トニー賞のミュージカル部門リバイバル作品賞に輝いた『王様と私』をはじめ、『On the Town(踊る大紐育)』『On the Twentieth Century(20世紀号に乗って)』など、今年は、ミュージカル史に足跡を刻むクラシカルな名作が目立った。
ほかにも、ノミネートは逃してしまったが、授賞式でパフォーマンスを披露したヴァネッサ・ハジェンズ主演の『Gigi(恋の手ほどき)』もある。こちらの作品は、オードリー・ヘプバーンが初演舞台でヒロインを務めたことで有名だ。
ちなみに『巴里のアメリカ人』は、映画から初のミュージカル化された作品なので、リバイバルではなく作品賞にノミネートされている。
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今年のトニー賞の主役となり、ミュージカル作品賞に輝いた『Fun Home』のような新しい作品を生み出しながらも、しっかりとリバイバル作品も評価するところが、ブロードウェイの懐の深さ!
特に今年のリバイバル作品は、異国情緒あふれるエレガンスを復活させた『王様と私』、名曲にのせて歌とダンスで軽快に彩る『On the Town』、そして絶妙なキャスティングで、痛快シチュエーション・コメディを復活させた『On the Twentieth Century』と三者三様の個性的な作品が出そろった。
いずれも古き良き“ザ・ブロードウェイ・ミュージカル”だが、特に注目したいのが、クリスティン・チェノウェス×ピーター・ギャラガーのミュージカル『On the Twentieth Century』だ。
2時間半、笑いっぱなしの痛快コメディ!
『On the Twentieth Century』は、1978年の初演以来、ブロードウェイでは約40年ぶりのリバイバルとなる。脚本は、ベティ・カムデンとアドルフ・グリーンのコンビ。彼らは、同じくトニー賞にノミネートされた『On the Town』の脚本を手掛けるなど、1940年代から数々の名作を生み出し、ブロードウェイの黄金期を支えた伝説的なクリエイターだ。作曲は、これまたブロードウェイで知らない者はいない名作曲家サイ・コールマン。
舞台は、1930年代、シカゴからニューヨークにむかう特急列車20世紀号。
落ち目の舞台プロデューサー兼演出家のオスカーが、再起をかけて列車に同乗した元カノでオスカー女優のリリー・ガーランドに出演をとりつけるために奔走する。
ニューヨークのセントラル・ステーションに到着するまで、制限時間は16時間。その間に、リリーをくどくため、資金を作り、脚本を書き上げ、今カレの妨害をうまくかわさないといけない。
限られた空間、限られた時間で展開するシチュエーション・コメディだ。
日本の舞台にたとえるならば、三谷幸喜のコメディが近いだろう。
とにかく観客はずっと笑いっぱなし!
笑いと拍手が、劇場の熱を高めていく。
トップスターたちの圧倒的なパフォーマンス力!
ヒロインの大女優リリーを演じるのは、今年、トニー賞の司会を務めたクリスティン・チェノウェス。トニー賞受賞経験のあるトップ女優だ。「小柄な体のどこにそんなエネルギーがあるんだ…」と驚くばかりのパフォーマンス力を誇る。
テレビや映画に進出し、舞台から遠のいていた彼女が、5年ぶりにブロードウェイに戻ってきたのが本作だ。
さらに落ち目の演出家オスカー役は、映画『あなたが寝ている間に…』やドラマ『コバート・アフェア』のピーター・ギャラガー。あの眉毛が太い濃い系俳優が、まさか歌って踊るとは!
実は、彼もブロードウェイからキャリアをスタートさせた俳優だ。
2大スターの共演作として注目を集めた本作だが、リリーの今カレを演じるアンディ・カールも目が離せない。彼は、昨年ミュージカル版『ロッキー』の主役に抜擢され、トニー賞主演男優賞にノミネートされた若手の注目株だ。『ロッキー』自体は、残念ながら興行的に成功したとは言えなかったが、ロッキーを演じた彼の肉体は本物。今回は、その肉体を活かし、“ハンサムな筋肉おバカ”を、体を張って演じている。
疾走する特急20世紀号のごとく、スピーディーな展開と演出、
軽快な歌と音楽、そしてダンス、
30年代のレトロ・ゴージャスな衣装と舞台、
そして、キャストたちの技ありの名演技!
「コメディは言葉がわからないと…」という心配は、この舞台にかぎっては無用だ。
言葉などわからなくても、ストーリーが伝わってくる、まさに言葉を超えたミュージカルの真骨頂を楽しめる。
まさしく奇跡的なキャスティングの舞台だった。
来年は、どんなリバイバル作品が登場するのか。
トニー賞を狙うリバイバル作品は、特に実力と人気を兼ね備えたスターをキャスティングする傾向にあるので、ぜひ、注目してほしい。