宇宙飛行士の毛利衛が書いた児童文学「モマの火星探検記」と、劇団少年社中が過去に上演した舞台『ハイレゾ』をミックスし、宇宙を巡るめぐる二つのストーリーが交差し絡み合う新たな物語として、2012年8月に初上演された『モマの火星探検記 ~Inspired by High Resolution~』。その時空を超えた新たな宇宙ファンタジーが、2017年夏に新キャストで生まれ変わる。今回、主人公・モマ役を演じる矢崎広に、作品のことや、劇団主宰で本作でも脚色・演出を手掛ける毛利亘宏についてなど、様々な話を聞いた。
――矢崎さんが前回、少年社中に出演されたのは『贋作・好色一代男』でした。今回はガラリと変わって宇宙をテーマとした物語となりますが、本作の印象は?
実は、2012年の初演を観に行っていたんですよ。毛利さんにはお世話になっていましたし、知り合いの役者が出演していたこともありまして。その時・・・観終わった後に、毛利さんに会うのが恥ずかしいぐらい、大号泣してしまったんですよね(笑)。僕が「少年社中の魅力にハマった」と言っても過言ではない作品なんです。だから、このお話をいただいた時は、本当に嬉しかったですね。
――タイトルだけを見ると、SF色の強い冒険活劇のような印象も受けますが、ドラマ性も強い作品ですね。
人類史上初めて火星に到達した「モマ」と、ロケット作りをする少女「ユーリ」の二つのストーリーが「ここで繋がるのか!」というのが、この作品の魅力ですよね。もちろん、繋がってさらにどうなっていくのかという点も、またおもしろいんですよ。僕も、初演の時は「この2つのストーリーがどう繋がるんだろう?」と思っていたんです。中でも、モマは男の子の夢がたくさん詰まっているような役だなと、ワクワクしながら観ていました。そして、後半はどんどんと「それ泣くだろ・・・」という感じで引き込まれていったのを覚えていますね(笑)。
――矢崎さんと毛利さんとの出会いを改めてお伺いできますか?
毛利さんと僕は、所属事務所が同じということもありまして、ご飯を一緒に食べに行ったのが最初の出会いだったんです。
その後に、一緒に作品をやらせていただいたのが2012年4月から始まったミュージカル『薄桜鬼』シリーズ(※脚本・演出・作詞:毛利亘宏、土方歳三役【2012年~2014年】:矢崎広)でした。ミュージカル『薄桜鬼』は、シリーズの立ち上げから携わったということもあって、毛利さんと一緒に、色々と山あり谷ありの時間を過ごさせていただいたんですね。
だから、毛利さんに対しては、大先輩ですけど「一緒に戦ってきた」という、ある種の戦友のような特別な思いがあります。
――ミュージカル『薄桜鬼』と『贋作・好色一代男』、少年社中の外と内から毛利さんに接してみての印象は?
まず、単純に「少年社中のお芝居に出演できた」ということが、当時とても嬉しかったんですよ。少年社中のお芝居は『モマの火星探検記』のほかにも、『天守物語』や『ヒーローズ』など色々な作品を観ていたので。『ヒーローズ』では、何年かぶりに役者として出演される毛利さんの姿も拝見しました。
『薄桜鬼』の演出家である毛利さんが持つイメージに対して、少年社中の毛利さんは、それこそ「少年社中」という名前のごとく、少年の気持ちをもっと前面に出した毛利さんなんだと思います。そういう面を内(少年社中側)から見た後に再び外で見ると、また違った毛利さんの素敵な魅力を感じますね。
――少年社中という劇団に対してはどんなイメージをお持ちですか?
少年の気持ちを全面に押し出した毛利さんの「もっと僕はこうしたい、こういう風にしたい」という思いを中心、劇団員さんが一つになってそれを描こうとしているのが、少年社中という劇団なんだなと思います。
『贋作・好色一代男』の時に、その中に参加させていただきましたが、すごい経験でした。公演中は楽屋に“社中飯”として、常に炊きたての白米が用意されているんですけど、それを食べたりもしていましたね(笑)。僕にとって、そういう劇団らしさを最初に経験させていただいたのが、少年社中さんなんです。ゲストして出演するんじゃなくて、劇団の仲間として迎え入れてもらえたことも、すごく嬉しかったですし、とても貴重な体験でした。
――『贋作・好色一代男』で初めて少年社中の芝居に参加した時は、どんなお気持ちでしたか?
まず一番に思ったのが「やべえ、肌に合いすぎる」ということでしたね(笑)。居心地が良いという言い方は変かもしれないですけど、常に楽しかったです。稽古中も、休憩中も、少年社中の皆さんと話していると、その気持ちをすごく感じました。
僕は、毛利さんのほかに(井俣)太良さんともミュージカル『薄桜鬼』でご一緒していたんですが、太良さんは毛利さん以上に、劇団の外と内に違いがある人なのかなと思いました。
太良さん、ミュージカル『薄桜鬼』の時は、近藤勇役としてしっかりしているイメージだったんです。ちゃんと大人として、お父さんみたいな感じだったんですけど、その太良さんが少年社中に戻ると少年みたいになるんですよ! 飛び跳ねてたり、誰かに体当たりしていたり、そんな太良さんを見ているだけでおもしろくて(笑)。そんな太良さんに対して、見守っている人もいれば、苦笑いしている人もいるし、怒っている人もいて。まるで家族みたいでした。『贋作・好色一代男』に出演している時は、僕もその家族の一員になりたいと思っていましたね。本番中もカーテンコールの挨拶でも、僕は新人劇団員のつもりでいて、「社中ファンの皆様、よろしくお願いします!」というぐらいの気持ちで挨拶していましたね。
――少年社中作品へ2回目の出演となりますが、意気込みは?
少年社中という劇団は、『贋作・好色一代男』を紀伊國屋ホールで上演してから、東映さんとタッグを組んだり、活動の幅を広げて、どんどんパワーアップしていると思うんですよ。それに負けないように、僕もその期間でやってきたことをすべて出して、こちらもすごくパワーアップしたなと思っていただけるようにしなければと思っています。それにはまだまだ準備も必要で、がんばらなければという気持ちでいますね。
再び少年社中の中に入れていただけるので、毛利さんの描く世界をどんどん膨らませて、表現できていければいいなとも思います。毛利さんに委ねつつ、毛利さんと話し合いながら、モマという役を魅力的にしていけたらいいなと。自分の中では、前回モマ役を演じられていた森大さんのイメージがとても強いんですよ。それに、「モマ」って毛利衛(もうりまもる)さんの名前の「も」と「ま」から名付けられたと思うんですけど・・・森大(もりまさる)さんも「も」「ま」ですから、ズルいですよね(笑)。
――現段階で、役作りとしてどのような準備をされていますか?
今回、メインテーマが宇宙で、モマは宇宙飛行士の役なので、モマが知っていそうなことは、頭に入れて置きたいという考えはあります。宇宙に関連することは、もとから好きなんですよ。火星に人が住めるのだろうかみたいな話をネットとかで見つけると、そのまま夢中で調べてしまって、気づいたら朝4時になっていたなんてこともありました(笑)。映画『スター・ウォーズ』とかも好きですし、特に映画『インターステラー』が好きで、時間の概念とか4次元とは何だ?みたいな感じで、宇宙に関するものにハマってしまった感はありますね。
――本作の宇宙に関することは、荒唐無稽さよりもリアルさのほうが強いですね。
そうですね。初演当時に比べて、宇宙のことがもっと分かってきていますし、科学も進んでいるので、さらに調べられることも増えていると思っています。観に来るお客さんの方が、僕らよりも宇宙について詳しい人もいると思いますから、そういう内容は調べておかないといけないですよね。
――ストレートプレイだけでなく、ミュージカル、『魔王コント』のような新しい作品など、幅広く活躍をされていますが、ジャンルの違うステージに立つにあたって、役などの切り替えはどのようにされていますか?
色々な機会をいただけて、本当にありがたいです。切り替えについては、昔は意識的にやっていたわけではないんですが「ミュージカルだから」「ストレートプレイだから」という感じで、結果的に切り替わっていたんです。それもあって、逆に「切り替えないようにしたい」というのが今の僕の目標です。ミュージカルの中にも2.5次元とか色々あると思いますが、「切り替えているつもりはないけれど、お客さんから見たら切り替わっている」というような役者さんに、自分は魅力を感じています。だから、僕自身もそうなっていけたらいいなと思って、日々挑戦していますね。
――最後に公演を楽しみにされている方へメッセージをお願いします。
少年社中作品ですので、冒険やファンタジー要素はたっぷりありますし、もちろん少年社中ファンお客さんにしっかり楽しんでもらえる作品だと思います。また、僕自身が前回公演を観て少年社中の魅力にどっぷりハマった作品でもありますので、ぜひ少年社中をまだ観たことがないという方にも、ぜひ観ていただきたいです。僕が大号泣してしまったような感動やメッセージがたくさん詰まっている作品なので、そういったところもお客さんに楽しんで頂けたらと思います!
◆公演情報
少年社中・東映プロデュース『モマの火星探検記』
【東京公演】8月9日(水)~8月13日(日) 天王洲 銀河劇場
【大阪公演】8月19日(土)・20日(日)サンケイホールブリーゼ
【公演公式HP】http://www.shachu.com/moma2017/