ダンサーの大野幸人による一人芝居『Angel』が、2016年6月24日(金)から26日(日)まで、東京・ニッポン放送 イマジン・スタジオにて上演される。これまでにミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『Chess the musical 』マシューボーンの『ドリアングレイ』(シリル・ヴェイン役)、など数々の舞台公演に出演してきた大野だが一人芝居は今作が初挑戦となる。演出・脚本を務めるのはニューヨークのオフ・オフ ブロードウェイ演劇祭「Midtown International Theatre Festival」に日本人として初めて招かれ、最優秀ミュージカル作品賞・最優秀演出賞・最優秀作詞賞など数々の賞を獲得した実績を持つ石丸さち子。本作では、「かつて“アイドル”と呼ばれた青年の一生に一度の恋の物語」が描かれるそう。名実共に舞台芸術のトップランナーである二人が見せる『Angel』とは如何に!? 神秘のベールに包まれた本作の内容や製作過程を二人から聞いた。
関連記事:ダンサー・大野幸人がたった一人のステージに立つ 『Angel』2016年6月上演
――ダンスやミュージカル等多くの舞台作品に出演してきた大野さんが、今作で初めて一人芝居に挑戦することを決めた理由はなんでしょうか?
大野幸人(以下、大野):一人芝居という非常にシビアな場に自分を晒して、歌や踊りではない新しいフィールドに挑戦したいと思ったからです。
――大野さんと石丸さんは以前からお互いの作品を見ていたそうですが、石丸さんは“ダンサー・大野幸人”についてどのような印象を持っていますか?
石丸さち子(以下、石丸):初めて大野さんのダンスを見たとき彼の身体の中に詩的な言葉がたくさん眠っていると感じました。大野さんはとてもシャイで自分を言葉で表現するタイプではないんですけど、ステージで踊っている姿は足先から指先まで言葉で溢れている。だから『Angel』の脚本を書く際は大野さんの身体のなかに眠っている言葉を文字にするよう心がけていました。
――『Angel』の脚本は大野さんをイメージして作った物語なのでしょうか?
石丸:そうですね、完全に当て書きで書きました。でも、物語が「大野幸人」のイメージそのものになっては・・・と思いましたので、ものすごく突拍子のない話を同時にブレンドさせました。それは「ライ麦畑でつかまえて」などで知られる小説家J.D.サリンジャーの一生です。彼の人生は波乱に満ちていて、第二次大戦を終戦まで最前線で経験したり、編集者の意見と食い違って出版にあたって様々なトラブルを抱え、結婚は何度も失敗。社会に自分がうまく受け入れられなかったことで、終いには高い塀で自分の家の周りを囲み、90歳で亡くなるまでずっと隠遁生活をしてどこにも発表しない小説を書いて暮らしていたんです。大野さんが人生で経験したことと、隠遁生活をするに至ったサリンジャーの人生。二人の人生をモチーフに、それぞれを照らし合わせながら寓話ともリアルともいえない物語を作りました。
――なるほど。今作では大野さんの身体はどのように活かされていくのでしょうか?
石丸:実は、『Angel』は大野さんの身体を使って時空を超える話なんです(笑)。大野さんが飛び上がれば時空を超えることができる。それは非常に演劇的な魅力だと思っています。ただ、台詞も非常に多いので身体と共に声による表現も見所だと思いますよ。
「新しい自分が生まれたという感触がある」
――大野さんは石丸さち子さんという演出家にどのような印象をお持ちですか?
大野:心が熱い方だと思います。
石丸:ははは(笑)。いつもそれ言うよね!
大野:本当にそう思うんですよ(笑)。
――稽古場でも石丸さんの熱さは感じますか?
大野:感じますね。稽古場では石丸さんの熱意がほとばしっているので、完全に身を任せているような状態だと思います。
――ダンスと演劇では稽古場で使用する言葉が違ってくると思います。石丸さんの演出家としての言葉はいかがですか?
大野:すごくわかりやすいですね。演劇の作家が使う言葉って、イメージとして難しい印象があったんです。でも石丸さんは全く難解なことは口にせず、僕に合わせてくれているのかもしれませんが、スッと演技や動きに落とし込める明瞭さがあります。
――なんだか相性がよさそうな感じがしますね。
石丸:全く違うタイプだからでしょうか。稽古場で大野さんのことを見ているのは本当に楽しいですね。大野さんは演出に対してスピーディーに応えてくれるんです。私の無茶な注文にも難なく応じてくれるポテンシャルがある。だから稽古を重ねるたびに飛躍的に前に進んでいる実感があって興奮しっぱなしです。
――本格的な稽古の前に行うプレ稽古は石丸さんと大野さんの一対一で行ったと聞いたのですが、どのような稽古をしたんですか?
大野:発声のトレーニングをしていただきました。
石丸:大野さんはあまり喋らないタイプなので、初めてお会いしたときは発声器官がお休みしているような状況だったんですね(笑)。なので舞台上で声を出すための稽古を繰り返しました。あの稽古は結構きつかった?
大野:いえいえ。あの時は山で強化合宿をしているような濃密な時間を過ごせて、贅沢な気分でした(笑)。
――実際、稽古を通して声が変化したという実感はありますか?
大野:自分のなかではあるのですが、どの程度っていうのは計れないので・・・どうなんでしょうね(笑)。ただ、新しい自分が生まれたという感触はあります。
ダンス、それとも演劇?
――大野さんは脚本を読まれた時、どのような印象を持ちましたか?
大野:自然とその登場人物の気持ちがわかるというか、感情移入しながら読んでいましたし、情景も思い浮かびました。なので、読み終わって楽しみに思ったのと同時に、これが自分にできるのかというプレッシャーも感じました。
――初めての一人芝居。今作で大野さんはどのようにして役作りをされているんですか?
大野:台本に書かれている情景を思い描いて、その時に登場人物が感じたであろう気持ちだったり、目に見える視覚的なものをイメージとして自分のなかに植え付ける作業を繰り返しています。自分が体験した出来事や感情と重なる心情はわかるのですが、自分が経験していないこともたくさん起きるので、やはり何度も読んで想像を膨らませることに尽きると思います。
――石丸さんの作・演出という立場において、一人芝居というのはその手腕がもろに試されるように感じます。
石丸:そうですね。なので、もちろんプレッシャーも感じていますが、それ以上に脚本も稽古も楽しんでやっています。まずは自分で作品が面白いという確信がなければ、これだけの文章量を覚えてもらう大野さんに申し訳ないですし、スタッフにも顔向けできません。ですから、作品に自信を持って過程を楽しみつつ、客観的な目線で上手に作品を疑いながらバランス感を探るということを今回はしています。でも、やはり何よりも創作を楽しむことが大事ですね。
関連記事:大野幸人による一人舞台『Angel』追加公演が決定!
――ダンスと演劇では明確に違う何かがあると思います。そういった意味で本作は演劇作品なのでしょうか?それとも、もう少し広い目で見た舞台芸術作品になっているのでしょうか?
大野:僕のイメージでは『Angel』は完全に演劇作品です。単純にしゃべっている時間も長いですし、身体を動かしている間も、ただ身体が動いているわけでなく、役としての感情で動いているので。
石丸:どれだけ踊る分量が増えたとしても、大野さんは演じているというイメージを持つのではないかと思います。
大野:そうですね。
石丸:私としても、大野さんが持っている身体的な表現力が役を演じることの延長線上にあるものを作りたいと思っています。「ここはダンスシーンにします」と明確に線引きするのではなく、役として身体がほころび、動き始めるというものを目指しています。ですから、本作は「演劇」だと明言できますね。
無言でうずくまる大野の雄弁な体
――石丸さんと大野さんのコラボレーションは本作の最大の見所だと思うのですが、それぞれが思う見所も教えてください。
石丸:普段あまり見られないであろう大野さんの台詞表現も見所なのですが、台詞が無い場面もまた良いんです。無言でうずくまっている時などに大野さんの身体から言葉が溢れてきて、それはもしかしたら台詞以上に雄弁なんです。これは普通の俳優じゃ出せない魅力だなって思います。
内容としては、ずっと苦しい時期を送る人物を描いているので、そのしがらみから解放された時の花がフワッと開くような開放感をぜひ見逃さないでいただきたいです。
大野:僕は・・・、見所を紹介するのは難しいですね(笑)。でも、上演時間のなかで物語の主人公が生きてきた時間を必死に追いかけようと思います。なので、お客様もぜひ主人公の生き様を追っていただけると嬉しいです。
――公演楽しみにしています!本日はありがとうございました。
『Angel』公式サイト
https://angel-theater.info/