アルバム『私の歌を聴いてくれ』中井智彦インタビュー!「『オペラ座の怪人』デビューの時、衣裳の裏にはまさかの名前が!」

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東京藝術大学卒業後『レ・ミゼラブル』でデビューし、劇団四季では『オペラ座の怪人』『美女と野獣』『アスペクツ・オブ・ラブ』に出演した中井智彦。舞台映えする容姿と張りのある声で観客に鮮烈な印象を残した彼が7月2日(土)に品川プリンスホテル クラブeXにてソロコンサートを行う。これまでのこと、フリーになった理由、コンサート開催日にリリースされるアルバムについて・・・熱い思いを語ってもらった。

中井智彦インタビュー

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――中井さんのミュージカルデビューは2007年の『レ・ミゼラブル』司教役とレーグル役でした。東京藝大をご卒業してすぐの司教様・・・いかがでしたか?

23歳で司教をやらせていただきました。実は僕、最初はマリウス役でオーディションを受けていたんです。その時「同じメロディーラインを歌う素敵な役があるから、こちらにトライしてみないか?」と改めてオファーをいただき、司教やレーグル、アンサンブルとして出演することになりました。

――司教様は『レ・ミゼラブル』の主軸であるジャン・バルジャンの人生を変える重要な役ですよね。

短いシーンで一人の人間の人生を一変させる大変な役です。さらに彼がバルジャンに銀の燭台を託し「あなたの人生、私が買った」と歌う場面はバルジャンと司教の二人しか舞台上に存在しません。当時のバルジャンは山口祐一郎さん、今井清隆さん、別所哲也さん、橋本さとしさんと、錚々たる方たちで、稽古が始まってからはプレッシャーとの戦いでした。

でも、そんな僕の姿を見た演出のジョン・ケアード氏が「僕が君を選んだんだから自信を持ってやればいいんだよ」と声をかけてくれて、そこから気持ちがすっと楽になり・・・何かから解放された気がしました。

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劇団四季の門を叩いた理由

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――その後『ファントム』や『ルドルフ』『キャンディード』等のご出演を経て、劇団四季に入団されます。そこにはどんなお気持ちの変化があったのでしょうか。

違う世界で自分を試してみたくなったんです。大学一年の時にブロードウェイに行って、たくさんの舞台を観たんですが、その中で特に心に突き刺さったのが『美女と野獣』と『オペラ座の怪人』でした。大学を卒業して、ミュージカルの舞台に立たせていただくようになってからも、心のどこかにこの二つの作品に出演したいという気持ちがあったんです。そんな思いの中『キャンディード』でソロがある役をやらせていただいて、挑戦するなら今しかない!と27歳の時に思い切って劇団四季の門を叩きました。

――四季での毎日はいかがでしたか。

7か月間はレッスン漬けの日々でした(笑)。もちろん、劇団に入ればすぐ役につけるということではありませんので、それも当然のことだと思います。僕は「これでダメなら、もうミュージカルの世界から離れた方がいいのかもしれない」と思って四季に入りましたので、劇団以外のことはすべて捨てて稽古場に通っていました。

四季では定期的にいろいろな作品のオーディションがあって、それに合格すると、その役を演じるチャンスを得られたんです。ただ、合格したからといって、すぐ出演できるわけではないので、いつ回って来るか分からない出番に備え、自主稽古という形で勉強を続けていました。

――7か月の時を経ての『オペラ座の怪人』ラウル子爵役での四季デビューだったんですね。歌の部分はともかく、ダンスに関して自主稽古はどういう形で進めていらしたのでしょう?ラウルには二幕でヒロインをリフトする場面もありますが。

同じように、オーディションに合格して勉強中というメンバーも多くいましたので、そういう俳優たちで集まって稽古を続けていました。リフトに関しては、アンサンブルの女性陣に「頼むから持ち上げさせてくれ!」とお願いして、肩に乗って貰ったり(笑)・・・かなりの数の女優さんを持ち上げましたよ(笑)。

ラウルとしてデビューさせていただいた時はもう・・・感無量でした。僕の大きな夢が、ミュージカルで一人の人間の人生を生き抜くということだったんですが、ラウルを演じたことで、初めてその夢が叶ったんです。

初めて『オペラ座の怪人』の舞台に立った時に着たラウルのコートの裏を見たら、初演でこの役を演じられた俳優さんのお名前が縫い付けてあって・・・いろいろな意味で震えました(笑)。何代にも渡って使えているということは、物凄く良い生地で丁寧に仕立てられたコートということですよね。

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――『美女と野獣』のビースト(野獣)も中井さんにとって念願の役だったのでは。

僕が四季に入団する時のオーディションで歌ったのが『美女と野獣』のナンバーだったこともあって、印象に残っていたのかもしれません。新たな役として挑戦させていただくことになりました。

――入団オーディションで歌われたのは「愛せぬならば」?

そうです。野獣役では本当に貴重な経験をさせていただきました。野獣の扮装は、いろいろな人から「重くて大変だよ」と言われていたのですが、僕はとても動きやすかったですね。

実は僕、高い所が苦手なので、野獣が高い場所に登ってその場に立つ、という行動が一番怖かったんです(笑)。扮装に関しては、あの重さがかえって野獣の重厚感や重々しさを出す手助けをしてくれたと思っています。

――野獣役は初のタイトルロールでしたが、役作りの上でご自分と繋がる面は多かったですか?

僕としてはとてもやりやすかったです・・・野獣の抱えている闇の部分や劣等感はすごく理解できましたし。台詞で自らの心中を語っていき、そこから独唱に繋がっていくという流れは、ある意味『レミゼ』のバルジャンと似ているところもあって、とてもドラマティックだと思いました。初めてブロードウェイでこの作品を観た時に、自分の音域と同じバリトンの方が演じていたこともあり、その時からずっと憧れ続けた役でしたので、舞台に立たせていただいた時は本当に・・・何とも言えない思いでした。

――『アスペクツ・オブ・ラブ』のアレックスは、初演から石丸幹二さんがお一人で演じ続けてきた役ですよね。プレッシャーはかなりのものだったと思うのですが。

実は僕、ミュージカルに興味を抱いたのも遅かったですし『レミゼ』も新聞のオーディション告知を目にして受けたくらいで、全然この世界のことを知らなかったんです。自分が四季に入った時はすでに石丸さんは退団なさっていましたし。『アスペクツ~』に関しても、入り口は『レミゼ』初演でマリウスを演じたマイケル・ボールで、アレックス役に決まった時も「ずっと憧れていたマイケル・ボールが演じた役に挑戦する!」くらいの勢いでした。

稽古ももちろん大変ではありましたが、演出の浅利(慶太)さんからは、一度も「石丸みたいにやれ」なんて言われたことはなく、常に「中井だったらどう演じる?どう歌う?」と、問いかけていただきました。だから僕はとても稽古が楽しかったんです。

“創造者”としての新たな一歩

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――これだけの作品で大役を演じられ、評価も受けたのに、なぜ四季を退団なさったのでしょう。

自分の中で“創造”への欲求が物凄く高まって来たんです。そのきっかけになったのが、詩人の中原中也なんですが。四季時代、先輩の俳優さんが劇団のライブラリーに寄贈した中原中也の全集を読んで、彼の生き方に強く共感しました。彼は30歳でこの世を去るんですが、その時の僕は29歳で・・・ああ、中也が死ぬ年まであと1年なんだな・・・と思ったら、色んな思いが迫って来て、いてもたっていられなくなったんです。

中原中也は決して綺麗で美しい世界を詩にしていたわけではなく、心の中にある影の部分やツラい気持ちをエネルギーに転化し、それを詩として表現しています。自らの透明だけではない内面と向き合う姿に僕はリアリティを感じますし、共感できました。

中也は「詩を歌って欲しい」とも言っていて、そのことを知ってから、僕は彼の詩に自分で曲を付けていたんです。それで、その“創造”を表に出したい、多くの方に知って欲しいという思いがどんどん強くなり、フリーになって活動をしようと決めました。

――アルバムのタイトル『私の歌を聴いてくれ』・・・とてもストレートだと思いました。

このタイトルは中原中也の言葉から付けたんです。中也は自分の詩をあえて“歌”と記すこともあり、音楽として多くの人に聞いて欲しかったんじゃないかと思います。今でいうところのシンガーソングライターみたいな感じでしょうか。もちろん、タイトルそのままに、多くの方に僕の歌を聴いていただきたいというストレートな気持ちも込めていますが。

――そしてアルバムリリースと同じ日、7月2日には『Premium Show vol.1』も開催されます。

クラブ eXは円形のかなり面白い会場ですので、演劇的なこともできるんじゃないかと。Premium Showの第1部では「詩人・中原中也の世界~在りし日の歌~」と題し、今お話した中原中也の11編の詩に、僕が作曲をし、30年という生涯を駆け抜けた彼の人生をひとり舞台で演じます。第2部は「ゴールデンヒットセレクション~愛のかたち~」と題し、サウンドプロデューサーにシングライクトーキングの西村智彦さんを迎え、「慕情」や「さよならをもう一度」など、邦楽・洋楽の名曲をバンドサウンドでお届けします。曲に登場する人物を演じるように歌うナンバーや、「中井智彦」として歌うナンバーもありと、いろいろな面をお見せできるかと思います。多くの方に楽しんでいただける構成にしますので、ぜひ会場に足をお運びください。

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初めて中井智彦の舞台を観たのは2007年の『レ・ミゼラブル』。彼が若干23歳にして司教という人生の重さと深さを集約したような役を演じていた時だ。

今回、話を聞いて、改めて柔らかさの中にしっかりした芯を宿し、一度決めたことは信念でやり通す人だという印象を受けた。その揺るぎない“芯”の部分をジョン・ケアード氏は見抜いて、まだ若い彼を物語の重要なポジションに置いたのだろう。

野獣のコンプレックスや弱さ、中原中也の影の部分に共感し、表現者として綺麗だけではない部分を見せていきたいと語る中井が挑むソロコンサート。どんな世界が広がるのか・・・注目したい。

◆『中井智彦Premium Show vol.1』
第1部:詩人・中原中也の世界~在りし日の歌~
第2部:ゴールデンヒットセレクション~愛のかたち~
2016年7月2日(土)品川プリンスホテル クラブeX
詳細はこちら https://www.nakaitomohiko.jp 

中井智彦インタビュー

◆ファーストアルバム『私の歌を聴いてくれ』 7月2日(土)リリース
(サウンドプロデュース:西村智彦(SING LIKE TALKING))
中井智彦オンラインショップにて販売。

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