2019年夏に上演される舞台『絢爛とか爛漫とか』。昭和初期、文士の道を志す4人の姿を描いた飯島早苗の作品は、「モダンボーイ版」「モダンガール版」が作られ、変わりゆく時代の中で、繰り返し上演されてきた。今回、初演の演出を手掛けた鈴木裕美のもと、安西慎太郎、鈴木勝大、川原一馬、加治将樹という4名が集い、新たな時代に青春群像劇を再び放つ。
上演に向け、鈴木裕美と俳優陣4名に、本作の上演に向けて語ってもらった。その言葉から見えてきたのは“共感”と、古き良き時代の暮らしに対する“表現”。演劇とがっつり向き合うことを楽しみにしているそれぞれの言葉をお届けする。
――鈴木裕美さんは、本作の初演も手掛けられていますよね。改めて、この作品を演出する上でどう感じられていますか?
鈴木裕美:初演をやったのは26年前なんですが、今回の座組で一番若い安西くんが生まれた年なんですよね。ほかの3人もチビッコだった頃。子どもが大人になるまでの間に、私は演出家としてどれぐらい成長できたのか、進歩できているのか、自分自身が試されると思っています。そして、若い方たちとまたこの作品と向き合うことで、新しい本の魅力を発見できるんじゃないかとも思っています。(脚本の)飯島が書いた意味が、今の方たちが読むとまた違って聞こえるんじゃないか、とか。そういうこともあったらいいなと、楽しみにしています。
――俳優陣の皆さんは、出演が決まっていかがでしたか?
安西:僕は、個人的に、ずっと裕美さんの演出を受けたいという思いがあったので、本作でそれが叶うことになって、ワクワクしています。台本は、いろんな思いが渦巻いていてとてもおもしろかったです。素敵なキャストの皆さん、スタッフさんと、しっかりとカンパニーでセッションをして、おもしろがりながら作っていけたらいいなと思っています。
鈴木勝大:時代も職業も、今の僕とはまったく違うんですが、台本を読んでいると、友達の会話を聞いているような気持ちになりました。目標や夢があるのに、なかなか手を伸ばせない、言い訳をしたり、うだうだしていたり・・・いるんですよね、僕の周りにも(笑)。身近に感じるところがたくさんあったので、早く稽古で、皆さんがそれぞれの役を演じている姿が見てみたくなりました。
川原:僕は昨年、裕美さんと『宝塚BOYS』という作品でご一緒させていただいていまして。その時「僕、こういう役もできるんだ」って初めて気づかせていただいたんです。今回の役も、裕美さんが「この役は一馬にいいんじゃないか」と思ってくださったんだと思っていますが、台本を読んで、また再発見がありました。
加治:昭和初期を描いているんですが、どの時代でも通ずるものだという感覚が、あとから追いかけてくるのがおもしろいなと思いました。モダンボーイと言いつつ、現代にも通じる4パターンの男像というか・・・人間が、しっかりと描かれているなと感じました。裕美さんと、お三方と、令和という時代に、またこの作品をお届けしたいなと思います。
――裕美さんは、この4名の皆さんにどんな印象を持たれていますか?
鈴木裕美:安西くんと鈴木くんは、逆の配役もアリかなと思ったんですよ。安西くんに演じてもらうことにした主人公の古賀は、ダサくないといけない。鈴木くんに演じてもらう泉は、非常に頭が良くて冷静で場が読めていて、かつ、優しい。たぶん、二人ともどっちの要素も持っているんですよ。安西くんも、鈴木くんも、かっこいいところもあるし、きっとダサいところもある。今回、どっちを強調していただくか考えた末、今回の配役になりました。
4人の中で、唯一一緒に作品作りをしたことがある一馬には、ちょっと変態な加藤という役をお願いしました。ぶっちゃけ、合うだろうなと(笑)。
川原:ありがとうございます(笑)。
鈴木裕美:加治くんに演じてもらう諸岡には、ある種の朗らかさ、生き抜く強さというものがほしかったんです。加治くんとは、一緒に飲んだりしていてね。一度も一緒に仕事をしていないのに、誰かが呼んだらすぐに来てくれるんですよ(笑)。なんか、そういう姿から生きる強さを感じていたので、適役かなと思っています。
――皆さん、演出家として裕美さんにどんな印象を持ってらっしゃいますか?
安西:ご一緒できることが決まってから、いろんな方にお話を聞いたんですが、とても演劇を熟知されている方で、今なお挑戦し続ける方という声をたくさん聞きました。あとは、怖いっていうのを・・・。
鈴木裕美:(笑)。
安西:それがどういう怖さなのかは、今は分からないんですけれども(笑)。ものを作る上でのいい厳しさを持っていらっしゃる方なのではないかなと、僕は解釈しています。もしかしたら、僕、ボロボロになるかもしれないんですけど。そういうところを含めて楽しみです。
鈴木勝大:僕は、オーディションを通じて裕美さんとお会いしました。その時に、裕美さんがいろんな人にかけていた言葉で、印象に残っているものがあって、今も僕の中に残っています。今回は、もっと密度の高い稽古という場で、あれを体験できるんだなと思うと楽しみで仕方ないです。・・・なんですが、川原くんにすごくビビらされているんですよ(笑)。
川原:それは、前回の僕らの話だから(笑)。その時の経験は、僕の中ですごく大きいものなんです。裕美さんの演出を受けさせていただいたことで、僕の中で、浄化された部分がたくさんあったんです。絶対的に信じられる演出家さんだと思っています。見捨てないし、裏切らない。責任感と言うと軽く聞こえてしまうかもしれないんですが、僕はすごく重いことだと思うんです。今回もおもしろい作品にできるかは、僕ら次第。そして、僕次第だと思っています(笑)。
加治:責任重大だな(笑)!
川原:はいっ!がんばりまーす!!
加治:僕の裕美さんの印象は、すごーくよくしゃべるお姉さん。
一同:(爆笑)!
鈴木裕美:それは、飲みの席たからね(笑)。
加治:そうです、先ほど裕美さんがおっしゃっていたとおり、飲み会などでお会いしてはいたんですが、お仕事をするのはこれが初めてなので、作品は観てきましたが、稽古場にいる裕美さんはまだ見たことがないんです。・・・僕も、いろんな俳優から「怖い」って聞きますよ(笑)。でも、裕美さんと出会って「変わった」と言う俳優が、100%なんです。同時に、いろんな先輩に「加治、お前は絶対裕美さんの演出受けた方がいいぞ」って言われてきました。今回その念願が叶いました。怖さも楽しみながら、作品を作れたらと思います。
――稽古場での裕美さんが「怖い」と言うのは・・・。
川原:僕、「怖い」とは言ってないんです(笑)。単純な「怖さ」ではなく、絶対的に意味のあることで。ただ、人間追い詰められると思ってもないことを口に出してしまったり、よく分からない行動をすることがあるじゃないですか。稽古中に泥沼化することが何回かあったので、「怖い」というのはそういうことですね。
鈴木裕美:私、セラミックの歯を入れていたことがあるんですが、稽古中に3回割れているんですよ。あったまきて(笑)。
加治:マジですか(笑)。
鈴木裕美:歯医者さんに「絶対また割るからもうセラミックは入れてあげない」って言われて、今はそこだけ金歯になってるんだけど(笑)。一馬と一緒にやった作品は、金歯になっていなかったら、割れていた稽古場でした。
一同:(爆笑)!
鈴木裕美:私、人生で140本ぐらい芝居作っているけど、そのうち歯が割れたのはその4回だけだからね(笑)。
川原:最初の2週間くらいは稽古場に立てない(出てこない)役だったので、見てたら分かるんですよ。でも、いざ立つと見えなくなってしまう、極限状態になる稽古場だったんです。今回は、そうならないように・・・みんなで自主稽古しようね!
加治:自主稽古メインになるの?!
一同:(爆笑)!!
――裕美さんが稽古場で大切にされていることってなんですか?
鈴木裕美:大切にしていること・・・まずは、ちゃんと見る、ということですね。見ていた風、聞いていた風にはしない。俳優さんって、すごく勘の良い方が多いので、人の嘘を見抜くんですよ。ここにいる4人も、きっと出会ってすぐに、相手が自分の敵か味方か分かる人たちだと思います。分かるでしょ?分からないとは言わせないよ(笑)。俳優さんは、たいていそういう感覚を持っている人たちなので、嘘をつかないようにします。盛ったりしない。気に入らないことは、ちゃんと伝えます。言わなくてもどうせバレるので。そうしないと信頼を得ることもできないので、嘘をつかない。何か伝えるために、ちゃんと見るし、ちゃんと聞く。そういうことをしたいと思っています。
――先ほど“共感”できると皆さんおっしゃっていましたが、どのような部分に、特に共感されますか?
安西:僕は、古賀に一番共感できたんですよね。ほぼ全部共感・・・。言動もそうですし、精神状態が限界を超えた時の行動とかも。でも、なんでだろう?この作品、珍しくほぼ全部共感できるんです。稽古で突き詰めていったら分かるのかなあ。
鈴木:僕も同じ。冷静に、客観的に見ていると「早く書けばいいのに・・・」とか思っちゃうんですけど(笑)。それを自分に置きかえてみると、第一声に「でもなぁ・・・」って言っちゃったり、ダメだったら深く傷ついちゃうなあって考えたり、うだうだしちゃう気がする。本気でやったことで失敗するって、一番怖いじゃないですか。本気でほしいものがあって、本気で努力したのに、手が届かないというのは、傷つくし、かっこ悪いし、情けない気持ちになるから。挫折を味わったあと、もう一度立ち上がれるのか。それが怖くて、中途半端になってしまったり、違う方向に必死になってしまったりとか、思い当たる節がある・・・。自分のことを見ているようでもあるし、身の回りの人を見ているようでもあるから、ちょっと痛くなってくるんですよね(笑)。でも、そこがおもしろい部分でもあるんだと思います。
川原:目標や夢を持っている人たちが同じ場にいる状況って、どの時代にもあると思うんです。人としての事件性って、どの時代にも共通して伝わるものがあるなと思ったので。時代が変わっても、心情の移り変わりは変わらないものがあるんだって思います。
加治:少し陳腐な言い方になってしまうんですが、ここに書かれていることって“あるある”なんじゃないかなという気がしています。俳優4人、同じ世代が集まれば、この作品のような話になるんですよ(笑)。「お前は仕事があっていいなあ」って言うヤツがいて、「俺だってそんなに仕事があるわけじゃないよ。あ、でも明日朝早いから帰るわ」って言うヤツがいて、黙って会話を聞いているだけでバカにしているのか楽しんでいるのかわからないヤツがいて(笑)。
俳優だけじゃなく、きっと皆さんにもあると思うんです。だからこれ、男性に観てもらってもおもしろいと思うんですよ。こういうことあったなあという方もいらっしゃるでしょうし、今まさにこういう状態の方もいらっしゃるだろうし、世代を超えて楽しめるのではないかなと思います。
――普遍的な共感を得つつ、公開されたビジュアルは、昭和初期感たっぷりですね。
加治:時代はあんまり意識しないって言っても、ビジュアル面では、この時代の人を演じるって難しいところもあるよね。この時代、所作がすごく厳しかったから。撮影ではそれっぽく見せられても、稽古に入って動くとちゃんとできているかどうか、すけて見えると思うんですよ。それは、これからの課題かもしれないですね。
川原:特に、僕と加治さんは、和装なので、単純な姿勢一つとっても、ちゃんと所作を勉強しないといけないなと思っています。
鈴木裕美:所作もそうだし、この物語は春夏秋冬に分けて書かれているので、その季節ごとの日本の暮らしも、表現していきたいです。マンションの暮らしでは分からない、四季を丁寧に暮らしている姿を。
実は初演の時、お客さんが細かいところまで観てくださって「あれ、楽しい!」「こんな風に四季を楽しんでいたんだね」と言ってくださっていたんです。私は、そこは強く意図してはいなかったんだけど、この作品のおもしろさって、そういうところにもあるのかなと。自然な所作を身につけるのは大変かもしれないけれど、俳優さんたちもやっていて楽しいんじゃないかな。
――舞台美術に対して、現時点持っているイメージはありますか?
鈴木裕美:初演をやったシアタートップスは154席、今回も180席ぐらいの劇場です。この作品は、小さいところでやった方がいいに決まっている作品なんですよ。男たちがぐずぐずしゃべって、あーあ、っていう内容ですから(笑)。それを、そのままお客様に覗いていただけるような感じにできたらいいなと思っているので、すごく贅沢な空間になるんじゃないかなと思います。
例えば、蚊取り線香の匂いが客席にいても感じられるだろうし、冬に火鉢の上に置かれたやかんからしゅーっと湯気が立ち上っているのも見て聞いて感じられる。きっと、紀伊國屋ホールとかの大きさだと、最後列まで届かないんです。細かいところまで作り込むのは、美術的には案外お金がかかることなんですが、丁寧に作りたいなと思っています。
それから、昭和初期って服装もとてもかわいいんですよね。モダンボーイ、モダンガールの時代ですから。どんな手ぬぐい持っているか、とか、細かいところも楽しめるようにしたいですね。音楽は、幕間しか使わないと思いますが、音からも生活が伝わるようにしたいです。例えば、使うかわかりませんが、しじみ売りやお豆腐売りの声が聞こえてくる、とか。当時は、こっちから出向くんじゃなくて、お店が売り歩いちゃいますから。そういうところも、楽しめるようにしたいですね。
――DDD青山クロスシアターで、和の作品が上演されるのは珍しい気がします。
鈴木裕美:確かに。あそこで、日本家屋を体感してもらえたらいいですよね。ところで、皆さん和モノの作品、出たことあるの?
加治:僕はあります。
川原:ありますが、戦争の時代ですね。
鈴木勝大:僕も。
鈴木裕美:そうか~。ワークショップとかをやると、結構キャリアのある役者さんでも「日本人の役は初めてです」っていうことがあるんだよね。靴を履かないで舞台に上がったことがないとも言ってた。靴を履かないで舞台に上がるのがこんなに心もとないことなのかって。
安西:僕はこの時代の作品をやるのは初めてなので、靴を履かないで舞台に立ったことはないです・・・。
鈴木裕美:畳のある芝居も初めて?
安西:はい。
鈴木裕美:オ~ウ!実家には畳あった?
安西:実家にはありました。
鈴木勝大:僕はなかったです。
鈴木裕美:!!・・・これが現代の日本なんですね。今の若者は、旅館に行った時しか畳を見ることがないって聞いてたけど、本当なんだね。
加治:畳もそうですけど、蚊取り線香も今はあまり使わないじゃないですか。あんまりよく知らないんだけど、なんか懐かしい気、しません?ほかにも、昭和の時代って“生きる”という気が満ちている気がして、どこか憧れがあります。
鈴木裕美:そういうことをきちんと伝えられるようにして、細かいところまで楽しんでもらえるものにしたいよね。
――それでは、最後にお客様へメッセージをお願いします。
安西:文学も、演劇も、人間が生きる上で必要な成分なのかなと思うんです。この作品を読んでそれを強く感じたので、僕らもお客様とって必要な成分になる作品を作っていきたいです。
鈴木勝大:これ、おもしろいと思うポイントって人それぞれだなって思うんですよ。台本を読んでいても、僕はここおもしろいと思ったけど、人によっては全然違うんじゃないかと
思うし。感想もきっと、十人十色になると思うので、好きに観ていただけたらなと。“何かしら”楽しめるんじゃないかと思います!
(一同、鈴木勝大さんの「何かしら」という言葉がツボに入る)
川原:僕は、この本がとても好きになりました。今、この時期に、このメンバーで、この作品をできるということに、すごくワクワクしています。そして、本当に僕次第だと思います!がんばります。
加治:最後の一言、責任重大だな(笑)。あと、さっき鈴木くんが言った「何かしら楽しめる」がいい言葉すぎて、それ以上の言葉が浮かばなくなっちゃった・・・何かしら楽しめると思います(笑)!
鈴木裕美:(笑)。今回ご一緒させていただく方たちは、みんな「役者」だなと思う方たちです。本気で、がっつり芝居をやりたいです。ガチでやろう!と思っていますし、たぶんそれに応えてくれる方たちだろうと思います。そこを圧倒的に見せられるものにしたいと思います。もちろん、見た目の美しい方たちでもあるので、女性のファンが多いと思うんですが、さっき加治くんも言ってたけど、男の人にも観てもらいたいね。女性も男性も、共感できると思うので。がっつり演劇をお目にかけたいと思います。
◆公演情報
舞台『絢爛とか爛漫とか』
2019年8月20日(火)~9月13日(金) 東京・DDD青山クロスシアター
【作】飯島早苗
【演出】鈴木裕美
【出演】安西慎太郎 鈴木勝大 川原一馬 加治将樹
チケット一般発売日:2019年6月22日(土)10:00~
【公式HP】http://kenran.westage.jp
(撮影/エンタステージ編集部)