渡部秀×ノゾエ征爾インタビュー!『ボクの穴、彼の穴。』松尾スズキ翻訳絵本を舞台化「現代の僕らが戦争の中にいたらこんな感じかもね」

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2008年に松尾スズキ(大人計画)が翻訳した絵本をノゾエ征爾(はえぎわ)が戯曲化した舞台『ボクの穴、彼の穴。』が、2016年5月21日(土)に東京・パルコ劇場にて幕を開ける。「・・・戦争です」のひとことで始まる今作は、塚田僚一(A.B.C-Z)と渡部秀による二人芝居。稽古がはじまって4日目の渡部と演出のノゾエにインタビューした。

『ボクの穴、彼の穴。』渡部秀×ノゾエ征爾インタビュー

――今回、渡部さんと塚田さんはお二人とも初の二人芝居ですね。

渡部:そうなんです!今までの舞台は出演者が多いものばかりだったので、二人芝居はやっぱり独特だと思います。

ノゾエ:基本、独り言ですね。

『ボクの穴、彼の穴。』渡部秀×ノゾエ征爾インタビュー_4

渡部:会話じゃないというのが一番難しいです。会話なら、相手とのやりとりだからセリフを覚えやすいんです。でもこの作品は、ぜんぶ自分から発信して自己完結してるから、なかなかセリフが覚えられないです。

ノゾエ:二人ともずっと自問自答していますよね。

渡部:それぞれが長い独り言を言っているだけなので、最初台本を読んだ時、すごく難しい作品だなあと思いましたよ。どんな舞台になるのか想像ができませんでした。ワクワク半分、心配半分でしたね。

ノゾエ:具体的なことはあまりわからず出演オファーを受けたと思うので、怖かったんじゃないかな。それでも「やろう」という勇気があった時点で、すでにこの作品をやるために必要なものをひとつ持っているはずですよ。

渡部:正直、不安はありすぎで(笑)。でもやってみなきゃわからないので、あえて考え過ぎないようにしていたんです。いざ稽古が始まると、いろいろ思うことが増えてきました。今もまだ混乱していますが、集中してやっていかないと。でも、1日がすごく濃いです10日くらい稽古してるイメージだったんですけど、まだ4日しか経ってないんですよね。

ノゾエ:まだそんなもんだったんだ!?って感じだよね(笑)。

――共演する塚田さんはいかがですか?

渡部:塚田さんはすごく真摯にお芝居と向き合う方だと思います。まだこれから関係を作っていく段階ではあるんですけど、稽古後に一緒にご飯に行かせていただいた時の印象だと、すごく波長が合う方だと感じました。性格は真逆と言えるぐらい違うんですけどね(笑)。だからこそ合うところもあると思うので、今後の稽古もすごく楽しみです。

『ボクの穴、彼の穴。』渡部秀×ノゾエ征爾インタビュー_5

ノゾエ:二人で食事してるの?こっそり見てみたいですね。

渡部:ほんとに似てないんですよ!価値観が違うのか、あんなに僕と真逆な方ってなかなかいないです(笑)。

ノゾエ:見てて面白いよ。

渡部:やっぱり感じるんですね!

ノゾエ:感じる、感じる(笑)。でも二人とも揉めたりしなさそうだよね。二人芝居だから、良くも悪くも絶対にお互いを意識せざるをえないのは大変だとは思いますけど。

渡部:たしかに、塚田さんの演技に対して「ちっくしょー!」と悔しさを感じることもあるけど、「あ、ナイスアイデア!」とも思っちゃうんですよね。そっちがそうくるなら、僕はこうしよう、とか。

――お互いの存在が刺激になっているんですね。

ノゾエ:それはすごくありますよね。良い塩梅に刺激しあってるなと思います。俳優さんって、嫉妬心やテリトリー意識が強いことがあるんだけど、そうなると作品とは違うことにエネルギーが必要になっちゃったり。

渡部:でも、分かんないですよ?稽古の後半で掴み合いのケンカになるかもしれないですし(笑)。

ノゾエ:え~(笑)。

『ボクの穴、彼の穴。』渡部秀×ノゾエ征爾インタビュー_3

――ノゾエさんから見て、役者としてのお二人はどうですか?

ノゾエ:良い感じです。本読みの時より、立ち稽古に入ってからの方がぐんと良くなりました。中には、立ち稽古前の本読みがすごく良かったという役者さんもいるんですが、この二人は動いてみて初めて言葉が生きてきている。なので、立ち稽古になって説得力が生まれてきたことで「この台詞やト書きはなくてもいいな」ということがよくあって、良い意味で現場で修正しています。二人それぞれの人間性を通じて、戯曲という殻がちゃんと“生きる言葉”になっていくといいな。

――渡部さんから見て、ノゾエさんの演出はいかがですか?

『ボクの穴、彼の穴。』渡部秀×ノゾエ征爾インタビュー_6

渡部:ノゾエさんは、役者個人の中から出てくるものをすごく大切にしてくださる方だなって感じます。塚田さんと僕は生きてきた人生も感じてきたことも違いますが、もし逆の配役だったとしても、それぞれから出てくるもの尊重して今とは全く違う作品をつくってくれると思うんです。きっとノゾエさん自身のなかで『ボクの穴、彼の穴。』という作品はまだ完成してなくて、僕らが稽古場でやる事とノゾエさんが考えている事を重ね合わせて、いろいろ考えて考えて、最終的にひとつのお芝居を作ってくださる。

演じていてとても生きがいを感じるし、いろいろやってみたくなるので、役者冥利に尽きますよ。こちらがなにかすると、違うことはちゃんと「違う」と言ってくれるし、こうした方が良いというものは提案してくれるし、「それいいね」というものは受け入れてくれる。ものすごく広く受け止めてくれる方、という印象です。

ノゾエ:対話がちゃんとできる現場でありたいなと、いつも思っているんですよね。僕も役者として舞台に立つこともありますけど、心のどこかで演出をつけられることが救いだったりするんです。『ボクの穴、彼の穴。』のセリフにも「指令を下さい」という言葉がありますけど、無意識に“他”に頼っていたりするんです。でも役者さんは発信者であり表現者なので、本人から出てくるものが醍醐味だと思うんですよ。それを、舞台に乗せたいんです。

『ボクの穴、彼の穴。』渡部秀×ノゾエ征爾インタビュー_7

――生身の人間だからこそできることですね。やはり、原作の絵本とは違ったものになりそうですか?

ノゾエ:もちろん違いますね。人間が“そこにいる”ということが面白いと思います。また、絵本というのはどこか普遍的ですが、いざ生の身体で舞台化していくからには役者さんの“個”を立たせたい。物語の舞台は戦場ですが、その戦争という大きな漠然としたもののなかにいるのは一人の人間であり、“個”なんです。人間にはそれぞれ個性があり、これまでの人生がある。(渡部)秀くんや塚ちゃん(塚田)が舞台に立った時に、彼らからしか出てこないものがありますし、それをちゃんと大事にしたい。

――戦争がテーマの二人芝居ということで、難しいというイメージを持っている方もいるかもしれませんが・・・。

ノゾエ:確かにその気持ちはすごくわかります。だけど、戦争イコール難しいとは限らないし、今回も戦争の話だからといって教訓的な気持ちはないです。戦場にいる人は僕らとなんら変わりなくて、ただその環境にいた人を描いているだけなので、現代の僕らが戦争の中にいたらこんな感じかもねっていうくらいの事ですね。

渡部:物語や伝えたい事はけっこうシンプルですよね。誰もが体験した事のある感情もありますし。

ノゾエ:そうそう。ただこの物語の中にこの人はこんな感じで存在していますよ、というだけ。人がそこにいるだけで自然と生まれる滑稽さもあるし、ダメさもあるし、深刻さもある。僕としては無理せず、自然とエンタメになるといいなあ。

――渋谷の若者たちに、気楽に観に来てもらいたいという感じですか?

『ボクの穴、彼の穴。』渡部秀×ノゾエ征爾インタビュー_8

渡部:そうですね、お買い物帰りとかに。

ノゾエ:若いお客さんや、秀くんや塚ちゃんのファンの方にぜひ来ていただきたいですね。今後の日本を支えていく、って言うとちょっとあれですが、次代の若い子たちに演劇の良さを感じてほしいし、作品の中で描かれている“人間の愛おしさ”みたいな思いも持って帰ってほしいな。できれば渋谷だけじゃなく、日本人全員に来てほしい(笑)。今回はちょっとそんな欲があります。普段はあまりそんな風に思わないんですけどね。

渡部:僕ももちろん、ファンの方をはじめ、皆さんに観てもらいたいです。あとは、僕らより上の世代の、戦争を体験した方々に観ていただき、感想を聞いてみたいです。本当に戦争を知っている方々からしたらいろんな意見があると思うんです。もしかしたら「お前らふざけるな!」と思うかもしれない。この作品を演じているのが戦争を知らない世代だからこそ、違う世代の方に意見を聞いてみたいです。

ノゾエ:もし、「戦争の話題だからなあ・・・」と構えているなら、不要ですよ。演劇は敷居が高くないものでありたいし、戦争だって重いばかりじゃない。このキラキラの若者二人と、演劇ならではの飛躍感を楽しんでもらいたいなと思います。

渡部:そうですね。すごい作品ができるなと確信できるほど、現場の雰囲気も良いです。気軽に楽しんでくれれば嬉しいです。

『ボクの穴、彼の穴。』渡部秀×ノゾエ征爾インタビュー_2

◆『『ボクの穴、彼の穴。』公演情報
2016年5月21日(土)~5月28日(土) 東京・パルコ劇場

◆プロフィール
ノゾエ征爾(のぞえせいじ)
脚本家、演出家、俳優。劇団「はえぎわ」主宰。1975年岡山生まれ。8歳までアメリカで育つ。99年にはえぎわを旗揚げ以降、全公演作品の作・演出を手がける。2012年『○○トアル風景』で第56回岸田國士戯曲賞受賞。外部公演や映像でも幅広く活躍。近年の主な舞台作品に『ご臨終』(演出)、『気づかいルーシー』(脚本・演出)など。8月27日(土)よりイマジンスタジオにてはえぎわ新作公演を予定。

渡部秀(わたなべしゅう)
1991年、秋田県生まれ。高校在学中の2008年、第21回『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』(JUNON主催)で準グランプリ受賞。2010年『ケータイ発ドラマ 激♥恋…運命のラブストーリー・・・』でドラマ初出演。同年9月、『仮面ライダーオーズ/OOO』でドラマ初主演。同年12月『仮面ライダー×仮面ライダー オーズ&ダブル feat.スカル MOVIE大戦CORE』で映画初主演。2015年、舞台『GO WEST』にて初主演。主な舞台は『里見八犬伝』『真田十勇士』『AZUMI 幕末編』など。

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この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

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