2012年12月から13年1月まで新国立劇場で上演された『音のいない世界で』。ダンス界、演劇界で活躍する近藤良平、首藤康之、松たか子、長塚圭史の4人が集まり、大きな話題を呼んだ舞台だ。今夏、この4人が帰ってくる!2015年7月6日(月)に開幕する『かがみのかなたはたなかのなかに』は“鏡”をモチーフにした子どもも大人も一緒に楽しめる“ちょっと怖いファンタジー”。すでに稽古に入っているという作・演出・出演の長塚圭史と、振付・出演の近藤良平に話を聞いた。
関連記事:長塚圭史関連情報、こちらからどうぞ!
――台本を拝見したのですが、七五調の韻(いん)を踏んだ言葉のリズムが独特で、この世界をどう具現化するのかとても興味深かったです。
近藤:目で読むと“意味不明”なところも一杯あるよね(笑)。
長塚:今回は「鏡」がモチーフということもあって、それをムーブメントで表現するにあたり、具体的に細かく動作を書いてしまうと、あまりにも世界が狭くなってしまうと思ったんです。だから現場で近藤さんたちと(作品を)創る作業の中でいろいろな捉え方が出来るよう、あえてそういう書き方にしてみました。
――前作の『音のいない世界で』は、かなり台詞量も多かったと思うのですが、今回は語りや台詞よりムーブメントの割合が多くなりそうでしょうか?
近藤:そう、いろいろだね。ト書きと台詞がリンクして、動きつつ喋ったりもする、みたいな。もちろんムーブメント中心の場面もあって、なんだか不思議な歌もあり・・・表現的にはいろいろです。
長塚:ト書き自体をそのまま読みましょう、ってシーンはないね。
近藤:そう言えばそうだね。
長塚:歌に出てくるくらい。
――首藤康之さんが「たなか」、近藤さんが「かなた」、長塚さんが「こいけ」で、松たか子さんが「けいこ」ですね。近藤さんは振付も担当なさいますが、首藤さんとダンサー同士、どんな“会話”をなさっているのでしょう?
近藤:首藤さんとはそこそこ付き合いも長いんですよ。彼は基本的にはバレエダンサーで、僕がコンドルズの活動でやっているような踊りとはまた少し違っています・・・身体から表出するものがね。そしてそれは当たり前のことなので、普通に受け容れています。ただ、身体を使って何が出来るか、何をするか・・・みたいな興味の方向はほぼ変わらない。そういう感覚があるから、彼と同じ場所で一緒に作品を創ることに全く違和感はないんです。
――言葉のチョイスが正しいか分からないのですが、近藤さんと首藤さんのお二人がご一緒にやられるということは“歌舞伎とミュージカルの俳優がコラボする”くらいのインパクトでした。
近藤:それは面白い(笑)外から見たらそう感じるかもしれないですね。例えばこれからあなたと一週間ずっと一緒に過ごしたら、お互いの口調や体の動き、クセなんかがだんだん(相手に)乗り移っていくじゃないですか。今、首藤さんとの稽古場ではそういう現象が起きつつあります(笑)。
長塚:「鏡」ですからね。お互いずっと向き合って稽古をしている訳です。そう言えばこの前、帽子を被っている設定の首藤さんが帽子を触る動作をしたら、もう帽子は脱いでいる筈の近藤さんも帽子があるつもりで頭を触っていたりして・・・そんな事も稽古場では起きています(笑)。近藤さんと首藤さんはムーブメントのワークショップを4月からやってくれていますので、余計にリンクしやすいんですよね。
あとは、たなか役の首藤さんとかなた役の近藤さんが同じ台詞を同時に喋ったりする場面もあって、それが一つの結び目になっているのかな、と。
近藤:台詞もなかなか難しいんです。自分に向けている言葉なのか、相手に向けて喋っているのか・・・たまにどこに話しているのか混乱したりして(笑)その辺はまだちょっとモヤモヤしてますね。
長塚:相手に喋っているんだけど、相手の“気分”を自分が語っていたりね。そういういろんな状況がミックスされていくので、難しいと言えば難しいんだけど、おかしいって言えば・・・おかしい(笑)。言葉にすると少し複雑ですが、実際にやってみると案外シンプルなんですよ。
――物語の内容はちょっと怖かったりもしますよね。ファンタジック・ホラーのような。
近藤:ファンタジック・ホラー!その表現、面白いね。
長塚:童話でも昔、僕たちが読んでたのって結構残酷な内容のヤツ、ありましたよね。前回は冬の上演だったので心温まる物語をやりましたが、今回は夏の舞台なので、ちょっとひやっとするのも面白いんじゃないかと。
――松たか子さん演じるけいこのキャラクターもかなりハジけていると思いました。
長塚:確かにけいこはすごい掌返しを連発するんですが、僕は彼女のことをなかなかチャーミングな奴だと思ってます。けいこは誰かと一緒にいたいとか、誰かに興味を持って貰いたいという思いが一人になるとぶわっと出てきてああいう行動に走るんです。どこにでもいる女の子の発想のコントラストを少し強めにしたキャラクターですね・・・結構気に入ってます。
――そうか、駄目ですね、大人の私が読むとそのあたりを純粋に受け取れない(笑)
長塚:でもよくよく考えると「けいこ、ひどいなー」と思いつつ、その後にたなかとかなたはもっととんでもない行動に出ますからね(笑)。実は登場人物の誰にも真っ白で綺麗な人はいないんです。
近藤:こいけにあんな事もしちゃうしね(笑)。子どもたちがこの舞台を観た時に、全部は分からないかもしれないけれど、あるエッセンスは凄く強く彼らの胸に刺さると思うんです。それは“怖い”って感情かもしれないし、違うものかもしれない。
観に来てくれた子どもたちは、途中で大人に「ママ、どうしてー?」って聞きたくなる場面がたくさんあるかもしれないですね。
長塚:で、ママの方もその空気を感じ取って「マズイ、絶対聞かれる」みたいな(笑)。
――この物語は「シンジュクめいた」場所から始まりますが、その発想はどこから来たのでしょう?
長塚:“シンジュクめいた”というのは、この作品を僕らが上演する初台(=新国立劇場の所在地)をイメージしていて、そこから何か蜃気楼の様なものがぶわっと立ち上がり、日本じゃないドコカの世界で物語が展開していくという・・・僕の“妄想”みたいなものです。更に海辺の町が浮かんできて、その世界を歩いている人がいて・・・ああ、彼はきっと戦いに行く人でとても孤独なんだな・・・と。
――今回は劇場に大勢のお子さんがいらっしゃると思います。お二人はどんな子ども時代を過ごされましたか?
近藤:僕は南米で過ごしたんですが、向こうはピストルが日常的に出てきたりもするので怖かったですね・・・銃声も聞きました。治安が悪いから持ち物も気軽に置けないし。小さい時からそういうことには気を付けてきたかなあ・・・その反動で今はどこにでもカバンを置いちゃうんですけど(笑)。1970年代のアルゼンチンは政治的にも不安定でしたね。首都のブエノス・アイレスって“良い空気”って意味なんですが、実際は排気ガスが凄くてね。煙った街の中でおまわりさんが仕事をサボって煙草を吸ってて・・・子ども心にも「いろいろヤバイな」と思ってました。
道を渡るのも危険で、一応信号もあるんですけど、全然アテにならない(笑)。信号の色よりも自分の目と感覚で渡れ!と常に言われていて、危機管理能力は鍛えられました(笑)。
長塚:僕は東京で育ったので、信号はちゃんと作動してました(笑)。渋谷育ちということもあって、都会の遊び場探しをしていたかも・・・近藤さんの所は広い遊び場あったでしょ?
近藤:あったよ、パレルモ公園!
長塚:そういうパレルモ公園みたいな遊び場もないので、ビルの中に入ってかくれんぼをしたりしてました。基地づくりも都会の駐車場の隅でやっていたかな。渋谷でも家と家の間の隙間には結構土があって、そこで生き物とかも探しました。活発ではなかったので、活発な少年たちがグラウンドで野球をしている時に、僕は小道を歩いてましたね。
――4人で再び稽古場に集まった感想を教えて下さい。
近藤:まずまた4人でやれるというのがありがたいです。前回の舞台が終わってからもちょくちょく会ってはいたんですが。で、また集まって作品を創るのは2年半ぶりくらいなのかな?このスパンも丁度良いと思いました。5年空いちゃうと、各自いろんなことが起きて収拾付かなくなっちゃうからね(笑)。
前回は言葉の比重がとても大きかったので、今回は動きが占める割合も大きい分、そこを繊細に立ち上げて行く作業が個人的には楽しかったりもします。
長塚:4月からワークショップをやらせて貰って、頭の中にあった物語を視覚化することが出来ました。作品のイメージはありつつ、それを体でどう表現するのか迷った時に、実際にダンサーたちの動きを見て「これは出来る!」と確信できたのは大きかったですね。ワークショップをやれて本当に良かったです。
近藤:僕もワークショップをやったことで「鏡」の可能性が理解できました。
――長塚さんは劇作・演出に加えて出演もされますね。
長塚:大変です(笑)!個人的には前作より大変かもしれないです。今回は「鏡」がテーマなので、僕と対(つい)になっている相手がいて、その動きも意識している分、どうしても相手が気になっちゃう。本来なら(演出として)遠くから俯瞰で見られる状況も、自分が出演者として中に入るとややこしくなる部分もあるし。
前回は台詞・・・言葉が多かった分、今回は近藤さん、首藤さんの動きがメインの場面もたくさんあって、そういう意味では面白いし、可能性が広がっていると思います。
――そして近藤さんは振付と出演の二役です。
近藤:今、改めて台本をチェックし直していて、あまりにも動きの部分が多くなると、それは舞踊になってしまうので、その点は気を付けないと・・・ちゃんと台本に書かれた意味をとらえていかなくては・・・と考えたりもしています。
――では最後に『かがみのかなたはたなかのなかに』を楽しみにしている方に向けて、お二人からメッセージをお願いします。
近藤:今回の『かがみのかなたはたなかのなかに』はある意味新しい試みですが、確実に面白いものが出来ると思います!それをライブで観て頂ければ嬉しいです。
長塚:耳で言葉を聞き、目で動きを見て、子どもも大人も楽しめる舞台だと思います。劇場で新しい体験をして頂けるよう、我々も稽古中です。劇場内に子どもと大人が共存して“絵本のような世界”が広がっていく作品だと思いますので、ぜひ劇場でその様子をご覧になって下さい。
近藤良平、首藤康之、松たか子、長塚圭史というダンス界、演劇界で活躍する4人が集まり、子どもと大人の両方が楽しめる世界を創り上げる・・・なんて刺激的な企画なのだろう。いけないと分かっていながら柵の向こうに入って行き、未知の体験をした子ども時代・・・そんな記憶が蘇ってくる舞台『かがみのかなたはたなかのなかに』。ぜひ一流の“大人”たちが巻き起こす化学反応を劇場で体験して欲しい。
『かがみのかなたはたなかのなかに』は2015年7月6日(月) ~ 7月26日(日) まで東京・新国立劇場 小劇場THE PITにて上演される。