ミュージカル『グランドホテル』オットー役(RED)の成河にインタビュー!「知らない国に足を踏み入れた“外国人”の気分です」

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1920年代のドイツ・ベルリン。この地に建つ“グランドホテル”には今日もさまざまな事情を抱えた人々が集まっている。余命わずかと宣告された会計士、ギャングの借金取立てから逃げ回る男爵、引退興行にやってきたバレリーナ、ハリウッドスターを夢見るタイピスト…。本来ならすれ違うことすらなかったかもしれない彼らの人生が“グランドホテル”で交錯する時、小さな奇跡と大きな変化とが人々に起きる…。

本作が初のグランドミュージカル出演となる会計士・オットー役(RED)の成河に話を聞いた。

ミュージカル『グランドホテル』成河インタビュー

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目次

2つのチームで“全く違う作品”が立ち上がる予感

――今回『グランドホテル』の演出を担当なさるトム・サザーランドさんは成河さんより年下なんですね。

初めてお目にかかる前に年齢のことは伺っていたんですが、実際に彼を目の前にした時は「嘘だろー(笑)」って思いました。人としての大きさが見た目にも現れているというか…実は47、8歳なんじゃないの?って(笑)。全身から“パッション”がみなぎっているような方ですよ。

――オットー役に関して、トムさんからなにかオーダーはありましたか?

それはこれからでしょうね。お話を伺った時に、彼が思うオットー像に僕を当てはめるのではなく、僕の個性や状態を見ながら、僕なりのオットーを作れるよう演出家として導いて下さる方なのだと感じました。そういう意味ではWキャストで全く違うオットーが生まれるんじゃないかと。

ミュージカル『グランドホテル』成河インタビュー_2

――中川晃教さんとのWキャスト…最初に伺った時は驚きました。

いろいろなことが全く違いますしね(笑)。でも『グランドホテル』自体が、誰か一人の主役にスポットライトを当てる作品というよりは、ある種の群像劇でもありますので、登場人物たちの解釈も多岐に渡ると思うんです。そういう意味ではどの役も演じる人間によって全然違う色合いになっていくんじゃないかと。そこが今回、REDとGREENという二つのチームを作った狙いの一つなのだと思いますよ。

――10年前にグレン・ウォルフォードさん演出の『グランドホテル』を拝見しましたが、オットーは小堺一機さんが演じられていました。それを考えると、今回のお二人はとてもお若いな、と。

小堺さん…似合いそうですね、ピッタリだと思います。僕もブロードウェイ版を動画で観たりしたのですが、オットー役の方に哀愁と影と愛嬌があって圧倒されました。これって俳優が出そうと思って出せるものじゃないですからね…自分の中にそういうファクターを持っていないと。

ミュージカル『グランドホテル』成河インタビュー_3

――今回はトムさんが二つのチームを見てそれぞれ違う演出をされるのでは…というお話もありますね。

ですね(笑)。多分、まだ誰も全容は見えていないんじゃないかと思います(注:2月上旬の取材)。それって恐ろしいことでもありますが(笑)、とても面白いことなんじゃないかって。生きた作品を創るという意味でもそういう方法は興味深いです。

――成河さんにとっては今回がグランドミュージカルへの初出演となりますが、どこか転校生気分もあったりしますか?

転校生どころかほとんど知らない国に足を踏み入れた外国人状態ですよ(笑)。いろいろ語らせていただいていますが、実は超ビビってます(笑)。ただそんなことを言っていても仕方がないので、自分が出来ることをしっかりやるだけですが。

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ジョン・ケアードとサイモン・マクバーニー 転機をもたらした二人の演出家

――2007年の『夏の夜の夢』妖精パック役は今思い出しても体が震えるくらい衝撃的でした。演出のジョン・ケアードさんとは昨年の『十二夜』でも組まれていましたね。

僕が演劇の世界にいられる大きな理由の一つが、ジョンとの出会いによっていろいろなことを教えてもらったからだと思っています。常に“クリエイション”という意識があり、稽古場で絶対に“命令”も“否定”もすることがない…彼と作品を創る時はいつも一緒に遊んでいるような感じでしょうか。その状態に俳優たちも上手く乗せられて(笑)、全てのアイディアを全て自分で考え出したかのように軽々と演技が出来るんです…“ジョン・マジック”ですね(笑)。

世界的な演出家でありながら、稽古場では結構ふざけたこともするんですよ…わざと女性陣にちょっかいを出してみたり。で、それを見た僕たちが「ジョン、しょうがねえなあ(笑)」なんて笑っていて…。でもよくよく考えてみると、そういうこと一つ一つも実は全部彼の計算かもしれないんですよね(笑)。魔法使いのような人です…お慕い申し上げております(笑)。

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――これまで国内・海外問わず多くの演出家の方とお仕事をなさっていますが、特に成河さんに大きな影響を与えた方はどなたでしょう?

サイモン・マクバーニーですね。

――即答でした…と言うことは『春琴』ですね。

そうです。初演の時はとにかくこてんぱんにヤラれました(笑)。彼の前に出会っていたロバート・アラン・アッカーマンさんは、まだ俳優として未熟な僕のことをいつもおだてて持ち上げてくれて、その状態のまま作品に関わらせてくれたんですが、サイモン・マクバーニーにはボコボコにされました…もうどうにかなっちゃうってくらい追い込まれましたよ(笑)。

彼は谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』と『春琴抄』をモチーフにして舞台作品を創ろうと10年以上準備をしてきたんです。それも誰かプロデューサーに言われて思いついたのではなく、彼自身の意志で。そんな人に、ただ日本人であるってだけで何を言い返しても全く太刀打ちなんて出来ません。俳優としては“常にニュートラルであること”を強く求められました。結果『春琴』は日本だけでなく海外でも高い評価を得て、多くの方に愛される作品になりました。サイモン・マクバーニーとの出会いは僕にとって本当に大きな転機でしたね。

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――「転機」と言えば『グランドホテル』の後は『エリザベート』へのご出演も決まっています。こちらも嬉しい驚きでした。

なんで僕、なんでしょうね(笑)。

――それはルキーニが「芝居」の部分を多く担う役柄だから…ではないかと。

やっぱりそうですよね、自分でも観劇した時にそう感じました。尾上松也さんのルキーニを拝見したのですが、ワイルドで色気があってとても素敵でした…僕がイメージしていたルキーニ像と非常に近くて、共感するところも多かったです。『エリザベート』は長く続いている作品ですし、多くのファンがいることも存じています。その作品に出演させていただくにあたり「こうやれば正解なんだろうな」というところに安易に行くのではなく、自分が演じていて少しでも面白いと思える方向で役を立ち上げ、参加させていただけたらと思っています。

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――ありがとうございます。では最後に『グランドホテル』オットーと、成河さんを繋ぐ“糸”についてお話頂けますか。

オットーは一サラリーマンの会計士です。彼は自らの死期が迫っていると知った時に、これまで貯蓄してきたお金を持ってグランドホテルへと出向き、本当のお金持ちと対等に過ごそうとします。まず、彼のこういうリッチな生活への憧れや執着は今の僕にとってなかなか理解できるものではありません。

オットーはそんな状態で訪れたホテルで過ごし、他人と関わるうちに、少しずつ執着が剥がれていって「人と共に在ること」の素晴らしさを実感するのですが、この点に関して僕はとても彼に共感できるんです。僕もこれまで“演劇”を通して「人と共に在ること」がどれだけ素敵なことか沢山教えられてきました。このオットーの心の変化は『グランドホテル』という作品の大きな肝の一つだと思いますので、大切に演じたいと思っています。

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ひょっとこ乱舞(現アマヤドリ)時代から成河の出演作を観て来て、その存在感に特に打ちのめされたのが、ジョン・ケアード演出の『夏の夜の夢』(2007年新国立劇場初演)だった。この舞台で妖精・パックを演じた成河の圧倒的な身体能力と不思議に響く声に心と体が震えたことを今でも思い出す。

その後も国内・海外問わず多くの演出家と仕事をし、着実に演劇界に鋭い足跡を付けてきた彼がこの春、初めてグランドミュージカルに挑戦する。

“死”を目の前にし、最後に憧れていた世界に足を踏み入れて本当に大切なものに気付く会計士オットー…。Wキャストで全く違う色合いになりそうなトム・サザーランド版『グランドホテル』で、成河がどんな生き様を見せてくれるのか…開幕を楽しみに待ちたい。

◆ミュージカル『グランドホテル』◆
2016年4月9日(土)~24日(日)赤坂ACTシアター
2016年4月27日(水)~28日(木)愛知県芸術劇場大ホール
2016年5月5日(木)~8日(日)梅田芸術劇場メインホール

(撮影/松井伴実)

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