瀬戸康史×ケラリーノ・サンドロヴィッチ『陥没』インタビュー!「人生の転機になる舞台になりそう」

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ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)の描く“昭和三部作”。2009年から取り組んできた「昭和の舞台化」が、ついに完結する。1964年の東京オリンピックの時代、そこにはどんな昭和があったのか……KERA作品初出演となる瀬戸康史を迎え、今日がほぼ初トークというお二人に話を伺いました。

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「瀬戸くんいいよ」と推薦からの起用

――瀬戸さんはKERAさんの舞台は初めてですね。

瀬戸:そうなんです。まだお会いするのも数回目です。

KERA:僕、テレビもあまり観ないし、若い世代って本当に疎いんです。だから、いろんな人に「誰が共演して良かった?」と聞いたら、大倉孝二や何人かが「瀬戸がいいですよ」と言っていて。それから意識して彼のドラマを見るようになりました。でも、映像ですごく評価されている俳優さんでも、舞台のように毎回同じことを繰り返す事にあんまり興味が無い人とかもいるじゃない?

瀬戸:同じ“演じる”でも、映像と舞台はまた違いますね。

KERA:良い悪いじゃなくてね。だから舞台も観ないと、と思って瀬戸君の出演した『マーキュリー・ファー』や『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』を観ました。そこで共演した人たちが口を揃えて、「瀬戸君はすごく真面目でストイックに現場に臨む役者さんだ」と言うので、期待しているよ。

――瀬戸さんは『陥没』特設サイトに掲載されているコメント動画で、KERAさんの舞台に参加する事で自分の何かが変わる確信があると仰っていますね。

瀬戸:KERAさんの舞台に出演させていただくことは、自分の役者人生において転機になりそうだなと、なんとなく感じてます。というのも、KERAさんとこうやって直接お話するのは今回が初めてなので、印象でしかないのですが…KERAさんは人を分析される方なのかな、と思うんです。役者本人を見て、役に落とし込む演出をされるのではないかと感じているので、僕はKERAさんにどう見られるんだろうなという興味があります。

KERA:それはあるね。でも、僕が見た通りの人を台本に書くわけじゃないから、「多分この人はこういうのは苦手だろうな」というものを敢えて書いたりもするよ。でも、初めての人にはやり過ぎないようにするから(笑)

瀬戸:どんな役を書いてくださるのか、すごく楽しみです。

KERA:いや~、瀬戸君の役はまだ決まってないんですよ。(井上)芳雄君と小池(栄子)さんの二人が婚約しているということだけは間違いないんだけど、他はまだ決めてない。稽古に入る前って、今日は「政治劇にしよう」と思ったら翌日は「ミュージカルがいいかな」と変わったりするんですよ(笑)。すでにキャストの相関図は10個くらい書いているんですけど、全部違うんですよね。

――まだ決まってないということで…瀬戸さんとしてはどんな役をやってみたいか、KERAさんにアピールがあればぜひ!

瀬戸:そうですね…僕が役者としてやってみたい役は、自分と違うタイプかな。たとえば、嘘をついたり、セコかったり、どこか余裕があったりするような人を演じてみたいですね。さっきKERAさんが言ってくださったように、僕自身は真面目にコツコツとやっていく性格だと思いますし、同時に、真面目すぎて余裕が無かったりもするんです。

幸せの裏には、闇がある

――『陥没』はKERAさんの“昭和三部作”の完結編で、1964年の東京オリンピックが題材になっています。奇しくも2020年に二度目の東京オリンピックの開催が決定しましたが、決定前から題材は決めていたんですか?

KERA:オリンピックと高度経済成長期というのは、三部作の一作目を書き始める前から決めていましたね。この“昭和三部作”は、淡白に人間ドラマを紡いでいくという舞台なので、どこか辛辣な作品になると思います。人間の温かさや優しさだけでなく、ちょっと汚い部分や、世の中や人生の苦い部分が露呈するような芝居になると思います。

――タイトルの『陥没』とはどういう意味ですか?

KERA:三部作の二作目にあたる『黴菌』は戦争の話だったんだよね。戦争は、一般的にはネガティブなイメージがあるけど、軍事産業で大儲けした、戦争にあやかっている人達を主人公にしたの。そして今回は、戦争が終わって一面焼け野原になったところから高度成長期に入っていく中で、影にならざるをえなかった人達を描きます。

昭和37年の設定で、当時は、日本が信じられないほどの力で復興していって、その象徴であるオリンピックで先進国の仲間入りをしました。でも、登場人物は全員戦争経験者ばかり。日本がグーっと成長していった出っ張りの中で、ボコッと“陥没”したところに落ち込んでしまった人達を描くつもりです。彼らは、マイノリティだったかもしれないけど、確実にいた人達。時代考証はほどほどでいいと思うんですけど、その時代を出演者全員の中でイメージしてもらわないと、すごく薄っぺらい作品になっちゃうだろうな。

瀬戸:僕は昭和63年生まれなので、映像とかではもちろん見た事がありますけど、なかなかイメージできないです。

KERA:高度成長期というのは、みんなシャカリキになって働いてた時代だね。日本人が働き蜂のようになったのは、この頃からだと思うんですよ。現存する第二次世界大戦前の映像を見ると、もっと長閑です。でも高度経済成長の頃は、日本がどん底からどんどん良くなっていくから「頑張りどころだ」と誰も文句言わずに踏ん張っていた。

一方では、植木等の「スーダラ節」が大ヒットしていました。きっとみんな、夢を抱いていたんでしょうね。僕は昭和37年にはギリギリ産まれていないですけれど、その時代の空気は記憶の片隅にあるんですよ。だから、これまでの三部作の中では一番身近ですね。でも瀬戸君みたいに昭和63年生まれだと、きっと全部昔の事だよね。俺だってそうだもんなあ。

瀬戸:なんとなく…東京オリンピックや高度経済成長の時は、皆が前を向いていて、楽しそうなのかなという気がしていました。今、僕たちが当時を振り返る映像を見ると、華やかな所ばかり映っているんですよ。でも、幸せもどんどん生まれているけれども、その幸せに比例して、闇のようなものも生まれてきた時代なのかなと思います。幸せの裏には絶対に不幸になっている人達がいっぱいいるに違いない…といったことは、なんとなく考えますね。

あとは、ぶつかっていくだけ

――個性の強い俳優さんが集まりましたね。

瀬戸:本当に…今回の出演者の皆さんはご一緒できることがとても楽しみな方ばかりですよ。

KERA:手堅いですよね。なかでも瀬戸君は、最近ずーっと(山内)圭哉と一緒じゃない?

瀬戸:そうなんですよ!この1年間山内さんとずっと一緒なんです(笑)。舞台でもドラマでも一緒で、本当にご縁があるとしか言いようがないです。だから山内さんは今回のメンバーの中で一番長くお付き合いさせていただいていますね。ほかにも、(近藤)公園さんや(松岡)茉優さんや(小池)栄子さんも知っています。

KERA:なんか、瀬戸くんの交友関係って小劇場の人みたいだね。

瀬戸:そうかもしれません(笑)。

――年末から稽古が始まりますが、KERAさんの稽古場はどんな雰囲気でしょう?

KERA:作品やメンバーごとに全然違いますよ。今回だと、一番賑やかなのは生瀬(勝久)さんだろうなあ。

瀬戸:やっぱり生瀬さんなんですね(笑)

KERA:あの人、しゃべらないといられなくなっちゃうから(笑)。ほかは、芳雄君も初めてだし、小池さんはまだ3本目だし、よく分からないな。でも、今まで130本くらいの台本を書いてきたけど、うち120本くらいは稽古を見ながら「この人なら、こうした方が面白いな」とその場で書いてるんですよね。だからいつも僕は台本が遅いんだけど、今回は生瀬さんが「初日に台本がなかったら降りる」って言うから…それを励みに書いています(笑)

――以前、山内圭哉さんが「KERAさんの稽古場は台本があがらないので不安だ」と仰っていました。

KERA:だろうね(笑)。僕の稽古に慣れた人たちは、もらったばかりの台本をすぐに覚えて阿吽の呼吸でやるから、初めての人は「え、もう覚えたの!?」と焦ると思います。でも、今回はそんな事ないので安心してください(笑)。でも『陥没』のキャストは皆、不安な事があっても良い方に転化してくれる人ばかりじゃないかなあと思っているので、とても楽しみですよ。みんな曲者揃いだもんね。

瀬戸:すごく迫力のある方ばかりなので、自分が消えてしまいそうで怖いです…。

KERA:そんな事はないでしょう。

瀬戸:本当に楽しみだなあという気持ちと、ものすごい不安やら恐怖やらが交じりあっています。もう、僕にできることはぶつかっていくことだけしかないです。

KERA:心配しなくても大丈夫だよ(笑)

瀬戸:いえいえ…ですが、今までなかなかお話する機会が無かったので、今日KERAさんとお話できて少しホッとしました。あとはもう、僕はやるのみです。

KERA:そっか、じゃあよろしくお願いしますね。

◆ケラリーノ・サンドロヴィッチ プロフィール
1963年、東京都出身。劇作家、演出家、映画監督、音楽家。1982年、ニューウェイブバンド・有頂天を結成。並行して1985年に劇団健康を旗揚げ、1993年にナイロン100℃を始動。1999年『フローズン・ビーチ』で第43回岸田國士戯曲賞を受賞。舞台活動では劇団公演に加え、KERA・MAPなどのユニットも主宰するほか、外部プロデュース公演への参加も多数。2016年、KERA・MAP#006『グッドバイ』で第23回読売演劇大賞最優秀作品賞及び優秀演出家賞、平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。

◆瀬戸康史 プロフィール
1988年、福岡県出身。2005年俳優デビュー。以降、NHK大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』、『花燃ゆ』、NHK連続テレビ小説『あさが来た』、フジテレビ系ドラマ『ロストデイズ』(主演)、舞台『マーキュリー・ファー』『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』、主演映画『合葬』など舞台・映画・ドラマで幅広く活躍、演技力を高く評価される。最近は、TBS『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』、フジテレビ系『HOPE~期待ゼロの新入社員~』に出演し注目を集めた。また、NHK BSプレミアムにて主演ドラマ『幕末グルメ ブシメシ!』が1月より放送開始予定。KERA作品には初参加。

◆公演情報
シアターコクーン・オンレパートリー2017+キューブ20th,2017
『陥没』
2017年2月4日(土)~2月26日(日) 東京・Bunkamuraシアターコクーン

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:
井上芳雄、小池栄子、瀬戸康史、松岡茉優、
山西惇、犬山イヌコ、山内圭哉、近藤公園、趣里、
緒川たまき、山崎一、高橋惠子、生瀬勝久

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この記事を書いた人

高知出身。大学の演劇コースを卒業後、雑誌編集者・インタビューライター・シナリオライターとして活動。

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