こまつ座公演東憲司版『戯作者銘々伝』北村有起哉×玉置玲央インタビュー「1枚のチケットで2本分楽しんで!」

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2015年5月24日(日)に開幕した、こまつ座第109回公演東憲司版『戯作者銘々伝』。本作は、井上ひさしの原点ともいえる2つの小説、江戸時代に実在した“黄表紙”の作者=“戯作者”たちを一人語りの形式で描いた短編集「戯作者銘々伝」と、同作の登場人物でもある戯作者の一人、山東京伝と若き花火師・幸吉との物語を描いた「京伝店の烟草入れ」を素材に、劇団桟敷童子の東憲司が書き下ろした作品だ。
江戸時代後期、風俗を乱すと寛政の改革により幕府から弾圧をうけた黄表紙や洒落本の作者たちが、“笑い”にすべてを賭ける哀しくも力強い姿を描いている。

本作で、人気戯作者・山東京伝を演じる北村有起哉と、若く純真な花火師・幸吉を演じる玉置玲央。5月26日(火)の公演を終えたばかりの2人に、話を聞いた。

『戯作者銘々伝』

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――お疲れ様でした! 北村さんは、かなり出ずっぱりという印象でしたが…?

北村:第2幕はね!「あ! 俺、出ずっぱりなんだ」って、気づくのは遅かったんだけどね(笑)。

玉置:最初に台本を見たときから、(北村)有起哉さんは出ずっぱりでしたよ(笑)!

北村:でも、実感するのはずいぶん遅かったんですよ…。確か、「あんまり、休んでいる時間がないんだな」って気づいたのは劇場入りしてからじゃないかな?でも、始まってしまえば、あっという間ですけどね!待っている時間の方が、逆に落ち着かないという感じの時があるよね?

玉置:そうですね!

北村:もじもじしちゃって(笑)

――改めて、本作の出演が決まった時の感想から聞かせてください。

北村:企画自体がびっくりでしたね。まず、こまつ座さんも、こういう新しい挑戦をしていくんだというところに驚き、そこに参加させていただけることに、素直に「やったー!」っていうだけではなく、相当なチャレンジになるのでプレッシャーもありましたね。でも、とにかく光栄でしたね。

玉置:僕も「同じく!」という感じですね。僕は、こまつ座さんに参加させていただくのは、初めてなんです。こまつ座さんの舞台に立つ上でのルールだとか、こまつ座さんが脈々と築いてきた歴史みたいなものに、接するのも初めてなので、わからないなりに気負わず、あまり縛られずに自由にやれたらなと思っていました。でも、「まさか、こまつ座さんに出させていただけることになるとは!」と思いましたけど、光栄ですね!

――おふたりとも、様々な舞台に立たれていると思うのですが、歴史ある“こまつ座”という劇団の舞台と、他の舞台で違うと感じるところなどはありますか?

玉置:本番をやっていて思ったんですけど、お客様は、作品を観に来るというということはもちろん、“こまつ座”を観に来ているという感じなんですよね!舞台上にいるとそういう印象を受けるんです。「こんな空気感の客席ってあるんだな」というのは、何と言ったらいいのかわからないのですが、とても不思議でした。

北村:(客席の)年齢層も高いから、静かに頷きながら観ていて、“言葉”を味わっている方が多いんでしょうね!

玉置:そうなんでしょうね!

北村:僕は、こまつ座さんで何回かやらせてもらっているんですけど、本当に“こまつ座の舞台に足を運ぶ”ということ自体が、イベントになっているというか…。今日も、ちらっと見るとニコニコしながら、仏様のような感じで…。

玉置:アルカイックスマイルでね(笑)!

北村:本当に穏やかな感じで、観て聴いていらっしゃっているので、ホッとしますね。もちろん、いろんな年齢層の方がいらっしゃいますけど…。しっかりとした座付の作家さんがもともといらっしゃった劇団だから、他の舞台とは違うところかもしれないですね。

玉置:そうですね! すごく新鮮でした。

――今のお話で、お客様が“言葉”をしっかり聴いていらっしゃるとおっしゃっていましたが、今回の作品は難しい言葉や表現も多いように感じたのですが、事前に特別な準備や勉強などをされたりしたんでしょうか?

北村:稽古の段階で、「この言葉はセリフとして一度耳にしただけでは分からないだろう」といった話はちらほらありましたね。ただ、それを違う分かりやすい言葉に言い換えると、違ったニュアンスになってしまうということもあって…。時代劇は、わからない言葉であっても気にしないでセリフを言うというのも、大事なのかなと思うんですよね。

今回の作品には、音で聴いても意味が分からない言葉っていうのはたくさん出てくるんですけど、それを分かったうえでちょっと念押しというか…。例えば、“陰間”とか“蹴ころ”、“船饅頭”というのは、江戸時代の風俗関係の専門用語で、「耳にだけ残ればいいや」ってくらいなんですが、それをあまりさらっと言ってはいけないかなと思うんですね。きっと、あえてこの言葉を選んだという井上ひさしさんのこだわりがあるんで。「分からなくても大丈夫です。でも、そういう言葉があるんです」っていうちょっとした覚悟のようなものがあるかもしれないですね。(玉置に)花火の専門用語もたくさんあったもんね?

玉置:そうなんですよね! 「自分が(言葉の意味を)分かっていないと」というのはあるので、勉強はしましたね。東さんも稽古中から、「井上さんが書いたものなので、その言葉でいく」ということを、結構おっしゃっていましたからね。「伝わりやすい言葉はなんぼでもあるけど、こういう風にひさしさんが書かれたので、僕も台本にそういう風に起こしました」とおっしゃっていて。稽古中にも「伝わらないかもしれないけど、言葉を大切にしたいと思ってそうしています」とおっしゃっていましたね。

『戯作者銘々伝』

――稽古のお話が出ましたが、先ほど「the 座(こまつ座公演プログラム)」を拝見していたら、北村さんが「稽古場の雰囲気が楽しくてしかたない」と言うお話をされていましたが…。

北村:ああ、そういう時期があったんですね!

全員:(笑)

北村:(「the 座」の)インタビューは、稽古の最初のころだったんですよね(笑)。

玉置:確かに最初のころでした(笑)!

北村:まだ、呑気だったころですよ! 稽古期間は、信じられないくらい波があってうねりがありますからね…。でも、いろいろ遊べるので、本当に稽古は好きなんですけどね! 試行錯誤の期間と言うのが割と好きなので。

――その楽しかったエピソードなどを聞かせていただけますか?

北村:たぶん、「本当に、この舞台は正直言ってどうなるかわからない」っていうのがあって…。「頭に白い三角の布をつけて、幽霊のポーズなんかしているけど大丈夫なのかね?」みたいな感じで(笑)。

玉置:凄いですよね、あの稽古風景は!

――稽古風景の写真では、みなさん頭に白い三角の布を着けていらっしゃいましたが、稽古中は常に着けていらっしゃったんですか?

北村:あれは、最初から着けていましたね! 雰囲気を出すために。
たぶん、みんなあれを着けるのは初めてだったと思うんですけどね(笑)? お行儀よくやっても仕方ないですし、ハメをはずしすぎても駄目だしっていうところの、さじ加減を考えるのが僕は割と好きなんですよね。

――今日、実際に舞台を拝見していてついつい笑ってしまうシーンがたびたびあったんですけど、ああいったシーンの中にはアドリブなどもあるのでしょうか?

北村:アドリブは、ほとんどないですね!

玉置:そうかもしれないですね! アクシデントは日々ありますけどね(笑)。

北村:生ものですからね。

――他の方の芝居で、つい笑ってしまうというようなことはないですか?

玉置:楽屋で阿南(健治)さんと相島(一之)さんとかが「やり取りをこういう風にしようね」って相談しているんですけど、いい意味で、舞台上では絶対にその通りにはいかないんですよね。「逆にすごいな」と思っていて…。でも、もちろんお芝居は成立していますし、面白いんです。逆にすごい事なんですよ。さすがって思いましたね。

『戯作者銘々伝』

――北村さんは1幕、2幕通して山東京伝という役柄を演じていらっしゃいますが、ご自身で演じている中で「自分と似ているな」と感じるところなどはありますか?

北村:“したたかさ”みたいなところは、もしかしたらあるかもしれないですね。
僕は周りをみて、誰もいっていないところを探して、そこを「頂き!」というようなずる賢さみたいな…。悪人ではないので、可愛らしい程度のことなんですけどね。
山東京伝は、実態がつかめないというか、「作家しかできない」かといえばそんなこともなく、商売上手だったりする、マルチな才覚の持ち主なんですよね。かつ、どこにも偏らない人というイメージがありますよね。
僕も、劇団に所属したことがなくて、毎回プロデュース公演のみでフワフワとやってきたというところは、もしかしたら似ているのかもしれないですね。

――玉置さんは、本作では様々な役柄を演じていらっしゃいますが、ご自身に一番近いと感じられるのはどの役柄でしょうか?

玉置:1幕でやっている亡霊役は、基本的には自分に近いんじゃないかなと思うんですよ。

北村:え、自虐的なやつ? 「どうせ、俺なんかさ…」っていう、自虐的なせりふを言ってなかったっけ?

玉置:東さんとよく、1幕の亡霊役と2幕の幸吉という役の演じ分けをどうしようかという話をしていたんですよね。別に「こうしなさい」と言われたわけではないんですが、紆余曲折を経てお話をしていくうちに亡霊役については自分のパーソナリティに寄せて、やりやすい方に持っていてもいいだろうし、自分が無理をしないようにしようという結論に至ったんですよね。

――北村さんと玉置さんからご覧になって、お互いが演じているキャラクターに対してどういった印象をお持ちですか?

玉置:今日、特に思ったんですけど、2幕をやっていて京伝と有起哉さんがイコールになっていて…。山東京伝が、実際にはどういう人で、どういう生活習慣で、どういう風貌かなんて知らないじゃないですか? 今日、3回目の公演を終えて、だんだん歴史上の京伝さんが現実に存在している北村有起哉さんと溶けて交わっていて…。今日、2幕をやっていて「ああ、京伝さんがいるな」と思ったんですよね。だから、「どこが」とか「こんなところが」というよりは、僕の中では有起哉さんが今、京伝そのものになっていて「いいな」と思っています。

北村:京伝と幸吉は心を通わせる関係で、そこが2幕の肝なので、それは少しずつ深まってきているなという実感は僕もありますね。

『戯作者銘々伝』

――それでは最後に、これからご覧になるお客様に向けて本作の見どころや、メッセージなどをお聞かせください。

北村:幕が開くまでは本当に、いろいろな不安があったのですが、お客様の前でやっと作品が歩き始めて、この作品の心臓がドクドクと動き始めたところです。稽古で濃密で大変な期間があったんだけど、それを乗り越えて本当に良かったなと思っています。
ここまで江戸時代の戯作者たちの軽妙洒脱というか、天衣無縫な生き様をちゃんと描いた作品というのは珍しいものだと思うんです。
表現者がちょっと居心地悪くなっている今の世の中は、ゾッとするくらい作品の舞台になっている江戸時代と重なる部分があると思うんですよね。1幕は、そんな不自由な時代に、ちょっと斜に構えながらもお上に逆らって作品を書き続ける、ちょっとどこか飛んでいて、常識人ではない(笑)、そういう戯作者たちの生き様が描かれていて。2幕はガラッと変わって、花火職人の話になっていて、とにかくボリュームたっぷりです。

玉置:稽古をしていて「どうなんだろう?」と思っていたのが、本番開けてお客様の反応をみて「こうなるんだ!」と思うことは、だいたいどの作品でもあるんですけど、この作品は、特にお客様が入って初めて分かったことがたくさんあるなと、すごく感じています。
観に来てくださったお客様が、「自分の中にちょっとくすぶっていた元気みたいなものが、ムクムクと膨らんで、元気が増えた」と言ってくださったんですよ! 
「元気をもらいました!」という感想なら聞くんですが、あまり、そんな感想は聞かないなと思って…。「元気が膨らみました」と言っていただいて、「この作品はそういう力があるんだな」と感じました。
僕は、今回よく劇中で「花火を打ち上げる」と言っていて、これはゼロから作ってそれを打ち上げて花開くということだと思っていたんですが、お客様とのやり取りを通じて、花火はみんなが持っていて、それを「どう打ち上げるか」ということなんだなと思ったんですよね。
お客様とのやり取りをしっかりして、お互いに元気が膨らめばいいなと思っています。劇場で、それを観て感じてもらいたいですね!

こまつ座第109回公演・紀伊國屋書店提携
東憲司版『戯作者銘々伝』

作・演出:東憲司 音楽:宮川彬良
2015年5月24日(日)~6月14日(日)
紀伊國屋サザンシアター

撮影:谷古宇正彦

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