世代の違う3チームによる濃厚な二人芝居『受取人不明』稽古場レポート

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5日間の上演にもかかわらず口コミとリピーターにより好評の声が膨らんでいった二人芝居『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』。熱望を受けてすぐに再演が決定し、約1年を経て2019年10月3日(水)に初日を迎える。初演は2チーム(青柳尊哉&須賀貴匡、池田努&畠山典之)だったが、今回はそこにもう1チーム(高木渉&大石継太)が加わる。計3チーム6名の俳優が集う稽古場の様子をレポートする。

稽古はシーンごとでなく、最初から最後まで演出家が止めることなく約90分を通す。それを1日で各3チーム、そして“稽古場だけの特別ペア”による合計4回が繰り返された。観ている方も体力が削がれるエネルギーのいる稽古場だ。

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1932年。まだ第二次世界大戦がはじまる数年前。アメリカで共に画廊を経営しているユダヤ人マックスとドイツ人マルティンが、引越をきっかけにはじめた往復書簡を読み合う形で、物語は進む。

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この日の稽古は、池田努と畠山典之による「Bチーム」から。舞台に向かって左がアメリカにいるマックス(池田)、右がドイツに引っ越したマルティン(畠山)。二人は長く苦楽を共にし、家族ぐるみの付き合いをしてきたのでとても仲が良い。どちらも真面目で純粋な気のいい男たちだ。池田と畠山は普段から気が合うらしく、その雰囲気が出ているのか、とても楽しそうだ。しかし、マルティンの住むドイツにヒトラーが登場したことで、二人の関係は変容していく・・・。

初演は「リーディング公演にしよう」という案から始まっていたので、稽古期間が短かったそうだ。しかし今回は稽古にかける時間も長く、より芝居を丁寧に作っていける。そのため前回より二人のコミュニケーションが多く、その視線や動きで、手紙が二人の心を繋いでいるのが目に見える。マルティンからの手紙を読んでいる池田の反応、台詞がない時の畠山の表情が、手紙を出した方だけでなく受け取った方の気持ちを物語る。しかし二人が仲良く純粋に互いを思い遣っているほど、変わっていく親友関係の切なさと残酷さが際立つ。

ラストシーンまで止まることなく演じきると、稽古場の空気がふっと緩んだ。同時に、どっと疲労感が襲ってくる。しかしすぐに演出の大河内直子によるフィードバックが始まった。「このシーンはもっと思いきりやってもいいですね」「青年の友情ではなく、大人の男の関係を見せたい」。声にはどんどんと熱が入ってきて、マックスとマルティンの関係が劇的に変化するシーンについては「世界に亀裂が走るんだよ!『この世の関節が外れてしまった』ということだよ!」と『ハムレット』の台詞からの引用も。イギリスで演劇を学び、蜷川の演出助手として数々のシェイクスピア作品に携わってきた大河内のバックグラウンドと意思を感じる言葉が続いた。

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次は、新Cチーム。蜷川幸雄作品など力強く大舞台に立ってきた大石と、声優としても俳優としても経験豊かな高木だ。初演でA、B両チームを観た時に「人が変わればこんなに印象が違うのか」とおもしろかったので、また違う世代のマックスとマルティンを観てみたいと思っていた。

物語にはマックスの妹グリゼレが重要な登場人物として出てくるが、50代の二人からイメージするグリゼレはほかのチームとまた違う印象の女性だ。舞台には登場しない人物のイメージが変わることで、舞台の世界観が変わる。

まだ稽古段階ではあるけれど、高木のマックスは柔らかい。優しさと包容力があり、どこか父性を感じさせる。一方マルティンを演じる大石は鋭い。それぞれ異なる佇まいでも同じく芯の近さを感じるので、馴れ合いではない自立した男性達の親友関係に見える。また、俳優としての個性の違いもおもしろい。

また、手紙をただ丁寧に読むのではなく、1通の手紙のなかにメリハリを作っていくので、二人の心の揺れがダイナミックだ。やがて男二人の友情物語という枠を越えて、ユダヤ人とドイツ人、国と世界の揺れ動きにも見えてくる。ワーグナーの調べにのせて、翻弄される親友二人の変化が、大きな時代の荒波そのものの姿と重なっていく。

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大河内は、新チームだからだろうか、丁寧に時代や人物の背景を確認する。ヒトラー、ナチズム、ユダヤ人迫害・・・それらがマックスとマルティンにどんな影響を与えたかを想像していった。
また、「もっとこうして欲しいという思いもあるけど、今のやり方が好きなので、それは無くしたくないんです」と率直に俳優に相談。二人の俳優の魅力を大事にしながら模索していく。

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最後にAチーム。青柳尊哉と須賀貴匡は、また違ったマックスとマルティンだ。少し野心家の顔ものぞかせるマックスに、優柔不断さえも可愛げに見せるマルティン。未来の不確かさも感じさせるギラつきが垣間見える。二人とも、初演よりも強くて情熱的だ。一言一言がはっきりと届くことに、この1年で俳優として経験を積んできたんだろうなと感じる。

一つの台詞にいくつもの感情をこめるマックス。マルティンは後半になるにつれ言葉の強さが増すほどに、抱える迷いが大きくなっていくのが感じられる。二人とも、自分のなかに抱える不安がどんどん膨らんでいく様子に胸が痛い。

大河内は「ヒトラーの映画みた?」と時代背景のイメージをうながす。そして「もっと違う方向からひっぱられて欲しい。“ありえない”という思いが強いほど、“信じたい”という祈りも強くなるように」と一人の中にある矛盾を見せようとする。一度に抱える感情の距離が遠のくほど、影が深まる。

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この3チームのほかに、稽古場ではここでしか実現しない特別バージョンの組み合わせでの稽古も行われていた。この日は、青柳と大石というペア。人物造形や反応がまったく違うので、自然と、相手の演技も変わっていく。

これは痛烈な刺激になっているようで、俳優たちは、誰かの演技を素直に自分にも取り入れていく。しっくりこなければ方向転換。大河内も「やってみればいい。やって違ったらやめればいいから」と見守る。

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この日、ぶっ続けで4回の『受取人不明』がおこなわれ、あっと言う間に8時間が経った。外はもう真っ暗だ。しかし4回すべてが違う二人組だと、まったく別の親友同士を観ているようだった。また、客席の左右どちらから観るかでも、共感の度合いが違う。

それぞれの俳優が戯曲をどう解釈するかで、マックスとマルティンの距離感が変わる。二人の関係の変化が物語の軸だが、それが、あえて自分の手で選び取った変化なのか、変化に気づいていて抗おうとしているのか、気づいているけど気づかないフリをしているのか、そもそも変化していくことが理解できないのか・・・。正解はなく、いろいろとまずは「やってみる」こと。

本番までにまだまだ変わるだろう。そう思うほど、挑戦の多い稽古場だった。

『受取人不明』は10月3日(木)から10月14日(月)まで東京・サンモールスタジオにて上演される。A、B、Cチームのほか、D(青柳・畠山)、E(池田・須賀)も一回ずつあり。

(取材・文・撮影/河野桃子)

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