2016年4月9日(土)に、赤坂ACTシアターで開幕したミュージカル『グランドホテル』。1920年代終盤のベルリンを舞台に、ゴージャスな「グランドホテル」に宿泊する人々と、そこで働く従業員たちそれぞれにスポットをあてた群像劇だ。
本作の大きな見どころはGreen、Redの2つのチームで全く違う結末が用意されているという点。英国でも高い評価を得ている演出家、トム・サザーランド版のステージがどうなっているのか…今回は4月8日(金)に行われたGreenバージョンゲネプロの模様をレポートしたい(ネタバレあり)。
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1928年のドイツ・ベルリン。この地に建つグランドホテルには様々な事情を抱えた人々が集まってくる。余命宣告を受けた会計士、女優になることを夢見ているタイピスト、何度も引退興行を繰り返す老いたバレリーナ、借金取りに命を狙われている男爵etc…。彼らの人生はこのグランドホテルで一瞬交差し、また別れの時が来る。
この日、Greenチームで会計士・オットーを演じたのは中川晃教。死の病に冒されながらも、人生の最後にゴージャスな場所でリッチな生活を送ってみたいとグランドホテルを訪れるユダヤ人会計士を中川は時に切なく、時にチャーミングに演じ切る。もうじき死ぬかもしれない切羽詰まった状況の中で、中川のオットーは決して希望を失わないし、近づいてくる他人を常に信じ続ける…その姿と罪のない笑顔が胸に突き刺さった。
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とっくに旬を過ぎ、そのことを自覚しているものの、金銭的な問題から引退興行を繰り返さざるを得ないバレリーナ、グルシンスカヤ。他者の前ではプライドの高さを見せつけ、年下の男爵の前では弱さや愛らしさをのぞかせる芝居を安寿ミラは的確に魅せる。グルシンスカヤを献身的に支え、彼女に恋情を抱くラファエラ役の樹里咲穂の感情を抑えた演技と立ち居振る舞いはある種の倒錯に美しい魔法をかけていた。
爵位を有しながら、借金取りに追われ、大金を返さなければ命を取られるかもしれないガイゲルン男爵。宮原浩暢(LE VELVETS)はこれがミュージカル初出演とは思えない堂々とした演技と張りと深みのある声とで男爵役を好演。女優を目指すフレムシェン(昆夏美)にも粉をかけながら、泥棒に入った部屋でグルシンスカヤと恋に落ちるという難しい役どころに何とも言えない説得力を持たせている。彼とオットーとの偶然が生んだ友情はこの物語の一つの大きな救いだ。
本作『グランドホテル』は“グランドホテル形式”という言葉を後に生んだように「群像劇」として展開していく。つまり誰か際立った主役がいるのではなく、場面場面でさまざまな人物にスポットが当たっていくという構成。たった一晩で人々の運命は大きく変わり、彼らが去った後もまた誰かがグランドホテルにやってくる…その様はまるで人生の縮図を見ているかのようで、自らの“明日”についても考えさせられる。
3月に行われた公開稽古で明らかになったように、Greenチームのラストは「悲劇的」なバージョン。人々が旅立とうとした瞬間、それまで職務に忠実だったホテルの従業員たちにある変化が起こり、これからやってくる暗い時代の影を予想させる形で幕は下りる…たった一つの“希望”を残して。
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同じ台本、同じ音楽を使用しているにも拘らず、2つのチームが全く違うラストを迎えるトム・サザーランド版の『グランドホテル』。2バージョンを見比べ、自らの心にどんな化学反応が起きるのか体感するのも面白そうだ。
ミュージカル『グランドホテル』は4月24日(日)まで赤坂ACTシアターにて公演中。東京公演千穐楽後は愛知、大阪でも上演される。
尚、エンタステージではGreen、Redの各バージョンを深掘りしたコラムも近日掲載予定。こちらもお楽しみに!
(取材・文 上村由紀子)