梅津瑞樹×杉江大志×後藤大×陳内将『BIRTH』インタビュー!Wキャストで上演の今作、梅津・杉江・後藤のチームは「“演劇”をしない演劇」に

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2020年10月21日(水)まで、東京・よみうり大手町ホールにて舞台「BIRTH」が上演されている。本作はシライケイタの代表作で、シライが代表を務める劇団温泉ドラゴンでは足掛け5年に渡って上演し、韓国でも上演されるなど、国内外から高い評価を得ている戯曲だ。今回は、第24回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞の千葉哲也の演出のもと、9人の若手実力派俳優が4人芝居に挑んでいる。

ひとつはダイゴ役:梅津瑞樹、ユウジ役:杉江大志、マモル役:後藤大のチーム。そしてもうひとつのチームはダイゴ役:前山剛久、ユウジ役:玉城裕規、マモル役:佐藤祐吾がダブルキャストで演じる。そしてオザワ役はトリプルキャストで両チームに出演する陳内将・北園涼・章平。

詐欺の片棒を担ぐことになってしまったダイゴ(梅津・前山)、刑務所を出所し、ある「商売」でひと稼ぎしようとするユウジ(杉江・玉城)、ダイゴの友人でとある思いを抱えるマモル(後藤・佐藤)、裏社会の商売を助ける仕事をしているオザワ(陳内・北園・章平)・・・4人は「オレオレ詐欺」をしようとして出会うことになる。

真っ当な世界では生きられない男たちを、本番までにどう作り上げたのか。梅津、杉江、後藤、陳内にその作品づくりの過程から、Wキャスト・トリプルキャストの醍醐味、物語が描こうとしていることからそれぞれ何を感じているのか、話を聞いた。

――この『BIRTH』は、シライケイタさんが書かれた戯曲で、国内外で高い評価を得ている作品ですが、皆さんはこの本にどんな魅力を感じていますか?

梅津:僕たちは「オレオレ詐欺」を通じて関わり合う4人を演じるのですが、そういう設定以前に、真正面からぶつかり合っていく男たちが描かれています。みんな、大なり小なり何か欠けている。その欠けた部分につきまとう寂しさみたいなものは、登場人物たちだけではなく、誰しも感じるものだと思います。お芝居だからできるすごく贅沢な時間だと、見ている方にもそういう部分がおもしろいと思っていただける本だなと思いましたね。

杉江:個人的には、儚くてなんだかもどかしいという印象です。みんな、何かが足りない。足りないことは共通しているんですけど、足りないものがみんな違う。きっと、観てくださるお客さんが持って帰るものも、いつも以上に違うものになっているんじゃないかな。

後藤:僕は、それぞれ足りない中で、唯一共通しているのは“愛”だと思いました。みんな“愛”を探し求めて、本気でぶつかり合っています。まっすぐにぶつかり合うのは、やっていても気持ちがいいですし、観ている方にとってもそう思える作品なんじゃないかなと思います。

陳内:この作品、時代設定は今から10年くらい前なんですが、今やっても違和感のない、人間が持つ普遍の感情が描かれているんですよね。だから何回も上演されるし、国境も超えられる。演じる役者の年齢によっても、表現できることが違う。今回の出演者は、僕と玉城以外はみんな20代なんですけど、もし20代だけのチームと30代だけのチームとかでやってもまた違うおもしろさがありそうだなと。そんな化学反応も観てみたくなりました。

杉江:ああ~!それおもしろそう~!!

陳内:ね、そう思うよね。

――今回、それぞれダブルキャスト、陳内さんに至ってはトリプルキャストなんですよね。

陳内:そうなんです。今日の4人の中では、僕だけAチームにもBチームにも行けるので、一番美味しいなと思っています(笑)。例えば、梅ちゃんが演じる「ダイゴ」と、前ちゃん(前山)が演じる「ダイゴ」は、同じ演出をつけられてもそれぞれの身体を通して出てくるものは全然違う。

さっき、登場人物はみんな何かが“欠けている”“足りない”と話に出ましたが、演じる僕らもみんなそれぞれに欠けているピースが違う。両チームとできる身として俯瞰して見ていると、それがはっきり分かってすごく楽しいんです。ただ、全員一緒に稽古をしているので、トリプルキャストの「オザワ」は、稽古中一度も演じない日もあったんです(笑)。人がやっているの見ると、どうしてもやりたくなっちゃうんですよね・・・。

(※Aチーム:梅津・杉江・後藤、Bチーム:前山、玉城、佐藤、キャスト・スタッフ間でのチーム編成の呼び方)

――そうですよね(笑)。皆さん、ダブルキャスト・トリプルキャストの相手の方のことはどう見ていますか?

梅津:良い意味で、Bチームとの間に緊張感が走る瞬間もあって。それは、ちょっとした対抗意識や、自分にないものを相手が持っているのを見て生まれる羨望だなと。連日、前ちゃんさんの演じる「ダイゴ」を拝見し勉強しながらも、僕も負けてないぞ、と思っています(笑)。

杉江:僕の演じる「ユウジ」のダブルキャストは玉ちゃん(玉城裕規)なので・・・なんだろうなあ、すごくおもしろいです。玉ちゃんの「ユウジ」好きだな~、素敵だな~と思う瞬間がありすぎて、実はちょっと自分の「ユウジ」が迷走したこともありました。あんまり引っ張られ過ぎてもしょうがないから、いいなって思うところは取り入れて、本番までにもう一皮むけた役作りができたらいいなと思っています。

後藤:「マモル」は佐藤祐吾くんとダブルキャストなんですが、僕、最初に本を読んだ時にイメージした「マモル」の姿が、祐吾くんに近かったんです。そういうしゃべり方するだろうな、とか。それを見ながら勉強して、取り入れられるところは取り入れて、自分として遊べるところは自分なりの「マモル」として、楽しんでやっています。梅ちゃんの「ダイゴ」と大志くんの「ユウジ」との絡みの中から見つけたことも多いですね。

陳内:僕、「マモル」役の二人以外は全員共演したことがあるんですよ。もちろん「オザワ」を一緒に演じている北園涼も章平も。みんな、個々に音色があるんですよね。楽器が違うから、音色が違うのは当たり前のことで。二人が「オザワ」をどう演じようが、僕はぶれないです。

お客さんとして二人の芝居を見れるし、ギラつきもしないし、見せつけてやるという感覚もなくて。一緒にいい「オザワ」を作っていけたらいいね、という感じです。稽古が終わって、「オザワ」3人で一緒に帰る時、こうしていろいろ話せるのって幸せだなと思いました。

――Wキャスト・トリプルキャストの醍醐味ですね。ちなみに、両チームを知る陳内さんから見て、AチームとBチームにはどんな違いがありますか?

陳内:大雑把な言い方になってしまうんですが、Aチームは、いわゆる“演劇”をしない演劇、というイメージです。生っぽいのがいい。年齢的にもみんな僕より下なので、「オザワ」として少し外れたところから見ていられるという感覚があるからかもしれません。いろいろ、自然に引き出される感じがする。

Bチームは、逆に“演劇”をやるぞ、というか・・・ハマれば最高。諸刃の剣なんですけど、緊張感から生まれるヒリヒリとした感覚はスリルがあってAチームとはまた全然違うおもしろさがありますね。僕としては、玉城の「ユウジ」に気をつけるという心持ちです(笑)。玉城の「ユウジ」が切れたら終わりなので。

――なるほど・・・。では、お三方から見た3人の「オザワ」は?

杉江:「オザワ」はもう・・・。

梅津・杉江・後藤:全然違う(声を揃えて爆笑)!

杉江:共通しているのは“野暮ったいおじさん”、それぐらいです。それ以外はまったく違います。生きてきた時間の過ごし方が全然違う。

後藤:それぞれの背負っているバックグラウンドが違うから、僕たちにも見えてくるものが違うんですよね。どれも「オザワ」でやることも変わらないんですが、そこから得るものだけが変わるのがおもしろいなって。

杉江:将くんの「オザワ」はきっと工業系。涼くんの「オザワ」は、きっと高校は情報系だな。章平さんの「オザワ」は・・・体育会系ですね(笑)。

梅津:そこからきっと人生が違っているね(笑)。

――演出は千葉哲也さんですが、ご一緒してみてどうでしたか?

梅津:以前、千葉さんに演出をつけていただいたのは4年くらい前のことなんですが、「あっ、千葉さんだ」と懐かしい感覚を噛み締めました。

杉江:アイデアがすごいんですよね。同じ役を、一緒に作っていってくれている感じがすごくする。プレイヤーの視点をすごく感じてる。

後藤:プレイヤーとして、僕たちと同じ目線で作品を映してくれているって感じるそのアイデアがすごく楽しくて。僕の出したアイデアも取り入れてくださったりもして、まさに一緒に、という感覚でした。

陳内:千葉さん、当たり前なんですけどめちゃくちゃ芝居がうまいんですよ。稽古場では「ここはこんな感じ」って演じて見せてくださったんですけど、それ完コピしたい!ってなりました。千葉さんが稽古場に立つ「オザワ」に何かアドバイスをしだすと、待機している二人の「オザワ」もそこに群がっていくんですよ(笑)。千葉さんから盗めるものは盗もうと思ってやっているんだけど、なかなかあそこまでの男の色気は出せないんですよね。

杉江:千葉さん、「オザワ」をやりたいんじゃないかなって思って観てる(笑)。でも僕は、千葉さんが演じる「ダイゴ」とか、「マモル」も見てみたい!超おもしろいと思う。

陳内:そうそう。最初に言ったけど、30代の俳優とか、それ以上のベテラン勢がこの話をやったらどうなるんだろうってすごく興味がある。台詞とか背景にあるものは変わらないんですけど、「こいつらの正義ってなんだろう」という思いをどう体現するのか、観てみたい。

―このお話は、「オレオレ詐欺」から始まる物語ということですが・・・。

梅津:簡単に言うと、『オーシャンズ11』みたいな話ではないです(笑)。

杉江:あはは(笑)。そうだね。何ならこの4人、オレオレ詐欺はほぼできておりません!

一同;(爆笑)!

杉江:説明するのがすごく難しいんですけど、電車に例えると、「オレオレ詐欺」というワードはこの物語の“線路”です。その線路を走る電車には、一体どんな人たちが乗っているのか。事件があり、ぶつかり合い、思惑を持っている人たちが乗っているのか・・・みんな大事に思う人がいて、そのいろんな思いが交錯する様を見ていただく作品です 。うーん、うまく伝わるかな!

陳内:すべての台詞に「5W1H」が明確に詰め込まれています。面の台詞だけでなく、裏の台詞にも。「オレオレ詐欺」の集団だけど、見せたいのは詐欺の部分ではなく、この人間たちがどのようにしてこの台詞にたどり着いたのか、そこを観て感じてほしいですね。

――この作品における、大きな“キーワード”の一つに「母」というものもありますが、この作品に触れて、「母」という存在への意識の向け方に変化はありましたか?

梅津:他愛もない話なんですけど、稽古中に母とうなぎを食べに行ったことがあって。いつもだったらあまり何を話すかなんて意識しないのに、もうちょっとしっかり話そうって思いました。

陳内:僕も、連絡取りたいなって思った。あと、大事にしようって。

杉江:母の愛情って、やっぱすごいんだなって痛感しましたよね。父とは違う、母の愛。特に男にとって“お母さん”はすごく大きい存在なんだなって思うようになりました。母の愛情をもらえていた自分って、幸せなんだなって。

後藤:僕は、お母さんという存在への思いもですが、世の子どもたちの見方が変わりました。実際に、きっとこの4人みたいな子どもっていると思うんです。そういう子たちに、“愛”を知ってほしいなっていう思いが強くなりましたね。

陳内:生まれた時から悪い子はいないんですよ。悪いことに手を染めてしまうまでにも人生があって。何かやってしまった人の責任はもちろん、果たしてその人だけが悪いのか ・・・。そんなことを考えてしまうお話です。

――劇場や配信でこの物語を、劇場や配信で観て、感じていただきたいですね。

梅津:大の大人がこれだけ集まって、些細なことで喜んだり、悲しんだりする約100分です。演じている身として、この物語がどう見えるのか、なかなか評価しづらいんですが、とにかく僕らは「丁寧にやり取りを積み重ねていく」ということをと心がけてきたので。そのキャッチボールをおもしろいと思ってもらえるよう、がんばりたいと思います。

杉江:僕もこの作品の魅力を言葉にするのはすごく難しくて悩むんですけど、必ず観てくださる方の心に何かが残る作品になっていると思います。でもそれが何になるのか、僕たちも分かりません。ただ劇場から心に何かを持ってお家に帰ってほしいなと思います。欲を言えば、AチームとBチーム両方観てもらいたい!がんばるので楽しみにしていてください。

後藤:性別問わず、男4人の物語に共感できる部分がたくさんあって、我に返ったり、母親と思い出したり、子どもの頃を思い出したりすると思うんです。そして、喜怒哀楽がフルゲージに入るぐらい振り切れるので、感情をめちゃくちゃ揺さぶられると思います。観ていてきっと、いい意味で疲れると思いますけど(笑)。『BIRTH』というタイトルのとおり、その時に生まれるものを大事に感じて観てもらえたら嬉しいです。

陳内:台本って用意されているものだけど、次の台詞を用意している感じが、みんな、まったく見えないんですよ。一つ前に起こったことに対して、真っ直ぐぶつかり合って、真っ直ぐに返してくれる。このAチームはとてもピュアです。生感がすごくあって、愛すべきバカばっかりです。「オザワ」を演じていても、全然違うものになるんですよ。この違いを感じてもらえたらと思います。

皆さんが「お母さんに優しくしよう」とか、「人に優しくしよう」とか、家に帰った時に思ってくれていたら、僕らは成功だなと思っているので。ぜひ、楽しみにしていてください。

公演情報

『BIRTH』
2020年10月10日(土)~10月21日(水) よみうり大手町ホール

【脚本】シライケイタ
【演出】千葉哲也

【出演】
ダイゴ:梅津瑞樹・前山剛久
ユウジ:杉江大志・玉城裕規
マモル:後藤大・佐藤祐吾
オザワ:陳内将・北園涼・章平

おかあさん(声の出演):松永玲子

<チケット当日引き換え受付実施中>
チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/birth/
ほか、イープラス、ローソンチケットでも取扱あり

<ライブ配信>
【配信公演】10月10日(土)13:00/18:00、10月21日(水)12:30/16:30
【配信サービス】イープラス「Streaming+」:https://eplus.jp/birth-st/
【金額】3,500円(税込)
【アーカイブ期間】生配信終了から1週間(※生配信後1週間は購入可能)

【公式サイト】http://birth-stage.com/
【公式Twitter】@Birth_2020_10

(C) シライケイタ/BIRTH製作委員会

(リモート取材・文/エンタステージ編集部1号、写真/オフィシャル提供)

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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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