『お勢登場』江戸川乱歩の迷宮世界が舞台に!倉持裕×水田航生対談インタビュー「きっと乱歩もびっくりしてると思います!」

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2017年2月に東京・シアタートラムにて、倉持裕が作・演出を手掛ける舞台『お勢登場』が上演される。倉持は、大正から昭和にかけて活躍した文豪・江戸川乱歩の8本の短編世界をモチーフに、1本の演劇作品として再構成し本作を作り上げた。乱歩の世界を噛み砕き、シャッフルした上で新たに浮かび上がる物語とは・・・?今回、倉持作品に初出演を果たす水田航生と共に、演出家と役者、それぞれの立場から話を聞いた。

『お勢登場』倉持裕×水田航生インタビュー

――水田さんは、倉持さんの織り成すお芝居の世界が以前から好きでファンだったと、公演に向けたコメントでもお書きになっていましたよね。

水田:そうなんです。これまでも、いろいろな作品を観させていただいているんですけど、一番最近だと、9月に『家族の基礎 ~大道寺家の人々~』を観ました。ビジュアルもカラフルで、ポップな世界観がすごくおもしろかったです!今回の『お勢登場』は、まったく違うムードの作品で、倉持さんの新たな一面が見られそうで楽しみです。

――今回は念願のご出演ということですが、お二人でこれまでにお会いになったことはありましたか?

倉持:芝居を観に来てくれたり、僕も観に行ったりしていたので・・・楽屋とかでは会ったことあったよね?

水田:そうですね。それから、僕、世田谷パブリックシアターによる倉持さんのワークショップにも参加させてもらったんですよ。でも、今日みたいに対談のような形でお話しさせていただくのは初めてですね。今、少し緊張しています(笑)。

――倉持さんから見た水田さんのご印象は?

倉持:水田くんが出ている作品は何度か観ていて、中でも去年2月に今回と同じシアタートラムでやっていた『マーキュリー・ファー』が印象的でした。見てきた芝居の役がそうだったのかもしれないけど(水田は)すごく純粋な感じがして、好きだったんですよね。裏がない感じ。人に騙されたり、出し抜かれたりする様が似合うなというか(笑)。それで、今回演じてもらう役に合うなって思ったんです。

水田:ご想像通り、僕はどちらかというと騙されやすいタイプかもしれません・・・(笑)。

倉持:そういう本質的なところが芝居に出てたんだよ。多分(笑)。

『お勢登場』倉持裕×水田航生インタビュー_4

――実際に稽古に入るのが楽しみですね!水田さんは今回、倉持さんだけでなく共演者の方も初めての方が多いんですよね?

水田:そうですね、千葉(雅子)さん以外の方は初めてご一緒させていただきます。僕、稽古に入る前にいつも、お会いする前の方についてもイメージしてみるんですよ。あの人がこの役をやって、この人がこの台詞を言って・・・って。でも自分のイメージ通りのことなんて絶対にないし、お会いする度に僕の抱いていたイメージも更新されていくんですよね。先日、川口(覚)さんに初めてお会いした時も、こういう声を持った方なんだな!っていう新発見がありましたし。初めましての方とご一緒する時は、稽古を重ねれば重ねるほど皆さんへの印象に変化が出るので、今からそれがとても楽しみです。

――『お勢登場』の台本を読ませて頂いたのですが、最近の倉持さんの作風とはガラリと変わったような印象を受けました。

倉持:最近のものと比べるとそうかもしれない。でも、自分の中では初期の頃に戻ったような感覚もあるんですよね。もちろん、新たな試みでもあるのですが。劇団公演でも複雑な構成の芝居をやっていて、自分の得意技というか、特色の一つだと思っていたので。今は、昔よりもう少しスマートに書けるかなと思って、今回このような作品にしてみました。

――モチーフとしての決め手は何だったのでしょうか?江戸川乱歩を選ばれた理由は?

倉持:乱歩、好きだったんですよね。学生時代によく読んでいたこともあって。僕は、乱歩にすごくユーモアを感じているんです。どこまで真面目に物語を書いているか分からないというか・・・何てことないことや物でも、ぬらぬらと猟奇的なものに膨らませちゃったりするじゃないですか?それがやり過ぎな時も多々あったりして(笑)。だから、思わず笑っちゃうんですよね。

――分かる気がします。表現が超越していて、恐ろしいはずの描写が笑いに変わるというか・・・。

倉持:そうやって、やや茶化した見方をして楽しめる作品もあれば、「芋虫」のように、読んでいるうちにみるみる顔がこわばっていくような恐ろしい作品もある。複雑な構成で芝居を作りたいと思っていた時期に、乱歩作品には興味深い短編がたくさんあるし、それらを組み合わせてみてはどうかなと思ったんですよね。

『お勢登場』倉持裕×水田航生インタビュー_2

――水田さんは、乱歩に馴染みはありましたか?

水田:兄の影響もあって本はよく読んでいたんですけど、乱歩作品はあまり詳しくはないんです。でも、ミステリーやサスペンスはとても好きです。もともと、集中力はあまりない方だったんですが、物語を読むことで没頭する力を養ってきました(笑)。

――最初に台本を読んだ時、どういう印象を受けられましたか?

水田:乱歩ってこういう要素も持っているんだ!という発見があったと同時に、8本もある別々の作品をこんなにもリンクできるのか・・・と驚きました。読み進めれば進むほど、お話が次第に1本になって新たな物語が生み出されることに感激してしまいました。ご覧になった方も、この舞台『お勢登場』の小説版を読みたくなるんじゃないかな。きっと、江戸川乱歩もびっくりしてると思います(笑)!それとそれを組み合わせたの?!みたいな!

――確かに(笑)!倉持さんは、乱歩の特色である、作り込まれた推理小説と異質のムードが漂う幻想・怪奇小説の二つのジャンルから短編を選ばれて、それを混ぜて再構成するにあたり、組み立て方のイメージなどはあったのでしょうか?

倉持:『お勢登場』にしか出てこないお勢を活躍させてみようって思ったんです。ある単行本で、‟乱歩自身が「お勢」を明智のライバルに仕立てたいと思っていた”というニュアンスの後書きがあったんですよ。それを読んだ時に、乱歩は、お勢をキャラクターとしてもっと育てていきたかったんじゃないかなと思って。組み立て方としては、「お勢」が関われそうな事件や出来事が描かれている作品を組み合わせたら成立させられるんじゃないか、というところからイメージしましたね。

『お勢登場』倉持裕×水田航生インタビュー_3

――なるほど!まさに、乱歩もびっくりですね。物語を飛び越えて、自分が作った登場人物同士が出会うことになろうとは!他の登場人物に関してはどうでしょうか?

倉持:乱歩の推理ジャンルの物語って、だいたい素人探偵が出てくるんですよ。それを水田くんや川口くんが演じる役柄に見立てています。「客観的に見ている若者」っていう要素が欲しかったんですよね。事件の中核にいる人ばかりだと、重く難しくなっていってしまう気がして・・・。
ちょっと離れたところで、事件について勝手に推測したり、ああだこうだ言ったりする人が欲しかったんです。

――「素人探偵」というキーワードが出ましたが、水田さん、それを聞いていかがでしょうか?

水田:稽古に入ってみないとまだ分からない部分も多いですが、印象としては、僕が演じる格二郎(役名)のような人は、本気の推理バカというか。今の僕たちより、出来事の一つ一つをすごく楽しんでいるように感じるんです。ちょっとしたことでも、好奇心でワクワクさせて、「○△なら、こうなんじゃないか?」「いや、それは違うよ」とか・・・。物語の中では、遊び半分だったことが一線を超えてしまう部分も描かれているので、心が追いついているのか、追いついていないのか、そういう細かな部分までどう演じていくか、イメージを膨らませているところですね。それから、同じ役者が全く別の役柄をやっていくのも、今回の作品のおもしろ味だと思います!別の役も、皆さんを混乱させるぐらいの気持ちでやっていきたいですね。

――混乱させられる、翻弄させられるっていうのも、乱歩の世界観に近い気がします!

倉持:一人が複数の役をやることは結構あることですけど、それって、キャストが楽しんでやっていた方がおもしろいんですよね。本役以外の出番は短いので、多少デフォルメされたキャラクターを作るのもアリだとも思いますし。

水田:演じる側としても、(複数役を演じ分けることは)やっていてものすごく楽しみですし、得した気分になりますよ(笑)!一つの作品の中で何人かを生きていけるってすごく、役者としてはやりがいがあります。

『お勢登場』倉持裕×水田航生インタビュー_6

――最後に、公演に向けての意気込みをお聞かせください。

倉持:8本選んだものを綺麗に、順列にみせるのではなく、ごちゃ混ぜにして組み立て直した複雑な構成のお芝居です。それによって、舞台が乱歩の小説のように迷宮めいた世界になって、新しい観劇体験をしていただけるのではと思っています。

水田:ドロドロしたイメージを持たれる方も多いと思うのですが、僕が演じる場面は、割とライトで明るいシーンになると思います。それから、観に来てくれた方が終わった後に「あれってどうなの?」「自分はこう思うんだけど・・・」って物語について語りたくなるような作品になっていくんじゃないかと。ぜひ劇場で、二度三度と楽しんでもらえるような作品にしたいと思います!

『お勢登場』倉持裕×水田航生インタビュー_5

撮影/広川泰士

◆公演情報
『お勢登場』
【原作】江戸川乱歩
【作・演出】倉持裕
【出演】黒木華、片桐はいり、水田航生、川口覚、粕谷吉洋、千葉雅子、寺十吾、梶原善

【東京公演】2017年2月10日(金)~2月26 日(日) シアタートラム
【福岡公演】3月1日(水) 福岡市民会館
【大阪公演】3月4日(土)・3月5日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
【チケット一般発売】東京・福岡 2016年12月4日(日)10:00~  大阪 12月17日(土)10:00~

◆プロフィール
倉持裕(くらもちゆたか)
1972年生まれ、神奈川県出身。2000 年に劇団ペンギンプルペイルパイルズを旗揚げ。『2mの魚』(2000年)以降、劇団作品の脚本と演出を全て手がける。2004 年、『ワンマン・ショー』にて第48回岸田國士戯曲賞を受賞。劇団外でも、世田谷パブリックシアター主催「現代能楽集V『「春独丸」「俊寛さん」「愛の鼓動」』(10)、「現代能楽集VII 『花子について』」(14)のほか、Md&Oplays プロデュース 『鎌塚氏、振り下ろす』(14)などの『鎌塚氏シリーズ』、『わたしを離さないで』(14)、劇団☆新感線『乱鶯』(16)など、脚本や演出作品も多数。テレビドラマの脚本やコント執筆など、活動の幅を広げている。

水田航生(みずたこうき)
1990 年生まれ、大阪府出身。ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』(小池修一郎演出)や舞台 『金閣寺-The Temple of the Golden Pavilion-』(宮本亜門)など、幅広い分野の舞台に出演。近年では世田谷パブリックシアター主催『マーキュリー・ファー』(白井晃演出)、現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』(マキノノゾミ作・演出)のほか、ミュージカル『オーシャンス11』(小池修一郎演出)、『サンセット大通り』(鈴木裕美演出)、 『マイ・フェア・レディ』(G2演出)などに数多く出演。映画作品でも、『カノジョは嘘を愛しすぎている』、『太陽』などの話題作に出演し、幅広い役柄を好演。

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