ミュージカル『グランドホテル』オットー役(GREEN)の中川晃教にインタビュー!「実は僕、稽古が好きじゃないんです」

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1920年代のドイツ・ベルリン。この地に建つ“グランドホテル”には今日もさまざまな事情を抱えた人々が集まっている。余命わずかと宣告された会計士、ギャングの借金取立てから逃げ回る男爵、引退興行にやってきたバレリーナ、ハリウッドスターを夢見るタイピスト…。本来ならすれ違うことすらなかったかもしれない彼らの人生が“グランドホテル”で交錯する時、人々に小さな奇跡と大きな変化が起きる…。

本作で重い病を抱えた会計士・オットー(GREEN)を演じる中川晃教に話を聞いた。

ミュージカル『グランドホテル』中川晃教インタビュー

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目次

オットーは誰よりも生命の輝きを持った人物

――『グランドホテル』オットー役のオファーがあった時のお気持ちを伺えますか。

僕は当然会計士ではありませんし(笑)、理数系の勉強をしてきた訳でもないのですが、オットーが会計士として地道に、誠実に数字に向き合ってきたのと同じように、自分も音楽に対して真摯に取り組んできたという気持ちはあります。この作品は1920年代…第1次世界大戦と第2次世界大戦の狭間のドイツが一番力を失っていた頃の物語なのですが、そんな時代でも“グランドホテル”にはまだゴ-ジャスな世界があり、きらびやかな人々が集まっていました。

『グランドホテル』では、ホテルという非日常感あふれる空間でさまざまな人がすれ違い、出会っていく内に、ホテルを訪れる前とは誰もが違った状態でまた別の場所に旅立っていきます。そういう人々のドラマが面白いと思いましたし、時代は違っても普遍的なメッセージもきちんとあって、今、この作品を上演する意味があると強く感じたんです。

オットーは重い病を患ってはいるのですが、その反面誰よりも強い生命の輝きのようなものも持っていて、そこに少しですが自分との共通点を見出すことが出来ました。これまで僕が演じてきた役とは少し違うところもあるかもしれませんが、そこも含めてしっかり作品や役と向き合っていきたいですね。

ミュージカル『グランドホテル』中川晃教インタビュー_2

――演出のトム・サザーランドさんとはもうお話になりましたか?

実はまだ一度しかお会いできていないんです(注:2月上旬の取材)。『CHESS』の稽古中に、トムさんの前で『CHESS』の「Someone Else’s Story」を歌わせていただきました。歌い終わった時にすぐ「僕から言うことはもう何もないよ!」と笑顔で言っていただいて…とても大きな方だな、というのが第一印象です。これから彼と一緒にどんな日本版の『グランドホテル』を生み出していけるのかとても楽しみです。

――Wキャストの成河さんと同じ作品に関わられるのも初めてですよね。

実は今日(=取材日)初めてお会いするんです。彼は…天才ですよね!凄く魅力的な俳優さんだと思います。本当は同じ舞台で共演したかったんですけど、Wキャストだとそうもいかなくて(笑)。仲良しの伊礼(彼方)君ともチームが別れてしまったのが残念です。とは言え、今回、多くの実力派の方たちと初共演させていただけて嬉しいです!

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――GREENとRED、2つのチームのお稽古をお互い“非公開”にするというお話もありますが。

おお、そんな話が!その辺り、トムさんなりのこだわりもありそうですね。僕はシンプルな考え方なので「お互いの稽古を見た方が色々つかめるんじゃないの?」なんてつい思ってしまったりもしますが(笑)。幕が開いた時に全く違う二つの世界が劇場にばーっと広がるって考えると、そういう手法も面白いかもしれませんね。

ミュージカル『グランドホテル』中川晃教インタビュー_3

中川流・稽古場での居方とは?

――『ピトレスク』(2013年)のお稽古場で中川さんを拝見した時に、演出家や共演者とディスカッションをしながらお稽古に参加なさっているという印象がありました。

あの時は僕が音楽も担当していて、そちらとの兼ね合いでいろいろな確認をしながら現場にいたというのが大きいかもしれません。そういう立ち位置で稽古場にいることもありますが、基本的には稽古場でのディスカッションってそんなに得意ではないんです。

稽古に入る時はまず俳優として準備出来ることを全部やって、自分の持っている引き出しを全てオープンにした状態で皆の中にいるようにします。そこで演出家が求めていることや共演者の状態をなるべく繊細にキャッチしながら一緒に作品を立ち上げていく…というのが僕のデフォルトですね。あと、言ってしまうと、本当は稽古…嫌いですから(笑)。

ミュージカル『グランドホテル』中川晃教インタビュー_4

――それはとても意外です!

もちろん、ダンスの振りのように皆で稽古場でやらないと立ち行かない部分もありますが、台本や譜面を覚える作業は自宅でも出来ますし、まずは個々がしっかりやれることをやった上で稽古場にそれを持ち寄ることが大切な気がします。これは三谷幸喜さんの『抜け目のない未亡人』に出させていただいた時に三谷さんも仰っていた事なんです。この時は皆さんのスケジュールの都合もあって一日に3,4時間という稽古時間がメインだったんですが、そこに全員が物凄い集中力で参加して、自分の力を出し切って、それぞれが課題を持ち帰ってまた次の稽古に備える…という方法で、僕にはとてもフィットしました。

――昨年夏の『SONG WRITERS』も各分野の優れた方たちが集まって、馴れ合わず、素敵な化学反応を起こした作品だと改めて思いました。

『SONG WRITERS』は最高の形で再演できたと思います。キャストもアンサンブル含め、全員がまた集まれましたし。僕にとって屋良朝幸という人と出会えたことは本当に大きかった。屋良っちのダンスはもちろんキレっキレだし、技術的にも凄いのですが、一番感動するのは彼の踊りが歌と“分離”していないということなんです。ちゃんと僕の歌が彼の一つ一つの振りの中で生きているんですよね。屋良っちとはまた絶対に一緒に何か作品を創りたいと思いますし、まずは早くご飯に行きたいです(笑)。お互い忙しくてなかなか会えないので。

ミュージカル『グランドホテル』中川晃教インタビュー_7

――もし、中川さんご自身がオットーと同じ立場に置かれたらどう過ごしますか。

…どうするんだろう…。きっとそんな宣告が下ったら、今、見えている世界の色の全てが変わるんだろうなあ…。僕もオットーのような状況に置かれたら、何かに希望を見出しながら、何とか生きていこうとすると思うのですが、その時に自分の希望となるのはやっぱり“音楽”…“歌”なんだと思います。生まれた時から常に自分の側にあって、いつも自分を支えてくれた“音楽”と共に命の火を燃やしていくのじゃないかと。もし、僕の“歌”を待ってくれる人が一人でもいるのだとしたら、そんな誰かのために自分が歌えるうちは歌い続けていきたいです。

――ありがとうございます。最後に、今後演じてみたい役や作品がありましたらぜひ!

7月に『ジャージー・ボーイズ』に出演することが決まって、改めていろいろ考えたのですが、これまで僕が参加してきたミュージカルって“音楽”がモチーフになっている作品がとても多いんです。ミュージカルのデビュー作となった『モーツァルト!』はモーツァルトの生涯を描いていますし、THE WHOの音楽でつづられる『TOMMY』やマッドネスの音楽を使った『OUR HOUSE』など…実は他にも結構あって。となると、これは自分にとっての特性であり、強味なんじゃないかとも思えてきたんですね。今年はデビュー15周年の年でもありますし、さらに“音楽”と寄り添いながら“音楽”を劇中で扱う作品にこれまで以上の濃さで挑戦していきたいと改めて思っています。

ミュージカル『グランドホテル』中川晃教インタビュー_6

『モーツァルト!』で鮮烈にミュージカルの世界に現れた中川晃教。デビューから15年…さまざまな作品で主演を務める彼を見て、これほどまでに音楽の神様に愛されたプレイヤーが他にいるだろうかといつも思う。

そんな中川がこの春挑戦するのが『グランドホテル』のオットー役。死の病に侵され、最後に憧れていたグランドホテルにやってくる会計士という、これまで彼が演じてきた役柄とは少々色合いの違うキャラクターだ。

本来圧倒的な「陽」のオーラをまとった彼が本作でどんなオットーを体現し、どう1920年代終盤のベルリンで生き抜くのか…中川晃教の新境地を早く客席で観たいと思う。

◆ミュージカル『グランドホテル』◆
2016年4月9日(土)~24日(日)赤坂ACTシアター
2016年4月27日(水)~28日(木)愛知県芸術劇場大ホール
2016年5月5日(木)~5月8日(日)梅田芸術劇場メインホール

◆2016年3月9日リリース 中川晃教 ニューアルバム『decade』◆

(撮影/松井伴実)

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