ビジュアルと音楽、動きで見せるスタイルの朗読劇として、日本文學の持つ上質な世界観を立体的に表現し人気を博してきた極上文學シリーズ。その第11弾として、2016年11月に江戸川乱歩の2作品を原作とした『人間椅子/魔術師』が上演される。『人間椅子』に登場する椅子職人役(Wキャスト)を演じる村田 充は、今回で本シリーズ3回目の出演となる。これまでの出演を振り返りながら、本作にかける思いを聞いた。
――村田さんは、今回で極上文學シリーズ3作目のご出演となりますね。
そうですね、『走れメロス』『高瀬舟・山椒大夫』に続いて呼んでいただけました。このシリーズは、朗読劇の要素と演劇の要素、その両方が融合しているところが、とても好きなので、また出演することができて嬉しいです。
――まず、前作2作を振り返って今思うことはありますか?
『走れメロス』は大阪公演のみの出演で、セリヌンティウス役を演じたのですが、あまり自分とイメージがリンクしていない役だったので新鮮でした。先輩の(荻野)崇さんが、同じセリヌンティウス役をやってらっしゃったんですが、その稽古の様子を見て技術力の高さに不安になったのを覚えています(笑)。
『高瀬舟・山椒大夫』は、お芝居を作っている段階から本当に気持ちのよい作品でした。再演してほしいくらい気に入っています。非常に繊細な表現ができる作品でした。身体で表現しながら言葉を繋げていくことができたので。舟の上での挙動とか揺れとか、小さなアイデアが良いタイミングで生まれて、それがお芝居に融合していった感じがして、とても心に残っている作品です。
――このシリーズは、非常に演劇的でありながら朗読という、ある種の制限された表現に挑んでいますよね。作品へのアプローチの仕方は、他の作品と変化はありますか?
芝居の作り方は大きくは変わらないのですが、基本的には台本のみと向き合って、台本から感じたことから芝居を組み立てていきます。極上文學シリーズは「本を持って、立って芝居をする」ので、言葉に頼りすぎず、身体的な表現を使って伝えることもできる。自分はどちらかと言うと身体表現の方が得意なので、朗読劇とも言えるし演劇とも言える、このシリーズの持つふわっとした、いい意味でどっちつかずな部分と相性がよいと思っています。
台本に書かれていない部分を身体で表現することによって、心情だけでなく情景、世界観も広げられる。語りながらも、しっかりと身体で表現することで、お客さんのイマジネーションをさらに刺激する芝居を作ることが、この極上文學の最も重要な部分なので。それが難しくもあり、楽しくもあり。
――文学作品を題材にしているというのも、このシリーズの大きな特徴になりますが・・・。
実は僕、小説があまり得意ではなくて・・・(苦笑)。小さい文字を追っていると今、自分が何行目を読んでいるのか見失うことを繰り返してしまって。文字の大きさは、台本のサイズが限界(笑)。
原作を読んでイメージを持っていた方が、台本を読んだ時により楽しく感じる部分もあるかもしれません。でも、演じる上で向き合うのはあくまで台本なので。そういう意味では、すごくフラットな状態で台本に入っていけるのかなと思っています。
――今回の『人間椅子/魔術師』は江戸川乱歩の作品です。
江戸川乱歩も名前は知っていますが、読んではいないです。江戸川乱歩の作品にハマりそうと言っていただくことが多いのですが、自分ではよく分かっていなくて。
――台本を読まれていかがでしたか?
妖艶さといいますか、答えが一つではなさそうな世界観をどう表現するのか想像つかなくて。演出のキムラ(真)さんからのプランにも刺激をもらって、身体を使って上手く表現できればと思いました。観終わった後にしこりが残って、家に帰るまでなんとなく「食欲ないなあ・・・」って、お客さんをそんな気持ちにさせられたらいいんじゃないかな。
――演じられる椅子職人についての印象も教えてください。
久しぶりの変態性のある役なので、楽しみです。今までもいろいろ気持ちの悪い役はやってきましたが、ここまで気持ち悪いのは10年振りくらい。以前、深夜ドラマの『ティッシュ。』(テレビ朝日)で演じた義理の兄は、すごく気持ちの悪い役でした(笑)。舞台『殺人鬼フジコの衝動』も主人公のフジコを追い回すストーカーのような役でしたけど、あれはそれほど追い込んでいく描写はなかったので。
今回の役は・・・椅子に入っちゃいますからね。ある種の性的な欲求も含まれていることを感じさせるから、気持ち悪いですよね(笑)。でも、本を持ってやるからどう表現するんだろう。
――椅子に入ってしまったら・・・本、持てませんね。
動けませんもんね(笑)。演出のキムラさんには絶大な信頼を寄せているので、その辺りもどんなプランが出てくるのか、演出していただけるのを楽しみにしていたいと思います。
――村田さんご自身も、芝居作りにおいて職人的な面をお持ちですか?
良い言い方をしてもらうことが多いのですが、僕自身はそんなに深く考えたりしているわけではなくて。シンプルに、シンプルに、作っていくだけなので。職人気質なところはあるかもしれませんが、いろんな人と関わり合いながら作品を作っていくので、そこまで職人さんという感じではないです。
――極上文學シリーズは「マルチキャスティング」という形で上演されますが、今回は村田さんと同じ椅子職人役を、声優としても活躍されている石井マークさんが演じられますね。
Wキャストは、僕、好物なんです(笑)。同じ役をやっていても解釈も全然変わってきますし、雰囲気も違うものになりますので。石井さんに刺激をもらって、勉強させてもらいたいと思います。僕は僕のやり方で、台本と向き合っていけたら。ぜひ、両方のバージョンを観ていただいて、それぞれの椅子職人を楽しんでもらえたらと思います。
――相手役の方が変わることはどのように受け止められていますか?
基本的な段取りは変わらないので、そこまで混乱することはないのですが、音も変わってきますし、間合いや空気感も変わってきます。
慣れていくことがあまりないので、良い意味で公演中ずっと緊張感を持ちながらいることができますね。今回もいい役者さんが揃っているので、どうなるのか楽しみです。ROLLYさんとか・・・絶対、一筋縄じゃいかなそう(笑)。
――少し話が反れてしまうのですが、ご自身はどんな椅子を使っていらっしゃいますか?
自宅のリビングには椅子は置いていなくて、ラグマットを敷いています。下に座るのが好きなので。そのかわり、寝室にキャンプ用で使う椅子を置いています。折り畳めるディレクターチェアみたいな、スノーピークというキャンプブランドの折り畳み椅子です。この椅子がすごく軽くて、座り心地がいいんです。キャンプにはそうそう行けないので(笑)。ベッドの横にそれを置いて、座って音楽を聞いたりしています。・・・実は昔、趣味に「椅子」って書いていたこともあります(笑)。
――そうだったんですか!
そんなに詳しいわけでもないから、なんで趣味の欄に「椅子」って書いていたのか今思い返すとよく分からないのですが(笑)。ただ、眺めるのが好きでした。
――座るのではなくて、見る方の意味で好きだったんですね(笑)。
駅のベンチシートとかも、場所によって形も様々なので。沿線によっても違うし。そういう風に、椅子を見るのが好きでした。
――劇場では椅子の座り心地も観る側にとっては重要なんですが、今回は前回よりも大きな劇場になりますね。
そうですね、今回の全労済ホール/スペース・ゼロは、割と大きいので。前回のCBCKシブゲキ!!だと、一番後ろの席まで表情もギリギリ届くところサイズなので、自分の得意としているところを十分に使うことができたのですが、今回は少しやり方を変えなきゃいけない可能性もあるかなと思います。三方舞台になるので、視覚的な制限も生まれるかもしれませんし、そういったことを念頭に入れながら作っていくのも楽しい部分なので、新鮮な気持ちでできそうです。
――どんな空間演出になるのかも、毎回注目しています。
最近は照明などのプランニングが複雑な作品も多いですが、極上文學シリーズではシンプルでアナログな演出方法をとられています。光や物理的なものを含む“空間”を役者が表現していくというのは、極上文學シリーズを上演している劇場のサイズだからできるので。僕は小劇場演劇が出発点なので、頭で考えて、身体で表現して、お客さんの想像力を刺激するという部分で、毎回原点に立ち返れる感じがしています。
――最後に、公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
『高瀬舟・山椒大夫』が終わった直後から、またオファーをいただけるかなと待っていました。呼んでいただけて光栄です。今、もしかしたらお客さん以上に僕が楽しみにしているかも(笑)。この作品が、僕にとって2016年を締めくくる作品になります。観てくださる皆さんの中にもそうなる方がいらっしゃると思うので、期待に添えるようしっかり準備をしたいと思います。初日から良い作品を届けられるように、一生懸命やっていきます。
キービジュアル:尚 月地 (C)2016 CLIE/MAG.net Andem
◆公演情報
極上文學 第11弾『人間椅子/魔術師』
【東京公演】11月30日(水)~12月4日(日) 全労済ホール/スペース・ゼロ
【大阪公演】12月23日(金・祝)~12月25日(日) 近鉄アート館
【原作】江戸川乱歩
【キービジュアル】尚 月地
【演出】キムラ真(ナイスコンプレックス)
【脚本】神楽澤小虎(MAG.net)
【読み師】足立英昭、石井マーク、伊勢大貴、小西成弥、長江崚行、松田洋治、松本寛也、水澤賢人、村田 充、ROLLY(50音順)
【具現師】赤眞秀輝(ナイスコンプレックス)、福島悠介、濱仲太(ナイスコンプレックス)、太田守信(エムキチビート)萩原悠
【奏で師・音楽】橋本啓一
【公式HP】http://www.gekijooo.net/11th-isu-majutsu/
【公式Twitter】@MAG_play