今春、三谷幸喜が新たに挑むのは登場人物4人の会話劇。コメディかサスペンスか・・・それとも不条理劇なのか。いまだベールに包まれる本作に出演する栗原英雄に話を聞いた。劇団四季在籍時代から多くの舞台に立ち、‘16年のNHK大河ドラマ『真田丸』では真田信尹役で鮮烈な印象を残した栗原の素顔に迫る!
初共演のキャストと4人芝居に挑む
――‘16年の大河ドラマ『真田丸』に続き、三谷幸喜さんとは二作目のお仕事になります。
昨年の4月に三谷(幸喜)さんが演出なさった『ショーガール』という舞台を観に行ったんです。というのも、この作品に出演していたシルビア・グラブさんとは、ミュージカル『タイタニック』で夫婦役を演じたご縁もありまして。それで終演後に、楽屋で三谷さんと『真田丸』の撮影現場のことなどを少しお話してその場は失礼したのですが、後日、PARCOの方を通して、舞台出演のお話をいただきました。
――‘15年に上演されたトム・サザーランド版の『タイタニック』では二等客室に乗るご夫婦役でのご出演でしたね。
そうそう、あの時は『タイタニック』をご覧になった三谷さんが、シルビアさんを通して映像への興味を聞いてくださり、『真田丸』に真田信尹(のぶただ)役で出演させていただくことになったんです。ちょうど1年くらいの間に、シルビアさんからいろいろなことが繋がって『真田丸』、今回の『不信』と出演が決まったわけで・・・そう考えると、何だか凄いですよね(笑)。
――本当ですね!『不信』でご共演なさるお三方とは今回が初顔合わせになりますが。
そう、正真正銘の「初めまして」なんですよ。
――戸田恵子さんも段田安則さんも優香さんも三谷さん演出の舞台の経験者です。その中にお入りになるにあたって、なにか“秘策”があれば是非!
これがね、まったくのノープランなんです(笑)。
――今回、新作ということですが、三谷さんとはどんなお話をなさっていますか。
じつは『真田丸』の時も、撮影に入ってからお会いしたのは2回か3回くらいなんです。先日、やっと4回目があったかな・・・(注:取材時)。三谷さんもとてもシャイな方ですし、僕も取材の時以外はあまり喋る方ではないので、ふたりで一緒にいると不思議な空気が流れます(笑)。『エノケソ一代記』にうかがった時は、舞台監督さんが『タイタニック』と同じ方で、三谷さんに引率していただいて舞台裏までご挨拶しにいったり・・・ちょっと面白いシチュエーションですよね(笑)。
――面白いです!そういう関係性、距離感だと、お稽古に入ってからも何が起きるか分からないですね(笑)。
本当にそうですね(笑)。『真田丸』の時も、事前に「真田信尹は有能なビジネスマンとして演じて欲しい」というお話はありましたが、オンエアが始まってからは、特にアドバイスをいただくこともなかったんです・・・と言うか、お互い、メールアドレスを知らなくて(笑)。今回『不信』に出演させていただくことが決まり、三谷さんに「何か事前に見たり読んだりしておいた方がいい作品はありますか?」と聞いた時に「あ、そう言えばメールアドレスの交換、していなかったですね」って(笑)。それで交わした最初のメールの内容が「本日はありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します」「こちらこそよろしくお願い致します」・・・みたいな。付き合い始めの思春期カップルみたいでしょ(笑)。
――(笑)。三谷さん、メールのエピソードが多い方という印象もあるのですが。
『真田丸』では三谷さんと親しい方も多く、その方たちが役柄や作品について三谷さんとメールでやり取りをしているのを見て、かなり羨ましかったです(笑)。なんで僕のところには来ないのかなあ・・・って。そんな風に寂しくもなりつつ、当時はお互い、アドレスを知らなかったわけですから当然なんですけど(笑)。
フィルターがない状態で相手と向き合う
――栗原さんは劇団四季時代も含め、多くの舞台に立たれていらっしゃいますが、演出家との関係で意識なさっていることはありますか?
他者に対して先入観を持つのが嫌なので、事前にその方がどんな人なのか、違う人から話を聞いたりすることはないですね。フィルターをかけず、素の状態で相手と向き合うのがベストだと思っています。僕、役者の仕事で一番大切なのは“聞く力”だと思っているんですよ。相手役の台詞は勿論ですが、演出家をはじめ、スタッフさんの言葉も真摯に受け止めたいんです。それが自分の成長につながると信じてもいますし。
――4人のキャストに対して三谷さんが宛て書きをなさるそうですが。
どうなるんでしょう、僕も楽しみです(笑)。当初はライトコメディーとも聞いていたのですが、現時点では方向性も変わっているようです。僕は“食材”ですから“料理人”である三谷さんにすべてをお任せしたいと思います。三谷さんの描く作品って“その他大勢”がひとりもいないんです・・・どんな登場人物にもすべてドラマと人生があって。人を見る目が(クリエイターとして)とても鋭い方でもありますから、きっと、僕の中にある“何か”を引き出してくださるのだと信じています。どんな役を演じるのか不安がないわけではないですが、その不安すらも今は楽しいですよ。
――役との距離の取り方をどう考えていらっしゃるか、うかがいたいです。
僕ね、役と向き合っている時は普段からその役が抜けなくなっちゃうんです。例えばちょっと怖い人を演じている時は、自宅でも家族に「目が怖い!」と言われたりします(笑)。おネェ的な役柄の時は普段もそんなモードになったり。自分としてはどんな役が来た時も柔軟でありたいと思っています・・・何でも受け容れられる状態で。『不信』は4人の会話劇ですから、稽古でも煮詰まる時期があって当然だと覚悟していますが、その状態をも楽しんでいきたいですね。
30代後半に訪れたターニングポイント
――エンタステージにご登場いただくのは初めてですので、栗原さんのこれまでについてもうかがわせてください。今まで演じられた中で、特にターニングポイントになったと思われる作品や役はなんでしょう。
基本的には一作一作、そしてすべての役が自分にとってのターニングポイントだと思っています。それは毎回、新しい出会いでもありますし。そんな中で、特に意識して選ぶとすれば、30代の後半に出会った作品や役でしょうか。
――青年の役から大人の役へのステップアップですね。
そうです・・・具体的な作品名で言うと『マンマ・ミーア!』や『コンタクト』ですね。父親役や苦悩するビジネスマンなど、それまでの自分とは違うフィールドに足を踏み入れた感覚はありました。そこから『ウィキッド』のオズ陛下へ繋がっていったり・・・オズは“枯れ”の域にまで達した役柄でした(笑)。
――その時に大きな意識の変化も。
大人と一口に言っても、いろいろな大人がいることを改めて考えるようにはなりました。あとは、自分の年齢より上の役を演じる時に、型から入らないように意識したり。身体の使い方としては、ダンスをやっていると、普段から背筋を伸ばすクセがついているので、役柄によっては、その時期、あえてダンスのレッスン量を減らす・・・なんて調整をしたりもしましたよ。
――ありがとうございます!今回の『不信』では“嘘”がキーワードのひとつになっていますが、最近“嘘”に触れたご経験があれば教えてください。
まずは『真田丸』で真田信尹を演じたことですね。と言うか、役者の仕事自体が“究極の嘘”。自分とはまったく違う人間の人生をお客さまにお見せすることだと僕は思っています。それを成立させられるよう、役者は必死で稽古をするんですよ。
――なるほど!観ている方も気持ち良く騙されたいです(笑)。栗原さんは、麺類が非常にお好きだという情報も。
え?!そうです(笑)特に蕎麦が好きですね。『真田丸』関連のイベントで1年前に長野に行った時に「美味い蕎麦を食うぞ!」って張り切っていたら、全然そんな時間の余裕はなく(笑)、先日のトークショーで、やっと行きたかったお店で食事をすることができました。僕、三食麺類でも大丈夫なんです。
――炭水化物、体型に影響したりしませんか?
その分、ご飯を食べないようにしています。蕎麦もなるべく十割に近いものを選ぶようにしていますし。と、言いつつ、お酒は飲んでしまうのですが(笑)。
――『真田丸』を経ての『不信』。今から開幕が楽しみです!
今回は三谷幸喜さんの描き下ろし作品ということもあり、大きな注目が集まっているのを実感しています。人間の心の奥底に潜むさまざまなことが、三谷さんの手によって、思いもかけない状態で表出するのではないかと。そんな作品に参加させていただくことを、僕自身も楽しみにしています!
初めて栗原英雄の舞台を観たのは10代の頃・・・劇団四季が日生劇場で上演した『ウェストサイド物語』で、彼はヒロイン・マリアに恋をするシャーク団の若者・チノを演じていた。それ以降も『ライオンキング』や『クレイジー・フォー・ユー』『コンタクト』『マンマ・ミーア!』『ウィキッド』等、数々のミュージカルで圧倒的な存在感をみせた栗原。‘09年の四季退団後も、舞台や映像で変わらぬ光を放っている。
そんな彼にとって大きな転機のひとつとなったのが昨年のNHK大河ドラマ『真田丸』への出演だ。堺雅人演じる真田信繁の叔父・信伊を“有能なビジネスマン”として演じ、幅広い世代から高い評価を得た。
今回のインタビューで栗原から最も多く出た言葉は“楽しい”“楽しみ”というセンテンス。その4文字がより深く聞こえるのは、彼がこれまで本当にストイックに舞台や映像作品に向き合ってきたからなのだろう。三谷幸喜が描く新作で、栗原英雄がどんな新たな色を魅せてくれるのか・・・開幕を“楽しみに”待ちたい。
◆三谷幸喜 作・演出『不信~彼女が嘘をつく理由』
2017年3月7日(火)~4月30日(日)
プレビュー公演 3月4日(土)~3月6日(月)
東京芸術劇場 シアターイースト