2014年の韓国版初演以来、空前の大ヒットとなったグランドミュージカル『フランケンシュタイン』がいよいよ日本に初上陸!2017年1月より日生劇場にて幕を開ける。
“天才”ビクター・フランケンシュタインと“鬼才”アンリ・デュプレとが織りなすドラマティックな展開と、主要キャストが一人二役を演じる構成が話題の本作。エンタステージではキャスト5人からそれぞれ日本初演にかける思いや意気込みをじっくり聞いた。
第二弾として登場いただくのは、ビクター・フランケンシュタインと、見世物小屋の主人・ジャックの二役を演じる柿澤勇人。“憧れの人”とWキャストとして舞台に立つ心境とは―。
関連記事:ミュージカル『フランケンシュタイン』中川晃教にインタビュー!「ビクターはアンリに“恋”をしてると思うんです」
――もう、ジョギングやバレエレッスンもOKということで安心しました!
お陰さまで、だんだん本調子に近づいてきています。『フランケンシュタイン』初日には、完璧に間に合うと思いますし、絶対に間に合わせますよ!
――そのお言葉、心強いです。歌稽古はいかがですか?ドラマティカルなナンバーが多い印象ですが。
ドラマティカルですよね・・・特にビクターのナンバーは歌っていてクラクラしちゃう勢いです(笑)。感情の揺れ幅もすごいですし、技術的にもこれまで対峙したことがないレベルの難しさじゃないかと・・・これは僕にとっても挑戦ですね。ジャックの歌は遊びの部分もありますので、本番になってお客さまの前で歌うと楽しさが増すんじゃないかと思っています。
――最初にビクターのキャスティングを知った時「柿澤さん、ぴったり!」って思いました。集団と一歩離れた“孤高”の存在でいる・・・みたいなところが。
本当ですか(笑)?でも確かに、劇中にビクターのことを「あの子は誤解されやすい」って歌う箇所があって、それを聞いた時に「あ、これ、俺のことだ」って思いました・・・「あの子は闇を抱えてる」とか(笑)。
等身大の人間としてビクターを演じたい
――ビクターはいろいろなアプローチが出来る役だと感じました。今の時点でこの役をどう捉えていらっしゃいますか?
アンリと出会うまでのビクターは、自分以外、誰も信じない人間だったと思います・・・神さえ信じる対象でなく。彼が信じていたのは自分の頭脳と科学の力だけで、それを活かし、人類を良い方向に導こうとしている。この時、ビクターは自らを“神”だと思っていたのかもしれません。
そんなビクターがアンリの書いた論文を読み、ようやく認められる相手に出会ったという喜びと、アンリがいればふたりでこの世界を変えられるのではないかという新たな希望を得るようになります。
いろいろな解釈があると思いますが、僕はビクターが自分の野心のためだけに動いていたのではなく、そこに彼なりの“正義”や“信念”があったのではないかと捉えています。でないと、あれだけ聡明なアンリの気持ちは動かせないと思うんですよ。
――役の方向性としてはどうでしょう。
現時点では、あまりエキセントリックな方向にわぁーっと行くのではなく、自分とそんなに遠くない・・・いつも何かを考え、悩みながら生きているというビクター像もありかな、と考えています。ただ、曲がかなりドラマティックなので、演技面と歌のテンションとが乖離しないよう、上手く繋げていくことがひとつのポイントになりそうです。このあたりは本格的な稽古に入ってから、改めて詰めていくことになると思いますよ。
――同じくビクター、ジャックの二役を演じる中川晃教さんとはお話になっていますか?
まだそれぞれの歌稽古の段階なので、ゆっくりお話は出来ていないんです。でも先日『ラディアント・ベイビー』を演出してくださった岸谷五朗さんと食事をしようとお店にいたら、岸谷さんの携帯に丁度あっきーさんから電話がかかって来て、皆で「おおっ!」みたいな(笑)。あっきーさんは尊敬する憧れの方ですので、特に歌に関してはいろいろ教えていただきたいと思っています。
僕、役者を志した時からずっとあっきーさんの歌を聴いていて、いつも「何でこんなに上手いんだろう・・・世界レベルだよなあ」って感動していたんです。その方と同じ役をやらせていただくって・・・ちょっと震えますよね。
関連記事:【動画】中川晃教×柿澤勇人によるスペシャルバージョン!ミュージカル『フランケンシュタイン』歌唱披露
「飲み会で10人超えると帰ります」(笑)
――柿澤さんはWキャストの相手とどういう関係性になることが多いのでしょう。
僕はどちらかというと、お互いが自分の役をそれぞれしっかり作っていきましょう、というスタンスです。そういう意味では、役柄についてWキャストの方と密に話をするというよりは、まず演出家と「この役をどう演じるか」としっかりコミュニケーションを取りたい方かもしれません。お酒の席でも演技論的なトークになると・・・ダメですね(笑)。
――分かる気がします(笑)。本作のひとつのキーワードが“友””友情“ですよね。
僕にも「何を置いても駆けつけて助けたい」と思う友達はいます。劇団時代に苦楽を共にした仲間もそうですし、高校時代から続く友人も数人います。例えば彼らから「今、本当にキツい」って連絡があったら、どんな時でもすぐに駆けつけますよ。
ただ、僕、人見知りなので(笑)、友人関係も狭く深く、という感じですね。飲み会も10人超えたら・・・ちょっとダメかも(笑)。
――居場所が分からなくなる感じ?
えーっと・・・帰っちゃいます(笑)。基本的には少人数で深い話をするのが好きなんですよ。人が多くなるとすーっとそこから消える感じです(笑)。
一生の作品となった『ラディアント・ベイビー』
――柿澤さんの今年1年についても振り返らせてください。やはり『ラディアント・ベイビー』の存在は大きかったですか。
それはもう、いろんな意味で大きかったですし、僕にとって一生忘れられない作品になりました。また必ずキースとして舞台に立たせていただきたいですし、やらなければいけないとも思っています。怪我のせいでうかがえなかった大阪にも次回があるなら必ず行きたいです。
関連記事:柿澤勇人が“命”をかけて疾走する!ミュージカル『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯』観劇レポート!
『ラディアント・ベイビー』は稽古中から本当にいろいろなことがあった作品で、今でもあの時のメンバーと集まるたびにその話になりますね。もしかしたら、キース(・ヘリング)が、空の上からいたずらをしてたんじゃないか、って言うくらいアクシデントも多かったんですよ。
カンパニーの皆もアツい奴ばかりで・・・大好きです。演出の岸谷(五朗)さんからは「やっとこの作品の1ページ目を刻めたね」と言っていただきましたし、何とかこの作品を次のページに進められるよう、これからも頑張っていきたいです。
――夏にお稽古場でインタビューさせていただいた時にうかがった蜷川(幸雄)さんとのお話がとても印象的でした。
“ジミー”エピソードですね(笑)。今年は蜷川さんだけでなく、平(幹二郎)さんも逝ってしまわれて・・・。僕、平さんの遺作となった『クレシダ』を観たんですが、本当に感動して泣いちゃったんです。平さん独特の遊び心なのか、お芝居の中にどこか蜷川さんを意識なさった役作りも見えた気がして。
蜷川さんも平さんも、僕なんかが気軽に「尊敬」なんて言葉を使えないくらい、いろんな地獄をくぐり抜けてきた人たちだと思うんですよ。こういう方たちの姿を拝見すると、背筋が伸びるというか、何とか自分も頑張っていかないと・・・と改めて身が引き締まる思いです。
関連記事:ミュージカル『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』主演の柿澤勇人にインタビュー!「これでダメなら全てやめようと覚悟して稽古場に行きました」
――蜷川さんとのお仕事になった『海辺のカフカ』のメンバーとはとても仲が良いそうですね。
めちゃめちゃ仲が良いですよ・・・今でも藤木(直人)さんたちと、月に1回ペ―スで集まってます。藤木さんは数学系のゲームが大好きなんです。この前行ったお店にたまたまオセロが置いてあって、藤木さんとも対戦させていただきました(笑)。
――2017年はこの『フランケンシュタイン』、そして『スウィーニー・トッド』以来、久しぶりに“先輩”市村正親さんと共演なさる『紳士のための愛と殺人の手引き』と続きます。
市村座の舞台や『ミス・サイゴン』も拝見したのですが、“生き様”を舞台上で魅せられる方だと改めてその偉大さに打たれました。久々にご一緒させていただけるのが楽しみです!
――『デスノート』の再演も発表されましたね。
ありがたいですよね。夜神月は演じていてめちゃめちゃしんどい役ですが、『デスノート』は初演の時に皆で作り上げた思い出が胸に残る大切な舞台です。初演で死神・リュークを演じた吉田鋼太郎さんのあの歌・・・僕、あの域が理想なんですよ・・・究極の芝居歌でしょ。いつかもっと演技も歌も上手くなって、あの域に達したいんです。
――久々に、柿澤さんが出演なさるストレートプレイも拝見したいです。
やりたいですね・・・今、本当にストレートプレイがやりたいんです。それも小劇場って呼ばれる小さなハコで。日常の一場面をふっと切り取ったような作品・・・来年はそんなチャンスもあるといいな、と思っています。蓬莱竜太さんが描く世界観とか・・・大好きですね。
――2017年、まずは“天才”ビクター・フランケンシュタインと、見世物小屋の主人・ジャックで“孤高”の柿澤さんを拝見するのを楽しみにしています!
ありがとうございます(笑)!切ない物語ではありますが、友情だったり、人間の愚かさや業といった普遍的なことも描かれていて、観た方の心に訴えかける作品になると思っています。音楽的にもかなりドラマティックな曲が多い濃密なミュージカルですので、そのあたりも楽しんでいただけるのではないかと。
また、僕個人としては、怪我をして以来、久しぶりの舞台になりますので、丁寧に作品に関わりつつ、ご観劇いただいたお客さまの心にギフトをお渡しできるよう、精一杯自分の役割を務めたいと思っています。
嘘の吐けない人だ・・・彼に話を聞くたびにそう思う。自分の心が動いた時はキラキラした笑顔で楽しそうに語ってくれるのだが、こちらの問いが的を外すと少し困った顔になって、一生懸命答えを探す。
今年、柿澤勇人は自らの代表作のひとつとなる作品と役に出会った。『ラディアント・ベイビー』のキース役である。彼は“命を削って舞台に立つ”という表現以外思いつかないギリギリの状態で、あの空間で生き抜いていた・・・キース・ヘリングとして。その姿に客席で思いきり心を掴まれた・・・痛かった。
来年の幕開けとなるミュージカル『フランケンシュタイン』で、柿澤はまた新しい挑戦をする。どんな“天才”ぶりを魅せてくれるのか・・・“完全復活”した彼の姿を早く見たいと思う。
◆ミュージカル『フランケンシュタイン』
2017年1月8日(日)~1月29日(日)東京・日生劇場
(撮影/高橋将志)