ツケヤキバ旗揚げ公演『ぬるま湯のあとさき』稽古場レポート――「不惑」のリアル、「夢追人」へのエール

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ツケヤキバ旗揚げ公演『ぬるま湯のあとさき』稽古場レポート――「不惑」のリアル、「夢追人」へのエール

ツケヤキバ旗揚げ公演『ぬるま湯のあとさき』が、2022年12月21日(水)から12月27日(火)まで東京・下北沢 OFFOFFシアターにて上演される。ツケヤキバは、俳優の関口敦史が立ち上げた演劇ユニット。その創作の現場を取材した。

脚本は深井邦彦(HIGHcolors主宰)、演出は田村孝裕(ONEOR8)が手掛け、関口の新たな挑戦を支える。出演は、関口のほか、山口森広(ONEOR8)、今村裕次郎(小松台東)、富川一人(はえぎわ)。

物語の舞台は、男4人がルームシェアをする一軒家。2022年12月のクリスマスイブ、リビングでは一人の男が母親に電話をかけ、仕送りを頼んでいた。この男、俳優を生業としているが、それで食べていけているわけではない。きちんと社会に出たことがないのだ。それでも、男は黙々と台本と向かい続けている。

一緒に住んでいるのは、男がかわいがっている後輩と、一般企業で働く年上の男2人。全員アラフォーの男たちは、ささやかにクリスマスパーティをしようと準備をしていた。そんな時、後輩の男が突然「なんか怖いんすよね・・・なんで、出て行こうと思って。ここ、出ていきますね」と告げる。

右手にビール缶、左手に罪悪感を持って、日々をなんとなく暮らしていた男たちの今まで口にしていなかった本音が噴出し、価値観の違いでぶつかり合う。他人のことなんてよく分からない。自分のことだってよく分からない。ダメだけど、日々を一生懸命生きている男たちの、ある日の暮らしが描かれる。

主宰の関口は、新たなユニットを立ち上げようと思ったのは“コロナ禍での人生の変化”からだったと言う。「僕は今、39歳。40歳という節目の手前です。そういうタイミングで、まだやったことがないなと思い立ったのが、まだ主演をやったことがないなあ、好きな人を集めた演劇をやっていないなあ、ということだったんです。そんなわがままが叶えるチャンスをいただけて、やりたいことがやれてとても幸せです」。

そんな関口に、脚本の深井が書き下ろしたのは、なかなかに鋭利な脚本。実は、依頼を受けた当初はまったく違う話を書く予定だったそう。「当初はオレオレ詐欺を題材に書くつもりだったんですけど(笑)。皆さんとお話して、書き直したんです。自分の思う不安と、その先を託して」と深井。鋭利だけれど、演劇人として先を行く人々へのリスペクトを込めたラブレターにも感じる本だ。

しかし、演出の田村は「とんでもない挑戦状が来たと思いました(笑)」と笑う。確かに、演劇人には刺さりまくる内容だし、ともすれば重たくなってしまう。しかし、これを演出するのはONEOR8の田村。田村といえば、人間の心の機微を丁寧に紐解き、あたたかく見つめる演出を得意とする演出家だ。

「深井くんには、昭和の演劇人こう見えているんだなあと思いました。僕をはじめ、演劇界の中にいると、主人公にがっつり肩入れして見てしまうんですよ。でも、この『辛いなあ』と思う部分を深掘りいかないといけないし、おもしろくしないとすごく恥ずかしい。だから、覚悟を持って取り組んでいます」と語っていた。

田村と同じように、関口に集められた役者陣も「劇中での立場は違っても、僕らも役者だから演じていてつらい、つらい(笑)」「外から見ていたらこういう意見になるんだろうな」「自分が発する台詞がそのまま自分に刺さるんですよ」などと口にしていた。しかし、皆一様にとても楽しそうだ。

子どもの頃、大人ってもっとしっかりしているように見えた。でも実際に自分がなってみると、そういうものでもない。人生100年時代と言われるようになった今、アラフォーって人生のどのあたりなんだろう。普通ってなんだろう。ちゃんと生きるってなんだろう。

まだ夢を見ていてもいいのだろうか。「役者」というフィルターを通して描かれていることは、心の中にくすぶる何かを持っている人には、ぐさりと刺さる。取材をしていて、思わず涙がこぼれてしまった。もちろん、痛いところをつかれたという思いもあったけれど、まだ傷口から吹き出すものが自分の中にあったのだと思うと、妙に泣けたし、妙にすっきりとした気持ちになれた。

孔子の論語に「四十にして惑わず(不惑)」という一節があるが、迷ったっていいじゃない。付け焼き刃だっていいじゃない。ぬるま湯だっていいじゃない。人間だもの。

小劇場ならではの密な空間で、感情を大いに揺さぶられることで、今年1年の心に溜まったものを、全部吐き出させてくれるようなデトックス効果が得られる。自分を見つめ直して前向きになれる、そんな一時をくれる作品だ。

ツケヤキバ旗揚げ公演『ぬるま湯のあとさき』は12月21日(水)から12月27日(火)まで東京・下北沢 OFF・OFFシアターにて上演される。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

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ツケヤキバ旗揚げ公演『ぬるま湯のあとさき』公演情報

上演スケジュール

2022年12月21日(水)~12月27日(火) 下北沢 OFF・OFFシアター

【配信】Confetti Streaming Theater
価格:2,500円(税込)
※12月22日(木)より配信

【公演サイト】https://tukeyakiba.wixsite.com/home




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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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