青柳尊哉×須賀貴匡インタビュー『受取人不明』国境を越えた親友同士の往復書簡

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『受取人不明』青柳尊哉×須賀貴匡インタビュー

2018年9月13日(木)より、東京・赤坂RED/THEATERにて『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』が上演される。本公演は異なる俳優による2チームで上演。先に初日を迎えるのは、青柳尊哉と須賀貴匡の顔合わせ。『ウルトラマンオーブ』宿敵役ジャグラーと『仮面ライダー龍騎』主演の特撮コンビとなる二人に話を聞いた。

原作小説は1938年にアメリカのストーリ誌で連載され人気を博し、日本でも小説化され、オフ・ブロードウェイで舞台上演されるなど多くの人に衝撃を与えてきた。今回、日本初演として翻訳上演される。

物語は、1832年から2年間に交わされた20数通の手紙によって進む。ミュンヘンに住むドイツ人マルティンとアメリカに住むユダヤ人マックスの親友二人は、国境を越えて手紙を送りあう。ドイツの情勢の変化にともない、二人の関係も少しずつ変化していく……。それは、第二次世界大戦でドイツのナチスがユダヤ人迫害を行う少し前のこと。

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目次

距離は離れているけれど“二人で一人”

――実は、青柳さんの推薦で須賀さんが相手役になったと聞きましたが?

青柳:本気の須賀貴匡と芝居をしたいな、という思いがあったので相手役をお願いしたんです。そしたら脚本を読んで「尊哉、これめっちゃ面白いな!でもヤベーぞ!?」と興奮していた。やると決めた瞬間から尻に火がついた作品なので、向き合う日々がすごく美しい時間になっているなと思います。

須賀:素晴らしい脚本だな、と思ったんですよね。同時に、難しい作品だろうという予感で「ヤバイぞ!」と。でも実際に稽古が始まって、充実した時間を積み重ねられていることについては感謝しかないです。毎日が面白くて、いい時間を過ごしています。尊哉に指名してもらった嬉しさを、真剣に作品としてお返しできたらいいな。

――最初に台本を読んでの感想は?

青柳:最初は安易に考えていたんです。親友がすれ違っていったり、手紙などの通信手段に気持ちを乗せたりすることに時代は関係ないなと思って、自分でもできるんじゃないかと思っていました。いざ始めたらとんでもない!台詞という大波に飲み込まれています(笑)。

須賀:僕もです。面白い作品であると同時に、これは俳優としてしっかり見せるのは大変なことだぞ、と。1930年代の話ですけれど、現代にも変換できる非常にメッセージ性が高い作品です。

――アメリカに住むユダヤ人のマックスとミュンヘンに住むドイツ人のマルティンとの、国境を越えた往復書簡で物語が進んでいきます。

青柳:やればやるほど、この二人は“二人で一人”なんだなと感じます。二人は主張の仕方や正義の持ち方が少し違うのかもしれないけど、根底に抱えているのは愛。どちらの気持ちも分かるし、もし反対の役を演じても、僕の中の人への思いや社会への憤怒をぶつけて演じるんだろうな。僕は転校経験があるので、環境が変わるとものの見方や捉え方が変わったり、良くも悪くも新しい環境に流される瞬間があるのは分かります。この作品では、アメリカで一緒に暮らしていた二人のうち、マルティンが故郷のドイツに帰国したところから手紙のやりとりが始まります。そうやって環境が変わると考えが変化していくことは、当時の強烈な時代背景だとより強くあるのかなあ。

須賀:その変化が良い時も悪い時もあるよね。環境の違い、人種の違い、宗教の違いで人は様変わりしていくことで成長にもつながりますし、すれ違いにも繋がるかもしれない。今作では二人を繋ぎ止めているのが“手紙”というツールですが、手紙って一方的な主張しかできないので難しい。直接顔合わせてコミュニケーションをとる大事さやもどかしさも感じます。

――手紙を演じる、というのは演劇としても珍しいシチュエーションですが、やってみていかがですか?

青柳:文章って都合よく解釈できてしまうんだなと。舞台上では自分が書いた手紙を読み上げて、同時にもう一方がそれを目で読んでいるという構成なんですけれど、受け取る方は自分の都合の良い変換の仕方をしている。それは現代のLINEやTwitterでもすごく感じます。

須賀:確かに一方的な主義や主張を作ってしまうことは多いよね。でも本来は「思いをしたためる」という素敵な日本語のように、ただ気持ちを伝えるものだったはず。それが文字になることで、受け取り手の主義主張や感情が入ってくる。それを演じるのは特殊な形の演劇ではあるよね。

青柳:手紙によって二人の感情がずれていく様子が、演劇によって劇場全体に広がっていくんだろうな。それを今は探りながら稽古しています。手紙は相手に思いを伝えるものだからものすごく喋るんですが、話し言葉ではなく文字なので、相手にとって分かりやすい言葉で短く伝えようとしている。思ったことの全てを書いているわけではない。俳優は、簡潔に表された文章に思いを乗せて読むけれど、書き言葉を台詞として発するのは少し妙な感覚です。手紙という文字を読むからこそ、こちらが見えているものがお客さんにも見えてくるように伝えたいなと強く思う芝居です。

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これは“二人芝居”なのか?

――初めての二人芝居はいかがですか?

青柳:二人芝居なのかな、これ(笑)。

須賀:ちょっと特殊だよね。直接的な絡みがないので、お互いにぶつかったり向き合って会話する中で物語を進めていくわけではない。でも同じ舞台上にいるので、お互いの空気を感じたいと思っています。あまり見たことのない演劇ですよ。

青柳:登場する俳優は二人だけですけれど、芝居を積み上げていくとそこにはいない三人目が現れてくる。僕たちの言葉を通して、手紙の中に登場する人物や、部屋の外の世界が見えてくるだろうから、それは二人芝居の楽しさなのかな。俳優二人だけで舞台を任せてもらえることが、すごくありがたいです。ただ、台本の面白さはご馳走ですが、実際にやってみると大変!言うは易く行うは難しですよ。やっぱり台本って読むだけでなく、演じてみないと分からないんだなぁ。

――相手のことをどんな俳優だと思いますか?

青柳:自由で開放感に溢れている人なのかと思ってたんですけれど、意外と自分に鎖を打ち込んで行く人だなと今回発見しました。これまでは、自分を解放していくための鎖をいっぱい持っていて、それをゆっくりはがして作品に向かっていく姿を見ていたんです。でもその前に、彼は多くを拾っていって自分を縛り、身動きを取れなくした先で自由を探すんだということが分かりました。見ていて「あれ、そんなにがんじがらめにしていくんです?」って感じた。多くの俳優が重い鎖を早くおろしたいと思っているだろうから、おもしろいです。

須賀:そうなんですよ!一度自分の中に溜めて溜めて、そして溢れた先に、果たしてどこまで行けるかということをやっているイメージです。捨てるためにまず入れる。尊哉は違うよね。とっても軽やかで、良いバランス感覚を保ちながら演じている。頭がいいんだろうな。

青柳:そうなんですよ、頭がいいんですよ(笑)。

――大河内直子さんの演出はいかがですか?

須賀:とても自由にやらせていただいています。知らず知らずのうちに手のひらの上で遊ばせてもらってるような感じです。大河内さんは元々蜷川幸雄さんのところでお仕事をされていた方で、僕も二本ほど蜷川さんの舞台に立たせていただいたこともあり、たまに蜷川さんの影がしっかりと見える時があってドキッとするんですよ。

青柳:僕は(大河内)直子さんとは2回目。前回『BLOODY POETRY』でご一緒した時に「この人は僕を全然違う場所に連れて行ってくれる人なんじゃないか」と思ったのを覚えています。この人だったら大丈夫と思える。稽古場でも、大河内さんは常に意識が劇場に向かっているんですよ。だから稽古場では苦しいこともあるけれど、舞台に立った時に初めて稽古場で言われたことが分かるんだろうなと思うと楽しみだなぁ。楽しみながら静かに殺されているんじゃないかとも思うこともありますが、苦しんだ先の美しいものを劇場で見せられればいいな。

――稽古段階から実際の小道具などが整っていて、美しい空間になるのではと期待します!

青柳:そうなんですよ、ツッコミどころがない!こんなに環境が揃っていたら、面白くなかったら俳優がダメだってことになるのでは、というほどプロに囲まれてしまっている。ここに俳優が最後の仕上げをしていくんですけど、もう僕らが出なくても良いんじゃないかってくらい一つの美術作品みたいな空間。

須賀:そうだね。もう俳優が出てこない舞台も楽しいかも!

――お願いですから出てください(笑)。

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僕たちのチームは“泥くさい”

――作品の見どころや、大事にしていることはどんなところですか?

須賀:背景には戦争があるけれど、文字でのやり取りやコミュニケーションの重要性はいつも同じなので、この時代でなくても成り立つ物語じゃないかな。お互いがお互いを思い合ったり傷つけ合ったりすることは、今も変わらない。

青柳:うん。第二次世界対戦に入る前の熱狂していく時代のドイツが背景にはありますが、僕たちの仕事はその時代を伝えることじゃない。それよりも人としての儚さや怒りを大事にしたい。人が人を傷つけることは誰にでもあるし、そこには愛があるから憎しみが存在したりする。手紙のやり取りという文字だけでは見えてこないものを、演劇だからこそ感じてもらえればいいですね。

須賀:現代社会の基礎でもあるような作品だと思います。皆さんの日常の中にもいろんな感情が潜んでいるはず。きっと何かしら自分の心が動くものが眠っていると思うので、楽しんでいただければ嬉しいです。

青柳:物語を観に来るというよりも、人と人がぶつかっている間にある何かを観てもらえればいいな。僕たち二人だからこそ、浮き上がらせることができる風景や共感や思いをこれからの稽古で一生懸命見つけて捕まえていきます。それを劇場で離した時、物語を越えて見えてくるものがあるんだと思います。ただ僕たち二人の一挙手一投足を観ていただき、そして、実際には登場しない3人目や社会や世界の絶望のようなものを堪能してもらえれば良いな。

――2チームあることで、相手チームを意識されたりします?

青柳:池田努さんと畠山典之さんのチームとは全然違います。同じことをやっているのに、タイミングや見えてくるものが別物。僕たちはもともと共演経験があったので、稽古に入る前からこそこそ自主稽古をしていたんです。でも一度通して読むとヘトヘトになってしまうので、「よし、今日は飲もう!」と飲みに行ったりを繰り返していました(笑)。池田さんと畠山さんは稽古場できちんと咀嚼しながら吐き出して積み上げていく大人なつくり方なので、僕たちの方が泥くさいかもしれない・・・。

須賀:なんか暑苦しいよね。僕たちの自主稽古は、稽古時間より飲んでる時間の方が長い。舞台がドイツだから「ドイツビールを探しに行こう!」とドイツ料理屋に行ったり。これが血肉になればいいな(笑)。

青柳:でもこれだけ向き合っていると、公演を終えた時に悲しくなりそうだな。しばらく台詞が僕の中に残っていて、ゆっくりゆっくり抜けていくんだろうなと想像すると、本番前から少し寂しい。そんな作品にはなかなか出会えないので、本当に感謝しています。

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◆公演情報
unrato#3『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』
9月13日(木)~9月17日(月) 赤坂RED/THEATER
【作】クレスマン・テイラー
【脚色】フランク・ダンロップ
【翻訳】小田島創志
【演出】大河内直子

【出演(登場順)】
青柳尊哉、須賀貴匡
池田努、畠山典之

『受取人不明』青柳尊哉×須賀貴匡インタビュー_6

(撮影/交泰)
(取材・文/河野桃子)

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この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

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