちろん、子どもたちの個性もあるので、日によって反応も全然違います。客席に話しかけるシーンがあるんですけど、たまに反応がない日もあったり(笑)。そんな時は「ほら、〇〇ちゃんルーシーに教えてあげなよ!」って気をつかってくれるお母さんの声が聞こえたりして。そんな温かな反応を前にすると、心の中で「うん、ルーシーがんばる!」と気合が入ります。
舞台に立つ上で、大切にしていること
――岸井さんは、この2年の間に多くの舞台・映像作品に挑戦し、活躍されてきました。再演に向けて、今だから挑戦したいことや新たな意気込みはありますか?
脚本が少し変わるらしいので、まずはそこにしっかりついていきたいです。あと、この『気づかいルーシー』の世界観を表現するのって、細かいところが難しいんです。舞台になっても、この本がそのまま起き上がったっていう作品にしなきゃいけないと思うので。
――なるほど。
説教くさくなったり、くどくなったりしたら、また全然違うものになってしまうので、微妙なバランスが必要なのかなって。今回はそういう細かい部分をより極めたいというか、稽古場でしっかり取捨選択していきたいと思っています。あと個人的には、筋トレを始めたので、よりパワフルにルーシーを演じたいです!
――子どもの頃からの観劇経験を経て、今は女優として活躍されている岸井さんが演劇において大切にしていることはどんなことでしょうか?
「この熱量をどこまで届けられるか」ということをすごく考えて、大事にしています。こっちが挫けちゃったり、少しでも気を抜いちゃうと客席まで届かないですし。個人の熱量やカンパニーの結束が観ている側にも伝わるっていうことを観客として肌で感じてきたんです。だから、舞台に立つようになっても、そこが大前提としてあります。それがないと自分自身の目的も見失ってしまうような気がして。モチベーションを高く持って、カロリーをたくさん使って、レベルアップしていきたいと思います。
――では、最後に『気づかいルーシー』カンパニーの魅力とはどんなところでしょう?
このカンパニーは一見バラバラなんです。個性が強すぎて、クセがすごいっ!(笑)。でも、この作品自体に磁力があって、みんなが磁石を持っているというか。背中についてる人もいれば、正面についてる人もいて・・・磁石の付き方は違うけど、簡単には離れない強さがあるんです。そして、このおとぎ話の世界観にみんなが自然に入れているっていうこと自体がカンパニーの魅力。舞台作品は一緒にいる時間も長いですし、作品を愛する気持ちと同じくらい、良いカンパニーにしたいと毎回思っています。
★『気づかいルーシー』公演情報
2017年7月21日(金)~7月30日(日)
東京芸術劇場 シアターイースト
原作:松尾スズキ
脚本・演出:ノゾエ征爾
出演:岸井ゆきの、栗原類/山口航太、川上友里、ノゾエ征爾/山中崇、小野寺修二
(撮影/エンタステージ編集部)