誰しも一度は目にしたことがある特徴的なアート作品を次々と生み出し、31歳という若さでこの世を去ったキース・ヘリング。彼が生きた混沌の80年代が、ミュージカル『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』としてシアタークリエで甦る!
本作で、主役のキース役を演じる柿澤勇人に話を聞いた。
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キースとの共通点は“人付き合いが苦手なこと”
――劇団時代からずっと拝見していますが、今回のキース役も孤独や痛みを抱えて生きているという点で、柿澤さんの代表作の一つ『春のめざめ』のメルヒオールと重なるような気がしました。
多分、メルヒオールの方がずっとカッコ良いですよ(笑)。キースの生き様そのものはカッコ良いと思いますが、見た目はまた違いますし。キースは31年という人生を物凄いスピードで駆け抜けた人なんだと思います。
――今回はルックスもキース・ヘリングさんに寄せていく感じになりそうですか?
多分、そうなると思いますが、そこは演出の岸谷(五朗)さんともう少し詰めていくことになるんじゃないかと。メルヒオールを演じていた時もそうでしたが、ここまで来るとカッコつけてる余裕もなくなりますよね(笑)。ただ懸命にやらせていただくだけです。
――今、お稽古が一番大変な時期ですよね(注:5月下旬の取材)。
確かに、今が一番キツいですね(笑)。でも後になって振り返ってみたら、この時期が最高に楽しかった、って思い返せるような気もします。
今は劇場に入る前の通し稽古をしている最中なんですが、通しになるとそれまで見えなかったことが見えてくるんです。自分の中できっちり埋められているシーンを再認識できたり、逆にまだきちんと感情が繋げられなくてスカスカだなあ・・・・・・と自覚する場面もありますし。通しに入ってから新しく気付くことが本当に多いですね。
――柿澤さんとキースとを繋ぐ一番の“糸”はなんでしょう。
そんなにたくさん自覚してはいないのですが、性格的に似ていると思う点はあります。例えばあまり人と上手に付き合っていけないところとか(笑)・・・・・・孤独を感じる時間もありますよ。でも、役者って皆どこか孤独を抱えた職業だと僕は思っているんです。
キースは31歳で亡くなってしまうのですが、だからなのか、皆の中にいても、彼の周りだけ流れる時間の速度や見える景色が違っているようにも思います。“死”というものを意識して、何とかその後の世界に自分が生きた痕跡を残したくて・・・・・・でも(絵を描く)スペースは足りなくて、常に何かに追い詰められながら創作を続けていく・・・・・・疾走する人生ですよね。
――先日の公開稽古を拝見した時に、カンパニーの仲の良さがとても強く伝わってきました。
本当に仲の良いカンパニーです!皆、これまでやってきたフィールドもバラバラなんですが、ちゃんとお互いを尊敬し合っていますし。誰か一人が物凄く頑張っていたら、そこにまた違う誰かが乗っかっていく感じって言えばいいのかな・・・。でも“負けないぜ”って気概も全員が持っているんです。変な気を遣うこともなく、互いに相乗効果を生み出しながら、作品に集中できるカンパニーだと思いますよ。稽古終わりや空き時間に皆でご飯を食べるのも楽しいですし、そういう空気感が作品に反映されたらいいですよね。
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――演出の岸谷五朗さんとは初めてのタッグです。
ご自身が俳優として活躍されていることもあり、“現場主義”の方なんだな、と感じています。僕にとってはそれがとても新鮮です。岸谷さんを拝見していると、役者が持っているものを稽古場で最大限に引き出して、そこからアイディアを採用して下さったり、役者それぞれの状態を見ながら次の展開を考えたりなさっているという印象です。とにかくこの現場では自分から“出して”いくことが大切なんだと改めて実感する毎日ですよ。
――キースはある時期から自らの“死”を強く意識するようになります。こういう役を演じる場合、普段の生活に影響が出たりすることもありますか?
うーん・・・どうなんでしょう・・・きっと何かしらに影響は出ているんでしょうが、そこを日常生活で強く意識することはないですね・・・でも今回のように「愛」「死」「家族」「友人」みたいな、大きなテーマがある作品に関わらせていただくと、普段から人を好きになったり、愛おしいと思う時間は増えます。
――とても興味深いです。
舞台に関わっていない時は、日常に流れる悲しいニュースや嫌な出来事を目の当たりにして、人が信じられなくなったり嫌になってしまうこともあるんですが、今みたいに、稽古場でカンパニーが集まって一つのものを創っていると、すごく人が愛おしくなってくるんです。
――それは作品の内容にかかわらず?例えば『タイトル・オブ・ショウ』のようなコメディ色が強めのものでもそうですか?
ああ、そう言われてみると、自覚はしていませんでしたが、確かに作品のカラーに影響されているところもありますね。『ラディアント・ベイビー』は特に他者を愛おしく感じる舞台なのかもしれません。この作品やカンパニーの皆と別れる時が来ると思うと、今からすごく切ないんです。
蜷川幸雄さんとの出会いで大きく変わったこと
――柿澤さんの舞台を拝見していると、良い意味で“影”の表現が刺さることも多いです。
僕、劇団時代には「“陰”か“陽”かで言ったら絶対に“陽”だよね」と言われていて、自分でもそうだと思っていたんです。だけど、いろいろ経験していく内に、自分の中に“屈折”や“影”の部分があるんだと意識することも増えました。それは蜷川(幸雄)さんと出会ったっていうのが大きいのですが。
――劇団退団後に出演なさった『海辺のカフカ』カラス役の時ですね。
初演の稽古場ではとにかくボロボロでした。蜷川さんの舞台に多く出演なさっている(吉田)鋼太郎さんや(藤原)竜也さんは、稽古場でどんなにやられても、それをどこか笑いにしてちゃんと蜷川さんに言い返せるんですよ。稽古場でそういう姿を拝見して、僕はそれがすごく羨ましかったんです。
『海辺のカフカ』再演で、もう一度カラスをやらせていただくことになって、僕、本読みの前に「もし、これで駄目だったら、全部やめよう」と決めて稽古場に行ったんです。
――それは俳優という仕事をやめるという覚悟?
そうです。今回駄目だったらこの仕事をやめようって。その覚悟で本読みに参加したら、蜷川さんから「お前、上手くなったな、全然違うよ」と言っていただいて、それがもう本当に嬉しくて。「ああ、またやっていいんだ・・・まだやれるんだな」って。
それで、本格的な稽古に入った時に、蜷川さんから「おいお前、ジェームス・ディーンみたいな芝居してんじゃねえよ!」って怒鳴られたんです。でも僕、元々ジェームス・ディーンが大好きだったので「蜷川さん、それって褒め言葉ですよね?全然ダメ出しに聞こえません!」ってつい言い返しちゃったんですよ。そしたら蜷川さんが「なんだ、馬鹿(笑)!」って笑って下さって。その時「ああ、初めて蜷川さんに言い返せた!」ってすごい達成感がありました(笑)。それから蜷川さん、しばらく僕のことを「柿澤」とか「カッキー」じゃなくて、ジェームス・ディーンの愛称・・・「ジミー」って呼んでくれていたんです(笑)。
再演ではワールドツアーにも行かせて頂きましたし、『海辺のカフカ』という作品、そして蜷川幸雄さんという演出家に出会えたことは、僕の中で本当に大きな経験になりました。
――今のお話を伺って、蜷川さんの照れたような笑顔を思い出しました。『ラディアント・ベイビー』では3人×3組の子役が登場しますね。
面白いですよ、9人とも全然違いますし。キース・ヘリングさんご自身も子どもが大好きな方で、僕もそこは同じなので、彼らに救われることも多いです。キースが死を意識しながらもなんとか創作活動を続けられたのは子どもたちの存在が大きかったからだとも思います。今回出演している9人は良い意味で子役っぽくないんです・・・そこがすごく素敵だと思いますし、キースとしての目線で見ても彼らはとても愛おしい存在です。
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――先日の通し稽古ではキースが死ぬ場面で子どもたちが「死なないで」と本気で泣いてしまったとか。
そうなんですよ。今はもうとにかく全員が稽古場で自身の内にある感情を全て出し切っている状態です。勿論、役者が感情を全てさらけ出せばOKということではありませんし、演じる側が泣いてしまったら成立しない場面もありますので、それはここから岸谷さんがぎゅっとまとめていかれると思うのですが。ただ、本物の感情が動いているという感覚はとても大切なんじゃないかと。子どもたちもキースの苦悩や死を目の当たりにする訳ですから、今はキツいと思いますよ。
――ご自身にとっても大切な作品になりそうですね。
それは間違いないです。絶対に忘れられない舞台になると思います。千秋楽に倒れてもいい!くらいの気持ちで最後まで駆け抜けます!
初めて柿澤勇人を観たのは『春のめざめ』初演の舞台だった。思春期特有の悩みや痛み、苦しみを抱えた主人公・メルヒオール・・・その時から彼が舞台上で見せるどこか“影”のある表現がずっと気になっていた。
今回、通し稽古のさなかに語ってくれた彼の姿に触れて、なんて素直でシャイな人なのだろうと改めて思う。表面上の言葉を繰り出すのではなく、自らの心に問うて発せられる言葉の数々・・・その数は決して多くはないのだけれど、全てがこちらの心に真っ直ぐ届く。
そんな柿澤が31歳でこの世を去ったキース・ヘリング役としてシアタークリエの舞台に立つ。「芝居に関わっている時は人のことが好きになる」と語る彼がどんなキースを魅せてくれるのか・・・嘘のない真摯な眼差しで80年代を駆け抜ける柿澤勇人の生き様を客席でしっかり見つめたいと思う。
◆ミュージカル『ラディアント・ベイビー キース・ヘリングの生涯』
6月6日(月)~6月22日(水)
シアタークリエ(東京・日比谷)
6月25日(土)~26日(日)
森ノ宮ピロティホール(大阪)