2019年8月末から上演されるブロードウェイミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』に、女王蜂のアヴちゃん(Vo)が出演する。これまで三上博史、山本耕史、森山未來らが演じてきたへドヴィグ役には、浦井健治が挑戦。その相手役となるイツァークに抜擢されたアヴちゃんは、2017年の『ロッキー・ホラー・ショー』に続く2度目のミュージカル出演となる。公演を控えた心境を聞くと、ゆったりとした笑顔の向こうに闘志がギラリと光った。
――2年ぶりのミュージカルご出演ですね。
ほんとに楽しみです。ミュージカルや舞台は成長させていただける場だと思っているので、レベルアップできる場所としてすごく大事。私がライフワークとして表現をする場としては「女王蜂」がすでにあるけれど、外からいただくものが血肉になっていくこともあるので。
――2度目の舞台出演で、挑戦してみたいことは?
前回『ロッキー・ホラー・ショー』はバンドメンバーが全員出演していたので、心強かったんです。帰り道が一緒だったりして、いろんな面ですごく助けてもらった。でも、今回は一人。自分の力を試せるように戦っていきたいです。
――お一人でこの舞台に出演すると決まった時はいかがでしたか?
周りは「すごいね!」と応援してくれました。メンバーにとっては、外から自分のバンドのボーカル見ることがなかなかないと思う。彼女たちに観てもらえることが嬉しいです。
しかもイツァーク役だと聞いて、さらに嬉しかったです。『ヘドウィグ~』はこれまでに舞台を2回と映画を観ました。イツァークは「何を考えてるんだろう?」と気持ちが知りたい人物だったので、演じながらじっくりと考えていきたいな。また、私がイツァークとして浦井健治さん演じるヘドウィグの相手役に呼ばれるということは、強さや、煮えたぎる何かを求められてるんだろうなと感じました。そのこともとても嬉しかったので、出演を快諾しました。
浦井さんに「ガチでいきます」
――イツァークとは、どう向き合おうとしていますか?
ちょっとした見せ場でイツァークが自分を主張すると、ヘドウィグは「あんた引っ込んでなさいよ」という態度を取るんです。でもそれほど見せ場じゃない場面でも、ヘドウィグが「アンタ引っ込んで!私より目立たないでよ!」って言うぐらい、内から光るものを放ちたい。悪目立ちじゃなくて「この子から目を離せない」という存在でいられたらいいな。
浦井さんのヘドウィグにちゃんと愛されて、ちゃんと嫌われたいんです。遠慮なく「イツァークちょっと!」と強く思っていただけるようなイツァークになりたいです。
――そんな風に向かってこられたら、浦井さんもすごく刺激的でしょうね。お二人の関係性によって、作品全体の印象がずいぶん変わりそうです。
ヘドウィグにとってただお付きの子ではなく、魂の片割れになりたいです。ヘドウィグもイツァークも、人のせいにしたり、幼くてちょっとダメな子だけど、そんな二人が自分を見つけてもう一度生まれ直していく・・・という物語にまで持っていきたいな。
――浦井さんとお仕事するのは、これが初めてですよね。
初めてです。最初にご挨拶した時に「ガチでいこうね」って話をしました。もしかしたら私の方から「ガチでいくからヨロシク!」っていう空気を出したのかもしれないですけど(笑)。
浦井さんは舞台をずっとやってこられて、俳優として絶対的な人気がある方なので、やっぱり私が思い切り立ち向かわないといけない。私はミュージカル2本目ですし、お芝居に対してまだまだ余白があるけれど、バンドや音楽をやっていることでできる戦い方をしないと浦井さんの対(つい)ではいられない。タイマン張り過ぎていてもヘドウィグとイツァークにはなれないけど、借りてきた猫にならずに・・・ガチでいこう、と。
――ヘドウィグ役が浦井さんということについて、楽しみは?
演劇の知り合いが「浦井さんがヘドウィグ?!」ってめちゃくちゃ騒いでいたんです。本人もおっしゃっていましたけど、やっぱり浦井さんにとって挑戦作なんだなと感じています。
私自身は舞台での浦井さんを観ていた時から「すごい役者さんだ!」と思っていたのでどんなヘドウィグになるか楽しみ。彼は王子様みたいだから、かわいくプリンセスを演じてくれると思う。だからこそ、本気でぶつかっていきます。
ライブとミュージカルは違うけれど、どっちも次があるかはわからない
――ライブとミュージカル、どう違うと感じます?
ミュージカルの場合は「なんでこの子はこうなんだろう」と自分が納得するまでうまくできないんです。とりあえず歌も台詞も覚えてみるけれど、納得しないで言う台詞と、自分の心の底から湧いてくる台詞は違う。だから「どうしてこの子はこんなことしたんだろう?」「この歌詞はどういう意味なんだろう?」とずっと考え続ける中で「あ、分かるかも」と辿り着く。そうしたら、自分の言葉として出せるようになるのがおもしろいです。
歌い方も違います。ミュージカルでは自分じゃない自分になるから、納得すれば歌える。もし納得しなかったら、私、たぶん何もできないです。
――自分ではない“役”に対峙することも、ライブとは違うかもしれないですね。
“役”というより、“自分と距離のある人”という感じ。「自分だったらこうするのにこの子はこうするんだな、それってどういう気持ちなんだろうな」と想像して、終着点まで考えきる。とことん考えないと、心のどこかで「そっちにいっちゃうのおかしくない?」って疑問を持ってしまうから。そんなチグハグな状態で舞台上に上がるわけにはいかない。だから、納得するまですごく考えます。
――一人の人間について納得するまで考えるって、難しいですよね。自分のことだって考えてもよく分からないのに。
難しいです。演出で「はい、泣いて」「そこで怒って」と言われても、筋道をたてて考えないと「何でですか?」と立ち止まっちゃう。その感情に行き着くまでの気持ちを作らないといけないから、一人の人間を理解するってすごく難しい。
でも「これでいいのかな?こういうことかな?」と考えて続けているうちに千秋楽になるんですよね。曲も演目も自分が書いたわけではないから、ずっとハテナの連続。正解がないからこそ、磨かれていくものでもあるのかなと思っています。
――ステージに立っている感覚も、ライブとミュージカルでは違いますか?
ライブ中は集中すると、お客さんがいないように感じる時もあるんです。客席がパンパンで満員でも、自分の部屋にいるような感覚・・・。それでもライブはセンターにいる自分にピンスポが真っ直ぐにあたっているから、お客さんに見てもらえる。でも舞台ではそれだと見てもらえないということは、すごく意識します。
――きっと共演者との関係性も違うのでしょう。
バンドも共同作業ではあるんですけど、ちょっと違うんです。自分に出来ない言語を担当してもらってるみたいな感じ。舞台ももちろんそうだと思うんだけれど、役を通しているから。「この人だ」ということをフューチャーするライブバンドとは違うかな・・・どちらもそれぞれの良さがあります。。
――女王蜂ファンの方へは、どんなところが見どころになりそうでしょう?
ライブやバンドの場合でも、いつも次があるかどうかなんて誰も分からない想いでステージに立ちますけど、舞台って同じメンバーで同じ作品を何度も再演するのは難しい。だからこそ、目や心に焼きつけがいがある、観た後に胸が熱くなるようにしっかりやりたい。
それから、舞台って聞くと、かしこまっちゃう人もいるかもしれないけれど、そんなことないです。お値段もライブチケットの倍くらいするし、スタンディングじゃなくて着席だけど、それでも遠慮を感じないように壁はちゃんと壊していきますので、ぜひ気軽に遊びにきてほしいです。
大変じゃないのに楽しいことなんてない
――作品そのものの魅力はどんなところに感じていますか?
性別適合手術だったり、恋愛だったり、音楽だったり、いろんなことがファクターとなって、たくさんの人に当てはまるような気持ちが描かれていると思いました。期待して、期待した以上には返してもらえなくて、裏切られたように感じたり、それでも大好きだったり・・・そんな気持ち、誰もが感じることじゃないかな。そんな気持ちを、キャッチーかつポップに書いている作品です。
この作品に描かれている時代は、ベルリンの壁崩壊とか、いろんなことが重なってすごくセンセーショナルに感じられるけれど、時間が経って、今の時代にとってヘドウィグはある意味クラシックで重厚なものになった。だからこそ今、私たちがやることで新しい解釈を見つけられたり、新たに芽吹いてきたりするものがあれば素敵なんじゃないかな。
――演出の福山桜子さんとは、どんな舞台にされたいなどお話しましたか?
福山さんは、よく女王蜂のライブに来てくれるんです。以前、ライブに来てくださった時に「舞台、すごい気持ち入れてやりたいね!」って言ったら、「そうだよね!気持ちだよ!」と言いながらドンドンドンって胸を叩いていました(笑)。ものすごく熱い人。女王蜂のライブにもいっぱい来て「好きだ」って言ってくれるからこそ、私がちょっとでも萎縮したら嫌だと思うから、より伸び伸びとやらないと。期待していただけるのは、楽しいです。大変じゃないのに楽しいことなんてないから、ただただ楽しみです。
――アヴちゃんが、どんなイツァークを見せてくださるのか楽しみです!
私もです!ミュージカル好きな方の期待もすごく感じる舞台なので、ぜひ・・・。浦井王子とタイマン張るので観に来てください。アヴちゃんより(ハート)。ここ、ハートをつけて読んでくださいね!「王子と女王でタイマン張るんだ、超恐い!でも超かわいい!」という気持ちで期待していてください。よろしくお願いします!
◆公演情報
ブロードウェイミュージカル「『HEDWIG AND THE ANGRY INCH』ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」
【東京公演】2019年8月31日(土)~9月8日(日)EXシアター六本木
【福岡公演】2019年9月11日(水)・9月12日(木) Zepp Fukuoka
【愛知公演】2019年9月14日(土)~9月16日(月・祝) Zepp Nagoya
【大阪公演】2019年9月20日(金)~9月23日(月・祝) Zepp Namba
【東京公演】2019年9月26日(木)~9月29日(日) Zepp Tokyo
【作】ジョン・キャメロン・ミッチェル
【作詞・作曲】スティーヴン・トラスク
【翻訳・演出】福山桜子
【歌詞】及川眠子
【音楽監督】大塚茜
【出演】
ヘドウィグ:浦井健治
イツァーク:アヴちゃん(女王蜂)
Band(THE ANGRY INCH):DURAN(Gt)、YUTARO(Ba)、楠瀬タクヤ(Dr)、大橋英之(Gt)、大塚茜(Key)
【公式サイト】https://www.hedwig2019.jp/
(取材・文・撮影/河野桃子)