通算500回間近!こまつ座第110回公演『父と暮せば』辻萬長×栗田桃子インタビュー

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戦後70年となる今、日本人が観なければいけない物語がここにある。言わずと知れた井上ひさしの代表作『父と暮せば』。原爆投下から3年後の広島を舞台に繰り広げられるこの親子の絆の物語は、1994年の初演から今年までの約20年間でまもなく通算500回を迎える。2015年7月6日(月)からの公演を目前に、本作で父・竹造と娘・美津江の親子として最多のコンビ出演となる辻萬長栗田桃子に話を聞いた。

辻萬長、栗田桃子『父と暮せば』

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――『父と暮せば』、今回は4年ぶりの公演ですが、2011年の前回公演から何か変わった点などはありましたか?

辻:稽古に入ると、自然に竹造と美津江になっちゃうからね。これは見事なもんだと思いますよ。基本的には大きく変えないし、この作品で意識的に新しいことをやってみようっていうのはないと思うんだけど、稽古の度に変化や発見はありますよね。そういう部分を毎回演出家の鵜山(仁)さんがうまく取り込んでくれています。

栗田:自分で意識しているわけではないんですけど、変化していく部分っていうものはたしかにありますね。前回の公演から4年経って、女優としては他の作品でもいろいろな役をやらせて頂きましたし、自分自身もそれだけ歳をとり、日常でも様々なことが起こる中で「経験」を積み重ねてきたのだと思います。時が経つとやっぱり人って成長するものですから。

辻萬長、栗田桃子『父と暮せば』

――具体的に変わったことはありましたか?

栗田:すごい話が飛んじゃうんですけど、私、お料理の揚げ物が去年までずっと出来なかったんですよ。どうしても怖くて。だけど、今年こそは大好きなポテトフライを自分で作ろうと思って挑戦したんです。そしたら、どんどん上手くなって、今ではメンチカツまで美味しく揚げられるようになったんです。絶対出来ないって思ってたことがやってみたら案外上手に出来たりとか。人間って分からないものだなって思って。

――お芝居にも通じる部分がありますか?

栗田:鵜山さんの要求もそれと同じで、自分が想像出来ないようなまったく違った方向から要求をもらったりすることがあって…。だけど、やってみることができるということはありがたいことなんですよね。そういう部分では、同じ作品でも多少なりとも変化があったらなと思います。

辻:俺はやっぱり逆かなあ。歳を取るごとに出来なくなることが多いですよ。人間ってそういう宿命なのかもしれないけど…。

栗田:もう、何を弱気な!!(笑)

辻萬長、栗田桃子『父と暮せば』

――まさに親子のコンビネーションですね。お二人は福吉親子として最多のご共演だけあって、今こうしてお話をさせてもらっていても本当に親子のようなのですが、そういったお二人の雰囲気はどのように出されているんでしょうか?

辻:竹造や美津江がこういう関係性だから、自分自身をこうしようって変えていくんじゃなくて、自分に役を近づけていくこと。結局それが一番素直なんだよね。俺はこの作品を初めて観た時は竹造をやりたいっていう風には思わなかったんですよ。だけど、何組かの役者さんが演じるのを観ていくうちに、演じる役者さん自身の人間性がすごく反映されるものなんだって思って、その時に初めてやりたいって思った。感覚的には竹造を自分側へ持ってくるっていう感じかな。だから竹造と美津江は、桃子と俺の感じとあんまり変わらないよね!

辻萬長、栗田桃子『父と暮せば』

栗田:たしかにそうかもしれません(笑)それにしても、福吉親子を演じたのは自分たちが最多だなんて知らなかった!もうそんなにやってるのかぁ…。

辻:この作品の特別なところってやっぱり二人芝居ってところだと思う。二人芝居って真骨頂なんだよね。相手しかいないわけだから。これは役者にとってものすごく楽しいことだし、やりたいことだよね。

栗田:最初は逃げ場もないし、すっごく怖かったです。間が全くないですから。2008年にここ(紀伊國屋サザンシアター)の舞台に立った時に、「どうしよう、大きくて怖い」って思ったんです。それまでも何度も立ってたのに、二人だとこんなに広く感じるんだって思いましたね。今ではこんなふてぶてしくなっちゃいましたけど(笑)。

――広島の方言もお見事ですよね。もう体に染み込んでいるような感じなのでしょうか?

栗田:初演の時は広島弁はまるで外国語みたいな感覚でしたよ。方言指導の先生についていただくんですけど、いざ台詞に感情がのってくるとその度にまた音が変わってきちゃうんです。それが難しかったですね。回数を重ねてからだの中を通っているので、今回は4年あいて出来るかなって不安もあったんですけど、稽古に入るまでわざと台本を読まなかったんですよ。そしたら、意外と覚えてるもので。

辻萬長、栗田桃子『父と暮せば』

辻:井上さんが書かれている言葉を表現しようとすると、言葉の抑揚をつけないと感情が伝わらないっていう部分があるんですよね。話せるようになって初めて分かったんだけど、広島弁で話して初めて感情の高ぶりが見えるとかがやっぱりあるから。(唐突に大きな声で)なぁにをしよるんね!ってね。今やもう昭和20年前後のこんな古い広島弁使えるの日本で俺たち二人ぐらいだよ!

栗田:またまた!そんな偉そうなこと言って!

――そちらの方も楽しみにしています!では、初めて観る方もいらっしゃいますので、最後にお二人の思う見どころをお聞かせください。

辻:井上さんの作品に共通するのはやっぱり“反戦”。これは広島の原爆投下が題材で、テーマはやっぱり親子の絆だと思う。父と娘二人の話ではあるんだけど、娘美津江の葛藤が物語の軸となってる。その葛藤の波がクライマックスになった時二人が“じゃんけん”をするんです。どういう内容かは詳しく言えないんですけど、そこを是非見てほしいです。

辻萬長、栗田桃子『父と暮せば』

栗田:戦争はいけないっていう想いを叫ぶというよりは、あくまでお腹に落とした声で幕が下りるまで伝え続けているのがこの作品だと思うんです。同時に、父が娘を想い、娘が父を想うっていう親子の愛情も強く描かれています。だからこそ、どれだけ暗いお話でも、終わった時に少しでも希望の光が見えるようなお芝居にしたいと思っています。お芝居はナマだからこそ、人に与える力も強いと思いますし、見終わった後に、前より少し前を向いて生きていける、自分のそばにいる人を大切にしようと思える、そんな風に感じてもらえる作品になればいいなと思います。


<辻萬長(つじ かずなが)  プロフィール>
佐賀県生まれ。俳優座付属俳優養成所を経て、1991年よりこまつ座に所属。主な舞台出演に、井上ひさし作品では『きらめく星座』『黙阿彌オペラ』『円生と志ん生』『ムサシ』『兄おとうと』『日本人のへそ』『藪原検校』など、『父と暮せば』は2004年から出演。ほかに『GHETTO/ゲットー』『十二人の怒れる男』『タンゴ』など。『ボンソワール・ オッフェンバック』で文化庁芸術祭優秀賞、『化粧二題』で読売演劇大賞優秀男優賞、『雨』『ロンサム・ウェスト』で紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。

<栗田桃子(くりた ももこ) プロフィール>
東京都生まれ。文学座所属。1992年文学座研究所、94年アトリエ公演『鼻』で初舞台を踏み、97年に座員となる。主な舞台に『ゆれる車の音』『わが町』『くにこ』『るつぼ』『パパのデモクラシー』『終の楽園』『炎 アンサンディ』『クライムス・オブ・ザ・ハート』など。こまつ座では『紙屋町さくらホテル』のほか、『父と暮せば』には2008年より参加。本作で朝日舞台芸術賞寺山修司賞、紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞している。

<こまつ座第110回公演・紀伊國屋書店提携『父と暮せば』 公演情報>
2015年7月6日(月)~7月20日(月・祝)
新宿南口・紀伊國屋サザンシアター

作:井上ひさし

演出:鵜山仁

出演:辻萬長 栗田桃子

入場料:4,500円  夜チケット4,200円  学生割引3,300円
※当日券あり

お問合せ
こまつ座 TEL:03-3862-5941 または こまつ座のホームページでご確認ください。

2011年公演『父と暮せば』撮影:谷古宇正彦

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