新しい文学の形として注目を集める朗読劇シリーズ『極上文學』が、2015年10月9日(金)~18日(日)、第9弾として森鴎外の名作『高瀬舟・山椒大夫』を上演する。東京・渋谷のCBGKシブゲキ!!での公演を終えた後は、24日(土)・25日(日)と大阪ビジネスパーク円形ホールでも公演する。『極上文學』シリーズではこれまで、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』や芥川龍之介『藪の中』をはじめ、様々な文学作品を題材にしてきた。今回は、『高瀬舟』と『山椒大夫』の2作のストーリーと登場人物が舞台上で入り交じる異色作だ。
独特の上演方式も注目を集め、公演回ごとに配役が入れ替わるマルチキャスティングや、朗読劇とは思えない役者の演技、生で音楽を奏でる「奏で師」や舞を舞う「具現師」の登場など、見どころ溢れるユニークな演出は公演を重ねるごとに話題を呼んでいる。
今回はメインキャストの一人、伊勢大貴に話を聞いた。
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――伊勢さんのデビューは俳優でしたが、最近は『烈車戦隊トッキュウジャー』や『手裏剣戦隊ニンニンジャー』の主題歌を歌ったりと、歌手としてもご活躍されていますね。
ずっと芝居を中心に活動を続けていくつもりだったのですが、歌もやりたかったので、チャンスを頂けて楽しかったです。でもしばらく芝居に携わることが減っていたので、今年に入って演劇に関わることが増えて嬉しいです。芝居以外で得た経験を活かしていければと思っています。
――朗読劇は2年半ぶりですね。出演が決まった時はいかがでしたか?
まず最初に思ったことは、共演する方たちがとても楽しみだなと。作品はそれまで読んだことがなかったので、それよりも誰と共演するんだろうということが気になっていましたので。共演したことがある方がたくさんいるのも嬉しいです。(椎名)鯛造さん、(水石)亜飛夢、服部(翼)くん……なかでも鯛造さんは、過去の共演で濃い絡みがありましたから印象的です。当時は舞台上で鯛造さんから受けるものが大きくて、「わあ、この人すごいなあ」と思ってお別れしたままでしたから、また一緒にお芝居できるのが楽しみですね。
物語自体は、森鴎外の名作ということで作品の力がすごく強いと思うので、あとはこのキャスト達でどうしていこうかなあというところ。毎公演配役の変わるマルチキャスト方式だし、同じ役でも役者の演じ方が違えば違うほど面白いんだろうな。
――自分と同じ役を誰かが演じることについてはどう思いますか?
役者が違えば別の座組なので、良い意味であまり気にならないです。だからプレッシャーを感じる必要はないかな。むしろ観てみたいですよね、他の人だったらどうなのか楽しみだな。
8月に出演した舞台『テイラー・バートン~奪われた秘宝~』でも1本の台本を4チームで上演したんですが、やっぱりチームによって全然違ったんですよ。だから自分たちの色をどれだけ濃くできるかというのが大切だなあと思います。みんなのキャラクターが全然違うから、同じようにはできないんじゃないかというのは、歌の仕事をして実感しました。その人の声のキーがあって、トーンがって、MCがある・・・ということをすごく肌で感じたんです。だからぶれなくなりましたね、前よりは。
――前、というとミュージカル『テニスの王子様』ですか?
ええ。初舞台のミュージカル『テニスの王子様』の時から、過去のキャストと比べて観られていたので・・・。「前の人のほうがよかったー」と言われることもありましたけれど、そう思う人もいるし、僕のほうがいいと言ってくれる人もいるし、観る方の好みでしょう。だから今回のようにマルチキャストだと、いくつも観比べるという楽しみ方ができていいと思います。
――伊勢さん自身も、公演ごとに演じる役が変わりますしね。
11日なんて、昼公演と夜公演で演じる役が違いますしね。メイクが大変じゃないかなあ。
――心配なのはメイク?(笑)
気持ちについては、景色が変わると勝手に切り替わると思うので心配してないです。演じる役が公演回によって変わることで生まれる変化を感じたいですね。しかも毎回相手役も変わるし、年齢もバラバラ。19歳の亜飛夢が僕のお姉さん役だったりと、実年齢と逆になることもあるんです。どんなステージになるんだろう。
――森鴎外の原作を読まれた印象はいかがですか?
読みやすいですね。今までちゃんと森鴎外の本を読んだことはなかったのですが、『山椒大夫』の方はファンタジーに近い印象を受けました。仏像が身代わりになってくれたり、おどろおどろしさよりは子どもの夢のようなイメージで、ワクワクドキドキしながら楽しく読んでいます。本当に、魅力のある作品です。
最近はあまりみられなくなった日本人らしさがある作品なので、それが伝わるといいなと思っています。
――文学作品を朗読することの面白さはどんなところだと思いますか?
一時期、伊坂幸太郎さんにハマっていて、それからミステリーが好きになって・・・最近面白かったのは『キャプテンサンダーボルト』(阿部和重、伊坂幸太郎合作)。いわゆる文学というのは、自分から積極的に読まなかったジャンルではあります。
でもこの『極上文學』に出演する事で文学に触れられた。この『極上文學』がきっかけで文学作品を手に取る人はきっと多いんじゃないかな。きっかけになるって大事なことだと思います。たとえば又吉直樹さんが『火花』で芥川賞を受賞したことで、本を読むきっかけになった人は多かったと思うんです。それはきっと日本にとって悪くない・・・むしろ良いことのほうが多いはず。
だから原作を読んだことのない人たちにも、本の持っている魅力もちゃんと伝えつつ、自分たちの魅力も伝えることができれば、いい公演になるんじゃないかな。
原作は言葉遣いや言い回しは難しいところも多いから調べながら読んでいますけれど、そこは芝居だからこそ埋められると思うんですよ。本を読むよりも舞台のほうが、きっと受け入れやすいんじゃないかな。原作を知っていても知らなくても楽しめると思います。
――過去に出演した作品などとは全然違う雰囲気ですよね。
エンターテイメントという意味ではきっと一緒かな。明るい話ではないけれども、捉え方はエンターテイメントだと思うんですよね。朗読でも演劇でもなく「朗読演劇」なので、見せ方はきっとポップになるんじゃないかなあ。楽しみですよ。面白そうな試みがたくさんあるし。
――舞台上での生演奏もありますね。演奏される橋本啓一さんはジャズの方で、演技に合わせて音楽を奏でるそうですが。
うわ~、音楽に引っ張られそうだなあ。でも楽しみです!
橋本さんだけでなく、演出のキムラ真さんも脚本の神楽澤小虎さんも、僕と同じ北海道出身なんですよ。なにか通じるものがあるかもなぁ。打ち上げは北海道料理の店に行きたい(笑)
――伊勢さんにとって“舞台”とは?
唯一、役として“他人の人になる”仕事なので、特別だなあと思います。歌とは全然違う。歌では「伊勢大貴」という自分の名前で人前に立つので、100%が自分だけれど、演劇は他の人の名前を借りて人前に出るので、その役としての景色が見える。違う人間になるからこそできる楽しいことが、舞台にはすごくあります。
――これからどんな舞台に挑戦したいですか?
舞台だと、ミュージカルに出たいですね!そのために今はレッスンに通っています。ダンスと殺陣とタップと英会話と・・・それを活かせる時が来るといいなあ。
――ミュージカルが好きなんですね!
僕、昔からディズニーが大好きなんですよ!ディズニーアニメは基本ミュージカルですし、大人になって東宝ミュージカルも観に行くようになってから、ミュージカルって面白いなあと思いました。
歌がうまいだけではなく、芝居しながらその役として歌いたい。そういう役者さんはたくさんいて、その方たちの表現する感動が素敵だなと思うんです。そこに注目してディズニーを見ると、ちゃんと役として歌ってる!と思います。すごいですよ。
――たしかに!ディズニーアニメのキャラクターが生きていることに違和感を感じずに観ているかもしれませんね。
違和感がないというのが一番なんですよ!最近、『ヘラクレス』というディズニーアニメを見て感動したんです。びっくりしますよ!藤井フミヤさんが主題歌を歌っているんですが、わざと少しだけ舌ったらずに歌ってるんです。うまく歌おうと思えばできるのに、すごいな~!と・・・感動しました。
ディズニーはたまに歌の部分だけ声優さんではなく歌手の方に変わるんですけれど、人が変わってもキャラクターのイメージがそのまま崩れないからすごい!ディズニーのキャスティングの人も、役に擦り合わせていく声優さん歌手の方の技術もすごいです!僕も行く先は、ああいう仕事がしていけたらなと思います。
――憧れの役者さんはいますか?
今までは目標を作るのがカッコ悪い、自分は自分なんだという気持ちがあって、敢えてそういうふうに観ないようにしてきたんです。けれど最近は役者観が変わってきたのかなあ。とくに役所広司さんは見ていてすごくドキドキハラハラする。あと、樹木希林さんや劇団ヨーロッパ企画の永野宗典さんはどの役をやってもご本人に見えるのに、ちゃんとその役にも見えているというのはすごい。大竹しのぶさんも・・・放っているものが違うなと。映画『悼む人』で、大竹さんが目の見えない人の頭にぽんと手を乗せるシーンがあって、僕は本当に神様がいるんじゃないかと思いました。もう大竹さんご本人がどうとか役がどうとかじゃなく、演じているという感じもなくて、その空間そのものが圧倒的!あの空気を放つ大竹さんもすごいし、受け止めるほうもすごい。ああいうシーンを切りとれるような人間になりたいです。
――世界観や、その役として生きている人間を感じてもらえたら・・・と。
そうですね。できれば「伊勢大貴すごいな!」と思ってもらいたくない。前は逆で「伊勢くんすごいな」と言ってほしかったけれど、今は「あの役よかったね」と言ってもらえたら嬉しいかな。たぶん自分が褒められたことは自分の成果でしかないんです。役者としてすごいかと言われたら、きっと違うから。
真摯な瞳には、意志の強さと役者という仕事へのこだわりが見え隠れする。今回の舞台では、相反する立場の役を演じ分ける。殺した兄、殺された弟、人買いの山椒大夫と、買われた厨子王……役者・伊勢大貴がどうそれらの役を生きるのか、楽しみだ。
◇伊勢大貴 プロフィール◇
1991年5月15日生まれ、北海道出身。2011年ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンにて、氷帝学園中等部男子テニス部の日吉若役として俳優デビュー。2013年、劇場版『獣電戦隊キョウリュウジャー ソングアルバム ガブリンチョ・オブ・ミュージック』の劇中歌『カミツキ・ブレイブ』で歌手デビュー。2014年には、烈車戦隊トッキュウジャーオープニング主題歌『烈車戦隊トッキュウジャー』現在放送中「手裏剣戦隊ニンニンジャー」のエンディング主題歌『なんじゃモンじゃ!ニンジャ祭り!』を歌う。主な舞台は『時代に流されろ』(主演)、『テイラー・バートン〜奪われた秘宝』など。ウイントアーツ所属。
◇本格文學朗読演劇 極上文學第9弾
『高瀬舟・山椒大夫』◇
2015年10月9日(金)~18日(日)
東京・渋谷 CBGKシブゲキ!!
2015年10月24日(土)・25日(日)
大阪・大阪ビジネスパーク円形ホール