ミュージカル界のプリンスこと井上芳雄がホストを務めるトーク番組『それゆけ!ミュージカル応援し隊 井上芳雄の小部屋』がついにWOWOWでスタート。第1回(ゲスト:中川晃教)、第2回(ゲスト:渡辺麻友(AKB48))といずれも大きな反響を呼んだ本シリーズから、2017年2月11日(土・祝)に第3回が放送されました。
エンタステージでは、この注目プログラムと連動したコラム「文字で楽しむ『井上芳雄の小部屋』」を皆さまにお届けします。このコラムでは、番組内でのトーク内容をほぼ全編にわたり書き起こし。ミュージカル愛溢れる濃密なトークを、文字という形でじっくりと味わっていただければ幸いです。また、WOWOWでの放送を見ることができなかった方も、ぜひこの機会にスター同士のスペシャルトークをお楽しみください。
第3回にゲスト出演したのは、ミュージカル『レ・ミゼラブル』の日本版オリジナルキャストを務め、歌手としても活躍を続ける島田歌穂。40年以上のキャリアを誇る“大先輩”と、井上芳雄はどんな言葉を交わすのか、必見です。
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井上:本日はお越しいただきありがとうございます。
島田:こちらこそよろしくお願い致します!
井上:お待たせしてすみません。
島田:お声がけいただいてありがとうございます。
井上:こういう試みをしております。ミュージカルについて語り合うという。
島田:どうしましょう、私なんかで大丈夫でしょうか。
井上:歌穂さんしかいないんじゃないかという話になりまして。
島田:ありがとうございます。
井上:今日は写真も背景に出しております。
島田:懐かしい!これは?
井上:僕は『ダディ・ロング・レッグズ ~足ながおじさんより~』ですね。歌穂さんは言わずと知れた『レ・ミゼラブル』のエポニーヌですよね。
島田:そうですね。長いことやらせていただきました。懐かしい。
井上:どちらもジョン・ケアード演出です。たまたまかもしれませんが。ただ、こうやって並んでいますが、僕たち共演したことはないんですよ。
島田:まったくないです!なんでだろう?!絶対共演させまいという何かが・・・(笑)
井上:実は裏で歌穂さんがNOを出しているとか?(笑)
島田:違う!私はずっと共演したいって!
井上:僕も言ってます。
島田:いろんな場所で言ってますよね。
井上:そう、実際に「歌穂さんこの役いいと思うんですけど・・・」とか、意見を求められたら言ったりしてますよ。
島田:そんなことしてくださっているんですか?
井上:何回も言ったことあるんですが。スケジュールなのかわからないですが、力が働いているのか・・・。
島田:いつでもお待ちしているんですが。
井上:こちらこそです。歌穂さんのコンサートに呼んでいただいたり、来ていただいたり。
島田:あと夫の島健のコンサートにも。
井上:ご主人の島健さんにもお世話になっております。最近ですよね。
島田:6月6日、66歳、本当にありがとうございました。
井上:一緒にデュエットしたことは何回かありますが。
島田:その度にステージ上から「皆さま、二人まったく共演したことがないんです!何かぜひ」と(笑)
井上:だいぶ言ってますよね。だから少なくともこういう話す場を持ちたいなと思いまして。
島田:嬉しいです。
井上:さっきも言いましたが、大先輩の歌穂さんをお呼びするのは、僕みたいなものが申し訳ないですけど、WOWOWさんがミュージカルを応援してくださるので。
島田:すごく嬉しい。
井上:なぜかはわからないですが、WOWOWさんの中に個人的にミュージカルが好きな人がいっぱいいて、その人たちが無理やりこういう番組を作ってくださって(笑)
島田:すごく嬉しいですね。
井上:これを活かさない手はないと思って、今日歌穂さんをお呼びしております。聞いたところによると、今年デビュー40周年ですか?
島田:いえ。
井上:だいたい40年?それともオーバー?
島田:1974年にデビューなので、40年オーバーしました。お前は一体いくつなんだと(笑)
井上:いやいや、だいぶ幼いころからやってらっしゃいますから。
島田:生まれてすぐデビューしたと思ってもらえれば。
井上:赤ちゃんモデルからということで、すごいですね。ミュージカルに関わってイコール40年でないとしてもほとんどですよね。
島田:子役でデビューしてですね。最初はテレビドラマだったので。
井上:有名な。
島田:『がんばれ!!ロボコン』という。
井上:ロビンちゃんという役ですか?
島田:はい。
井上:聞いたことはありますが、見たことはないですね。
島田:そういう世代ですよね。
井上:ですね、今聞いたらまだ僕生まれてなかったですもん。
島田:本当だよね(笑)
井上:わかります。僕も最近そういう人が多くて。
島田:本当?
井上:生まれてないはないですが、小学生の時に井上さんの舞台見てましたという人と一緒にやる日が来るなんて最初の頃は全然・・・
島田:だって今や若い人たちの憧れの存在ですもの。
井上:その都度憧れのミュージカルがあったと思うんですが。最初はドラマというか演技から始められた?
島田:はい、デビューしたきっかけは小さい頃からバレエを習っていました。もっと辿っていくと私の母が宝塚の女優、タカラジェンヌだったんです。父は音楽家で作曲、編曲、ボイストレーナーもしていました。そんな間に生まれたので、常に音楽が身の回りにあって気がついたら歌ったり踊ったりしていて。バレエも習っていて。それがきっかけでテレビドラマに。バレエのできる女の子を探していると。
井上:じゃあその中で歌ったり踊ったりもあった?
島田:ロビンちゃんで?歌わないです。もっぱらバレリーナロボットなので。
井上:そういう設定なんですか?
島田:はい。
井上:全然(知らなかった)
島田:ちょっとネットででも。
井上:見てみます。
島田:すぐ出てきます。
井上:ロビンちゃんはバレリーナロボットなんですね。
島田:金髪で。なかなか可愛らしかったですよ(笑)
井上:そうだと思います。歌穂さんは歌とかお芝居のイメージが強いですが、最初はダンスというか踊るところから?
島田:はい。
井上:じゃあ最初から三拍子揃っていた。
島田:(自分では)わからないですが。歌はただ好きで歌っていて、ドラマをやった時にお芝居って楽しいなと思いました。
井上:そこで初めてお芝居を?
島田:はい。ちょうどそんなデビューして間もない頃に『ザッツ・エンタテインメント』という、ミュージカルの名場面ばかりを集めた映画を見たんですね。それが子ども心に「ミュージカルっていいな!」って。
井上:それまでもお母様の影響とかで見たりしたことは?
島田:ありましたけど、すごく鮮烈に「ミュージカルって歌って踊ってお芝居して好きなことがいっぺんにできる、いつかやりたいな」って。
井上:『ザッツ・エンタテインメント』を見て。
島田:はい、忘れられない瞬間でした。
井上:そこからミュージカルに。
島田:しばらく子役ドラマ時代があって、それから17歳の時にアイドル歌手やりませんか?と言われたんです。
井上:ありとあらゆるところを経験しているわけですね。子役からアイドルから。
島田:ちょうど第三次アイドルブームの頃で、ぶりっこでミニスカート履いて・・・。
井上:同期は誰が?
島田:前の年が松田聖子さん。
井上:じゃあ本当に黄金期、全盛期というか。
島田:で、アイドルブームがあって、今しかできないしせっかくチャンスをいただいたので頑張ろうと思ってミニスカート履いてデビューしたわけです。踊れるからということで振り付けもあって、歌って踊って。でも、なんかちょっと合わないかなぁ、なんて。この道はないのかなあ、と。
井上:しばらく何年かはアイドルを?
島田:2年くらいですね。違うかなと思い始めた頃に、ミュージカルのオーディションがあると言われて、18歳の時に『シンデレラ』というミュージカルのオーディションを受けたんです。
井上:それはハマースタインのやつですか?
島田:オリジナルの『シンデレラ』です。で、受けたらシンデレラの役で受かったんです。
井上:それはそうでしょうね。それだけやってきてお芝居もやってるし。
島田:びっくりで、狐につままれたみたいで、「いきなり主役でいいんですか?」という感じでした。それが18歳の時の初舞台でした。
井上:だいぶ濃いですね。そこまでの人生がいろいろ。学校にもちゃんと通っていたんですか?
島田:行ってました。一応行ってたけど、高校時代はアイドルデビューしてかなり忙しかったから、成績とかは(笑)ただただ、なにかをつなぎ止めるように学校に通っていただけです。とにかく初舞台の初日に、ドキドキしながら迎えました。メイクして衣装を着てお客さまの前に立った時に、自分が知らなかったエネルギーみたいなものが・・・。
井上:ミュージカルを初めてやった時に。
島田:それがばーっと出てくる感じ。そういう瞬間ってあるでしょ??
井上:はい。それを夢見てやりたいなという。でもやっていないとわからないですよね。もちろん見ていても楽しいですけど。
島田:とにかく、こんなに楽しいんだ!と。
井上:化学変化というか、歌×踊り×芝居が何十倍にもなるという瞬間が。
島田:やっぱりミュージカルってこんなに楽しいんだと。ここが自分が一番輝ける場所かもしれない、これだと思って決心してこの道に。アイドル歌手は公演終わったらすぐに止めて。しばらくサボっていたレッスンをやり始めて、アルバイトしながらオーディションを受けてという日々が始まりました。
井上:その先にこの『レ・ミゼラブル』があった?
島田:『レ・ミゼラブル』までもミュージカルのアンサンブル時代があって。台詞が一言二言みたいな。
井上:『シンデレラ』でデビューした後も結構苦労が?すぐ役がつかないとか?
島田:ありましたよ。
井上:本当に?
島田:アンサンブル時代が。
井上:オーディション受けてアンサンブルやって。
島田:落ちたのもいっぱいあったし、受かっても・・・という。
井上:その頃って日本でもミュージカルはたくさんあったというか、流行り始めたというか?どういう状況でした?
島田:まだまだ今に比べると少なかったです。
井上:ブームとかは来ていない?
島田:ブームというところまではいってなかったですね。今はロングランシステムが当たり前になっていますが、その頃はほとんどありませんでした。劇団四季さんが『キャッツ』とかをロングラン始まったかなあというくらいです。
井上:ミュージカルバブルとかも来る前ですよね。
島田:段々とミュージカル人口が少しずつ増えてくるかな、という時代だったと思います。
井上:そこが大きく状況が変わったのは『レ・ミゼラブル』あたり。『キャッツ』とかもあったでしょうが、その頃が大きいと。
島田:『レ・ミゼラブル』って、私がたまたまそこに入らせていただけたからというのがあったかもしれませんが、当時世界中に衝撃が走ったようなイメージが私にはありました。
井上:『レ・ミゼラブル』という作品で。
島田:作品も原作も普遍的な、世界中の人々に読まれているものがミュージカルになって。いわゆるロンドンミュージカルがブワーっと。
井上:そうですよね、『キャッツ』『オペラ座の怪人』とか。
島田:その中の1つとして『レ・ミゼラブル』が世界中に。ニューヨークに行っても、“君は『レ・ミゼラブル』を見たか?”というのがキャッチコピーになってたくらい。それくらいセンセーショナルだったと思います。
井上:日本でも初演の『レ・ミゼラブル』をやった時というのはやはりすごい?どんな感じだったのかなって。オリジナルキャストの方からちょこちょこ話は聞いたりしますが、実際に肌で感じることはないので。
島田:オーディションの時に何の予備知識もなく、すごいポスターが張ってあったんです。劇場に入った時に。
井上:『レ・ミゼラブル』の?
島田:帝国劇場に入った時に、黄色の大きなポスターが貼ってあってコゼットの絵が真ん中にあって、“あなたに白羽の矢が立つ”って書いてて。なんだと思って読んだら、大々的なオーディションのお知らせがいろいろ書いてありました。
井上:そういうのも初めてだったんでしょうね。
島田:とにかく全役オーディション。役の設定が書いてあって。もちろん主な役は有名な方がなるに違いないと思ってはいましたが。
井上:それまでの日本のミュージカル界というのは大体、主役の方は知名度のある方だったと。
島田:でも、海外から全部スタッフが来るということでしたし、受かるなんてことを考えたらあまりにもおこがましい。受けることに意義があると思って応募しました。
井上:それこそいろんな人が応募したわけでしょうし。誰でも受けられると言ったらアレですが。
島田:多分誰でもという感じだったと思います。稽古場でも他の作品の稽古をしていて、ちょうどそういう最中にオーディションが行われていて。「あの人今日休んだな」という感じで、みんなオーディション受けてるんだなって。誰も言わないですけど、暗黙の了解で。
井上:今も多少ありますけどね。「あいつ残っているらしいよ」とか。それがもっと大きい範囲で。
島田:なんかものすごいことが起きそうだな、というざわざわした感じが。
井上:今から見ても、並んでいるメンバーが・・・。もちろん今のミュージカル俳優の人もいるし、この人が!?という方も。シャンソン歌手のクミコさんもアンサンブルで入っていて。
島田:彼女もオリジナルメンバーです。
井上:「トラウマになってしばらくミュージカルは嫌になった」って。
島田:なんで?
井上:「自分が馴染めなくて、バリケードに居眠りしてて」って言ってました。
島田:(笑)そうなんだ。
井上:木場勝己さんは出てはいないんですよね?
島田:そうなんです。でも最初にメンバーには入っていたんです。
井上:一緒にお芝居した時に、「井上くん、僕もミュージカルやろうとしたことがあったんだよ。『レ・ミゼラブル』に残ってずっとやってたんだけど、全然決まらないから他の仕事行こうって止めたんだよ」って。本当にメンバーすごいですね。
島田:初演の時はものすごい個性派、個性的なメンバーが集まりました。
井上:皆さん毎晩飲み歩いてというか、「行くぞ!」と言って?
島田:そうですね。
井上:それ全員で行くんですか?
島田:全員はなかなか。でも時にはみんなで飲みに行って、休演日の前とか。
井上:地方とか全国回ってますもんね。大きい劇場を一ヶ月ごととか。
島田:そうですね。東京でも「今日行くよ!」となったら日比谷のガード下の店とかで(笑)それにみんな若かった。鹿賀丈史さんも滝田栄さんも初演の時はまだ30代ですから。
井上:みんな元気があるというか、舞台の後でも遊ぶ元気も。
島田:みんな本当に個性的だったし、仲良しだったし、よく飲んだ(笑)
井上:僕も飲むの好きなんですが、そういう話を聞くと今のミュージカル俳優は全然飲まなくなったんだなと思います。特に若い、僕より下くらいの世代は。ギリギリ僕くらいまでは、毎日、「行くぞ」と言う先輩がいたりしたんですけど。今のミュージカル俳優は「喉が・・・」とか言って全然来ないですよ。来ても飲まないとか。
島田:もしかして今、世の中全体がそうなっているのかな。
井上:自己責任みたいになっちゃって。
島田:自分の時間を大事にしたいからとか。自分は帰りますみたいな。
井上:お客さまの耳も厳しいというか、ミュージカルって言われやすいじゃないですか。「声が裏返ったとか、今日声が出てないね」とか。わかりやすいっちゃわかりやすい。だから守るのかな。
島田:すごく傷つくから、あんまり言わないでほしいんですけどね(苦笑)
井上:僕たちも大変ですからね、毎日。
島田:本当に必死ですからね。
井上:毎日歌うって大変ですからね。
島田:私の印象では、芳雄くんは声が調子悪いとかないんじゃないかって。
井上:多少はありますけど。歌穂さんもそうですが、僕飲んでも全然大丈夫なんですよ。もちろん気をつけて声は出していますが、飲んだからって・・・むしろ飲んだ方が出るというか。そんなことないですか?
島田:まだ30代ですよね?(笑)
井上:まだですね、後半に差し掛かった。ここから来ます?
島田:でも元々強い人は強いから。
井上:個人差がありますからね。僕も過信していたらいつか痛い目に・・・。
島田:いや、なにせ藝大(東京藝術大学)仕込みですから。
井上:それは関係ない(笑)違いますか?
島田:私は子役時代からただただ好きで。両親の影響で歌って、環境があって、たまたまこういう仕事をさせてもらってきて。発声の先生とかはきっちりクラシックの方ですし、音大でちゃんと学んだ方というのは尊敬します。
井上:イメージがね。音大を出ていると言うと皆さんそう言ってくださるんです。
島田:ミュージカルをやりたいと思って藝大に入っちゃったんですよね?
井上:そうです。
島田:普通入れませんから。
井上:そこがね。ゆえに馴染めなかったんですが、藝大の中では。
島田:そこで学ぶものを全部学んで。
井上:何を学んだというわけではないと思いますが、僕から見たら、発声がちゃんとしているなと思ったら藝大の後輩だったり音大で声楽やりましたという子が多いイメージはあります。もちろん人それぞれですが。歌穂さんだって素晴らしい歌唱じゃないですか。
島田:とんでもない。
井上:一人で何十曲もコンサートで歌って。一概には言えないと思いますが、どこで学んだかも大きいのかなと。ミュージカルはやることが多くて大変じゃないですか。歌穂さんの今のお話だと生まれた時からミュージカルの土壌があったわけじゃないですか、音楽も踊りもお芝居も、お母様が宝塚だから。普通の家はないですよね。
ウチはなかったから、歌と踊りとお芝居を身体に染み込ませる・・・そこまでいかなくても、なんとか取っ掛かりをつかむのにもミュージカルには3つもあるから大変ですよね?珍しいというか全部できる方って実はいないですよね?
島田:いや、今はたくさん。
井上:いやぁ・・・います?ちょっと名前挙げてもらっても(笑)
島田:いるいる!
井上:たとえば誰が?これは褒めてるから言ってもいいですよね。歌と踊りと芝居ですよ。
島田:そう言われると。
井上:僕も誰だろうって。歌穂さんはそう思います。なぜそう言えるかというと、一個一個を独立してやっているじゃないですか。お芝居はお芝居、稽古をされたっておっしゃっていましたが、お芝居を台詞だけでもやれるし、歌は歌手だけでもやれるし、踊りはダンサーだけでやることはあまりないですが。
島田:ダンスだけの公演はないですね。
井上:タップもやるし、ショーの舞台もやるわけじゃないですか。
島田:やりますね。
井上:僕が思うに、ミュージカルの中でなんとなく歌ったり、なんとなく芝居したり、それも大変ではあるけど、まあできる。でも一つにした時にそれで芸として成立するかというと、そこはすごく難しい。本当はそこを目指すべきだなって、自分も含めて思うんですよね。
島田:私はミュージカルを始めて間もない頃に、こまつ座の井上ひさしさんのお芝居に出させていただいたんです。初めての時は、いきなり新劇の役者さんの中に入ってどうしよう、みたいに戸惑って。
井上:それはお芝居をどうしようじゃなくて雰囲気ですか?
島田:その雰囲気もあったし、井上ひさしさんの台詞も。一つ一つ、一言一言がどれだけの意味が込められているのか、そういうのをすごく学ばせてもらったんです。その後も井上先生に「歌穂ちゃんは元気でいいね!」とすごくかわいがっていただいて、何本も出させていただいて。そのうち、書き下ろしの作品で台本が一枚一枚来るという・・・(笑)
井上:初日が飛んだみたいな話も聞きました。
島田:本当に私は、その出会いで女優としての原点を作らせていただいた。その上で、ミュージカルの舞台に入っていくうちに「前はこんなことを考えなかったけど、お芝居をやらせてもらったことで今はこんなことを発見できたな」とか。ミュージカルって、ただ歌って踊って間に台詞を言って、という・・・
井上:なかなかお芝居をそこまで考える余裕がないんですよね。ミュージカルの現場だと。
島田:どんどん進んで行って、稽古も短いですし。そうじゃなく、ミュージカルも全部お芝居だと捉えさせてもらったというのが私の中にあるんです。
井上:僕も井上先生の作品をやらせてもらったのでわかります。
島田:井上先生の晩年の作品を(芳雄さんが)やられたじゃないですか。これは絶対見なきゃ!と思って行って。素晴らしかったし、すごい挑戦でしたね。私もミュージカルをやらせてもらっている一人として、今のミュージカル界の大事な“プリンス”、井上芳雄さんがそういう果敢な挑戦をしているというのがすごいと思いました。
井上:いやいや、嬉しいですね。そう言っていただけると。僕もこまつ座のファンだったし、井上先生のファンだったのでやりたいと思ってはいたんですが、歌穂さんの言うとおりやってみないとわからないことだったし。言葉の重みに度肝を抜かれて。ただ、その経験ができたことがすごく幸せだったと思います。生きた井上先生にはこれからの俳優は会えないわけですから。
先生に、書き下ろしというか宛書きしてもらった経験がある僕たちはラッキーだったと思います。歌穂さんの話をうかがっていると、最近のミュージカル界は・・・って僕が勝手に代表した感じがしますが、僕がやってきたことは歌穂さんが先に経験されたことなんですよね。シンガーとして歌うとか、もっと僕よりもたくさんの経験をされてます。弟子ではないですが、こうやって受け継がれていくというか、同じジャンルの中でそういうことがあったらいいなと思います。
島田:私なんかは全然及ばないと思います。今、芳雄くんがやっていることはすごいと思います。
井上:いやいや。あと僕がしていないのは、この歳だから当たり前ですが、歌穂さんは大学で教えてらっしゃるじゃないですか。
島田:大阪芸術大学で。
井上:それは僕もすごい興味があります。ミュージカル科ですか?
島田:舞台芸術学科ミュージカルコースで、私は歌の実技を。2003年からお話をいただいて、最初は「私が教えるなんてとんでもない!それこそ音大も出てないし」って。
井上:どうやって教えてらっしゃるのかなって。歌穂さんはもちろん歌唱のテクニックは教えられると思うんですが。どうやって?
島田:何を教えてるんだろうなって感じです。歌をとにかく自分なりに、自分の身体を楽器としてどう響かせていくかということ。それから、私が一回生の一番最初の授業で言うのは、「ミュージカルはお芝居だよ」って、そこから始まります。私は歌の実技なのでとにかく「歌詞も全部台詞だよ」って。私自身ももちろんそうやってきて、特に翻訳モノなんて、英語では一小節にこれだけのことが言えるのに日本語にしたらたった3文字になっちゃった、とか。
井上:情報が足りない。「ここは表情で補うか?」みたいなことがありますよね。
島田:それをいかに自分で表現を深くしていくか。いろんなものを自分で見つけて、いかに芝居として歌を表現するかということを、私自身がこれまで体験させてもらってきたことの中から、伝えられることを伝えさせてもらう。
井上:その授業受けたいですね。なかなか習えないというか、それぞれミュージカル俳優は独自に何かあるんでしょうけど。ちゃんとした教育システムは日本にはないですよね。
島田:まだ少ないですよね。
井上:アメリカだと専門学校のようにちゃんとメソッドがあって。こないだそういうところにレポートしに行ったんですが、全然違う。歌と演技をどうやってコネクトしてくか、演技とダンスをどうやってつなげるかを教えると言ってました。僕たちはそこまでいかなくて、一個一個が精一杯。やりながら無理やりつなげるみたいな。だから、歌穂さんがやられていることはすごいです。意義のあるというか。たしかに最近、大阪芸大の子多い気がします。ミュージカル界に。
島田:私がこれまで教えてきた卒業生たちが今どんどん活躍していて、多分いろんな現場でもお世話になっていると思いますよ。
井上:大阪芸大って、古くは橋本さとしさんとか新納慎也さんとか。元々個性的な人が多いんですが、最近は優秀というかちゃんと個性がある、お芝居のことも考えてやろうとしてる子が多い気がする。歌穂さんをはじめ先生方の努力の賜物かと。
島田:私なんて本当に、何の役に立てているかわからない状態ですが。
井上:生徒さんだけじゃなくて、今ミュージカルやっている自分たちはどうですか?どう見えるというか。もちろん良くなったところもあると思います。ミュージカル人口が増えているから。
島田:増えましたね。
井上:僕がやっている時よりも、今のもっと若い20代前半の子の方がスタイルもいいし、なんというか一応なんとなく器用になんでもこなす人が多いように見えます。
島田:ずば抜けてスタイルの良い芳雄くんがそんなこと言って(笑)
井上:こんな僕がスタイル良いって言われてたんですよ。
島田:だって彗星ですよ。彗星のごとく現れましたよ。
井上:だって今は・・・『テニスの王子様』とかご存知ですか?あれに出ている人のスタイルって・・・
島田:10等身くらい?
井上:おかしいんじゃないかって。
島田:本当にみんな綺麗になりましたね。肌とかピカピカだし。みんなマンガの中から出てきたみたいな。
井上:そういう子が多いですね。ただ、ミュージカルをやりたかった子ばかりでもないから、訓練やレッスンを受けてきたかというとそうじゃない子もいますが。まあ、華やかだったり、そこから努力する子もたくさんいるので、変わってきていると思いますが。歌穂さんはどうですか?
島田:ミュージカル人口がこんなに増えたというのは嬉しいことですね。で、やっぱり歌の上手な人が増えたと思う。
井上:昔は比較的、お芝居は皆さんができた印象があって、ダンスはダンスの人がやっていた気がします。やっぱり歌のレベルが、翻訳ものが求めるところに行くのが大変だった感じなんですかね。
島田:それこそ、味のある歌を歌う方はたくさんいらっしゃったかもしれませんが、いわゆるミュージカルですよ~♪という感じはね(笑)
井上:ちょっと嫌われてしまうかもしれない。
島田:よく響く、ミュージカル!という声、強い声で歌う人が本当に増えたなっていう。
井上:それは今?
島田:と思います。
井上:ミュージカル的歌唱の人が。
島田:みんな上手だと。いろんな舞台、ミュージカルを見て本当にそう思います。だから裾野が広がったという証でしょう。
井上:もっとこうなればいいな、というのはありますか?ミュージカル界について。
島田:あのー・・・
井上:言っちゃってください!ダメならカットしますんで。
島田:言葉を選んで言いますが、時々「のど自慢大会を見たなあ」って思うことない?
井上:あいつのことですよね?・・・ってわからないですけど(笑)
島田:いやいや、要するにみんないい声出ちゃうから。
井上:たまにオリンピックの競技かなって思う時があるんです。オペラってそういうところちょっとあるじゃないですか。僕あまりオペラ知らないですけど、“声第一”みたいな。
島田:オペラの場合は、本当に生声でとにかく響かせないと届かないということであの手法があるわけじゃないですか。でもミュージカルはマイクを使ってっていう。
井上:どこまで出るか、どれだけ長く伸ばしたか、どれだけ大きな声が出たか、そこが注目されちゃうきらいはある。「今日はここまで出てなかったね」とか「いつもより伸ばしが少なかったですね」みたいな話になってきちゃって。本当はそこでどういう気持で歌っているのかを届けたいんだけど、なかなか難しいと思う時があります。
島田:これはすごいなあ、自分にはこの声出ないなあって、素晴らしいんですよ。でも、もう少し何か伝わりたかったというか・・・。偉そうに言ってごめんなさい。
井上:歌穂さんくらいじゃないと言えないです。
島田:難しいんですけど、時々大阪芸大の学生たちにも「そんなに歌わないで」と言うことがすごくある。歌わなきゃいけないけど、歌わないでという。すごく矛盾したことを私はすぐ言っちゃう。
井上:外国の演出家とかはすごく言いますよね。そんなに歌わないでと。
島田:もっと心情を大事にしてと。海外の演出家の方はすごく芝居の部分のワークショップに時間をかけてくれたりしますよね。時間のかけ方の違いもあるかもしれませんが、私には『レ・ミゼラブル』という初めて大きな作品と出会った時のジョン・ケアードの演出方法がね。本当にワークショップを長い間やって、作品についていろんなことを学んで、ワンシーンを作るのにものすごいディスカッションしたりとか。
井上:声を出して動き出すまでにすごく時間を使いますよね。
島田:登場人物の関係性とか、本当に一つ一つちょっとしたことを組み立てて、気がついたらこんな(すごい作品)になってたって・・・。
井上:こんなところまで来たという。謎に掛けられたみたいな。
島田:本当にそういう経験が今の私にとっての宝物だし、少しでもそれを伝えられれば。
井上:その経験があるかないかだけで全然違いますよね。同じメンバーで同じアンサンブルでも、演出家が違うと全然違って見えることがあるんですよね。こんなにこの人たちが生き生きとして、こんなお芝居するんだって。知らなかった。
島田:同じじことをやっていても、ああ!っていう瞬間がある。その目に見えないものが動く時、多分それがね。
井上:どうしたらいいんですかね?僕とか歌穂さんはたまたまラッキーにもそういうチャンスに恵まれたから経験しているけど、これからミュージカルやりたいという人はどうやったらそういう経験ができるんですかね?もちろん歌穂さんが教えているところに行くというのも一つだろうし。
島田:いやいや。やっぱり私が思うのは、ミュージカルを目指している人たち、もう実際にやっている若い方たちにも、どんどんミュージカルだけでなくいろんなことをやってほしい。
井上:ということで、もう書いていただいていますが、この番組は『それゆけ!ミュージカル応援し隊』ということで・・・
島田:はい(笑)
井上:歌穂さんに書いてもらったのは「日本のミュージカルをもっとボーダレスにしたい」ということですね。
島田:私がこんなことを言っておこがましい話なんですが、すみません。
井上:歌穂さんが言わなくて誰が言うんだって話です。
島田:本当に自分自身が、今日も話してきたように、芝居で学んだこと、シンガーとしていろんなジャンルの音楽に挑戦したこと。その一つ一つが何一つ無駄がなかったなと思います。全部がミュージカルでの表現に必ずつながっているなと感じるんです。なので、時にはまったく歌の無いストレートプレイにね。どこ向いたらいいのかみたいな・・・すごい大変な挑戦かもしれませんが、そういう台詞劇もどんと来いという。私は持論があるんですが、上手い役者さんはみんな歌が上手いって。
井上:それは普段歌わない方でもということ?本当ですか?
島田:違う?
井上:ちょっと待って下さいね。いや・・・多いとは思いますね。みんなかどうかはわかりませんが、そうですね。あ!歌好きな人が多い。上手いかどうかは置いといて。
島田:(笑)
井上:上手いの定義はいろいろあるので。
島田:要するに上手いというのは、朗々とした歌を歌うことではないんですよ。伝わること。
井上:役者ならではの。
島田:必ず伝わる歌を歌ってくれる。そんな持論があります。
井上:台詞だけで物語を伝えられる人にメロディーが付いたら、鬼に金棒っていうかさらに豊かなことになるはずですもんね。
島田:台詞劇だって、台詞にも音程があるわけじゃないですか。相手がこういう音で来たら今度はこういう音で返そうとか、こういうスピードで来たらちょっとゆっくり行こうとか。それって目に見えない台詞でもそう。
井上:自分で作曲しているような。
島田:本当にそんな気がするんですね。演劇界の方、違ったらごめんなさいね。私はそんな感じがしていて、役者さんの耳ってすごいなって。
井上:あとは慣れですよね。ミュージカルに出たらオケと一緒に歌うことに慣れるとかあるだろうけど。僕もそう思います。
島田:そう思いませんか?
井上:完全にそうです。やっている方もだし、お客さまもこうなってほしいと実は思います。結構日本って、演劇界・・・いろんな種類があるせいかもしれませんが、ミュージカルファンでも、東宝ファン、劇団四季ファン、宝塚ファン・・・
島田:分かれてるんです!
井上:来日ミュージカルファンとかいっぱいいて、意外と行き来していない。そうなると、こまつ座へ行っても最初は誰も僕のこと知らなかったですよ。お客さんも。出るようになって、「井上くんってこの前小林多喜二やってた子?」ってなって。もちろんみんなが全部見られるわけじゃないから限界はあるけど、興味の持ち方というか。これはこまつ座だから、知らないから難しそうとか。これはストレートプレイだから、歌がないと嫌だとか。もちろん好みだから自由ですが、最初から壁やボーダーを作るのはもったいないと思うんです!開けてみたらこっちの方が好きってこともあるかもしれないから。
島田:そういう意味でお客さんもどんどん垣根を取り払って。どんなものでも・・・もちろんご覧になられて「ちょっとなあ」というのはあるかもしれませんが。
井上:嫌なら嫌でいいと思います。
島田:まず視野を広げていただけたら何かね。今は歌舞伎俳優の方がミュージカルやったりとかテレビのいろんなドラマとかやってらっしゃる役者さんがミュージカルをやったり、タレントさんがやったりとか。いろんなジャンルの人がね。
井上:本当にごちゃごちゃになればいいと思います。こちらからもテレビ界に行ったり、ストレートプレイに行ったりするから、○○界という言葉すらおかしいと思います。ぐちゃぐちゃになって、気づいたら良いものができているというか。そこで立ち上がってくる可能性はあるんじゃないかな。
島田:一つの作品でいろんな人たちが集まったらすごい化学反応が起こると思うんです。
井上:嫌なこともあるだろうけど、それこそが演劇というか、人が集まってああだこうだやるっていうエネルギーを無くさずにやりたいと思います。
島田:ぜひここ(井上と島田)もボーダレスになりたいんですよ。
井上:そうですね。ここも。
島田:本当にせっかくね、今回電波を使って(笑)
井上:今日お話しできて、目標とするって言ったらおこがましいですが、僕も同じ志だと再確認できてすごく嬉しかったです。
島田:嬉しいです。まったく歌の無い芝居で一緒になったりとか共演できたら。「なんで歌わないんですか!」ってファンの方には怒られるかもしれないですが(笑)
井上:それでも見に来てくれるような自分でありたいと思いますね。
島田:本当、私もそれは目標です。
井上:歌穂さんたちがいてくださるから僕たちも目指すところがあるので。今後ともぜひ。まずはいつか共演してね。
島田:本当です!
井上:そこから始めたいです。
島田:ぜひぜひ。
井上:これからもいろいろ教えてください。生徒さんにも僕たちにも。
島田:とんでもないです。私にもいっぱいエネルギーをください。
井上:一緒にいろんなことをやれたら嬉しいです。今日は本当にありがとうございました!
島田:ありがとうございました!
――完
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