イマーシブシアター『サクラヒメ』演出:荒井信治×荒木健太朗×高田秀文(DAZZLE)インタビュー!「何を選択するのか、自分で決める70分」

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日本最古の歴史を持つ劇場、南座。歴史ある空間で、新しい演劇の形が花開いた。イマーシブシアター『サクラヒメ』 ~『桜姫東文章』より~には、純矢ちとせ、川原一馬、荒木健太朗、世界(EXILE/FANTASTICS from EXILE TRIBE)、平野泰新(MAG!C☆PRINCE)、Toyotaka(Beat Buddy Boi)、高田秀文(DAZZLE)、新里宏太と各ジャンルにおいてトップクラスの技術を持つ出演者たちが集まった。彼らのパフォーマンスが生み出す物語に、観客は“没入”し、自ら物語を選び取っていく。

“イマーシブシアター”の楽しさとは。創り上げる過程のおもしろさとは。演出を手掛けるDAZZLEの荒井信治と、出演者の荒木、高田(DAZZLE)に、それぞれの“体験”を語ってもらった。

――DAZZLEさんと言えば、これまでも様々なイマーシブシアターに取り組まれていますよね。精力的に取り組まれるようになったきっかけをお聞きしてもよろしいですか?

※DAZZLEは、本格的イマーシブシアター『Touch the Dark』『SHELTER』、東京ワンピースタワー×イマーシブシアター『時の箱が開く時』のプロデュース、京都での屋外イマーシブ『岡崎明治酒場』など、様々な形のイマーシブ型公演を手がけてきた。

荒井:ブロードウェイで、『スリープノーモア(Sleep No More)』という作品と出会ったことが始まりでした。うちのメンバーの飯塚浩一郎が先に観て、「ものすごい体験だったからやろう!」と興奮して話してくれたんですが、話を聞いてもよく分からなかったんです。これがイマーシブシアターを説明する時の難しい部分なんですが・・・(笑)。とにかく、体験してみないことにはイメージが湧かなかったので、僕も『スリープノーモア』を観に行ってみました。もう一つ、「不思議の国のアリス」を題材にした『ゼン・シー・フェル(Then she fell)』も観てきました。2017年頃のことだったと思います。

観たら、飯塚の興奮がすぐ分かりました。新しいエンタテインメントとしての可能性が見えて、新しい演劇体験として、我々から発信したい、これに勝るものを創りたい、という思いを抱きました。一方で、日本でやったら「おもしろい」に対する意見が分かれる気がしたんですね。

――「分かれる」というのは?

荒井:日本人の感覚として、自ら能動的に動くことが苦手な方も多い、ということです。分からないことも楽しめる方にはいいんですが、分からないとそこで終わってしまう方もいる。これは、東京ワンピースタワーでプロデュースさせていただいた時に顕著だったんですが、お客さんは「座って観る」ことに慣れているため、戸惑っている部分も感じたんです。

日本人は、ある程度お話が分かった方が、物語の一部になる楽しさを感じられるような気がするんですね。だから、海外でやっているイマーシブシアターよりもう一歩、物語として分かりやすくするというスタンスで、これまでも取り組んできました。

――高田さんは、DAZZLEの公演でも今回の『サクラヒメ』でも、演者としてお客様と接することになりますが、反応をどう見ていらっしゃいますか?

高田:イマーシブシアターはお客さんが自由に自分の足と目で観たいものを選んでいくので、DAZZLEの公演ではその場面にお客さんが「ゼロ」という瞬間もあったんですよ(笑)。でも、いつお客さんが自分の前にやってくるか分からないので、決して気を抜けない。お客さんもイマーシブシアターならではの体験をされますが、僕らも普通の舞台ではありえない体験をたくさんするおもしろさがありますね。

――荒木さんも、『スリープノーモーア』やDAZZLEさんの公演をご覧になったと伺いましたが、率直にどう感じられましたか?

荒木:初めて体験した時、「これ、何かに似た体験を知っているな?」と思ったんです。僕は田舎の出身なんですが、「ディズニーランドってこんなところだよ」と聞いた時の感覚を思い出したんですね。楽しそうな場所というイメージは抱いているけれど、距離のある場所。行ったことあるヤツだけが知っていて、テンションが高い(笑)。自分もイマーシブシアターを体験した時に、ぞわぞわして興奮を覚えたので、今回初めてイマーシブシアターをご覧になった方も、同じように「おもしろい!」ってノッてくれるんじゃないかと、期待しています。

――アミューズメントとしての側面は、USJが「ホテル・アルバート」というイマーシブシアター型のアトラクションを打ち出していて、すごく盛り上がっていました。

荒井:アトラクションとしてしっかり成り立っていたので、お客さんのエンタテインメントへの感度を高めるという意味でも、あれはすごく大きな取り組みだと思います。そして、今回は京都の格式ある劇場、南座さんとDAZZLE、そして多様なジャンルで活躍する方々が集まってやるというところに、大きな意味がありますね。

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――京都は古いものに新しいものをどんどん取り入れていく文化がありますが、南座さんでやるということには、どんな考えを持たれていますか?

高田:最初、話を聞いた時は信じられなかったです。400年も歴史のある劇場ですし、緊張するけどワクワクするし、メンバーもすごい顔ぶれだし・・・変な表現かもしれないですけど、カオス(笑)。

荒木:確かに(笑)。誰もやったことがないことがないだから、能動的にいった方がおもしろくなりそうだなと思いましたね。

荒井:松竹さん、えらい挑戦に出ましたよね。僕は、去年の5月頃に初めて南座に行ったんですけど、ちょうど新開場記念の「京都ミライマツリ2019」をやっている時だったから、まさに客席がフラット化した状態だったんです。だから、席がある状態に違和感が・・・(笑)。今回南座さんに初めて来られる方は、もしかしたら僕と同じ気持ちになるかもしれません。

――今回は、そのフラット化した劇場内、ワンフロアで今回のイマーシブシアターを行うと伺いました。

荒木:そうなんです。だから、普段の舞台だと自分が出ていないシーンを見ながら、全体像を把握していくんですが、この作品では同時多発的に芝居が行われていくので、他の人が何をやっているのか、よく分からないんです。休憩中に「こんなことがあったんだよ」と話しても、分からない(笑)。毎日が初日みたい。

荒井:逆に、みんながどんなことやってるのか見てしまったら、それは“嘘”になっちゃうからね。

高田:本番中も、お互いが何をやっているのか絶対に見れないですからね。みんなどんな動きしているのか、動画で観てみたいです。

荒井:荒木くんは、ものすごい不安だったんだろうなって、今の話しぶりから感じました。

荒木:不安でしたよ(笑)。DAZZLEさんの作品だから、めちゃめちゃ踊るのか?!とも思っていましたし、台本も普通の舞台とは全然違うものですし・・・。

荒井:様々な技術を持った方が集まっているので、そこをしっかり見せていきたいと思っています。得意なことは武器だし、お客さんも期待していること。逆のことをがんばってやってもらうのもいいけれど、お客さんに新鮮さはもたらせてもぐっと突き抜けるものはなかなか生まれませんから。特に、今回は普通の舞台よりも近い距離で役者さんのお芝居を観ることができるから、指先一つにまで生き様が見える。そういう状況では、その人が磨いてきたものを見せた方が心を動かせると思うんですよね。

――すべての登場人物のすべての行動が見られる状態になっている、と思うのですが、台本はどのようになっているのでしょうか?

荒井:今回の作品では、サクラヒメと出会う男5人それぞれにストーリーがあり、その人の行動がすべて舞台の上に存在します。その人の1日の流れが分かるくらい、ずっとお客さんの見えるところで常に生活している感じ。そして、台詞を書いた台本もありますが、「この人」が「この時」に「どこにいる」ということを決めたものが、ものすごい量、存在します。

荒木:台本だけを見ると、すごく特殊ですよね。読む・・・という感じでもなく。1分くらいで読み終わっちゃう(笑)。だから、純矢(ちとせ)さんも(川原)一馬も俺も、台本で生きてきた人間だから、初舞台をやっているような感覚ですよ。

高田:(平野)泰新は、これが初舞台なんですよね?

荒木:そうだって言ってました。だから、今回の台本を見ながら「台本ってこういう感じなんですね~」って目を輝かせていたから、そうじゃないよ!これは普通じゃないよ!って言ってたんですけど(笑)。

高田:この先がちょっと心配(笑)。

荒井:これがカルチャーショックになるはずなんだけどね(笑)。

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――『サクラヒメ』では、1階席が“都人(みやこびと)”、2・3階席が“雲上人(うんじょうびと)”として、お客様も物語の登場人物になるという仕掛けが、非常におもしろいと思いました。

荒木:舞台って「稽古で半分、お客さんが入ってようやく10割」と言うんですが、本当にこれは「やるまでは誰も分からん!」と思います。お客さんが入ることで、日によってどんどん違う物語が生まれるんだろうな。想像でも、そのおもしろさはすごく分かるから、稽古からみんな能動的に楽しんでいますけど、やってみるまでは僕らも本当の楽しさは分からないのかもしれない。

高田:もしかしたら、客席に僕らよりキャラの濃いお客さんがいるかも。

荒井:それも否めない(笑)。今回、“都人”の皆さんに着物を着ていただくことにしたのは、上から観た時の視界も美しくしたかったんです。上からの視点のあるイマーシブシアターをやるのは、DAZZLEとしても初の取り組みなのですが、 上からの視点にも没入感が欲しくて。どちらの視点からも、登場人物の一人という気持ちを持っていただけたら、みんなが楽しい空間にできると思っています。

高田:没入感って、現場にいないと生まれないものですからね。

荒井:フラットスペースの真ん中で回転しながら観たら、入ってくるのは薄い情報量かもしれないけれど、全体が見えるかもしれない(笑)。上から観たら、視線が吸い寄せられるという感覚を楽しめるかもしれない。どこからどんな見方をしても、楽しい作品にしたいと思っています。

――人間の目はどうして二つしかないのかと思ってしまうぐらい、それぞれの物語が全部観たくなってしまいそうなのですが、結末もマルチエンディングなんですよね。

荒井:はい、お客さんの投票で、その日の結末が決まります。やっている方も、その日がどういう結果になるのか、最後まで分かりません。その日のお客さんが「何を観たいか」「そこまで何を観てきたか」によって、日々変化すると思います。

荒木:演じている側からすると、まず自分が見られているのかどうかも分からないんですよ。もちろん、そんなこと関係なく演者はみんな一生懸命にやると思うんだけど、選ばれるために突出することもないですから。選んでほしいという気持ちがないとは言わないけれど、この気持ち・・・説明するの難しい(笑)。

荒井:その人の素敵なところを観たら、最後まで観たくなると思うんですよね。最初から、誰に投票するか決めてくる方もいるかもしれない。でも、推しているからこそ逆の選択をする方もいるかもしれない。

高田:その稽古をしている時、すごくおもしろいことが起こりましたよね(笑)。

荒井:そうそう。稽古の時、投票結果をくじで決めたんですよ。僕がくじを引いたら、まず川原くんの「陰陽師」が出まして。もう一回やろうと思って引いたら、また「陰陽師」。引き直したんですが、また「陰陽師?!」という結果だったので、純矢さんに引いてもらったら・・・それでも「陰陽師!!!」ということがありました(笑)。

高田:陰陽師だけに、なんか術かけてる?ってなりましたもんね。

荒井:本番も24公演、陰陽師エンドかもしれない(笑)。

荒木:僕ら選択対象の5人は、消極的な意味ではなく「選ばれないよ」って言うんです。だから、俺が絶対選ばれるって、って言わない理由もよく分かる。選ばれなくても、それぞれの物語を生きた結果でしかなくて。

――マルチエンディングというと、役者の皆さんの間にも意識が芽生えるものかと思ったのですが、そうではないんですね。

荒井:もしかしたら、全員がダンサーだったり、出自が同じだったりしたら、そういうこともあったかもしれないね。でも、今回見事に(出演者の皆さんの持つ背景の)ジャンルがバラバラだから。

――おそらく、誰一人として同じものを観たということにはならない公演だと思います。終わったあと、観た方同士で感想をシェアするのも楽しそうです。

荒井:選択肢となっている5人以外の登場人物、アンサンブルの皆さんにも一人一人の物語があります。演出をしている僕でも、全部を把握しているか?と言われたら、「無理」って言っちゃうぐらい、ものすごい情報量です。でも、そのすべてを無理に分かってもらう気もないですし、演者が個々に把握してくれていれば大丈夫です。何を選択するのか、自分で決める70分は、あっという間だと思います。

荒木:演者として、稽古中に演出家に「僕、どうでした?」って聞いて「そこ観てなかった、別のところ観てた」って言われたらちょっとしゅんとするんですけど、今回は「ですよね~!」ってなりますから(笑)。

高田:まずは、体験してほしいですね。DAZZLEとしても、完全に新しいものができあがりそうな予感がしています。出演者としては、僕だけが体験するので、ここで得た感覚をDAZZLEのメンバーともシェアしたいです。

荒井:見ていないシーンのことは見てみたくなるし、リピーターによって、作品の動きも変わってきたりするのがおもしろい。

――どんな作品に仕上がっているのか、楽しみにしています。

荒井:顔合わせでメインキャストが集まった時から、すごくいい空気を感じたんです。一枚岩で作品に向かっていける、いい空気を。だから、大丈夫です。自信を持ってお届けいたします。

高田:僕もすべてにおいて期待しています。共演する皆さんのすごいところを、盗みつつ・・・盗賊役だけに(笑)。いいとこどりをして、今後につなげたいです。

荒木:何年後かに「あの伝説の舞台に出てたんですね!」って言われるようになりたいですね。僕は、メインキャストの中では一番年上ですが、甘えるところは甘えて、しっかりするところはしっかり支えて、みんなでやってやろうぜ!って意識を持って。初舞台のような経験は、年齢を重ねれば重ねるほどできないものですから。僕らも、日々幕が開くのを楽しみにやっていきたいと思います。

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◆公演情報

イマーシブシアター『サクラヒメ』~「桜姫東文章」より~
2020年1月24日(金)~2月4日(火) 南座

【製作】松竹株式会社
【脚本・演出】DAZZLE

【キャスト】
出演
純矢ちとせ
川原一馬 荒木健太朗 世界(EXILE/FANTASTICS from EXILE TRIBE)
平野泰新(MAG!C ☆ PRINCE) Toyotaka(Beat Buddy Boi)
高田秀文(DAZZLE) 新里宏太

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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