上演の度に高い評価を得てきた完全和製の音楽劇『瀧廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』が、2016年10月5日(水)より再々演を迎える。本作は、明治時代のドイツを舞台に、瀧廉太郎と岡野貞一という日本音楽界の礎を築いた天才の友情とその裏に隠された秘密が、事実も交えた“IF-イフ-”の世界として描かれる。今回、初演から本作を支え続ける原田優一と、元宝塚歌劇団・雪組トップ娘役で、本作には今回初出演となる愛加あゆの対談取材を実施し、二人から作品の魅力を聞いた。
――原田さんは初演から岡野役を演じられていますよね。作品の魅力をどこに感じていらっしゃいますか?
原田:俳優同士で的確な交流をしないと辻褄が合わない話になっているので、芝居の醍醐味がありますね。演技って、日々の生活の影響が多少なりとも表れるものだと思うのですが、この作品は、よりその影響が大きく、相手の考えていることも感じ取れるくらい細かな芝居が求められる。日本人の繊細な心の機微が脚本に表れているんだと思います。
また、芸術家をテーマに扱った作品なので、演じながら、いつも心を動かされています。岡野の「君は天才だけど、私はそうではないから、音楽の端にしがみついてるんだ」という台詞があるのですが、どこかで自分にも思い当たる部分があるんです。才能のある人がたくさんいる中で、僕も、この演劇という世界の端にしがみついてなんとかやってきている。だから、岡野のアーティストとしての考え方や姿勢には共感できるものが多くあるんです。初演から同じ役を演じていますが、自分の経験や成長によって、毎回新たな発見があります。そうやって人物の解釈に膨らむ余地があるのも魅力的ですね。
――愛加さんは今回初参加ですが、心境はいかがですか?
愛加:再々演ということで、皆さんすでに、作品のことをかなり理解していらっしゃっていて、最初の頃はとても緊張していました。板垣(恭一)さんの演出を受けるのも初めてなのですが、板垣さんは「動きよりも、その時、その場所に生きている」ことを重要視した演出をされるんですよね。だから、役を生きていないと成立しない、本当に難しい芝居に挑戦しているのだと感じています。去年の10月、宝塚退団後初めてストレートプレイに出演させていただいたのですが、その後はミュージカル作品が続いておりましたので、久しぶりにガッツリ芝居と向き合っているような気がしています。
「小さな事件も衝撃が強く、鮮明に残る」(原田)
――本作は初演も再演も高い評価を受けていましたよね。脚本の印象について、教えてください。
原田:脚本を執筆された登米裕一さんとは、別作品でも何回かご一緒させていただいているのですが、いつも、日本人が持つ独特の空気を舞台に乗せるのがすごく上手な方だなと感じます。登米さんの脚本は、出来事に対して必ず心が温かくなる要素が入っているんですよね。多分、争いごとが嫌いなんだと思います(笑)。起きる事件はそんなに大きくないのですが、基本がマイルドなので、小さな事件も衝撃が強く、鮮明に残るんですよ。演出の板垣さんはエンターテイメントに仕上げるのが得意な方なので、この作品に関してはそのギャップが世界観を広げているように感じます。
愛加:私はあまり瀧廉太郎の生涯を知らなかったので、初めて脚本を読んだ時は、すべて事実だと思ってしまったんです。もちろん、物語は登米さんが書き上げた“IF”の世界なんですけど、今でも事実であって欲しいな・・・と思っています。それぐらい、人の結びつきから生まれた名曲たちの物語が素晴らしいんです。
原田:昨日、板垣さんと愛加さんと三人で話していて「脚本家をやる人は、人間が好きじゃないとダメだよね」って話になったんです。登米さんの脚本からは「人間が好きだ」という気持ちがすごく伝わってくる。愛すべき“人間の営み”が描かれているんですよ。
――タイトルも、すごく印象的ですよね。
原田:そうですね。僕は仮のタイトル案も聞かせてもらったことがあるのですが、この話はまさに「瀧廉太郎」という天才を中心に取り巻く話なので、的を射ているように感じます。ちょっと長いんですけどね(笑)。
歴史的ミステリーにも触れるエンターテイメントに富んだ作品
――3回目の上演となると、見せ方が難しくなってくる部分もあるのでしょうか?
原田:確かに、新鮮さもなくてはいけないし、この作品の持ち味も受け継いでいかなくちゃいけない。でも、そこはクリエイターとして挑戦しがいのある壁だと思っています。僕は、より岡野を掘り下げることに集中するようにしています。岡野の生き様をメッセージとしてどれだけ伝えられるだろうかというのが勝負なので。
また、未見のお客さんからはすごく堅い作品と思われがちなので、そのイメージを払拭したいですね。笑いもありますし、歌もあるし、泣けるところも・・・、エンターテイメントとしての要素がたくさん込められているので、作品をより深めていきたいですね。また、瀧廉太郎にまつわる“都市伝説”のような部分にも触れているので、そのミステリアスさも楽しんでいただけるようにできればと。
愛加:ミステリアスな部分にも鮮やかな感動があって、そこが素敵なんですよね。観終わったら絶対幸せな気持ちになると思いますし、この作品を見たら音楽に対する考え方が変わると思います。
原田:特に、この作品には日本人なら誰でも歌えるような唱歌の数々が出てくるので、ノスタルジックな気持ちになったり、心の琴線に触れるものがあると思います。唱歌が持つ力は初演や再演でも実感しましたし、今回もきっと感じられるだろうと思っています。
「原田さんの歌声はバイオリンのよう」(愛加)
――再演から一部キャストが変わっているというのも新鮮さの一つだと思います。原田さんと愛加さんは、お互いに対してどのような印象をお持ちですか?
原田:愛加さんとは、今年の春に上演された『GEM CLUB』で共演させていただいているのですが、改めて、今回演じられる幸田幸という役では、凛としたお嬢様のような佇まいが堂に入っているなと感じています。イメージとして「唱歌」を歌うのに向いている人と向かない人がいると思うんですけど、愛加さんは向いている人だと思うんですよ。
愛加:よかった~(笑)!
原田:なかなかいないと思うんですよね、そういう女優さんって。だから、とても貴重な方だなと感じています。
愛加:私は、今回改めて原田さんの力を稽古場で拝見させていただき・・・、まずおもしろい方だなと(笑)。でも、そのおもしろさは役を生きていらっしゃる上でのおもしろさなので、すごく自然なんです。それから、どんと立ってなんでも受け止めてくださる度量の広さもあって・・・本当に頼もしい存在です。そして何と言っても、歌が素晴らしすぎて!出演者の間では「バイオリンのような歌声」と言っているんですよ。稽古の度に耳が喜んでいます(笑)!
――「唱歌」は、現代曲とは違う独特の難しさがあるのでは・・・と感じます。
原田:初めてドレミの音階を使って作られた曲が瀧廉太郎さんの「花」だったということもあり、シンプルに音楽の歴史に回帰していくことを意識しています。音楽を「ことば」と「おと」としてシンプルに捉え直して、他を削ぎ落としていくようなイメージです。
愛加:私は、歌詞にある言葉を調べ直してみたんです。そうしたら、日本の情景がすごく豊かに描かれていることが改めて分かり、一曲一曲に日本への愛が感じられたんですね。私はその愛の重みを感じながら、丁寧に、丁寧に、歌うことを心がけています。
男性の観客が涙する友情と音楽
――海外のミュージカルや、その影響を強く受けた作品が多くありますが、ここまで「和」の純度が高い作品は、あまりないように感じます。本作も音楽劇ですが、ミュージカル作品とどのような違いがあると考えていますか?
原田:日本人の感情の起伏って、そんなに大きくないと思うんですよ。でも、海外の作品には「ウォー!」という力強い起伏がある。だから海外の作品には、音楽の使われ方も日本人の性質とは少し違う印象を受けるんですね。でも、この作品は日本人の感情に繋がる「音楽のあり方」が込められていて、その繊細さが大きな魅力になっているのだと思います。
――静と動でいえば「静」ということですよね。でも、エンターテイメントとしても楽しめるってすごいですよね。
原田:そうなんですよ!この作品は、繊細さの中に人々が一斉に動き出すような豊かな感情が流れているんですよね。また、舞台がドイツというギャップもおもしろさを生んでいるんだと思います。窓の向こうにヨーロッパの風景が広がっている環境の中で、日本の音楽を背負っている物語であるというところも、エンターテイメント性に繋がっているんじゃないかな。
――ここだけは見逃さないでほしいポイントなどがありますか?
原田:この作品、泣いて帰られる男性が多いそうなんですよ。男の友情みたいなところに、グッとくる方が多いのだと思います。そういう男の友情は一つの見どころかな。上演時間も約100分とぎゅっとした作品なので、普段芝居を観慣れていない人にもオススメです。
愛加:すべての登場人物が繋がって完結する作品なので、命をかけて音楽に向き合っている登場人物の一人一人をつぶさに見ていただけると嬉しいですね。
――愛加さんが演じる幸田幸は、音楽的使命と同時に恋心も描かれるんですよね?
愛加:そうなんです。幸田さんは初めて音楽のためにドイツに留学した日本人なので、音楽に関しては天才的。今の私では考えられないぐらいのスケールで、普段から音楽のことを考えている人物なんです。そこに加わる恋愛なので、いわゆる普通の“恋心”ではないはずなんです。だから、ただの女の子になるのではなく、天才に囲まれて生きていく幸田さんの「恋愛と音楽」を日々考えながら役作りしています。ドストレートな恋心だったらどれだけ楽かって思うんですけどね(笑)。
原田:そこがねえ、日本人らしくてねえ・・・、良いんだよね~!
愛加:がんばります(笑)!
――本番が楽しみです!ありがとうございました。
◆公演情報
音楽劇『瀧廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』
10月5日(水)~10月10日(月・祝) 東京・草月ホール
【演出】板垣恭一
【脚本】登米裕一
【出演】原田優一、愛加あゆ、和田琢磨、白又敦・服部武雄(Wキャスト)、佐野瑞樹、星野真里