安西慎太郎×松田凌『幸福な職場』インタビュー!「現実にあったこと。その温かさや生々しさを伝えたい」

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2017年1月に5度目の再演を迎える『幸福な職場』。これは、昭和30年代の実話である。日本で初めて知的障がい者を雇用した町工場の、最初の一歩を描いた心に優しい物語だ。
この日、出演者らは、モデルとなったチョーク工場・日本理化学工業を訪れた。現在は従業員の7割が知的障がい者という同工場は、明るく和やかな雰囲気に包まれている。その空気を感じながら、キャストの安西慎太郎と松田凌に話を伺った。

安西慎太郎×松田凌『幸福な職場』インタビュー

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――お二人の共演は2作目ですね。

松田:そうですね。舞台『K』第二章-AROUSAL OF KING-と、第三章では映像を介しての共演でした。

安西:それ以来、仲良くしていただけて嬉しいですね。

松田:でも、共演したことがあるのは馬渕(英里何)さんとシンタだけなんだよね。シンタは、誰かいる?

安西:(谷口)賢志さんとは6月に『Sin of Sleeping Snow』で共演したばかりです。作・演出のきたむらけんじさんとも初めてですし、楽しみです。

――お互いのことを、どんな役者だと思いますか?

安西:凌君はもう、ミスターストイック俳優。

松田:ええー?

安西:凌君は、初めて共演させていただいた『K』第二章-AROUSAL OF KING-で座長だったんです。その時、自分のことを淡々とやりながら、周りのキャストの空気や、作品が向かわなくちゃいけない方向にちゃんとフォーカスを当ててくれていた。とくに舞台上での凌君を見ていると、「自分は今のままじゃあかんぞ」「この人、こっちをちゃんと向いているな」「この人に付いて行かなきゃ」と思わせてくれる。あと、この人と早く共演したいなって思わせてくれる役者さんです。

安西慎太郎×松田凌『幸福な職場』インタビュー_2

松田:なんだそれ(笑)嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいね。

安西:ははは(笑)

松田:僕も同じで、早く共演したかったですね。『K』ではあまり多く絡めなかったですが、安西慎太郎という役者はすごく嫉妬を覚えさせる役者なんです。個性が強く、魅力がある。シンタ自身はどう思っているのかわからないけど、本当に役になってしまう人だから。

安西:うわー、恥ずかしいですね。でもまた同じ作品にいられることが嬉しいのは、本心ですよ!きっと刺激になるだろうし、自分も刺激を与えられるようにお芝居したいです。

――作品を読まれての第一印象はいかがですか?

松田:僕は・・・・・・本当に正直なことを言うと、初めに台本を読んだ時は「あ、短編なんだな」と思いました。想像していたより、小気味よく読めてしまったんです。それは、ページ数が少ないわけでも、物語の内容が薄いわけでもない。たぶん、日常に近すぎるんだろうな。登場人物の出会いや心情の変化に疑問を持つことなく、「なるほど、そういったことがあったんだな」と素直に受け入れられたんですよ。

安西慎太郎×松田凌『幸福な職場』インタビュー_3

安西:僕もそう。最初のリアルな感想は「本当にあったことなんだな」と。もちろん感動もしたし、人と人との繋がりを感じたりもしたんですけど、それよりも先に「そうか、実際にあったことなんだな」という感想の方が強かったですね。自分が全く知らないことが書かれていたからかもしれません。今とは時代背景が違う昭和39年に、知的障がいを持っている方を正社員として雇用する重みってあると思うんです。当時、それを実現したということが一番驚きました。

松田:すごいことだよね。しかも工場って重機や危険物を扱うこともあるので、とても危険だと思うんです。何かあった時に責任を取らなきゃいけない。だから、日本で初めて知的障がいを持つ方々を雇用することは、とても大変だったと思います。それが、今実際に工場で働いている人たちのベースになっている。

安西:現実にこんなことがあったんだということを、今回の舞台を通していろんなことを知ることができるので、ぜひいろんな人に観ていただいて、いろんなことを知って感じてもらえれば嬉しいです。

安西慎太郎×松田凌『幸福な職場』インタビュー_4

松田:そうだね。知的障がい者の女の子・聡美ちゃんを中心とした一人一人の気持ちに近い感情は、誰も持ったことがあると思うんですよ。自分が共感しなくても「そう思う人もいるよね」と感じるんじゃないかな。また、会社の人たちが身障者と言われる人たちを受け入れるきっかけになるシーン・・・そこで起きるひとつの閃きのようなものは、自分達の生活にもありうるんでしょうね。「どうにかしなきゃいけない」と思った時に、スイッチが切り替わるように奇跡的なことが起きたりする。「あっ」と心が震えるような気づきは、観て下さった方もきっと感じていただけるんじゃないかな。

安西:あったかい気持ちになる話ですよね。僕、台本を読む前は、正直ちょっと重い話なのかなと思っていたんです・・・。

松田:そうだね、最初はね。

安西:でも、まったくそんなことない。登場人物の思いやりが感じられて、心がほわっとする温かい話です。まぁ、時々は心がキュッと苦しくなる瞬間はあるかもしれないですけれど。

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松田:ちょうどいい温かさだよね。ただ、役者としては、日常に近いお芝居ってすごく難しいんだろうなと思うんです。リアルを求めすぎると緩急がつかないので、作品の内容が伝わらなかったりするかもしれません。けれど、普段ご飯を食べたり、朝起きて着替えて・・・といった日常に寄り添ったお芝居を大切にしたい。この台本を読んだ時に感じた、温かさや生々しさをお伝えしたいな。だから僕たちは「芝居をするぞ!」と身構えすぎず、気合を入れすぎず、大切なことをしっかりと拾ってお届けしたいなと思っています。

安西:お客さんが「お芝居を観に来ているんだ!」という感覚にしたくないですね。例えば、僕達が今日初めて工場にやって来て「こんなふうに働いているんですねえ」という感覚で観ていただけると、すごく良いかなと思います。

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松田:また、今回数回目の再演になりますが、少し台本が変わるらしいです。エピソードが増えるとのことなので、僕たちもすごく楽しみですし、過去作をご覧になった方にも深みを感じていただけると思いますよ。

――今日初めて、舞台となった実際の工場に来てみていかがですか?

安西:台本を読んだ時に想像していたままの雰囲気でした。それに、仕事を大切に楽しんでやっているんだなと感じました。なにより、すれ違っても「こんにちはー!」って大きな声で言ってくださることに、すごく感動しましたね。「おはようございます」とか「ありがとうございます」という挨拶は、人として当たり前のことだけど、意外とできないと思うんです。僕も黙っちゃうことありますし。だけど、人に不快な気持ちを与えないように挨拶をしたりという基本的なことができている環境が素敵ですね。“これは守りましょうね”“こうやって人と接しましょうね”というこの会社の教えのようなことを、一人ひとりが大切に守っていることで、工場にとても良い空気が溢れているなと感じます。

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松田:シンタが言った通り、普段の当たり前のことって一番幸せなことなんですよね。例えば、語弊があるかもしれませんが・・・知的障がいを持った方々が働いている工場だと聞くと「頑張ってるね」「勇気がもらえる」「感動しました」と感じる人もいるかもしれません。でも俺は、それはちょっと違うんじゃないかなと思う。もちろん従業員の方々は誇りを持って働いていらっしゃるので、それを評価したり言葉をかけることは大切なんだけど、みんな普通に働いているんです。この「普通」になっているということがすごい。作品にも出てきますが、最初は知的障がいを持っている方が工場で働くということはとても困難なことだったのに、今は普通になっている状況は、とても幸せなこと。これが本当の『幸福な職場』だとしたら、僕たちはこの『幸福な職場』ができるまでのプロローグをしっかりと描かなければいけない。実際に働いている皆さんや、工場で出来上がったチョークを見て「あぁ、ここが今回の作品の未来なんだな」と思いました。

安西:舞台を観たお客さんも、実際の事実に興味持ってくれたらいいですよね。僕も今回の台本をいただいて初めて、日本で最初に知的障がいを持っている方を雇用した会社がここで、今は会社の7割がそういった方だということを知りました。そんなことを、興味を持って調べたり、実際に行ってみたりする人が増えると良いな。

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◆プロフィール
安西慎太郎(あんざいしんたろう)
1993年、神奈川県出身。2012年舞台『コーパス・クリスティ 聖骸』でデビュー。主な出演舞台作は、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン、『もののふ白き虎』(主演)、『アルカディア』、『幽霊』など。今後、2017年1月スタートのTVドラマ『男水!』(日本テレビ系列)連続ドラマ&5月に舞台公演が控えている。

松田凌(まつだりょう)
1991年、兵庫県出身。2012年、『ミュージカル『薄桜鬼』斎藤一篇』にて初舞台・初主演を務める。以後、舞台『メサイア-銅ノ章-』『ZIPANGパイレーツ』に主演、ドラマ『仮面ライダー鎧武/ガイム』、ドラマ『ニーチェ先生』など舞台や映像で活躍中。来年1月に『男水!』(NTV)の連続ドラマ主演と5月の同名舞台主演、4月にはミュージカル『花・虞美人』が控えている。

◆舞台『幸福な職場』
2017年1月26日(木)~1月29日(日) 東京・世田谷パブリックシアター
公式サイト
https://www.koufukunashokuba.com/

(撮影:高橋将志)

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この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

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