ダンサーの大野幸人による一人芝居『Angel』が、2016年6月24日(金)から6月26日(日)にかけて東京・ニッポン放送 イマジン・スタジオにて上演された。これまでにミュージカル『ロミオ&ジュリエット』、『CHESS THE MUSICAL』、マシューボーンの『ドリアングレイ』(シリル・ヴェイン役)、など数々の舞台公演に出演してきた大野だが、一人芝居は今作が初挑戦。
演出・脚本を務めるのは、ニューヨークのオフ・オフ ブロードウェイ演劇祭「Midtown International Theatre Festival」に日本人として初めて招かれ、最優秀ミュージカル作品賞・最優秀演出賞・最優秀作詞賞など数々の賞を獲得した実績を持つ石丸さち子。
「かつて“アイドル”と呼ばれた青年の、一生に一度の恋の物語」を描いたという本作だが、公演前にはほとんど情報が明かされることが無かった。名実共に舞台芸術のトップランナーである二人が見せる『Angel』とは?初日の模様を写真とあわせて紹介する。
舞台を囲むように設置された客席から注がれる視線の先には、大野ただ一人。舞台に立つ姿からは異様なまでの緊張感が溢れていた。しかし、始まるや否や、大野の滑らかな語りは観客を魅了し、会場を飲み込んだ。この瞬間、観客と大野の間に親密な関係が生まれたように感じられた。
本作では、「愛」にまつわる絶望と希望が描かれている。愛を求める少年が痛みを持って青年になり、なりたくなかった大人の年齢になる。その過程を大野は観客に語りかけ、沈黙し、時に踊る。
きっと多くの人間が、生まれた時には「天使(Angel)」と形容され、成長して好きな人ができた時には、相手のことを「天使(Angel)」のようだと思ったことがあるだろう。大野が演じる人物もそんな一人の人間だ。ただ彼は、アイドルという仕事ゆえ、自分を偽った「天使(Angel)」であり続け、そして本当の自分の姿を失くしていくのだった…。
また、大野は本サイトのインタビューで「(本作で)新しい自分を見つけた」と発言していたが、これはまぎれもない事実であろう。大野は石丸が紡いだ膨大な量の言葉を獲得することで、苦悩と解放に満ちた身体を手に入れていたように見えた。
大野が舞台上で無言のままうずくまる・・・それだけで登場人物の苦悩が浮かび、大野が歌を歌ってジャンプすれば、鮮やかな喜びの色彩が溢れる。私たちは大野幸人を通して、「愛」にまつわる様々な感情を追体験することができる。忘れていた幸福な瞬間、誰でも踊りだしたくなるような興奮を、私たちは大野の祈りに似た言葉と身体によって思い出すだろう。
大野と石丸のコラボによって生み出された愛の物語が再び見られる日を楽しみにしたい。
(取材/大宮ガスト)