今年も、あの季節がやってくる。演劇界の巨匠つかこうへいの代表作である『熱海殺人事件』が、東京・紀伊國屋ホールにて2017年2月18日(土)より再び上演される。東京の春の風物詩として、つかこうへい存命時から、同劇場で上演され続けてきた本作。今年は『NEW GENERATION』と銘打ち、出演者に味方良介、文音、多和田秀弥、黒羽麻璃央という若き俳優たちを迎え、新たな『熱海殺人事件』を作り上げる。木村伝兵衛を演じる味方と、犯人役の大山金太郎役として相対する黒羽に、本番10日前の稽古場にて話を聞いた。
――連日、白熱した稽古の様子が伝わってきています。
味方:もう、ずっと通し稽古やってます。稽古に入った2日目から(笑)。
黒羽:僕は稽古に入った日からずっと通し稽古です(笑)!
――ずっと・・・!お二人は、どのようにして今回の『熱海殺人事件』に出演が決まったのでしょうか?
味方:岡村さんに呼ばれて、お茶している時に言われたんです。「じゃあ、本題に入るけど。お前、木村伝兵衛やるか?」って。まさかのことで、「え・・・?」と思ったんですが、「やります!やらせてください!」と返事をしました。そうしたら、岡村さんが「よし、分かった」って。
――本人確認があったんですね(笑)。
黒羽:お茶飲みながら決まることってあるんですね(笑)!
味方:どこで何が決まるか分からないよ(笑)。そんな機会なかなかないし、二つ返事でやります!って言ったんですけど、その後、ビジュアルの撮影があった時にことの重大さに気づいて・・・(笑)。その時に改めて驚きがありました。俺、24歳、すごいことが起こるんだなって。
――黒羽さんは?
黒羽:僕は、本人確認はなかったんですけど(笑)。
決まったという連絡を事務所の方からいただきました。つかさんの作品に出たい出たいと言っていたので、良いタイミングでお話をいただけたと思っています。
それから、この前『あずみ~戦国編』を観させていただいて、いずれは岡村さんの下でやってみたいという思いもあったので、つかさんの作品に出たいということと、岡村さんの演出を受けたいという希望が、最高の形で同時に叶いました。
――お二人は、どんなきっかけでつかさんの作品に出会ったんですか?
味方:初めて出演したのは、去年の夏にやった『新・幕末純情伝』でしたけど、もちろん、色々なところで観ていました。実際にやってから、岡村さんや過去に出演されていた方からつかさんの話を聞いたりする中で、お芝居への愛・・・自分の作品への自信と愛を感じました。作品に込める意志は、もちろん誰しも持っていると思うんですけど、それを“伝える力”を作品に残していること、そしてその作品が何十年経っても作品が残っていることは、本当にすごいことだと思います。そして、それを伝えていく、繋げていくという意思を持つ岡村さんを見て、改めてつかこうへいさんの偉大さを感じました。
今、23、24歳の自分たちがつかこうへいさんの作品に触れている、やっているということが、言ってみれば奇跡みたいなことだと思うんです。これは、いろんな人が積み重ねてきてくれたおかげだし、僕らが“NEW GENERATION”として、つかこうへいさんの遺志を後世に伝える“たすき”になれるかもしれないと思うと、とても嬉しいです。
黒羽:僕は、この業界に入って初めて受けた演技レッスンの時に、渡された台本がつかさんの『広島に原爆を落とす日』だったんです。
味方:・・・初めてで?!それ、すごいね(笑)!
黒羽:そうなんです、「お芝居って何?」って状態の時に(笑)。本当に、上京してきて一発目にもらった台本がそれだったので、失礼な話なんですが、当時はよく分からなかったんです・・・。でも、分からないなりに、ぐわっと開放する感じは覚えていて。それから、5年ぐらい経ったのかな。今またこうやって、改めてつかさんの作品と向き合える機会をいただけたので、改めて挑む気持ちです。
――今回、“NEW GENERATION”として若い世代だけで『熱海殺人事件』をやるということは、どのように受け止めていらっしゃいますか?
味方:岡村さんも言ってましたが、「熱海を知らない、やったことがない4人」というのが、どうなるか楽しみだと思いました。一人でも経験している人がいたら、空気も変わるだろうし、作り方も変わるだろうし。前回の映像を見せてもらって、むちゃくちゃ感動したんです。この人たちすごい、俺たちがこれをやるのか、どうやったらあの世界ができるんだろう・・・そう思ったんですが、あれはあれ、これはこれ。
今はこの4人でしかできないものを作るために、構えるというよりも、「何が出てくるんだ?!もっとこい!」という気持ちでいます。踏み込んだ分だけ上から潰すという戦い、命の削り合いです。そうして一ずつ積み上げていくことで、新しい『熱海殺人事件』が生み出せるのかなと思います。
麻璃央の参加が僕らより一週間遅かったので、「麻璃央が来た時にびっくりさせるか」という気持ちもあって(笑)。それぐらいの気持ちでね。
黒羽:もう~、頭が真っ白になりましたよ。
味方:稽古場に来て2日目で「明日、通すから」って言われてね。麻璃央、ぶっ壊れてたよね(笑)。
――黒羽さんが合流された時には、もう結構できあがっていた?
黒羽:景色として見えるのが、普段の舞台の(開演)一週間前ぐらいのものだったので(笑)。「ちょっと待て待て、まだ稽古始まって一週間だよな?」って・・・。
味方:麻璃央が入ったことで、また気持ちのランクが上がって。ここから4人でさらに上に行こうという気持ちになりました。
黒羽:本当に、稽古場でも命を削ってるなと思います。でも、まだまだこれからなんで。
味方:でも、ここからがまた楽しくなりそうだよね。本番まで、深めていかなきゃいけない。
――文音さん、多和田さんの印象についてはいかがですか?
味方:文音ちゃんは4人の中ではちょっと歳が上なんですけど、彼女自身の人生における経験値がいいスパイスになっています。特に大山と二人のシーンは、文音ちゃんの良さが炸裂していて。「ヤバイ、俺、いいところ取られちゃう・・・」って思いました(笑)。秀弥の熊田は、人間の成長の仕方がよく出ていて、ちゃらんぽらんなヤツが最後はちゃんとスーツが似合うんだろうなっていう熊田になっていくんですよ。4人が4人とも主役になれるような、そこも含めて負けられないぞ!という、戦い方をしています。稽古に入った頃と比べると、皆顔つきも変わったよね。
黒羽:秀弥は純粋に痩せましたね(笑)。
味方:確かに(笑)。でも、顔がしっかりしてきてる。構えているというか、ちゃんと「ここにいるんだぞ」っていう、地に足の着いた感じが出てきていると思います。
――黒羽さんは、皆さんと合流されて、ご自身を含めどのように変化を感じていらっしゃいますか?
黒羽:最初はついていくだけで必死だったんですけど、相手が変化したらおのずと自分も引っ張られて変わっていくようなことを、感じるようになりました。やっと、自分にも少し余裕が出てきたからかもしれないんですけど。
焦らせてくれるのが、いいんですよね。「早くこっちのフィールド来いよ」って。そういう皆さんに上手く乗っかっていきつつ、追い抜くぞという心持ちでいることで、作品を底上げして良いものにしていけたらと思っています。
――演出の岡村さんから言われたことで、印象的だったことはありますか?
味方:僕は、「優しさが強い」って言われまして・・・それについて考えているんですが難しいですね。優しいのかな?そんなに優しい人間ではないはずなんですけど(笑)。芝居で向き合う相手のこと、3人への思いが、強く出過ぎているのかなと思います。それが良いスパイスになればいいと思うんですが、コントロールするのが難しくて。頭で考えすぎると余計分からなくなりそうですけど、岡村さんと話しながら「それは気づいていなかった」とか「あそこはさらけ出しすぎなのか」とか、そういうことが日に日に増えていっている感じです。
黒羽:僕は全部、ですね。足りなかったんで。もっと稽古したいって、純粋に思っています。こんな駆り立てられる作品に出会えることもなかなかないですし。それは不安だからというのもあると思うんですけど。
――稽古場に、これまでに『熱海殺人事件』やつか作品にご出演されたいろんな方が顔を出されていると伺いましたが、何かアドバイスなどはありましたか?
味方:ばーちょんさん(馬場徹)やともくん(柳下大)とかが来てくれて。もちろん、アドバイスもしてくれるんですけど・・・自分たちのやりたい欲が強すぎて(笑)。
黒羽:プレッシャーがすごいんです(笑)。
味方:何も言わないで、台詞をずーっと言ってるの。
黒羽:振り返ると、「めっちゃ見てる~・・・!!」ってね(笑)。
味方:そう、「俺いつでもスタンバってるからね」っていう無言の圧力が・・・。それをに対して、こっちも「じゃ、負けないようにしないと」ってなる。
黒羽:なんか、部活の先輩が来ている時の感覚に近いかも。
味方:レジェンドが来てる!みたいな。
黒羽:しかも結構ギラギラしてて(笑)。
味方:ともくんとか、ずっと浜辺のシーンとかやってたもんね。「今日はどこまで覚えたかやってみる」って。
黒羽:「意外といけたよ!」って言われて、怖っ!ってなりました(笑)。
味方:今回の舞台を助けてくれている大石(敦士)くんとか一色(洋平)くんも、ずっと台詞言ってるんですよ。稽古場のあっちでもこっちでも、台詞言ってる人がいる。きっと本番では、お客さんにも台詞を覚えている人がいるだろうから、てにをは間違えたりしただけでもバレちゃう。でも、それだけ皆さんが作品を愛しているということですよね。
――新たな『熱海殺人事件』の幕が上がるのが待ち遠しいです。最後に、公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします!
黒羽:僕らと同年代の役者の中でも、つかこうへいさんの作品に出たいと言っている人はたくさんいます。今回の『NEW GENERATION』は、僕ら4人が代表として立っているというぐらいの気持ちで、舞台に臨みたいと思います。自分たちも誇りを持ってやるので、ぜひ紀伊國屋ホールにお越しください。寒い時期ですが!
味方:つかこうへいさんの作品、『熱海殺人事件』を紀伊國屋ホールでやります!これはとても名誉で、嬉しいことです。僕らが新しい『熱海殺人事件』を作るので、皆さんも新しい気持ちで。今まで観たものは忘れて、飛び込んできてください!
黒羽:観てくれるお客さんも“NEW GENERATION”であってほしい!終わることのないこのつかさんの歴史を、見届けてほしい!!
味方:くぅ~!かっこいいね~!!
◆公演情報
『熱海殺人事件 NEW GENERATION』
2017年2月18日(土)~3月6日(月) 東京・紀伊國屋ホール
【作】つかこうへい
【演出】岡村俊一
【出演】味方良介、文音、多和田秀弥、黒羽麻璃央
(撮影/エンタステージ編集部)